龍神情話・番外2

 

もうひとつの話

 

「で?」

竜王の、皮肉げな笑みに気付かない振りをしたまま、

琥珀はもう一度、同じ事を繰り返した。

「千尋に、海神(わだつみ)の 守護をいただきたいのです。」

 

東の竜宮の、玉座の間。

本来なら海上の日差しなど、決して届く事のない深い深い 海の底。

しかし、この玉座の間を覆う水天井は、空を駆ける日輪の

午後の日差しを受けて 綺羅綺羅(きらきら)しい光を放ち、

海上を吹く風の動きに合わせて揺れる波に添って 零れるその光を 

睨み合うがごとく 相対している2人の龍に届けていた。

2人のうちの玉座に上る3段ほどの階(きざはし)の 

一番下に片膝ついて畏まっている

若い龍の名は ニギハヤミシルベノコハクヌシといい

つい先日 狭間の向こうで 神人となした妻の披露目を行って 

秋津島の五柱(いつはしら)の上位神の守護を獲得したばかりである。

 そうして、守護地に帰参するその足で 妻を伴い、東の竜宮に挨拶に来たのだ。

その若龍に 向かい 威儀を正して玉座に座し 上から 威圧するがごとき

 視線を送っているのは 海神の神(わだつみのかみ)の伝達者 

東の竜王君その人である。

 

「我の問いの答えには なっておらんな。」

竜王の口調は ますます皮肉めいているが、若い龍は

その表情をくずそうとは しない。

「欲の深いことだ。龍玉を身に溶かしただけではあき足らず

上位神の加護を得て、その上 海神の守りを望むか。」

「はい。」

簡潔に答えた若い龍には 竜王の辛辣な言も通用しない かのようだ。

 

竜王は、目を細める。

先ほど紹介された、この龍の神人は どこに

その価値があるのかというくらい 平凡な娘に見えた。

まあ、竜王の御前だというのに 臆したふうも見せず

娘らしい はにかみはあったものの、

あくまで自然体で体様(おうよう)な振舞いをみせていたところが

神の妻として相応しいといえないこともないが。

もっとも、その若さゆえの世間知らずであるともいえように。

いかに魂が輝こうとも、この現世における存在としては

この若者には 物足りなく思うのは 身内びいきというべきか。

だが、この琥珀のこだわりかたは いったい何事であろう。

我の力を見込まれて、崑崙より預かったこの不世出の存在は

やっとその力を開花させはじめたというのに、

そのすべてを あの小娘に傾けているのだ。

 

竜王は 肩を竦めて 『なぜ、あの娘を?』などという

無駄な思考を断ち切った。

考えてみれば、愚かな恋をしたことを 責める事ができる

立場でもないのだ。

『龍の恋情を止めるは、不可能。』

そういったのは、こやつの親神であったか。

開き直って、その意思を貫く様は、

まさにその息子であることを示していて。

竜王の唇は ますます 皮肉げに歪んでいく。

 

さてさて、いかがいたすとしようか。

こやつが簡単に諦めるとも思わぬが 秋津島の『いち守護神』の妻に

与えられるほど 海神の加護は やすいものではない。

この竜宮で育った以上 承知していることであろうが。

もっとも、承知の上のことであれば 

それなりの覚悟があるということか。

 

竜王は、思わず太く笑む。

「ふふ。まあよい。今宵は宮にとまってゆけ。そなたと会うのも

久方ぶりゆえ、妃もそのつもりでおるようだ。

この話は また 後でもよかろう。」

立ち上がり、玉座を去ろうとしている竜王に

追い縋ろうかという風をみせた 若い龍は ぐっと

奥歯をかみ締めると、黙って一礼して竜王を見送った。

 

玉座の間を出ると、その直ぐ外に腕を組んで壁に寄りかかっている

弟の姿が 目に入った。

「で?」

先ほどの己と同じ問いかけをしてくる弟に 唇だけの笑みをやる。

その笑みで全てをさっしたのか 王弟竜泉は、肩を竦めた。

何もいわないまま、その傍らを通り過ぎようとした兄に

しかし、竜泉は 唐突に声を掛けた。

「あの娘 月宮(つきのみや)より龍玉を授けられたそうです。」

その言に 一瞬動きを止めた竜王は 顔だけを弟に向ける。

内心を表に出さず、しかし皮肉げな笑みはそのままに、

「ほう。」

とだけいうと、そのまま歩を続けて 回廊を去っていった。

その後姿を見送っていた竜泉は 玉座の間の気配に

ため息を吐き そのまま部屋に入っていく。

背筋をピンと伸ばし、しかし階に腰をおろして

何事か考えていた琥珀は 竜泉の入座に慌てて立ち上がった。

「千尋に何か?」

ちひろ・・・か。

真っ先に竜泉に預けたはずの妻のことを聞いてくる養い子に

苛立ちと呆れを覚えるが、竜泉は眉を上げ、答えをやった。

「王妃に取られた。」

「サーガ様は、何処に?」

すぐにでも、妻の元におもむこうとしている琥珀の腕を掴むと、

竜泉は そのまま、玉座の間の端にある小卓に連れて行った。

促されるまま、しぶしぶ腰をおろした琥珀は もの問いたげな視線を向ける。

「兄上に断られたのか?」

唐突な質問に、琥珀は首を横に振る。

「まだ、正式な言質をいただいていません。

可にしろ不可にしろ、その意のあるところを気軽に

おっしゃってくださるお方では ありませんから。」

「ふん。お主のほうで折れる気はないのか。」

「・・・・・」

唇を引き結んでいる琥珀に 諦めのため息を吐く。

「お主だとて知っておろうに。海神には海神の理がある。

ないがしろにすることは いかに竜王といえど許されない。

まして、お主の妻にはすでに充分過ぎるほどの 守護が

あるではないか。この 竜宮の宝珠の欠片を含んでいる

上に、いったい何を望むというのだ。」

「・・・・んなどでは・・・」

「何?」

「充分などではありません。竜泉殿。千尋を絶対に

失わないために、できることをすべてやり尽くしたいだけです。」

・・・・・ふうぅ・・・・

大きなため息は、琥珀に聞かせるためのものであろう。

竜泉は腕を組み 考え込むような視線を向けた。

「それほど失う事を恐れているのなら、一つ忠告をやろう。

人間の娘が 親の話をしはじめたら用心することだ。」

「?」

話の本質から外れたような忠告に、琥珀が首を傾げていると

竜泉はそのまま、つと視線を逸らすと、顎をしゃくった。

「そら、ちひろがきたぞ。」

とたんに変わる琥珀の表情を 興味深く見ていた竜泉は

あからさまな執着への呆れと、己への自嘲との 

複雑な思いに 眉を寄せ、小さく頭を振った。

 

「千尋。竜宮の感想はどう?」

「ん、みなさんとても親切にしてくださって、

はくの育った所なんだなあって実感したよ。」

竜泉の御前を辞して、与えられた部屋に戻りながら

琥珀は 千尋の答えに軽く笑んだ。

「王妃様も、とてもおやさしくて はくの小さい時の

こと、たくさんきかせてくれたよ。」

「そう。どんな悪口をきかされたのか、心配だな。」

「もう、はくったら。王妃様は はくにとってお母様の

代わりだったのじゃないの?竜王さまは お父様で

竜泉さまは お兄様。素敵なご家族ね、はく。」

琥珀は千尋の言葉に虚を衝かれたかのようにはっとすると、

「そのようなこと、考えた事もなかった。」

どこか遠い目をしながら言った。

そうして、千尋を胸に抱き寄せ、その髪に顔を埋めると、

「竜王様は竜王様であるし、王妃様も王妃様という存在だから。

まあ、王妃様は皇女様の代わりとして私の面倒を

みてくださったらしいけれど。竜泉殿も兄というよりは

私の師匠なのだと思っていた。」

呟くような琥珀の言に 千尋は寂しげな笑みを浮かべると

背に回した手で まるで幼児を慰めるかのように

背中を軽くたたいた。

「ん。王妃様もそのようなことをおっしゃっていたわ。ごめんなさい。

わたし、失礼な事を言ってしまって。」

「いや、人間と違い、われら龍はそれほど 親子の関係を

重視しないものだから。もっとも、兄弟の間柄は そうでも

ないけれどね。陛下と竜泉殿をみていると、兄弟の

結びつきというのは 夫婦ともまた違って 対等なパートナーとして

強い絆があることが わかるよ。」

「そう。はくは、竜泉様が好きなのでしょう?」

「もちろん。」

「竜王様も王妃様も、好きなのでしょう?」

まるで、安心したいがごとく尋ねてくる千尋に苦笑すると 琥珀は

「もちろん。とても大切で ご恩のある方々だよ。」

そう答えると 抱擁を解き、そのまま部屋に入っていった。

 

宴は盛況だった。

まさに、竜宮式のもてなしで 竜王と王妃は琥珀と千尋への

祝福と歓迎の意を表している。

見るもの、聞くもの、全てが珍しく 好奇心で瞳をきらきらさせて

夫と楽しそうに話をしている千尋をみやると、サーガ王妃は

竜王に話し掛けた。

「琥珀のあんなに寛いだ顔は、初めて見るような気がします。」

竜王は答えず 視線だけを千尋と琥珀にむけると 杯を干した。

酒を注ぎながら 王妃は続ける。

「先ほど 話をしたけれど あの娘 本当に琥珀のことを

大切に想っていますよ。まさに 相思相愛の間柄なのでしょうね。

新たな命が生まれるのもそう遠くないことやもしれませんわ。」

どこか嬉しそうな王妃は、すっかり千尋が気に入ったようだ。

竜王は王妃を見るたびに感じる疼くような想いのまま、その

体を抱き寄せる。竜王のそんな行動にすっかり慣れている王妃は

逆らわずに身を任せると、深い口付けを受け入れた。

「あやつにとってあの娘が 我にとってのそなたと同じものであるのなら

あやつの気持ちも解からぬではないが。」

竜王は竜泉と なにごとか 楽しそうに話をしている千尋を見て言う。

「では、守りの印をお与えになっては?」

さりげない妃の提案に 再び、視線を愛妃にむけると、苦笑して

「それとこれとは、別であろう。第一、すでにあやつの龍玉を含んでいるのだぞ。

海神の守護などそれで充分ではないか。我から 印を与えたとて

それ以上の守りとなるとも思えん。」

王妃の唇を親指の腹でなぞりながら答えると、

王妃は首をかしげ 視線を琥珀たちにやった。

そうして、思わずといった微笑を浮かべると、

静かな慈しみに満ちた声で続ける。

「琥珀は、昔から用心深い子だったではありませんか。

もっともその用心深さを あなたに与えられた河に注ぐ事ができなかった

ことが、よほど心に堪えているのではありませんか?あの娘は

琥珀にとって 失ってしまった河の代わりでもあるのかもしれませんわ。

だから、今度こそ失うまいと一生懸命なのでしょう。」

そう言うと、自(おの)ずから竜王に寄り添い、そっと口付けた。

 

「琥珀。」

「はい。」

宴があけて その足で竜王に呼ばれた琥珀は どこか緊張してるかのような

面持ちだった。かなり 杯を干していたが まったく堪えていないかのような

その強さに 内心で舌を巻いた竜王は そんな気持ちを表すことなく

琥珀に いつもの皮肉げな笑みを与える。

「そなたの大切な千尋と 2人だけで話をさせよ。

その価値があるか、見極めてやる。」

竜王にめずらしく 率直な物言いに、琥珀は動揺したようだった。

一瞬、言葉を呑むように その瞳を閉じる。

が、これ以上の譲歩は無理だと悟ったのだろう。

手のひらを握り締め 強い視線を竜王に向けた。

「千尋の嫌がることはしないと、お約束いただけるのでしたら。」

竜王の言質をとると 琥珀は千尋を竜王に託したのだった。

 

高い水天井から 朝の光が零れるのを

千尋は不思議そうな面持ちで見ていた。

宴の途中で つい眠ってしまった千尋は 朝餉をとると

間も無く はくに言われて 玉座の間で一人 竜王を待つことになったのだ。

薄明るい光のなか、一段と強い光が千尋を照らす。

水を通した光の眩しさに思わず目を閉じた。と、

「この部屋は、乾坤(けんこん)と海神(わだつみ)を繋ぐ

印でな。日輪の光に、竜宮へ入る事を許した唯一の場所なのだ。」

突然後から聞こえてきた声に びくっとした千尋を

竜王その人が見つめていた。

手招くようにして小卓に導き、その椅子に落ち着くと、

竜王は千尋の目をじっと見つめてきた。

見た目は竜泉とそう変わらないのに、その海水色の 瞳は

悠久といってもよいくらい長い年月 竜宮に君臨してきた

威厳と風格を表していて 体に圧力さえ感じるようだ。

しかしまた、どこか はくに通じるような 優しさと激しさも感じられて

千尋は、その瞳を逸らすことなく見つめ返した。

どのくらい見詰め合っていたことだろうか。

竜王は つとその目の光をやわらげると、呟いた。

「なるほど、我の目を逸らさず見つめ返す事ができるのなら

その身に纏う守護の数々に相応しいと言えるかも知れぬな。」

印象の変化と、突然の呟きに 千尋が戸惑っていると、

竜王は再び千尋に視線をやり、深い声でゆっくりと 問い掛けてきた。

「そち、あさひ殿より、玉をさずけられたとか。」

千尋は 目を見開くと頷いた。

「はい。」

「その意については、理解しておろうか。」

「あさひ様から はくのご両親より託されたものだと伺いました。」

千尋の答えに瞳を閉じ、しばらく考えていた竜王は

一つ頷くと ため息を吐く。そして、つと口角を上げ視線を戻す。と、

「そうか。」

では、ひとつ話をしてやろう。

そう言うと、竜王は一つの物語を語り始めた。

 

昔、あるところに4人の息子がある

力の強い神がいてな。

4人の息子はその父ほどではないが

いずれも優れた若者達で、すでに

一線を退いていた父に代わって

力を合わせて 一族と天から与えられた

役目を守っていたのだ。

そんな時、豪放磊落(ごうほうらいらく)なその父が

人間の娘に目をつけて、

妻に迎えると言い出しおった。

4人の息子は そんな禁忌を犯す父を

必死で諌めたのだが 結局

止められんでな。

結果、玉京での一族の立場も微妙な

ものになりおって、4人の息子は

困っておった。

そんなことは知らん、とばかりに不敵な父は

新しい息子までもうけおってな。

しかも、その息子は厄介なことに

その一族に争いと滅びをもたらすとな。

力ばかり強くても そんな忌み子を

だれが 歓迎しようかのう。

当然、その非難は父と

さらには、人間だった妻に集中してな。

結局 その父は妻とともに

さっさと 息子たちの手の届かない

月宮に去っていったのだ。

厄介ものを兄たちに押し付けてな。

4人の息子はさすがに、怒ってのう。

禁忌を犯した二親の息子。

しかも、そのせいで一族の立場が

急速に悪化していて、

おまけに、争いと滅びをもたらすとまで

いわれてしまえば、

だれが、面倒をみようというものか。

とうとう

4人の息子は

末の弟、一族の禁忌の息子を

厄介払いするために

遠く、その影響が及ばない

別の理の世界に追放したのさ。

二度と戻ってくるな と言ってな。

 

「それは、はくのことなのですか。」

震える声で竜王に尋ねた千尋を

どこか、皮肉を含ませた視線でみやる。

「あさひ殿からそちが、聞かされた話は

別の面から見ると 違う真実があるということだな。」

「まあ、物事には 相反する極面があるということなど

人間であったそちには 見えていない事ではあったか。」

そういう竜王に 千尋は小さく震えた声で再び尋ねた。

「はくは、このお話のどちらを真実と思っているのでしょうか。」

 

禁忌ではなく 強い愛情ゆえに生まれた命。

愛情ではなく 執着と禁忌ゆえに生まれた命。

捨てたのではなく 守るために去っていった両親。

息子ではなく 妻を守るために去っていった父。

厄介払いの追放ではなく 力があり安全な場所への避難。

託されたのではなく 追放された存在。

 

ああ、はく。

物事に2面性があり、どちらも真実だというのなら、

はくにとって幸せを感じられる面だけを見て欲しいのに。

 

「そちに対する執着が、唯一(ただひとつ)大切に思う存在

ゆえのものだとしたら 答えはわかっておろうに。」

「あやつにとって真実は そちの存在だけなのであろうさ。」

嘆息するような声で答える竜王に 

千尋はとうとう その瞳から涙をこぼした。

ほろほろと、真珠玉のように流れる涙。

 

ああ、はく。

昨日、竜王様と竜泉様の絆のことを

いったい どんな思いで言ったのかしら。

はく。

家族のことなど 考えた事もないと言っていたあなた。

あなたにとって、わたしだけが

唯一の家族だと考えているのなら

そう考えざるを得ない 

あなたの 孤独を

わたしは、どう癒してあげたらいいのかしら。

 

琥珀の心情を思ってのその涙を

竜王はじっとみつめた。そうして つと手をあげ

そっと 涙の粒を手のひらに受ける。

驚いている千尋をそのままに、

竜王はその涙の上に 白く淡い光を発光している

小さな半球の粒を そっとのせ真言を唱えた。

白い半球は涙を内に含み一瞬 海水色に輝くと

再び 元の白い光に戻った。

そうして、竜王はため息を吐くと、軽い調子で

「あの捻くれた若造を安心させてやるために

そちにこれをやろうとするか。ほれ、近うよれ。」

そういうと、白く淡い光に発光している小さな半球の粒を

千尋の額に当てた。

先に地の守護を戴いた時のように

その半球体は みるまに 千尋の額に吸い込まれていった。

 

竜王は 琥珀の妻を眺めやる。

そうして、瞬きを一つして 心眼を使う。

額に 地の源のエメラルドグリーンに縁取られた

海の結晶を浮かび上がらせ、

胸に風紋の飾りと 

指に自ら発光している真実の銀の輪をはめ、

身のうちに龍玉と水の種を宿した娘は、

空の高見の存在の祝福と守護をうけ、

その瞳から愛しいものへの深い思いゆえの涙を滴らせている。

 

竜王は、つと昨夜の宴での琥珀の顔を思い浮かべた。

そうして、慈しみに満ちた笑みを浮かべると、

海の底から湧きあがってくるような深く響き渡る声音で

簡潔に祝詞を述べる。

「琥珀とそちに 海神の神の祝福と守りがあるように。」

東の竜王の言霊は、そのまま高い水天井に上っていった。

 

「たいしたものだ。」

ただ一人 見送りにでた竜泉は 琥珀にむかってぼやくように言った。

琥珀は、笑みを浮かべて見せる。

「お主が その思いを貫く様を俺も見習わんとな。」

「竜泉殿には 愚か者と思われてもしかたありません。」

そう言いながらも 嬉しげに妻を見やる様にげんなりしたかのように

「お主が、馬鹿なのはいまさらのことだ。おい、ちひろ。」

「はい。」

竜泉とのやり取りをにこにこしながら見ていた千尋は

突然の声がけに 驚いたように顔をあげ竜泉をみた。

「この馬鹿をよろしく頼むな。」

その一言に含まれる思いを見逃すことなく

「はい、おまかせください。」

そう言うと、千尋と竜泉は顔を見合わせて笑い出す。

首をかしげ 少しだけ不満そうなそぶりを見せた琥珀に

2人はますます、笑い声をあげた。

 

そうして、竜宮と竜泉に別れを告げると、

ニギハヤミシルベノコハクヌシとその妻千尋は

久方ぶりに その住いに戻っていったのだった。

 

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海水色とは、オーシャンブルーのことです。

空の色を映しているといわれる海。

見る角度や心の内によって色はかわるかもしれませんね。