極限等級の式は、なぜ1.77 + 5 log D?

●極限等級の式の謎

 望遠鏡の性能の1つ、極限等級は、1.77 + 5 log D で求めます。
 (D=口径のミリ数)
 logの底がわからないのですが、計算してみると常用対数らしいです。
 さて、なぜそんな式になるのでしょうか。


2005/05/02
●集光力とは

 望遠鏡の性能の1つ、集光力というのがあります。
 肉眼に対してどれだけ光を集められるかを示す指標で、

  集光力=主鏡の面積÷肉眼の面積

で求めます。
 主鏡の口径をD、肉眼の瞳孔径を7mmとすると

  集光力=D2/72

 と、書き表すことができます。


2005/05/02
●集光力を等級表記に変換する式

 普通、集光力の式で出てくる数字は、肉眼に対して何倍光を集められるか、という倍率ですが、この「倍率」を「等級」で表してみます。

 つまり、何等級分、暗い星が見えるようになるのか? というのを直接求める式にします。 

 等級とは、5ランクで100倍の対数になっています。いちばん明るい恒星を1等星(もちろん、太陽を除く)、ギリギリ見える、一番暗い星を6等星としたので、1等星と6等星の5ランクで100倍明るさが違うことになります。

 そこで、100の1/5乗(5乗根ルート100)≒2.511886432… を対数の底として、集光力の対数をとることで、等級に変換できます。その式は、

  集光力[等級]=log100(1/5)(集光力[倍])

となります。
 見づらいですが「100の1/5乗を底とする対数」、つまり、2.511886…を底とする対数です。 

  集光力[等級]=log2.511886…集光力[倍]

ですね。


 余談ですが、写真の露出倍数で使われるEV値は、1ランク2倍の対数なので、2が底になり、

  EV=log2(倍率)

となります。音響で使われるdB(デシベル)は、10ランクで10倍になる対数なので、10の1/10乗(10乗根ルート10)が底になります。

  dB=log10(1/10)(倍率)

  dB=log1.2589…(倍率)



2005/05/02
●極限等級の式の正体

  集光力[等級]=log100(1/5)(集光力[倍])

 というのは、肉眼よりさらに何等級暗くまで見えるようになるか、つまり口径による利得を示す式です。

 肉眼では6等星までは見えるので、そこからさらにどのぐらい見えるかが上記の式になります。

 よって、極限等級の式は、6等級に集光力を等級で表したものを加算すれば良く、

  極限等級[等級]=6[等級] + 集光力[等級]

となります。


2005/05/02
●式を整理する

   極限等級[等級]=6[等級] + 集光力[等級]

は、

   極限等級[等級]=6[等級] + log100(1/5)(集光力[倍])

となり、

   極限等級[等級]=6[等級] + log100(1/5)(D2/72)

となります。今は、文明の利器「コンピュータ」があるので、このままの式で、極限等級を一瞬で出すことができます。
 古典BASICなら、極限等級Tは、変数Dに口径をmmで設定してあるとして、

 T=6+LOG(D*D/49)/LOG(100^(1/5))

で求められます。49は7の2乗、Dの2乗をD*Dとしているのは、その方が精度良く計算できるからです。

 さて、このページの本題は、この式から1.77 + 5 log Dを導き出すことでした。
といっても、この式を、ひたすら展開するだけです。

底を分離するため、対数のわり算にすると、

  = 6 + log(D2/72)÷log(100(1/5))

分母の対数部分は、1/5乗しているので、外に出して、

  = 6 + log(D2/72)÷(1/5 * log(100))

外に出した分数を分子に持っていきます。

  = 6 + 5×log(D2/72)÷log(100)

 ここでのlogの底は任意に決めて良いのですが、分母にある「log100」を払うために、底を10とするのが都合が良いので、底に10を使ったものに書き換えます。

  = 6 + 5×log10(D2/72)÷log10(100)

  = 6 + 5×log10(D2/72)÷2

  = 6 + 2.5×log10(D2/72)

次に、残ったlogの中身を、展開します。わり算をlogの引き算になおして

  = 6 + 2.5×(log10(D2)-log10(72))

それぞれ2.5をかける形式に直して

  = 6 + 2.5×log10(D2)-2.5×log10(72))

二乗をlogの外に出して整理すると

  = 6 + 2.5×2 log10(D)-2.5×2×log10(7)

  = 6 + 5 log10(D)-5 log10(7)

さて、-5×log10(7)は、定数のみの項なので、数値に変換してしまいます。関数電卓をたたいて計算すると、-4.22549020007128と出ました。よって、
 
  極限等級 = 6 + 5×log10(D)-4.22549020007128

  = 1.77450979992872 + 5×log10(D)

となります。なるほど〜。
(有効桁数は、3〜4桁あれば充分なので、普通は、1.77 + 5 log10(D)とか、1.775 + 5 log10(D)です。)


2005/05/02

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