光学入門の入り口

●光学の種類

 光学は1種類ではなく、「光が何であるか」というモデルによって、おおむね次の3種類あります。
・幾何光学 …光はまっすぐ進む性質を持つ直線(光線)であるとする
・波動光学 …光は電磁波という波であるとする
・量子力学 …光は光子という量子であるとする



2006/07/02
●幾何光学(収差論)

 幾何光学は、光はまっすぐ進む性質を持つ直線(光線)であるとする体系で、

・空間やガラスの中は光が直進する
・屈折率の異なる素材の境界面では、光線が屈折する
 (ただし、屈折できない場合は、反射する(全反射))
・素材の表面では、反射の法則に沿って光線が反射する

 という性質しか扱いません。

 また、理想的な像との差のことを収差と呼び、どういったタイプの収差があり、どう低減するかを検討するのが収差論です。球面収差、コマ収差といった収差も幾何光学の範疇になります。

 一方、幾何光学では、光はあくまでも直進しかしないため、回折や干渉といった、波独特の現象は説明できません。
 ですから、たとえ回折格子と言えども、「光線」は、回折しません
 溝を掘ってあるとは言え、回折格子はただの平面ガラスですからね。通り抜ける以外の屈折は起きようがありません。

 いまだに回折格子の問題で光線が回折している図を見かけますが、あれは大嘘ですので気をつけてください。

誤った回折格子の解説例。光線が回折格子で屈折(笑)している図。教科書にも載っているように見えるが、教科書に書いてある光線状の線は、実は光線ではない。これは先生側の誤解。


 回折格子で回折するのは、光です。光は回折しません。
 回折を理解するには、光を波でとらえる必要があります。

 幾何光学は、主にレンズ設計や3次元CGのレイトレーシング部分などで使われています。光の本質に迫るというよりは、結果さえ得られれば良いという実用本位の体系なので、物理学よりは、工学分野に分類されます。



2006/07/02
●波動光学

 波動光学は、光は電磁波という波であるという立場を取ります。

 電磁波とは、電場振動と、それに直交する磁場振動がセットになった波のことで、光(紫外線や赤外線を含む)も、電波も電磁波の一種です。
 
 回折や干渉といった現象をうまく説明するには、最低限、光は波であるという立場で説明しなければなりません。むしろ、光線のイメージは捨てた方がいいかもしれません。

 光は波の性質を持つため、回折格子で回折を起こします。回折は、波動でないと起きない現象なので、回折するということは、光が波である証拠にもなります。

回折格子での回折の様子の例(注:光波ではない)。回折格子から充分離れた場所の波の法線と、直進する波の法線のなす角が、回折角になる。回折格子を通った直後では、回折角が決まらない。

 こういった図を描くには、基本的には、素源波という基本的な波に無数に分解し、合成する(干渉させる)という方法で解析します。まともに解いたら積分の嵐になりますが、無数の分解と合成の計算はコンピュータにやらせればいいので、特に心配しなくていいでしょう。プログラムは組む必要はありますが。

 波動光学は難しいことに違いはありませんし、筆者である私が充分理解しているとは言えませんが、幾何光学と混同してしまって誤解も多い世界ですので、なるべく図でわかりやすく説明していきたいと思います。


2006/07/02
●量子力学

 「要するに光って何?」という答えに対する本質を突いているのは(今のところ)量子力学です。

 量子力学の立場で分析すれば一番いいのでしょうが、量子力学はまず「量子とは波であり、同時に粒子でもある」という事の意味を正しく理解できないことには話が始まりません。

 光をどんどん弱めていくと、検出器で検出される光量が一定に弱まるのではなく、ぽつん、ぽつんと、離散的に検出されるようになってきます。これを1というエネルギーとすると、0.5や0.3といった明るさは存在せず、暗くなるほど1のエネルギーが来る間隔がどんどん空いてきます。あたかも粒子が飛んできたかのように、です。

 一方、光電効果は光(紫外線)が粒子のようにふるまうとしなければ説明できない現象です。
 では、光は粒子なのかと言えばそうでもなくて、やっぱり複スリットで回折したり、干渉を起こします。回折や干渉は粒子にはない性質なので、光子は粒子ではない証拠になります。

 「結局、要するに光って何?」ということでまた振り出しに戻ったりして、なかなか進みませんね。量子に似た性質を持つ物体が身の回りにないので、理解できないのは当然です。語弊はあるでしょうが「波のように進み、粒子のように現れるもの」と思っていればいいかもしれません。

 …ま、この辺くわしい人が大勢いますので、他のサイトを当たってくださいまし。 

量子効率
 冷却CCDなどで、感度を示す目安として量子効率があります。
 微弱な光は、光子がぽつん、ぽつんと、離散的に検出されます。しかし、CCDなどの素子は、100%光子をとらえることはできません。
 10個の光子のうち、光がキタ! と検出できるのは、そのうちの数個だけです。たとえば、10個の光子が来ても3としかカウントできないとすれば、その素子の量子効率は30%となります。



2006/07/02
●力学だって2つある

 実は、物理では、同じ現象を表すための体系が複数存在するのは珍しい事ではありません。

 たとえば力学。
 身の回りの物体の運動を記述するならニュートン力学で間に合うものの、光速に近くなってくると相対性理論が必要になります。

 相対性理論を使えば、物体の運動を非常に厳密に扱えます。かと言って、自動車の運動性能を議論するのに相対性理論を使う必要はありません。相対性原理による影響は時速200km、時速300kmといった程度の速度では無視できるほど小さいからです。

 一方、ニュートン力学では光速による歯止めがなく、時間や空間の長さは常に一定で、絶対的な尺度としているために、

・物体は無制限に加速でき、光速を超えることができる
・光速は有限としても、情報は瞬時に伝達される

 といった結論を導くことが可能で、これらは相対性理論とは明らかに矛盾します。かと言って、これをもってニュートン力学が間違っている(あるいは逆説的に相対性理論が間違っている)という根拠にはなりません。

 身近な物体の運動は光速より充分遅いので、よほど厳密な測定を要求される場合を除いてニュートン力学で困ることはないので、いまだにニュートン力学は力学の基礎として充分通用しています。

 ただ、ニュートン力学で充分なのか、相対性理論を使わないと困るものなのか、その判断は、それぞれの体系での記述限界を知った上で適切に応用する必要があります。

 光学も体系がいくつかあるのは、同じような理由によります。


2006/07/02

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