拡大撮影用コントラスト向上フィルタとしてのアポダイジングスクリーンの効果

 アポダイジングスクリーンは、今まで眼視用のコントラスト向上フィルタとして推奨してきました。

 しかし、悲しいかな、経験豊富なベテランは(特に日本では)眼視派よりも写真派が圧倒的に多いでしょうし、どうしても眼視観測そのものが主観に左右されやすい性質のものであるために、軽く見られがちで、どんなに「すばらしい効果がある!」と言葉で訴えても、画像という客観的な形で示すことができないと、なかなか納得してもらえないようです。

 そこで、最近流行のWebカメラ+Registaxによる多量コンポジットで、眼視イメージに近い画像を実際に撮影し、違いを明確にしようと試みました。そのついでに拡大撮影でも効果が現れるのかという検証も行います。


2006/06/29
●アポダイジングスクリーンの効果に対する懸念

 アポダイジングスクリーンを撮影用に応用した場合の効果は、私にとって未知数でした。

 アポダイジングスクリーンは、一種の減光フィルタとして動作するため、拡大撮影に使うと、全開口の場合に比べて1〜1.5段(2〜3倍)程度、多くの露出時間を必要とします。

 "露光時間"に限度のある肉眼と違って、撮影では露出時間が長くなる分、気流の影響を受けやすくなってしまい、コントラストアップの効果が薄れる可能性があります。

 惑星のビデオ撮影が肉眼よりも優れる理由の一つとして、"肉眼以上の高速シャッタースピード"を使って、フレームごとの画像を(できるだけ)静止させることができる点が挙げられますが、暗くなる分、この高速シャッタースピードの恩恵を受けにくくなります。

 おまけに、肉眼では惑星表面の模様などのコントラストの向上を直接確認できますが、デジタル画像では、撮影した画像を使って後処理で、いくらでもコントラストアップを施せます。

 もし、後処理でいくらでもコントラストを向上させることができるのなら、アポダイジングスクリーンであらかじめコントラストを上げておく必要もないでしょう。

 そういう意味では、光量が減ってしまうアポダイジングスクリーンよりは、光量が豊富な全開口の方が有利なのかもしれません。



 では、アポダイジングスクリーンを拡大撮影に応用することは、あまり意味のないことなのでしょうか?


 こういうのは悩んでもしかたないので、比較画像を撮影してみることにしました。


 さて、比較画像ですが、明るさが大きく違うために、どうしても露出時間やWebカメラのゲイン(利得。明るさの増幅)設定などに差が出てしまいます。全く同じ条件で比較すること自体に意味がない(どのように違うかではなく、どのぐらい違ってくるかが重要)と考え、条件は互いに異なっても良いから、なるべく最良の画像になるように撮影・後処理を行って比較しようということにしました。


 ※なお、当ページの火星の画像は、効果を誇張するために、かなり過剰な処理をかけてあります。眼視に応用した場合、これほどの差は現れませんので、あまり期待なされないよう、ご注意ください。


2006/06/29
●全開口の場合

 2003/9/22、20:11、自宅庭で火星を撮像しました。こちらは、普通の全開口の場合です。
 タカハシFS-102、Or18mmによる拡大撮影、WebカメラはQcam4000Pro、撮影時間は1分間です。

 条件的には、アポダイジングスクリーンを使った場合と比べて像が明るい分、露出時間を短くしたり、ゲイン(増幅率)を下げて低ノイズでなめらかな画像を得られるなどの良条件をそろえやすい利点があります。

 全開口側では、その好条件を存分に利用した上で、コンポジットする画像の選択は手動で行いました。

RegistaxによるStackingのみ


Stacking+Wavelet Processing
 もっとも、気流状態は最善とは言えない状態でしたし、Webカメラによる撮影の経験もまだまだ浅いことから、今回の気流状態と現状の技術ではこの程度の画像に仕上げるのが限度かもしれません。

 思った以上に画像の歩留まりが悪く、上記右側の画像は、1分間(約1000枚)の画像の中から、選りすぐった43枚の画像でコンポジットしてあります。


2006/06/29
●アポダイジングスクリーンを使った場合

 画像の撮影は、2003/9/22、20:17、全開口で撮影したときの5分後です。気流状態に特に大きな差はありません。(むしろ、全開口の場合よりも気流は悪化したかもしれません。)

 それにしても、アポダイジングスクリーンを使った場合は、画像の歩留まりが非常に高くなり、1分間(約1000枚)の画像の中から、選りすぐった745 枚を(というより、明らかなボツ画像を除去して745枚にしたものを)スタックすることになり、全開口の場合に比べ、圧倒的なアドバンテージを確保することができました。


RegistaxによるStackingのみ


Stacking+Wavelet Processing


 全自動で処理しても、全開口の場合よりも圧倒的な差がついてしまうのですが、アポダイジングスクリーンの側でも駄目押しに良フレームの手動選択を行いました。

 気流は良くなかったものの、口径10cmで出せる理論限界値に近い解像度を持つ画像にすることができました。


2006/06/29
●考察

 正直言って、デジタル処理(Wavelet Processing)後の画像が、これほど歴然とした差となって現れるとは、私自身、思いも寄りませんでした。

 光量が減り、露出時間が長くなる分、気流の影響を受けてぼやけやすいはずのアポダイジングスクリーンは、予想とは裏腹にきわめて高い安定性と、もともとの高いコントラストによって、非常にくっきりとした火星の模様を浮かび上がらせる結果となりました。(全開口側がピンぼけだったような気がしなくもありませんので、本当はもう少し差は小さいかもしれませんが。)

 あまり安定しない気流(盆地という場所柄、慢性的に気流が良くない場所でもありますが)でも理論限界に近い画像を撮れたという意味で、アポダイジングスクリーンは、拡大撮影の際のフィルタとしても充分高い効果が得られると言えるでしょう。


2006/06/29

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