単位で考える トルク と 馬力 と パワーウエイトレシオ


 なんとなく馬力って力強いイメージがありますよね。
 でも、それってたぶん、とんでもない勘違いをしているはずなんです。

 「へぇ〜、体重が2メートルもあるんだ〜
…みたいに。

設問

ホンダ・フィット1.3(私のマイカーですが)のi-DSIエンジン。カタログには
 最大出力86馬力(5700rpm)、最大トルク12.1kgf・m(2800rpm)
などと書いてあります。

 実用本位のエンジンなので、トルクのピークが前半にあって、パワーピークが後半にあります。

 走り屋感覚で言えば、「回すほどパワー(馬力)は上がるが、回すだけトルクが落ちる」という変な性質を持つエンジン。

 まぁ、100馬力もないエンジンなんで、運動性能がどうこう言うモノではないのですが、素朴な疑問がわいてきます。


 トルクが大きいことと、パワーが大きいことの違いは何なのでしょうか?
 ちょっと問題を出しておきます。



【設問】
 フィット1.3(i-DSI)で、高速道路の合流をしたいと思いますが、なるべく強く加速したいと思います。
 トルクピークの2800rpm近辺を使って加速するのが良いでしょうか。それともパワーピークの5500rpm近辺までなるべく回して加速するのが良いでしょうか。


 一般的なスポーツ車のエンジンは、回転数が上がるほどトルクもパワーも上がるので、設問のような場合は、トルクとパワーの意味の違いが理解できていなくても、「まぁ、とにかく回せば力強い加速ができるんじゃないか」で済むのですが、1.3のi-DSIはトルクピークとパワーピークの回転数のギャップが2倍近く違うので、ハッキリ区別しておきたいところです。




馬力とは?
 「馬力」は、物理学での仕事率の単位ということは知っているのですが、仕事率というものの意味が感覚的によくわかっていなかったので、調べてみることにしました。



 ワットという単位自体は小学校で、仕事や仕事率は中学理科で習いますから、常識と言っても過言ではありませんね。


 それに車好き&機械好きの人は、たくさんいるでしょうから、馬力などについて、わかりやすく解説したページは山のようにあるでしょう――。



 そう思って調べてはみたものの…。




 唖然…


 一応、馬力は物理学上の単位としてキチンと定義されていて「1馬力とは、質量75kgのものを1秒で1m持ち上げたときの仕事率」となっています。

 馬力(仕事率)は物理学で定義された物理単位なので、簡潔に正しく書いてあればそれで十分なのですが、たいてい、『馬力とは』の説明は、この1行だけ。


 エンジンのパワー発生の原理とか、パワーアップするにはどのように調整すればいいかといったことは、いろいろ書いてあるものの、馬力(仕事率)そのものの説明は要するにそれだけ。

 語源としては、蒸気機関の能率を表す単位として "馬1頭分の力" を基準にしたことに由来しますが、語源が知りたいのでなくて何の意味を持つ物理量なのかが知りたいワケで、それが書いてない。

 『たとえば…のようなものです』と、例をあげてみたところで、自分の言葉で説明したものの大半は見当違い。


 結局、数が多い割に車好きの人の書いた、馬力という単位について掘り下げた説明は一つも見あたりませんでした。
 (もちろん、物理学の勉強をするためのサイトならば、仕事率の説明はいっぱいありますよ。数式だらけですが…。)

 とは言え、仕事率って中学校レベルの常識だから、義務教育さえ修了していれば、誰でも理解しているはずのことなんですよね。
 そう言ってしまえば説明がないのは理解できますが。


 でも、ですよ。
 サイトを調べると馬力のことを仕事率でなくて「力の大きさのこと」と言ってみたり、「1秒で」という時間が抜けていたり、あげくの果てには持ち上げないで水平運搬してみたり…。


 あのぉ。水平方向にただ運搬したら、仕事をしたことにならないんですよ。知ってました?
 垂直に物をある速さで持ち上げた状況でないと馬力という単位を使えないのです。






 ま、百歩譲ってそれはいいとして。

 で、「1馬力とは質量75kgのものを1秒で1m持ち上げたときの仕事率のこと」と言われただけで理解できてます?
 「単位時間あたりの仕事の量のこと」って言われて理解できます?


 本当に?




 さきほど垂直に運搬しないと馬力という単位にならないとは言いましたが、自動車は、水平に移動しますよね?(たまに坂道はありますけど)

 もちろん、エンジンからは何十馬力(または何百馬力)ものパワーを出すことができますし、測定もできます。


 では、水平方向にかかる馬力(パワー)とは、何のことでしょうか?

 「チューンアップして5馬力のパワーアップした」と言ったとき、どんな量が5アップしたことになるのですか?

 5馬力パワーアップしたら、どんなとき、何がどれだけ、どのように変わるのですか?



 そもそも、馬力とは仕事率の単位なのですが、その仕事率とは何を示すのでしょうか?

 文字通り解釈すれば、『仕事+率』なので単位時間あたりの仕事の量のことになりますね。

 では、「仕事」とは何を意味するものなのですか?(働いてお金を稼ぐことではありませんよ。一応言っておきますが。)



 説明できますか?








 …あ、失礼。これ、中学理科の内容でした。


 ジョーシキ、ですよね。
 失礼、失礼。



 仕事率ぐらい、説明できますよね?

 ならば、パワーがなぜトルク×回転数で求められるのかもわかりますね。
 「車重÷馬力」で求められる、パワーウェイトレシオが何を意味する物理量であるかも理解できてますよね。
 







 うーん、もしかして感覚的に理解できていないのは自分だけ?


 でも、間違った説明が多いのは、なぜ?



概要
 ということで、お得意のこじつけでございす。

 →
 スクロールバーを見てください。
 正直言って長いです。(すみません。もう少し短くなるよう、ときどき推敲していきますので。…増えているという噂もありますが…)



 定義の話をすれば、馬力(仕事率)とパワーウェイトレシオを出すまでの計算過程は次の通りです。


 距離(m)÷時間(s)=速度(m/s)
 速度(m/s)÷時間(s)=加速度(m/s2)
 質量(kg)×加速度(m/s2)=力の大きさ(N[kg・m/s2])
 力の大きさ(N[kg・m/s2])×距離(m)=仕事(J[kg・m2/s2])
 仕事(J[kg・m2/s2])÷時間(s)=仕事率(馬力)(W[kg・m2/s3])
 質量(kg)÷仕事率(馬力)(W[kg・m2/s3])=パワーウェイトレシオ(s3/m2)

 これらの意味を、一つ一つ理解して、積み上げていかなければなりません。

 『要するに馬力ってどういうこと?』という平易な説明を求めること自体、甘いです。


 いいですね?
 (難しいという意味ではなくて、長いですよ、という意味です。あと、内容は、かなり力学寄りなので、車好きの人がこだわりそうな細かい要素は省いてあります。ご注意ください。)





単位
 まずは単位について、です。

 スピードを100km/hと書かずに100キロとか100kなどと書いたり、「空気圧を2.3キロにしますか」言われて意味がわからない(2.3kgf/cm2の意味の口語です)といった、単位や単位の扱いについてあいまいな人は読んでおいてください。

 ま、使っている用語こそ難しいですが、内容そのものは小中学生レベルですので、単位の説明不要な人は、力の大きさについてまでスキップしてください。




 物理学で扱う数には必ず単位が付いて回ります。単位とは、距離をあらわすキロメートル(km)とか、体積をあらわすリットル(l)とか、時間を表す時(h)、分(min)、秒(s)などのことです。

 とりあえず物理学で扱う数字に単位の付かないものはないと思ってください。(一部に例外はありますが。)

 間違えやすいのですが、キロ(k)とかミリ(m)というのは単位の接頭語で、単位そのものではありません。キロ(k)は1000倍を、ミリは1/1000倍を意味するだけです。


 『この前、高速道路を220キロの速さで走ったんだけどさぁ』と言っても、警察には捕まりません。肝心の単位がないので、具体的な速度を特定できないからです。(あくまでも自供という法律的な解釈ではなく、物理学的な単位の解釈において、です。)

 単位をつければ、意味が通ります。『この前、高速道路を220キロフィート/時の速さで走ったんだけどさぁ』ならばOKですね。1フィートは0.3048メートルですから、時速に単位換算すれば、約67km/hです。
 …違った意味で迷惑走行だったのですね…。

 また、単位には長さで言えばインチ(in)とセンチメートル(cm)のように、本質的に表現しているものは同じだけれども1単位の大きさが違うという関係にある単位もあります。

 仕事率の単位、馬力(PS)とワット(W)もそういう関係にありますね。



単位の本質

 速度の単位「km/h」。

 この単位名をよく見てください。
 距離を示す単位「km」、÷の記号の「/」、時間の単位「h」(hour=時)という組み合わせになっています。

 km/hという単位は、その数字を出すとき、距離(km)÷時間(時)という計算を行った、という意味になるのです。

 燃費の単位はkm/Lですが、これも走った距離(km)÷消費した燃料の容積(リットル)という計算をしますね。

 単位は、計算に使った基本単位と、その計算の手順を組み合わせたものです。

 単位に出てくる「/」という記号は、割る(÷)の意味で、「パー(per)」とか「毎(まい)」と呼びます。

 また、トルクの単位(N・m)などに出てくる「・」という記号は、かける(×)の意味で、発音しません。また、この「・」は省略することもあります。N・mは、Nmと書くこともあります。(なお、mNと書くと、ミリニュートン(1/1000ニュートンを1単位とした単位)の意味になるので注意してください。mmは、ミリメートルと呼んで、前のmがミリ、後ろのmがメートルですよね。それと同じです。)



 単位の読み方がわかると、公式を暗記する必要性がぐっと減ります。

 小学生のときに、必死になって

 はやさ=みちのり÷じかん

 なんていう公式を覚えましたが、この際、忘れてください。暗記する必要は全くありませんので。速度を知りたいのなら、単位を思い出せばいいのです。単位を見れば、そこに公式が書いてありますから。


 単位には回転数であるrpmのように、英字3文字で、2文字目がpという単位があります。rpmは、revolution per minuteのことで、revolution=回転、per=「/」、minute=分という意味の単位です。和訳すればす「回転毎分」になります。

 回転数の単位は、rpmですから、軸が回転した回数を、計測時間(分)で割って求めます。たとえば、5分かかって1万回転したら、2000rpmですね。1分間に2000回の回転をする、ということです。


 『扱う数には必ず単位が付いて回ります』とは言いましたが、一部、例外があります。

 自動車関係ならば、回転数(←rpm(単位時間あたりの回転数)のことでなくて、時間を無視して、とにかく何回まわったか、の回転数)とか、ギア比なんかがあります。


 単位は、その数を求めるために使った数の単位と計算過程を示すので、ある指標を示すための「オリジナル単位」をいくらでも無制限に作ることができます。



次元

 算数では

 5+10

という計算はできますが、物理学では

 5分+10km

という計算はできません。単位の違うもの同士は足したり引いたりできないのです。…っていうか、5分に10kmを足して、15という数字にして、何をしようというのでしょうか?


 物理は算数と違って、答えの数字さえ合えばいい、というものではありません。必ず、単位を合わせていかなければ、意味がなくなってしまいます。(数学でも"4x+3" のような所まで来ると、もう計算できませんよね。4xの4と3を足して7にしても意味がないです。)


 で、違う単位の数字は、かけたり割ったりすることはできますが、計算後の数字に付く単位も、その計算に従って変化します。たとえば、距離(km)を時間(h)で割ると、速度(km/h)という違う単位になりますね。


 そういった基本単位の組み合わせのことを次元と言います。

 物理では計算過程で多種多様な単位が入り混じるので、単位がどうなるかを常に気をつけなければなりません。

 物理学で扱う数字に単位の付かないものはない(原則として)というのを思い出してください。

 扱おうとする数の単位を無視して、うろ覚えの公式を引き出して、数字だけの計算をやると、5分と10kmを足すような、無意味な計算をやってしまうことになりかねません。

 必ず、単位がどう変化するのかを確認しながら計算しなければならないのです。


 広さと長さといった、互いに意味するものが違うことを、物理学用語で「次元が違う」といい、区別して考えます。




 (厳密には:)
 単位に出てくる基本単位の数のことを次元といいます。

 km/hという単位は、kmとhという2つの基本単位が使われているので「2次元の単位だ」と言います。燃費の単位であるkm/Lという単位もkmとl(リットル。数字の1と間違えるので、あえて大文字で書いています)の2つの基本単位が使われているので、やはり「2次元の単位だ」と言います。

 もっとも、同じ2次元の単位だからといって、互いに足したり引いたりすることはできません。ですから、次元とは単位の組み合わせのことだと思って構いません。

 今、「馬力という単位とは何か」ということで話を進めていますが、馬力という単位は、質量の単位が1つ、長さの単位が2つ、時間の単位が3つ含まれた6次元の単位なのです。

 距離(m)÷時間(s)=速度(m/s)…2次元
 速度(m/s)÷時間(s)=加速度(m/s2)…3次元
 質量(kg)×加速度(m/s2)=力の大きさ(kg・m/s2)…4次元
 力の大きさ(kg・m/s2)×距離(m)=仕事(kg・m2/s2)…5次元
 仕事(kg・m2/s2)÷時間(s)=仕事率(馬力)(kg・m2/s3)…6次元


 ちなみに、パワーウエイトレシオの単位は5次元(s3/m2)です。

 ところで、仕事率のワット(W)は、『100ワットの電球』と同じく、消費電力を示す単位でもあります。電力のワットは、電流のアンペア(A)と電圧のボルト(V)を掛けても求めることができるので、発電所の出力とか、家電製品の消費電力の単位としても使われます。ということで、

 電圧(V)×電流(A)=仕事率(電力)(VA)…2次元?

 という疑問がわいてきます。
 電気関係で見る場合の仕事率(電力)の単位は2次元の単位なのでしょうか?


 実は、電圧のボルト(V)という単位は基本単位ではなく、W/A(ワット毎アンペア)で表記される合成単位なのです。
 ということで、ボルトという電圧の単位は、kg・m2/s3/A という7次元の単位になります。
 燃費の単位であるkm/Lも、リットルはm3(立方メートル)と同じ次元の単位になるので、本当はkm/m3という4次元の単位です。

SI単位系
 単位には長さで言えばインチ(in)とセンチメートル(cm)のように、本質的に表現しているものは同じだけれども1単位の大きさが違うという関係にある単位もあります。

 日本は、メートル法に基づいた単位が割と浸透している国なので、だいたいメートル法で意味が通じます。いまどき「身の丈(みのたけ)5尺3寸」と言ってピンとくる日本人は皆無に等しいでしょう。(160.6cmです。)

 ただ、欧米では、まだまだ慣例単位が多く残っているようです。

 自動車の走行距離はマイル、ガソリンの体積はガロン、となればもちろん、燃費の単位はmpg(マイル/ガロン)、スピードメーターはmph(マイル/時)で刻まれている…といった具合です。もちろん、メートル法も併用されていますが、日本ほど浸透していないようです。
 なもんで、混乱することもしばしば。「惑星探査機のコントロールプログラムで扱う高さの単位をキロメートルとフィートを混ぜて使ったため、コントロール不能になって墜落した」という笑えない事実があります。

 そんなこんなで近年、慣例単位を国際単位(SI単位:Systeme International d'Unites)に置き換えようという動きがあります。


 自動車関係での代表的な単位換算表
部位旧単位記号旧単位読み新単位記号新単位読み換算
タイヤ空気圧kgf/cm2キログラム重毎平方センチメートルkPaキロパスカル1kgf/cm2=98kPa
パワーPS馬力kWキロワット1PS=0.7355kW
トルクkgf・mキログラム重メートルN・mニュートンメートル1kgf・m=9.8N・m





質量(kg)と力の大きさ
 …この辺から高校物理に突入します。
 ただし、話を簡略化するためにベクトルの話は出しませんので、ご安心ください。

 ベクトルのついでに言うと、本来ならば速度とか加速度とかいう名前はベクトルを扱う場合の名前で、単に大きさを表す場合(スカラで扱う場合)、たとえば「速度」と表記してはダメで、「速さ」と表記しなければなりません。
 わかりやすくするためにベクトルをあえて無視している関係で、ここでの言葉が本来の(厳密な)物理学用語と違う(または、あいまいな)点はご了承くださいませ。


 さて、物理学(力学)の最初に出てくるのが「質量(しつりょう)と重さの違い」です。
 力を扱う力学では、まず質量と重さの違いが理解できていないことには、何も話が始まりません。


 ま、力の大きさのことを物理学用語で「重さ」と言うから混乱するだけなんですが。


 なので、ここでは「重さとは質量のことで、力の大きさのことではない」ことにします。


 まず質量ですが、質量とは物体の絶対的な重さを示したもので、単位はkg(キログラム)です。(なぜか、基本単位がキログラムです。グラムでなくて。)

 質量は、物体そのものの重さなので、無重力状態にあっても質量は減ったりしません。体重60kgの宇宙飛行士は、宇宙の無重力状態になっている場所に行っても体重は60kgです。体重が0kgになったら、人間じゃないですよね。
 質量とは、絶対的な重さです。これはわかりますね?

 次に、力の大きさの単位なのですが、その前に「力の大きさ」というものの感覚を身に着けましょう。
 こう考えればいいでしょうか?

 たとえば、体重100kgの重量挙げの選手がいたとします。そして、質量150kgのバーベルを持ち上げているとします。

 さて、質量は、物体の重さのことです。人間の体重であったり、バーベルの重さだったりします。持ち上げているとかいう状態は関係なくて、物体そのものの重さです。質量の意味、大丈夫ですね?


 さて、今、選手は質量150kgのバーベルを持ち上げていますから、バーベルを持ち上げるだけの力がバーベルに加わっているということです。持ち上げた本人の体重(質量)は100kgしかありませんが、バーベルは持ち上がっています。

 なぜバーベルが持ち上がっているかと言えば、選手がそれだけの「力の大きさ」を出しているからです。
 ちょっと考えればわかるように、バーベルを持ち上げるだけの力を出すことさえできれば、選手の体重がいくらであるかなんて関係ありません。体重60kgでもいいし、何なら人間ワザかどうかは別にして体重30kgでもいいのです。

 とにかくバーベルを持ち上げておく力というのが「力の大きさ」です。
 力の大きさは質量とは違うものです。


 力の大きさと質量は、全然違うものだ、ということはわかりましたか?

 って、簡単すぎますよね。




力の大きさの単位(その1)kgf
 ここで「力の大きさを示す単位」を考えて作るとしましょう。
 今、質量150kgのバーベルが持ち上がってます。だから、素直に150kgの力が出たと表現しましょうか。

 …と、やってしまったのがそもそもの混乱の始まりです。結局、慣例的に質量の単位もkgなら、力の大きさの単位もkgになってしまい、常識的に両者の区別をしにくくしてしまっているのです。

 物理学(力学)を勉強する上での最初の壁と言っていいでしょう。

 「150kgの力が出た」という文章は一見すると不自然には感じませんが、物理学的に言えば「時速120kmの広さになった」と言っているぐらい、変な文章なのです。

 ということで。
 kgは質量の単位で、質量を示すとき以外には使いません。
 だから、力の大きさをkgという単位で呼ぶのは間違いです。
 いいですよね? 



 で、力の大きさの単位として何を使えばいいかというと、(って、最初に答えを出してしまってますが) kgfと書いて、「キログラム重(きろぐらむじゅう)」と呼ぶ単位を使います。質量の単位の名前と似ているので、混乱しないようにしてください。

 このkgにくっついているfという記号は、力の大きさ(force)を示していますよ、という意味です。

 改めて言うまでもないかもしれませんが、
 1kgfという力の大きさは、(地球上で)質量1kgの物体にかかる重力の大きさを1とした単位のことです。

 つまり、質量1kgの物体を支えているとき、その物体を支えるのに必要な力の大きさが1kgfです。


 月面に質量1kgの物体を持っていけば、重力の大きさは1/6になりますから、質量1kgの物体にかかる重力の大きさも地球上の1/6になり、それを支えるのに必要な力の大きさも1/6で済みます。ただし、物体の質量(そのものの重さ)は、地球上だろうと月面上だろうと、1kgであることに違いはありません。

 くどいようですが、1kgfは力の大きさであって、質量1kgの物体の本質的な重さ(質量)のことではないですからね。kgは質量の単位、kgfは力の大きさの単位です。



 …大丈夫ですか?
 この辺で休んだ方がいいですよ。


 質量と力の大きさは、物理学上、きっちり区別しておかなければならない部分ですので。


 あ、そうそう。間違っても「1馬力とは質量75kgのものを1秒で1m持ち上げたときの力の大きさのこと」ではありませんよ。仕事率は力の大きさの単位ではないですから。


バネレート(kgf/mm)
 余談です。
 物理の教科書では、この辺で「重さはバネ秤(はかり)で測って、質量は天秤(てんびん)で測る」という話が登場しますが、バネ秤の話をしてもおもしろくないので、スプリングコイルの話です。

 スプリングコイルの特性を示すものにバネレートというのがあります。自動車(バイク)を支えるときの、沈み込む度合いを示す量の単位です。バネレートの単位は1kgfあたりバネが何mm沈むか(←説明、間違えてました。逆ですね。やまもと様、ありがとうございます。)1mm沈める(縮める)のに何kgf必要かを示したもので、

 キログラム重 毎ミリメートル(kgf/mm)

という単位になります。
 この値が大きいほど沈みにくく、硬いバネになり、車体に対する加重で変形しにくくなるので、スポーツ走行向けになります。その分ゴツゴツした感覚になり、乗り心地は悪くなります。

 どんな場面でどんな性質のバネが必要かといったことについては、他のサイトに任せます。


 バネレートの単位はkg/mmではありませんよ。1mm縮めるのに「質量として何kg必要か」ではなく、「力の大きさとして何kgf必要か」を示す量ですから。


 せっかく車高を下げた自動車も、月に持って行くと(空気がないので動けませんが。どうやって持って行くかは別にして。)車体にかかる重力が1/6になってしまうので、バネが沈まなくなり、車高が高くなってしまうはずです。

 もちろん、月に行っても自動車の質量は変わりません。ただし、車体にかかる重力という力の大きさ(→車体を支えているバネが受ける力の大きさ)は1/6になります。
 バネは質量で縮むのではなく、力の大きさを受けて縮みます。バネレートは kg/mm ではなく kgf/mm でなければなりません。



速度(m/s:メートル毎秒)
 速度は、言うまでもないですね。理解できないのなら、免許持ってないでしょ?
 多少誤差はあるものの、スピードメーターが示すもの、と思ってください。
 (厳密な定義をしようとすると、案外ややこしい単位なのです。速度は。)


 物理学で扱う速度の単位はm/s(メートル毎秒)、自動車のスピードメーターに付いている単位はkm/h(キロメートル毎時)です。



加速度(m/s2:メートル毎秒毎秒)
 たとえば「1秒ごとに5km/hずつスピードが上がっていく」というような状態を考えます。

 この場合、スタートして1秒後には5km/h、2秒後には10km/h…10秒後には50km/h…という具合に時間を追って速度が速くなっています。

 「1秒ごとに10km/hずつスピードが上がっていく」のであれば、もっと強い加速になりますね。10秒で100km/hに達します。

 そういった時間を追って速度が上がる(または速度が落ちる)ことを加速といい、その加速の度合いのことを加速度といいます。主観的に言うと、加速するときにシートに押しつけられる感覚の強さのことです。

 前者の加速は「毎秒5km/hずつ速度が増している」ので、毎秒(/s)を5km/hという速度にくっつけて、5km/h/s(5キロメートル 毎時 毎秒)という加速度になります。後者の加速度は10km/h/s(10キロメートル 毎時 毎秒)ですね。



 なお、物理では、距離はメートル、時間は秒で統一する決まりになっているので、加速度の単位はm/s/sになります。(ちなみに、速度はkm/hでなくて、m/sを使うのが普通です。)
 で、/s/sの部分を二乗に書き直してm/s2となり、「メートル毎秒毎秒(めーとるまいびょうまいびょう)」と読む単位になります。

 加速度のm/s2なんて、あまり見慣れない単位でもありますし、数値から具体的なイメージが出にくいので、数字が大きいほど強い加速だ(シートに押しつけられる感覚が強くなる)、とだけ覚えておきましょう。


 加速度というのは、普通に生活していても垂直方向に常にかかっています。
 重力加速度と呼ばれるものです。

 重力加速度は、およそ9.8m/s2で、これの何倍に相当するかという慣例単位がジー(G)です。2Gであれば、9.8m/s2×2=19.6m/s2ですね。


 ブレーキによる減速も(符号がマイナスの)加速度運動です。




力の大きさの単位(その2)(N:ニュートン=kg・m/s2)
 力の大きさの単位は、正式にはkgfではなく、ニュートン(N)という単位を使います。

 この単位の語源は、言うまでもありませんね。リンゴが落ちたのを見て万有引力を発見し、光の粒子論を唱え、レンズの屈折時に起きる色のにじみは除去することはできないとサジを投げてニュートン式反射望遠鏡を作り、神学を研究した結果2060年に地球が終末を迎えると予言した、あのアイザックニュートンです。

 ニュートン(N)と、キログラム重(kgf)という単位は、1インチ=2.54cmと言い換えるのと同じような関係にあります。1kgfという力の大きさは9.8Nになります。

 まぁ、日常会話で力の大きさを示す単位としてニュートンを使うことは、まずありませんね。「ここを50ニュートンぐらいで押してくれ」と言われて直感的にわかる人はいないと思います。(私も直感的にわかりません。)


 さて、ニュートン(N)をSI基本単位だけにすると、

  キログラム メートル 毎秒 毎秒(kg・m/s2)

という単位になりす。


 SI基本単位の構成を見ればわかるように、力の大きさは

  質量×加速度

で求められます。


 摩擦や空気抵抗が全くない水平な場所に置いてある、質量1kgの物体を水平方向に1m/s2の加速度で加速することができる力の大きさが1Nという力の大きさです。


 たとえば、

 (摩擦のない、水平な場所で、物体に水平方向に力を加えている場合、)
 10kgの物体を1m/s2で加速することができる力の大きさは10Nです。
 5kgの物体に10Nの力を加えると、2m/s2で加速していきます。

 自動車で言い換えれば、同じ駆動力ならば、車体が軽い方が加速が良いということですね。
 同じ加速度を出すにも、重い車体であれば大きな駆動力が欲しいということでもあります。


 えっと、ちょっとだけ、ややこしい話におつきあいください。

 なぜ垂直方向に持ち上げないと表現できない馬力(仕事率)が、水平方向に動く自動車が出す「馬力」に言い換えられるかのヒントです。

 手で1kgの物体を支えていたとき、その物体から手を離すと物体は落下します。
 その物体は、重力加速度を受けて、どんどん加速して落下していきます。そのとき、落下する物体にかかる重力という力の大きさは、
  1kg(物体の質量)×9.8m/s2(重力加速度)
  =9.8kgm/s2
  =9.8Nです。1kgf(キログラム重)ですね。

 一方、摩擦や抵抗の全くない水平な場所に置いてある1kgの物体に水平方向に力を加え、9.8m/s2(=重力加速度と同じ加速度)で加速するとします。このときに物体に与える力の大きさは、
  1kg(物体の質量)×9.8m/s2(物体に加える加速度)
  =9.8kgm/s2
  =9.8N、1kgf(キログラム重)です。

 計算の内容は全く同じです。
 水平な場所に置いてある1kgの物体に、水平に9.8N(1kgf)の力を加え続けて加速する運動と、1kgの物体を落下させたときの運動は(動いていく方向が水平か垂直かの違いはありますが、)まったく同じ加速運動ということです。

 垂直方向で考える時に出てくる「重力加速度」の部分は、水平方向で考え直すとき、「落下するときのような加速(1Gの加速)ができる」に読み替えることができるわけです。

 →仕事へ

慣性の法則
 摩擦抵抗のない場所を運動する物体は、他の力を加えない限り静止し続けるか等速直線運動をし続けます。これを慣性の法則と呼びます。

 慣性の法則によれば、摩擦抵抗がない場合、一度スピードがついてしまうと、何も力を加えなくてもそのスピードを永久に維持しつづけます。一定の速度で直線運動をし続けるには何の力も加える必要はありません。

 このように、物理学の初歩の初歩では摩擦抵抗がない状態を考えて力の本質を覚えるわけですが、現実世界は必ず摩擦抵抗が存在しています。

 「自動車は、エンジンを止めてもその速度は落ちることなく、ブレーキをかけるまで永久にその速度を維持しつづけます」と言ったって、誰も信じませんし、現に50km/hぐらいから惰性走行をしても、どんどんスピードが落ちていって1kmも走らないうちに止まってしまうでしょう。

 このため、摩擦抵抗のない世界は現実味がなく、感覚的に理解するには抵抗がありますね。


 でも、「どのような外力要因があり、どのようにそれが作用しているか」を調べるためには、「摩擦抵抗などが全くない場合の運動=本質的な運動」がどのようなものであるかを知る必要があります。


摩擦力(摩擦抵抗)(N:ニュートン=kg・m/s2)

 実際に自動車が出す駆動力(力の大きさのこと。カッコ良く言えばトラクション。)は、エンジンが出している力の大きさから、摩擦抵抗による損失分を差し引いた量になります。

 で、その摩擦力の大きさの単位は、駆動力と同じN(ニュートン)で、単位が同じなので、足したり引いたりできます。よって、

  実際の駆動力=純粋な駆動力−摩擦抵抗

 です。

 もちろん、摩擦抵抗の中にはギアによる抵抗損失、タイヤの転がり抵抗、空気抵抗といった抵抗も含まれます。(勾配抵抗は含まれません。勾配抵抗は摩擦力ではなく、エネルギーの単位(運動エネルギーを位置エネルギーに変換する作用)であり、次元が違います。)

 摩擦抵抗の具体的な内訳で書き直すと、

  実際の駆動力=純粋な駆動力−(機械抵抗+タイヤの転がり抵抗+空気抵抗)

です。


 さて、慣性の法則から、摩擦のない平坦な道を一定の速度で走り続けるためには、理論的には力を全く加える必要がありませんから、一定の速度で走り続けている場合は

  実際の駆動力=0

という関係式が成り立っています。


 言い換えれば、一定速度で走っているときの状態は

  純粋な駆動力=機械抵抗+タイヤの転がり抵抗+空気抵抗

という関係式が成り立っています。


 一定速度で走るためには、抵抗に釣り合うだけの力の大きさしか必要としないということです。


 はい、ここ、重要ですよ。


 たとえば、50km/hとか、100km/hの一定速度で走っている軽自動車の後ろにスポーツカーがくっついて一定速度で走っていた場合、軽自動車もスポーツカーも「実際の駆動力=0」で走っています。
 実際には軽自動車とスポーツカーの間では内部的な機械抵抗、タイヤの転がり抵抗、空気抵抗などは違うでしょうが、仮にそれらの抵抗の大きさがすべて同じだとすれば、「軽自動車もスポーツカーも、エンジンから出ているパワーは一緒」なのです。

 出ているパワーは一緒だから、一定速度で走っている限り、エンジンの排気量がいくらであるかとか、最大出力がどれだけかは、あまり関係ありません。もちろん、「一定速度で走るためのパワーアップ」(せいぜい100km/h以下での)は、全く意味がありません。

  機械抵抗+タイヤの転がり抵抗+空気抵抗

 という要素が小さいほど、一定速度で走るために必要な駆動力を下げることができ、直接的に燃費を向上させることができます。


摩擦係数(単位なし)

 余談ついでに摩擦係数。
 摩擦係数とは、物を滑らせるときにかかる摩擦の大きさを示す係数のことで、垂直にかかる力の大きさと、滑らせるのに必要な水平方向の力の大きさの比のことです。

 力の大きさの単位(N)を力の大きさの単位(N)で割るので、単位はありません。

 ゴムタイヤの摩擦係数は銘柄にもよりますが0.5〜1.0、冬場の凍結路面は0.1あるかないかだそうです。

 摩擦係数0.5というのは、車重1トンの場合、タイヤを完全にロックしているにもかかわらず、水平方向に500kgfの力をかけると「ずずず…」と滑り出してしまう、という意味です。

 正確に表現すると、摩擦係数0.5というのは、「質量1000kgの車体にかかる重力の大きさ(=1000kgf)の反作用で生じる路面からの垂直抗力(=1000kgf、作用反作用の法則で、重力と垂直抗力は同じ大きさになります。ベクトルを考慮すると方向が逆なので符号がひっくり返って-1000kgfになります。)と、滑り出す瞬間にかかっていた水平方向の力の大きさ500kgfとの比が0.5」という意味です。



 なお、摩擦係数には、静止摩擦係数と動摩擦係数という2種類があります。
 静止摩擦係数とは、物体が静止した状態から動き出す瞬間までにかかる摩擦力の大きさと物体の重さの比です。
 動摩擦係数とは、物体が滑りながら進んでいるときにかかる摩擦力の大きさと物体の重さの比です。

 一般に

  静止摩擦係数>動摩擦係数

ので、「動き出すまでは力が欲しいが、動き出してからはそれほど力が必要でない」という状態になります。

 タイヤと路面は静止状態で接触しているので、タイヤの摩擦係数という場合は静止摩擦係数のことです。スリップすると動摩擦係数で扱うことになります。

 一般に静止摩擦より動摩擦の方が小さいので、「滑り出したらタイヤの食いつきが悪くなる=滑ったら止まらない」と言えます。


仕事(J:ジュール=N・m)
 ジュール(J)という単位は、仕事の大きさを示す単位です。

 世間一般では、お金を稼ぐために働くことを仕事といいますので、「仕事の単位」と言われてもなんかピンと来ないというか、違和感がすごくありますが、ここで言う「仕事」は物理学用語ですので、そういう名前のモノだと思ってください。

 えー、ジュールを単位分解すると

  ニュートン メートル(N・m)

になります。

 ニュートンは力の大きさの単位で、それに力を与え続けた距離をかけるので、ジュールとは力を与え続けられる量を示す単位ということになります。

SI基本単位だけにすると、

  キログラムメートルメートル毎秒毎秒(kg・m2/s2)

という単位になりす。SI基本単位だけにすると、既に何を意味する単位なのか、よくわからなくなってきますね。ならば、

  kg・m/s2・m

 とすればいいでしょうか?

 質量×加速度×距離

です。ある質量を持った物体を加速しつづけられる距離、ですね。「質量×加速度」は力の大きさですから、

  力の大きさ×距離

 力を出し続けられる距離(与え続けられる距離)、ともいえます。

 たとえば、1ニュートンの力を100メートル出し続けたとすれば、100ジュールの仕事をしたことになります。もし、10ニュートンの力を出せば10メートルで100ジュールの仕事をしたことになります。

 言い換えると、同じ100ジュールの仕事であるならば、1ニュートンの力を出せば、100メートル出し続けることができます。10ニュートンの力を出せば10メートルしか持ちません。100ニュートンの力を出すと、1メートルでエネルギー切れです。


 そうです。仕事はエネルギーの単位なのです。


エネルギー(J:ジュール=N・m)
 エネルギーの単位と言えば、カロリー(cal)が有名です。これは、ジュールで換算すると1J=4.186calです。
 人間にご飯が必要なように、自動車にはガソリンなどの燃料が必要ですね。
 ジュールは、必要な(または、消費する)燃料の量の単位でもあります。


 仕事の大きさを求めるのは、

 質量×加速度×距離

 言い換えると、力の大きさ×距離

 ですね。(復習)

 たとえばここに100ジュールのエネルギー源があるとします。この100ジュールのエネルギーは、1ニュートンの力を出せば、100メートル出し続けることができます。10ニュートンの力を出せば10メートルで100ジュールのエネルギーを使ってしまいます。

 つまり、(同じ質量の車なら)加速が強いほど(加速度の大きさに比例して)エネルギー(≒燃料)を多く消費するのです。


 ということは、同じ距離を動くのなら、なるべく力を出さないようにすれば、燃費が向上するということですね。乱暴な言い方をすれば、強い加速でキビキビ走る車ほど、燃費が悪く、同じ車でも強い加速をすれば燃費が悪いということになります。
 また、同じような強さの加速でも、加速を頻繁に行わなければならない市街地ほど燃費が悪くなるということでもあります。

 自動車が走るためには、加速するための力の他に、摩擦抵抗のという力もかかります。
 実際の駆動力はエンジンから出ている純粋な駆動力から摩擦抵抗を引いた分になりますから、同じ量のエネルギーを使うのであれば、摩擦抵抗(内部損失、タイヤの転がり抵抗、空気抵抗)が小さい方がより長い距離を走ることができますね。

 そして、忘れがちなのが、同じ力の大きさを与え続けても、距離が長ければ、やはり仕事の量が増えます。これまた燃料をたくさん使うということ。
 燃費が良くても、遠回りすれば損なのです。

 燃料費を節約するには、大きな力を出さない(抵抗を減らす)か、距離を縮めるしかないのです。


 ま、『燃費のためだから、なるべくダラダラ加速しろ』とは言いませんが、無意味な急加速などをしないように心がけるだけでも、燃費は結構改善するものです。



エネルギー変換効率(%)
 とある方から
>つまり、加速が強いほど(加速度の大きさに比例して)燃料(エネルギー)を多く消費する(修正前の原文)

という部分について『大切な前提条件が抜けている』と指摘をいただきました。

 確かに、誤解を招く表現ではありました。同じ質量の車で同じ強さの加速をした場合(=出力に回されたエネルギーの量が同じ)であっても、エンジンが違えば消費する燃料の量(リットル)は違います。

 同じエンジンでも、エンジンの状態で燃料消費量が変わります。わかりやすい例では、エンジンが冷えていると回転数が上がりますね。これはエンジンを暖める方にエネルギーを分配するために、走行に必要なエネルギー以上のエネルギーを消費するように制御を行っているためです。
 余談ですが、現在の多くの車は、これをコンピュータ制御で行っています。バイクの中にはこの制御(オートチョーク)がないものもありますが、このタイプのエンジンではエンジンが冷えすぎると、エンジンがかかってもすぐ止まります。チョークを引いて吸気量を制限したり、しばらくスロットルを開けて3000rpm程度まで上げた状態でアイドリングを続けて暖める必要がありますね。

 実際には、消費した燃料の量と取り出せたエネルギーの量には大きなギャップがありますので、「加速が強いほどエネルギーを多く消費する」で言うエネルギーは、実際に取り出せたエネルギーのことになります。

 そして「燃料そのものを燃焼させた時に発生するエネルギーの量(ジュール)」と「実際に動力などとして活用できたエネルギーの量(ジュール)」の割合のことをエネルギー変換効率と言います。同じ次元の単位同士で割っているので、単位はありません。
 これからのエコ時代、いかに効率良くエネルギーを使うかが課題です。


 ただ、同一のエンジン・同一のコンディション下であれば、エネルギー変換効率には大きな差は出てこないでしょうから、エネルギー自体の単位が示すように、基本的に加速度の大きさに比例して燃料消費量は多くなります。


トルク(N・m)
 トルクとは、軸が回転するときの力の大きさのことで、回転軸に直交する長さ1mの棒を取り付けたときに、回転軸と反対側の棒の先に1Nの力が発生するような、回転する力の大きさが1N・mというトルクになります。

 エンジンの性能曲線にあるトルクは、エンジンのシャフトに半径1mの車輪をつけて、その車輪外周で出せる力の大きさを測定したものです。(って、現実にそうやって測定していないでしょうが、そういう意味です。)

 駆動力の単位はNです。駆動力は車軸にかかるトルクの大きさ(N・m)をタイヤの半径(m)で割ることで得られます。

  駆動力(N)=車軸トルク(N・m)÷タイヤの半径(m)

 車軸にかかるトルクの大きさは、途中にある変速機などのギア比によって変化します。ギア比を固定すれば、エンジントルクに比例した駆動力になりますね。



 ネジ(ナット)の締め付けトルクの単位もN・m(またはkgf・m)ですね。タイヤのナットの推奨締め付けトルクは、フィットの場合10kgf・m(98N・m)前後です。

 10kgf・mというトルクは、柄の長さが1mあるレンチを使い、レンチの柄の先端を10kgfの力の大きさをかけて回したときのトルクです。

 …って、柄の長さが1mのレンチなんかは売ってませんけど…。

 で、車載されている標準レンチは、長さが約40cm。柄の先端をにぎれば、長さ約30cmのレンチと見ていいでしょう。

  駆動力(N)=車軸トルク(N・m)÷タイヤの半径(m)

ですから、こう読み替えれば、わかりますね。

  レンチ先端を押す力(N)=推奨締め付けトルク(N・m)÷レンチの柄の長さ(m)

 よって、10kgf・m÷0.3m=約33kgf。レンチの先端を30kgfぐらいの力の大きさをかけて回してやればいいということになります。

 30kgfという力の大きさは、体重計を手で押して確かめることができます。
 体重が重ければ上半身だけで簡単に体重計が30kgを示しますし、病的に痩せていない限り全体重をかけて締めると締めすぎになります。

 タイヤのナットの締め付けトルクって、案外ゆるいんですよ。



仕事率(W:ワット=J/s)
 お待たせしました。馬力(仕事率)です。

 まず、言い回しについて一言。
 仕事率を英訳するとpowerです。なので、パワーという日本語は、仕事率を示します。力の大きさのことではありません。力の大きさは、forceです。


 で、仕事率の大きさを示す単位は、(再三登場してますが、SI単位系で)ワット(W)です。慣例的に馬力も併用されていますが、馬力も同じ次元の単位です。1馬力=735W(0.735kW)、1馬力=75kgf・m/sで換算します。

 で、そのワット(W)という単位を分解すると

  ジュール毎秒(J/s)

になります。ジュールはエネルギー量の単位で、それを単位時間で割るので、ワットとは単位時間あたりに投入されるエネルギー量(または、単位時間あたりに出力されるエネルギー量)を示す単位ということになります。


 ワット(W)をSI基本単位だけにすると、

  キログラム メートル メートル 毎秒 毎秒 毎秒(kg・m2/s3)

という単位になりす。

 さすがに6次元の単位なので、SI基本単位だけで書かれると、何を意味する単位なのか、わかりませんよね。そこで、SI基本単位表記の単位をちょっと小細工して、このような単位名にします。

  kg・m/s2・m/s

 以前言いましたね。「単位を見れば、計算する公式がわかる」と。
 仕事率とは、

  質量×加速度×走行速度

という関係をもった単位
なのです。(もちろん、力の大きさ×速度 でもあります。)
 このことから、いろいろなことがわかります。

 エンジンから出せるパワーには限度がありますし、通常は車重(質量)は一定ですから、「走行速度が速くなると、加速度(または駆動力=質量×加速度、ですね)が落ちてくる」という関係があることがわかります。

 たとえば、50km/h走行時に出せる最大加速度の大きさが10だとすれば、100km/h走行時に出せる最大加速度は半分の5になるということです。

 このことにちょっと異論があるかもしれませんが、着目しているのは「最大加速度」だということに注意してください。
 もしギア比を固定していれば、たとえばMT車で4速に落として50km/hから出せる加速度と、同じく4速で100km/hから出せる加速度は、100km/hからの方が(一般には)加速が良いように感じますが、その話ではありません。

 特定のギア比に固定されている場合、車速はエンジンの回転数に比例します。よって、ある速度での駆動力は「エンジンのトルク特性」そのものになります。
 4ストロークエンジンのトルクは、一般的に回転数に関わらずほぼ一定です。ただし、エンジンの作り方で1割程度の範囲で変動します。
 で、トルクピークを低回転側に置くか、高回転側に置くかという選択をするわけですが、スポーツ系エンジンは、高回転側でトルクが大きくなるように設定します。そのようにエンジンを作った方が、ピークパワーを稼ぎやすいからです。
 ということで、同じギアならばエンジン回転数の低い50km/hから加速するより、エンジン回転数の高い100km/hから加速する方が(エンジン特性上、回転数が大きいほどトルクが多少大きくなるので)加速が良いように感じます。

 …そのことと勘違いしないでください、ということです。

 んで、この話の続きとしてトヨタのVVTとかホンダのVTECという話が出てくるのですが、それについての詳しいページは山ほどありますので、そちらにゆずります。

 フィットの場合は、CVTという無段変速なので「何速でどうこう」ということは言えませんが、むしろCVTの方が仕事率を理解しやすいでしょう。

 計算上は50km/hのスピードのとき(タイヤの回転数は454.2rpm)で最大の駆動力を出す場合、トータルギア比で12.11が選択されています。パワーピークのエンジン回転数5500rpmを、50km/h走行のタイヤの回転数454.2rpmまで落とすので、5500rpm÷454.2rpm=12.11です。

 ギア比が12.11ということは、エンジン回転数が約12分の1まで落とされてタイヤに伝達されるということ(5500rpm→454.2rpm)ですが、同時にエンジンのトルクが12倍になってタイヤに伝達されている(106N・m→1284N・m)ということです。

 もし、100km/hで走行していたらどうでしょうか?
 5500rpmの回転数で100km/hで走るためのギア比は50km/hのときの半分の6.06が選択されます。タイヤの回転数が2倍に速くなる分、タイヤに伝達されるトルクが半分に減ります。

 「走行速度が速くなると、加速度(または駆動力)が落ちてくる」という関係の意味がわかったでしょうか?
 (数学的に表現すると、駆動力は走行速度に反比例する、と言います。別サイトを探していただければわかりますが、エンジン特性の一つである「等馬力曲線」は、まさに反比例のグラフそのものになっています。)


 また、別の視点で見れば、同じパワーのエンジンでより大きな加速度を得たいのなら、車重(質量)を軽減するか、走行速度を下げるしかないというのもわかります。

 同じパワーのエンジンで所定の走行速度での最大加速度を上げるには、もはや車重(質量)の軽量化しか手段が残されていないことになります。


 さて、どこでも説明してある↓ですが…。
 「1馬力とは質量75kgのものを1秒で1m持ち上げたときの仕事率のこと」で、「なぜ持ち上げないといけないのか」もうわかりますね?

 さきほどの関係式の「加速度」を「重力加速度」に置き換えて垂直方向用に書き換えます。

  パワー(仕事率)=質量×重力加速度×引き上げ速度

ですね。75kgの物体を、重力という加速度がかかった状態で、1m/sという速度で引き上げる(1mの距離を1秒で引き上げる)と、ちょうど1馬力という仕事率になります。

 1馬力
 =75kg×9.8m/s2×1m/s
 =735kg・m/s2・m/s
 =735W(または、0.735kW)

 ということです。


 「持ち上げる」という言葉が抜けてしまって水平方向に動かしたら「重力加速度」の部分が抜けてしまって、全然違う意味の計算をしている(全然違う単位になる)というのもわかりますね?


 で、この垂直用の馬力の関係式を、横に倒して水平用に戻して考え直します。

 車重75kgの自動車(←人間の体重だけじゃん、というツッコミはしないように。)が1m/s(=3.6km/h、歩くぐらいの速度)で走っている状態から、9.8m/s2(1G)の加速ができる能力というのが「水平方向にかかる1馬力」なのです。

 人間の体重だけの自動車っていうのも何なので、車体質量を10倍、速度も10倍にしてみます。合わせてパワー100倍(^^;)、100馬力です。
 100馬力というパワーは、車重(人間と油脂類を含む質量)750kgの自動車(ま、軽自動車ですか。)で36km/hの速度で走っている状態から、1Gの加速ができる能力がある、という意味になります。(1Gぐらいになると、タイヤがスリップしてしまうでしょうが…)


 ということで、車重とパワーがわかると、どんな速度のときに、どのぐらいの加速度で加速することができるか、もう計算できますね。
 (ま、それを示す指標がパワーウェイトレシオということになるのですが。)



"変速"的な仕事率の解釈
 変速装置は、読んで字のごとく、回転速度を変える装置のことで、俗にトランスミッションと呼ばれます。

 ここでは変速装置を使って馬力(質量×加速度×走行速度 という関係をもった単位)を考えてみます。


 変速装置の中身は、簡単に言えば大きなギアと小さなギアが組み合わせられていて、ギアの組み合わせで入力側が1回転したら、出力側が2回転したり、あるいは1/3回転したりします。この回転数の比をギア比と言います。

 フィットではCVTという変速機構を採用していて、無段階に任意のギア比(最小と最大で5.2倍だったかな?)に変更できます。

 変速ギアは、あくまでも入力側と出力側の回転数を制御するだけです。たとえば、出力側の回転数が、入力側の回転数の半分になったとすれば、出力側の回す力は2倍になって出力されます。このように、回す力と回る速さには、

 入力側の回す力×入力側の回る速さ=一定
 出力側の回す力×出力側の回る速さ=一定


 という関係があります。
 言い換えれば、

 エンジンのトルク×エンジン回転数=車軸トルク×車軸回転数=一定

 です。
 で、何が一定なのかというと、計算すればわかります。

 トルク(kgf・m、つまり、N・m)、回転数(rpm、つまり、/s)ですから、結果の単位は、N・m/s。つまり、

 エンジンのトルク×エンジン回転数=車軸トルク×車軸回転数=パワー(馬力)

ということです。(ちょっとこじつけっぽい)


 ちょっと配置を変えます。

 エンジン回転数×エンジンのトルク=パワー(馬力)=車軸回転数×車軸トルク

 エンジンの、ある回転数におけるトルクによって出力されるパワーが決まり、そのパワーをタイヤの回転数と車軸にかかるトルクの大きさに振り分ける、という関係があるという意味です。

 4ストロークエンジンのトルクは、回転数にあまり依存しないで一定なので、パワー(馬力)は、エンジンの回転数にほぼ比例して大きくなるという性質があります。

 回転数によってトルクがあまり変わらないので、パワーを出すためには、回転数を上げなければならないということです。

 また、同じ車軸回転数(走行速度)で同じギア比ならば、馬力の大きいエンジンの方が車軸トルク(駆動力)が大きいということですね。(そのままだと、馬力の大きいエンジンの車は加速していってしまうので、一般には、馬力が出ないように燃料供給量を下げて、その回転数で出せるトルクを規定のトルク(フルスロットル時で出るトルク)よりも落としています。)

 同じ車軸トルク(駆動力)で良いのであれば、馬力の大きいエンジンを持つ車であるほど、エンジン回転数は少なくて済みます。
 高級車ほどエンジン排気量が大きいですが、必要なトルクをあまりエンジンを回さなくても得られるので「エレガントに走れる」からではないでしょうか。



 えー、余談ですが、電動モーターは、パワーの大きさが回転数に依存しないで一定なので、回転数に反比例してトルクが落ちます。だから、電気自動車には原則として変速ギアはありません。原動機の仕組みによって、トルクと回転数と馬力の関係は違ってきます。


エンジン出力は馬力(PS)でモーター出力はキロワット(kW)?

 最近、車の雑誌を見たのですが、(買ってまで読みませんが)ハイブリッドカーの出力表記が、

 エンジン出力→○○PS(馬力)
 モーター出力→○○kW(キロワット)
 (計○○馬力)

という表記となっていました。なぜ

 エンジン出力→○○kW(○○PS)
 モーター出力→○○kW(○○PS)
 (計○○kW(○○PS))

 と単位を統一して書いていないのでしょうか。


 「モーターだったらワットだね」というイメージがあるからなのでしょうか。

 次元のところで説明しましたが、確かに仕事率は電力の単位でもあり、電流×電圧でも求めることができます。しかし、モーターの出力は、モーターにかけている電力の大きさ(電流×電圧)から求めている訳ではありません。

 モーターにかけている電圧と電流から求められる電力(消費電力)よりも、モーターの軸の出力(パワー)は、はるかに小さくなります。
 ですから、消費電力がそのまま出力のパワーとはなりません。消費電力と軸出力は同じ単位ではあるけれども測定している場所が違うのです。(掃除機やエアコンも性能を示してある仕事率と消費電力は違いますね。)

 エンジンも、単位時間あたりにエンジンに投入される燃料の量から換算される仕事率(=消費した燃料の持つ熱量(J)÷単位時間(秒))よりも、実際に取り出せるエンジンパワーは、はるかに小さくなります。

 もちろん、エンジンの出力は消費した単位時間あたりに消費する燃料の量から求められる換算値でカタログに記載されているわけではありませんよね。

 「要するに原動機(エンジンとかモーター)が最大でどれほどの出力(パワー)を出せるのか」がカタログに載るわけです。

 「パワーの大きさ」なのだから、馬力でもワットでもどちらでも換算することができ、どちらでも記述できることができます。


 ということで、その雑誌でエンジンが出すパワーがPS(馬力)でモーターが出すパワーがW(ワット)(またはkW キロワット)と表記が分けられていた理由、いまだによくわかりません。


設問の答え
 i-DSIエンジンは、トルクピークが前半にあるものの、回転数を稼ぐ方が最終的な車軸トルク(駆動力)が上がるので、やはり回した方が強い加速を得られます。

 たとえば50km/h走行時に2800rpm(トルクピーク)で回すと、その時点で選択されるギア比は6.16。5500rpmまで回せば、ギア比は12.11。トルクピーク時のエンジントルクは119N・m、トップエンド時のエンジントルクは106N・m。回した方がトルクが落ちるのですが、最終的な車軸トルクは、ギア比倍されるので、2800rpm時は119N・mの6.16倍、5500rpm時は106N・mの12.11倍になって――。

 あとは、自分で計算してください。(って、答えになってないじゃん)



パワーウエイトレシオ(kg/ps または s3/m2)
 パワーウエイトレシオという言葉があります。車体の質量(kg)を仕事率(馬力)で割り、1馬力あたりの車体の質量を求めたものです。

 もちろん、質量(kg)を仕事率(馬力)で割っているので単位はkg/psです。この数字が少ないほど1馬力あたりの質量が軽いということになるので、加速が良いことになっています。

 たとえば、フィット1.3/FFは、990kg÷86PS=11.5kg/PS。
 同じく1.5T/FFは、1010kg÷110PS=9.18kg/PS。

 参考までに、インテグラTypeRだと、1180kg÷220PS=5.36kg/PSです。
 フィットはだいぶ重い部類ですね。



 …ってな性能評価をする単位なのだそうですが。
 この単位、誰が考えたのでしょう?

 力の大きさ(N = kg・m/s2)を質量(kg)で割れば、加速度(m/s2)が出ますので、意味はわかりますが、質量を仕事率(馬力)で割った単位って、いったい何を示すものなのでしょうか?

 もちろん、自動車やバイクは無人で走る訳ではないので、車体重量にはドライバー本人の体重(質量)や、燃料の質量なども含める事になり、それによっても変動する値なのですが、ま、単位の意味を考えましょうか。


 SI単位で書き直してみます。
 馬力(ps)は、ワット(W)と同じ次元です。ワット(W)をSI基本単位だけで書き直すと、kg・m2/s3という単位です。

 質量(kg)を仕事率(kg・m2/s3)で割るので、kg÷(kg・m2/s3)となり、質量が約分されて消えてしまい、残った部分の逆数で構成されたs3/m2という単位になります。

 s3/m2… 私には何を示す単位なんだか、さっぱりわかりません

 読み方ですが、もちろん、

  秒 秒 秒 毎メートル 毎メートルです。

 SI単位系によるパワーウエイトレシオ
 フィット1.3/FF=990kg÷63kW=0.0157s3/m2
 フィット1.5T/FF=1010kg÷81kW=0.0125s3/m2
 (参考)インテグラTypeR=1180kg÷162kW=0.00728s3/m2

 『インテグラTypeRのパワーウエイトレシオって、7.28 ミリ 秒 秒 秒 毎メートル 毎メートルなんだぜ。』

 何がすごいかって、理解の範囲を超えているところでしょうか。



 わからないのも何なので、パワーウエイトレシオの逆数で考えてみます。馬力を車体の質量で割って、車体質量1kgあたりの馬力の大きさを求めることにします。となれば、単位はps/kgです。

 SI単位にすると、仕事率(kg・m2/s3)を質量(kg)で割るので、(kg・m2/s3)÷kgとなり、質量が約分されて消え、m2/s3という単位になります。

 この単位表記に小細工を加えて、m/s・m/s2という単位にします。

 これで、やっとスッキリしましたね。走行速度×加速度という単位です。ある速度で走っているときに出せる、最大加速度を示す単位という意味になります。

 この『パワーウエイトレシオの逆数の値』が大きいほど、同じスピードで走っているときに、その速度で走っている状態から出せる加速度が大きいということです。

 逆数というと何か特別な感じがしましたが、数の大小関係が逆で意味していること自体は同じと考えれば、パワーウエイトレシオが小さいほど、所定の速度における加速性能が良いということですね。

 数字が逆数で示されているのでイメージしにくいのですが。まぁ、そんなもんかな、と。



自動車が最も強い加速をするとき
 自動車が最も強い加速をするのはどんな時か、わかりますね?

 トルクやパワーについて、充分に理解する必要はありません。

 自動車を極限までチューニングする必要もありません。

 どノーマル車で、F1マシンを軽く超える加速度を簡単に出すことができます。







 簡単なことですよ。衝突すればいいのです。
  壁なり、対向車に。






 たとえば、0.1秒で60km/h→0km/hという速度変化をした場合、速度変化量は

  0m/s(=0km/h)-16.67m/s(=60km/h)=-16.67m/s

 この速度変化が0.1秒の間で行われている(衝撃力を求めるとき、一般に「減速にかかる時間」が示されていませんが、この時間がないと加速度に変換できません。ここでは、仮に0.1秒とします。)ので、加速度は、

  -16.67m/s÷0.1s=-166.7m/s2

 この加速度は、重力加速度(9.8m/s2)の何倍かと言うと、

  -166.7m/s2÷9.8m/s2/G=-17.01G


 符号がマイナスなのは、減速の加速度という意味です。





 つまり、
 自分の体に体重の17倍の力がかかるということ。
 体重5kgの赤ちゃんが、85kg重の重さになるということ。
 体重50kgのお母さんの膝の上にいる子供の上に、850kg重もの重さになったお母さんがのしかかるということ。
 体重25kgの子どもは、重さ425kg重になって、フロントガラスに直撃するということ。

 シートベルトやチャイルドシートがなければ、当然、車外へ放り出されてしまうでしょう。




 シートベルトなしで安全でいられるのは、せいぜい5km/hまで(1.4G)と言われています。10km/hになったら、衝突時の衝撃は2.8G。たった10km/hで衝突するだけで自分の体重の約3倍の力がかかりますから、フロントガラスにアタマを打ちつけるぐらいの状態にはなりますかね。




 安全運転でいきましょうよ。
 早く到着したって、何か賞をもらえる訳じゃないんですから。
 (警察から負の賞金をもらうことはあるかもしれませんが…)