近軸領域の計算

 さて、いよいよ設計に入ります。
 始めに、設計の見通しを良くするための基礎としての光路追跡をします。ただし、今扱う条件は
光線は光軸に極めて近い所しか通らない
ということと
使うレンズは、厚みがない(無視できるほど薄い)
ということです。

 「光線は光軸に極めて近い所しか通らない」とすることで、屈折は、ほとんどコンマ数度というレベルでしか起こらなくなります。そのような極めて小さい角度の場合、sinθ=θと置いても、ほとんど支障がありません。sinθ=θと置いた場合でも、充分通用する範囲を近軸領域と言います。
 近軸領域では、スネルの法則

n sin i=n'sin i'

を、

n・i=n'・i'

と書くことができ、計算がとても簡単になります。


【補足】
 数学的に言って、「sinθ=θ」なんていうことはあり得ません。
 しかし、物理学では「計算が面倒」「どうせ考えても無駄なくらい充分小さい数だから」という理由で、項目を省略したり、都合のいいように解釈を変えたりすることが多くあります。
 F15の望遠鏡の集散角(バージェンスアングル:光軸と光線が交わる角度)は、せいぜい2度ですから、sinθ=θでも小数点以下5桁ぐらいの精度は保てるのです。
 「レンズの厚さがない」ということについても、レンズには必ず厚みがあるので、あり得ません。しかし、手元にあるレンズを実測したところ、2枚合わせて厚さは直径の20%。これをF15の屈折望遠鏡に当てはめて考えると、焦点距離に対するレンズの厚さの割合は、実に1.33%と、わずかです。あながち「省略のしすぎ」でもないのです。

脱線しました。

 sinθを級数展開(*1)すると、次のようになります。ただし、θは、ラジアン(*2)
です。

θ(ラジアンの角度)と、sinθを並べてみました。θとsinθは、角度が小さいとだいたい一致してしまいます。
tanθも、角度が非常に小さいと同様に、ほぼθと一致します。
 たとえば、近軸と言うには少し角度が大きいですが、2度=0.034906...ラジアン、sin 2度=0.034899...と、小数点以下5桁程度の精度は保っています。
(*1)数学者のテーラーが考えたことから、テーラー展開とも言われる。今、高校で習うんだろうか?
(*2)ラジアン:角度の単位で、半径と円弧の長さが同じになるときの角度が1ラジアン。180度はπ(3.14159...)ラジアン。

ひとつの球面での屈折

 ある光が曲率半径rのレンズ面の、ある高さhで屈折し、屈折しなければPで光軸を横切るはずが、屈折したことでP'に到達した場合を考えます。

このとき、屈折前の焦点位置Pが、屈折することで焦点位置P'になり、屈折しなかった場合の距離sが、屈折後に距離s'となるという関係を、近軸領域では、次のように書くことができます。

「ある高さhで屈折し」と言った割には、hが式の中に入っていません。式の展開途中で消えて無くなるから無いのですが、入射高hを考えなくてもいいほど光軸スレスレの話なので、hは、ほぼゼロと考えてください。
【補足】

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(1)の上の式でu1を求め、(2)式でφを求め、(3)の式を上から順に解いていって、最後に(1)の下の式を使えば、どんな高さhを与えても正確にs'を求めることができます。しかし、このままでは、互いの関係がよくわかりません。そこで、