<補足説明>

申込み段階で申請数を絞り込む、あの手この手
「商業・サービス業の経営強化をアシストしよう」と考えたとき、まず、大群のように押し寄せてくるであろう希望企業をいかにさばいていくかが急務になります。だって、どんな企業でも、経営改善は進めたいですから。
「補助金がもらえるかも」なんて話が広まったら、問い合わせ対応だけで、仕事にならなくなってしまいます。
これを回避するためには、何らかの前処理が避けられません。
 

1.早い者勝ち
もっとも公平ですが、収拾がつかなくなります。お勧めしません。
行政の大原則は早い者勝ち、ですので、事前の情報漏洩が大問題化する恐れがあります。

2.事前講習の修了を申請条件となる
よい方法かもしれませんが、かなり長期に渡る講習をセットしないと、希望者殺到でコントロールできなくなります。ちなみに、都公社では、創業助成の要件としてこの方法を用いています。
これに類似するケースとして説明会への参加を必須とする場合もあります。
都福祉保健局の子育て補助金などは、説明会参加を必須としています。希望される企業がネットチェックを怠ると、これを見逃します。
この場合も、説明会場の確保は無尽蔵にはできませんし、「満員でお断り」では不公平になります。
周知期間の設定も難しく、結果的には「予め情報を持っていたところが有利」となります。

ネットにきわめて短期間掲示する、という反則ギリギリの方策がとられることもあります。
このような前登録制度(取りあえずアカウントを取得してください)というのは、ネットの世界では普通に行われていますが、個人情報はダダ漏れになります。

3.事業計画の承認を前提条件とする
あらかじめ事業計画を提出させ、それを承認した企業が補助金申請の資格を得るという方法です。穏当な手法だと思います。
最近では、事業計画の策定主体が企業そのものではなく、商工会議所などの支援団体だったり、区市町村だったりする場合もあります。
ということは、商工会議所や区市町村の計画が承認されていなければ、その所管の企業は補助金申請できません。事業計画作成側の団体と補助金申請を希望する企業との間で温度差が大きいと、トラブルになる危険性があります。



私は、“申請者と計画者が異なる”二段階抽出は公平性を欠き、問題があると考えています。

4.事業審査と補助金審査を別物として扱う
国の補助金では、まず「採択案」を決めた上で、事業案とは切り離して後追いで補助金の申請経費を精査し、補助金額を出すという方法を取ることがあるようです。
これだと、合格企業を最初に喜ばせておきながら、後でがっかりさせるということになりかねません。

私が提案した二段階抽出法では、第一段階で「採択」はせず、「候補作」としての公表を行います。

5.資格要件を厳しく限定する
「創業後3年以上」「前年より売上が○%下がっていること」くらいでは絞りきれません。緩ければ、早いもの勝ちと同じです。厳しければ、事実上、指名制度のようになり、不公平です。
「経営革新計画の認定」を前置条件にすることもできますが、遡りが可能の経営革新と、将来実施が絶対条件の補助金とでは、時期が逆転してしまいますので、注意を要します。

資格要件を付けること自体は、やむを得ないと思います。が、資格要件に合致しない場合くらいは、理由を教えてあげるべきだと思います。

6.審査を何段階にも分ける
通常、こういう方法が取られます。しかし、手間がかかります。

 
6−1.書類審査で大幅に数を絞り込む
どうしようもないと、この方法を取らざるを得ません。
しかし、「なぜ落選したか」については開示しないことが多いので、企業のフラストレーションを高めます。
応援ファンドでは、事前登録200件+α→申請100件+α→(書面審査)→面接50件±α→採択20件+αでした。たいへんいい案配だったと思います。

 
6−2.申請書類の分量を厚くする、申請事務を面倒くさくする
効果はあると思いますが、これは時代の流れに逆行します。それに、こういう方法では「代筆屋」が横行することになります。
国は申請企業の意見を受けて、申請書類をかなり薄手にしました。審査する人たちは、戸惑っています。

 
6−3.企業のプレゼンで審査する
通常こういう方法が取られますが、いっぱい応募されてしまうと数を絞らざるをえません。
審査結果を判定するには、ひじょうに手間ヒマがかかります。審査員の選定と日程調整も、事務局泣かせです。
なお、プレゼンは企業の経営者が中心となって行うことをお勧めします。
プレゼン時間と質疑時間で30分〜40分くらい取るのが精一杯です。それでも、午前2件、午後4件くらいしか、こなせません。かなり大変です。

 
6−4.二段階で選考する
これは私のアイデアです。4.や6−1.と同様、まず書面で事業案を審査しますが、その時点では合否は出しません。ただし、選考に残った案は「候補作」として発表します。
社会貢献事業の場合、アイデアベースの審査になります。候補策として公表されるだけでも、企業にとっては名誉になります。その後、経費面での計画を作らせ、実現ベースでも一定レベルだと見込まれるものから採択していく、という方法です。アイデアベースで一定数の候補作がプールされ、その中から「事業的に成り立つ」と見込まれたものを選ぶわけです。
これまでの経験では、アイデア的に優れた事業案というのは、得てして実務的ではないものが多いようです。
そういう申請をアイデアだけ評価して採択すると、哀しい結末になりますが、アイデアの持つ価値を黙殺するのも気の毒なので、別評価としました。
その一方で、アイデアではなく、企業収益の向上という直球ベースの申請も受け付けられるようにしました。この場合は、事業計画を申請していただき、企業の収益向上に寄与するかどうか、審査します。その上で、候補作として次のステップに進んでもらいます。

この二段階選考方式は、時間がかかるのが欠点です。

こういう手法は、事務方が反対します。かなり、面倒くさいので。1項目の補助金で、まったく別の補助制度2つを管理するのと、同じですし。

7.対象事業を限定する
「新事業に限る」という募集が製造業の補助金で一般に行われていますが、実際に募集をしてみると、新事業なのか既存事業の延長なのか区分けするのは簡単ではありません。「見せ方のうまさ」や「審査する側の主観」に左右されてしまいます。いわゆる「拡大解釈」をするのです。
対抗策として、事業分野を限定するという方法もあります。
例えば、「独居老人の状況を見守る事業」「子育て中の専業主婦を援助する事業」といった範囲に事業を限定してしまうという手法です。
募集科目を、毎年変更する制度設計だって可能です(予め断っておかないと、申請企業からクレームが来ますが)
何でも拡大解釈して申請してくる企業もあるので、これでも、多数の応募者があるかもしれませんが、かなり数は少なくできます。

「当社の栄養ドリンクを飲むとお年寄りも元気になるので、独居老人が少なくなる・・・」「子育て中の専業主婦の孤独解消に、是非とも当社の趣味の手芸を・・・」ってこじつければ、何だって該当してしまいます。

8.補助金のうま味をなくす
使途などを制限して補助金の魅力を減らしてしまうという方法ですが、それでは何のために支援しているのか、わからなくなります。
本末転倒です。
 
 
ですが、事務方の差配で自由にできてしまうので、こういう方法が取られることが多いのです。

9.登録費用を徴収する
行政の施策では考えられません。
でも、外郭団体などでは、将来的に出てくることもありえます。「有料のサービスは、会員のみに限る」という手法も考えられます。
行政が補助金をケチり、団体の組織維持が困難になると、そういうことを考えるところも出てきます。


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