海外の若き技術者に夢を託して・・・

 

***海外人材育成協力事業***

本稿は労働経済局月報(平成12年10月号)に掲載されたものです。
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インターネットを通じて仕事の受発注がやりとりされる今日、企業は日本という狭い枠組みを越えて事業展開を図るようになった。
また、東京都もアジアのリーダー格として各都市と連携しながら、新たな産業を生み出す原動力となろうとしている。
本当の意味で、海外との相互理解を深めなければならない時代が訪れた。しかし、ITがいかに進展しようとも、人と人との交流なくしては、その実現は難しいといえる。

都では、平成2年度から、海外の技術者の養成事業を実施してきた。
開発途上国の20代の技術者を東京に招き、民間企業でのOJT研修を通じて職場リーダーに育成するというのがこの事業の目的である。
変革が進むアジア諸国にあって、人材育成事業に対する期待は、引き続き大きいものがある。
「私たちの国では、木材も鉱物も取れる。しかし、企業を起こすのは外国資本だ。国内の争いごとを経験してみて、政府としても地元産業の振興と人材の育成の必要性を痛感している」(ジャカルタの引率者)。

事業の概要(平成12年度)

○受入期間 6月中旬〜3月下旬(約10か月)
○受入人数 37人(これまでの累計454人)
○受入企業 23社(これまで128社が受入)
○対象都市 北京市、ジャカルタ市、ハノイ市
○事業開始 前身の技能研修生制度として平成2年度に発足(平成8年度に現在の形となる)
○都と企業との役割分担
(東京都)研修員の月々の生活費の支給、日本語会話を含む集合研修の実施
(受入企業)研修員の宿泊場所の確保と生活用具の準備。企業内OJTの実施とこれに要する経費の負担
○その他 外務省のODA対象事業である。
行政と民間の二人三脚で
この事業のユニークな点は、官民が互いに汗を流しながら実施していく点だ。

費用も東京都と企業の双方で負担しあうが、実際の研修事業も双方が分担する。
生活指導と日本語会話の研修などは都の担当、一方、民間企業は、技術関連の座学と生産現場での実務研修(OJT)が担当だ。
スクール形式の授業と違い、こうした指導方法は、教える側もたいへんなマンパワーを消耗する。まして相手は面識のない外国人である。

研修員は、将来、職場の中堅として活躍することを期待されている青年たちで、それだけに、帰国までに某かの成果を身につけたいという気持ちが強い。
ときに企業が提供できる研修内容との間にミスマッチが生じる。企業は、あれこれ方向を修正しつつ、できるだけ研修員の要望を組み入れようと努力してくれる。
会社の収益に直接反映されるわけでもないのに、研修員受入を快諾していただいた企業には、頭が下がるばかりである。

企業の思い、研修員の思い
企業は、どうして、そこまでしてこの事業に協力してくれるのだろうか?
修了生のネットワークを利用して現地に合弁会社を作った企業もある。すでに現地にプラント建設の実績がある場合もある。しかし、最終的に受入を左右するのは、経営者のマインドだ。
「中国で事業展開するのは、私にとってのロマンですよ」(設計会社社長)。

だが、この事業を10年に渡って支えてきたのは、受け入れた研修員たちの、技術の習得に対する真摯な態度だったのではないか。
「彼らの研修に取り組む真剣な姿は、当社の社員にとっても強い影響を与えました」(空調設備会社社長)。
研修員は、かつての私たちが、アメリカやヨーロッパに抱いていたのと同種の憧れを抱いて、東京の地を踏む。東京で過ごす10か月は、彼らにとっての一期一会、真剣勝負である。
そういう研修員の気持ちが、各企業の担当へ、直接伝わり、また、企業の担当も、我が子のように研修員に接してくれている。そんな双方の思いが底流となって、この事業をここまで支えてきてくれたように思えてならない。

企業とのマッチングが研修の成否を握る
研修員の期待を裏切らないためにも、企業に無用の苦労をかけないためにも、研修員のニーズにあった受入先を見つけることが重要だ。
しかし、受入に手を挙げてくれる企業を見つけるのは容易なことではない。少しでもピッタリ合いそうな会社を探すため、担当としては毎日、行脚を続けることになる。
研修員にとって、生涯に一度きりの10か月間が実り多いものとなることを願いながら。