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![]() 鏡に映った
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本稿は開発と研修(平成13年度)に掲載されたものです。
なお、この事業は平成14年度をもって終了しました。 (英語は翻訳ソフトで訳し、後から追加しました。不正確だと思いますが、残念ながら、私にそれを修正する能力はありません)。
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この歳になると、今更、自分の顔などしげしげ見たくはないものだが、それでも日に1度か2度は、鏡に映った自分と対峙することが避けられない。あらためてのぞき込めば、かなりくたびれた自分がそこにいる。 この日本という国も「経済大国」「技術先進国」と自称するようになってからだいぶ経つ。しかし、最近はどうも元気がない。国際都市の冠に慢心しているうち、首都東京も足腰が弱くなったのではないかと心配になってくる。 私たちの社会もまた、自らを鏡に映してチェックしてみるべき頃合いなのかもしれない。海外の若者とつきあうようになってから、時々、そう思うようになった。 ある研修員は、こういっている。
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失われてゆく生産現場 Production site has decreased. |
私が従事しているのは、アジアの20代の技術者を受け入れ、都内の民間企業へ研修を委託する仕事だ。12年度は、北京・ジャカルタ・ハノイから計37人を受け入れた。 毎年、秋から冬にかけては、次年度の受入企業を探して回る。1年1年、年を追うごとに企業開拓は難しさを増してきた。 不況・リストラという昨今でもあるが、生産現場が東京から離れてしまったことも、大きな原因となっている。研修員を企業に預けると、研修現場が他県に移ることも少なくない。私は下町生まれで町工場の音を聞きながら育ってきたが、受入企業を探してみて、東京から他県へ、日本から海外へと、生産拠点がかなり流出してしまったことをあらためて実感した。 「ウチのような工場は、一頃、公害の発生源だと目の敵にされていたものですよ。最近はだいぶ世間の目もやさしくなりましたが・・・」と、ある企業の社長は笑う。 研修先の一つであるコンピュータソフトの企業、社長は中国人だ。日本の企業から受注した仕事を北京の技術者にプログラミングさせる仕事をしている。ITの時代なので、やりとりはインターネットで簡単にできる。「これまで日本ではハード産業の空洞化が云々されてきましたが、これからはソフト分野でも空洞化が問題になるかもしれません」と社長はいう。 日本は技術先進国であり、研修員たちもその習得を求めて日本にやってくる。彼らを満足させる技術レベルを、この先いつまで私たちは維持できるのだろうか?
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日本人はほんとうに勤勉なのか? Is the Japanese really industrious? |
海外からやってくる青年たちが、まず、ぶつかるのは勤務時間に対する日本人のきびしさだ。 日本人の勤勉さは、古くから高く評価されてきた。しかし、「遅れず、休まず・・・」という風土に安住し続けている面はなかっただろうか。 プラント製造ラインで彼らに溶接技術を教えている担当者は「いまどきの日本の若者には見られなくなった熱心さで、研修しています」と、彼らを評価する。
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いつからモノを大切にしなくなったの? |
ジャカルタ市の担当者との意見交換で、こんなやりとりがあった。 市:「国で企業関係者の意見を聞いてきた。これからは通信関係が伸びるといっている」 人件費と生産コストから、故障したら買い直すのが普通なんですよと説明したものの、彼らには今ひとつ合点がいかなかったようだ。 しかし、私の方も悩んでしまった。壊れたものは直して使うという考えの方が、正常なのではあるまいか。 どの国の研修員も、日本は物価が高いといっている。しかし、自分の国と比べると著しく安く感じるものが一つだけある。中古車の日本での値段だ。 彼らにとって車は、使いつぶすまで修理して使うものだ。修理できなければ、使える部品だけでもはずして使う。だから、ちょっと古くなっても価値はあまり低くならないらしい。 いつから我々は、モノを大切にしなくなったのだろう?
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国際社会への責任 Contribution to the international community |
海外人材育成事業は、“外国人”を訓練するという点にばかり関心が集まりがちだが、事業実施の手法として行政と民間が二人三脚で相互に協力しあって実施していくという構造になっており、学校で教える技術訓練とは違った能力開発の一形態としても注目すべきだといえる。 この事業は、平成12年度をもって5年目を迎えた。前身の技能研修生受入事業からだと、10年になる。このため、平成13年度からの見直しを迫られている。 ある報告によると、日本での研修経験がある技術者が現地にいると、現地労働者と日本企業との間の調整役として重宝するという。 しかし私には、そういった企業メリット云々以前に、この東京が世界を代表するメトロポリスとして胸をはっていくためには、自らが汗を流して国際社会に貢献していくことが、当然といえば当然のように思われるのだ。 「私の国は、木材も鉱物も豊富に採れる。でも、それを商品に加工するのは皆、外国資本だ」そんな独白を聞くと、こちらの思いも複雑だ。 海外の人たちとの交流を重ねれば重ねるほど、そこに投影される自らの姿が意識される。彼らは、日本という国を映し出す鏡なのだ。
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