しろうと考えではありますが・・・

経営救助隊
企業経営はいつも順風満帆とはいきません。資金調達や販路開拓の苦労、生産計画の見込み違い、ちょっとした従業員のミスなどは、当然のことのようについて回ります。
しかし、そればかりではなく、突如として起こるトラブルにも対応しなければなりません。

企業をみまう厄災は、次のように分類できるでしょう。

 (1)企業を経営する上で当然予想される課題 
  銀行が資金を貸してくれない。機械の故障で生産ラインが止まった。思ったほど商品が売れない。良い従業員が確保できない。後継者がいない。万引きが横行している、など。
 (2)原因は企業経営にあるが、通常では予想が困難な問題
  親企業が生産拠点を海外に移す。知らない会社から「知財を侵害している」というクレームが来る。取引先の倒産で部品が調達できない。輸出先国の規制強化で商品がボイコットされた。有能な幹部が退職し別会社を設立して得意先を引き抜こうとしている、など。
 (3)天変地異による災害
  地震や台風で被災した。火災で工場が焼けた。
 (4)経営以外での異変が、企業経営に深刻なダメージを与える
  社長がゴルフ場で倒れ、そのまま他界した。若手従業員が失踪した。サギにあった、など。

(1)は、企業経営を行う上では必ず考えておかなければならない課題です。問題が表面化してからおろおろしているのでは、経営者失格だと言われてもしかたありません。

(2)は、気の毒なケースです。「それも経営のウチだ」と言われればそれまでですが、行政の立場ならば相談には応ずるべきでしょう。ただし、官が介入するのは難しく、あくまでも経営者の立場で対処する必要があります。

(3)は、BCP政策として、すでに多くの行政機関が手掛けています。しかし、大規模災害の場合は、あらゆる企業が被災者となりますから、「前もって心がけておくこと」についての普及啓発が、支援の限界とならざるをえません。

実は、今回提案いたしますのは、(4)の分野です。
企業としての経営状況は、まったくもって問題はない。にもかかわらず、突発的な問題発生によって、社内に混乱が生じる。それを、現地に行って手助けするチームを公的機関が用意するというがミソです。
こういう場合には、何かと援助しようという人たちが出てきますが、いわゆる「弱みにつけ込む」という輩もいますから、いったい誰に頼ったらいいのか、会社側の悩みになると思います。
そんなとき、何も隠さずに安心して任せられる人たちがいたら・・・。
それが経営救助隊なのです。


 不正行為は論外ですが、会社には、「表に出さないで解決したい」という問題があります。例えば、一従業員の不祥事なのだが、それが表面化すると企業全体の信用問題になるかもしれないと言うような事件です。
めったに生じない問題だったりすると、どうしていいかわかりません。
そんな場合に、現地に飛び込んでいって解決の手助けをする人たちがいると、助かります。

まず、救助隊の編成ですが、
先行して会社の事情を聞く、「TR(飛び込みレスキュー)1号」が派遣されます。
現地に移動司令室を設置し、必要となる人材を本部に連絡します。
「経営は順調だったんですが、社長のワンマン体制で行ったいたので、社長が急に倒れて社内が混乱しています。専務は従業員や取引先を落ち着かせるために必死ですが、何をどうやったらいいかわからないようです。マニュアルの5番対応が必要だと思います」
「よしわかった、すぐに2号を向かわせる。5番対応が必要だというのだな。弁護士と税理士を同行させるようにしよう・・・」
とまぁ、おわかりのとおり、サンダーバードのノリです。

子供向け番組のマネと笑われるかもしれませんが、この「先行して総合的に状況判断し、初期対応する人」と、「専門分野を活かす人が複数チームとなった後発の支援部隊」という仕組みは、困難な状況にあたっては、なかなか有効ではないかと、私は思います。
この仕組み、実は既存事業にも活用させてもらいました。


昔話で恐縮です。
経営革新で意見交換した株式会社イー・キュー・マネジメント技研の前田社長から伺ったお話です。
前田社長は、前にISO9000の取得支援をお仕事としてしておられまして、企業に技術畑の専門家を派遣していたとのことです。
同じ技術者といっても、得意分野は様々です。誰と誰を行かせればいいかを判断するには、一定以上の技術的知識が必要とのことで、そのアレンジを技術畑出身の前田社長が担当されていたとのことです。人脈があって、そのコーディネートできる人物が、支援に先行することが必要とのことでした。

別件で訪れた大田区の展示会でですが、下町の中小企業支援しているNPOの人は、社長の話を代弁して、こう言っていました。
「専門家のアドバイス支援はたっぷりある。しかし、来る度に違う人で、その都度、会社の事業概要を一から説明しなくてはならない。そして、若いコンサルが教科書に出てくるような解説を偉そうに説明し、帰って行くだけだ。あまり役に立たない」 
その話から、企業経営を根本から支援するためには一時的な対応では難しい、と確信した次第です。

さらに、武蔵野商工会議所では、実験的な事業として、専門家をチームとして派遣し、企業経営を継続支援するという事業を実施していました。シナジースキームという、私が担当していた事業の一環です。
実際に「売上改善目標」などを経営者に立案させ、それがきちんと実践されているかどうか、定期的にチェックし、次の目標を提示するという試みでした。地味な事業でしたが、着実な成果を上げていました。

折しもちょうどその頃、急激な円高で、何か対策を考えられないかという話が私のところに来ました。
話が来たのは木曜日の午後でした。いつが締切ですか都聞くと、「月曜日の午前中まで」に原案を出せというのです。白紙から作ったのでは間に合いません。そこで、かねてから腹案だったプロジェクトを提案しました。<円高対応、企業経営アシストプログラム>という事業です。
通常、役所の場合は、「広く浅く、短期間で結果が出る」という事業が好まれます。通常の予算要求では、あれこれ揉まれている間に、事業計画がそういう方向に変質してしまいます。
しかし、この際には“円高”という緊急事態が起こっていたので、「対象は少なくても、抜本的で、長期的な継続支援」というものを考えたのです。チャンスだと思いました。
東京商工会議所の全面的な協力を得ることができ、事業の具体化が進みました。幸運にも東京商工会議所には、その中心となるべき企業人材がプールされていました。いろいろ偶然の条件が重なって誕生した事業です。
当時、予算担当から「円高対応」ではなく、「円高対策」に名前を変えられないか、という打診がありました。そこだけは、私は頑なに拒否しました。円高であろうとなかろうと、経営支援の一つのモデルとして、こういうやり方が必要なのだ、と信じていたからです。
この事業、名称は変わりましたが、今でも細々と続けられているようです。

36年間、都庁に勤めましたが、いつもいつも受身の仕事ばかりでした。しかし、この小さな事業だけは、攻めの仕事になりました。それでも、役所勤めとしては幸せな方かもしれません。


話は変わります。
昔、労働相談をやっていた頃、「従業員が失踪した」という相談は何件かありました。サラ金などに追いかけられて姿をくらますというケースです。
会社としては、後々問題にならないように処理したい、というのが本音となります。

こういった場合、正しい対処としては、
(1)まず、就業規則の懲戒解雇規定を確認。「無断欠勤〇日」といった条項があれば、それを元に解雇を表明する文書を家族に内容証明で通知。社内に掲示。
(2)就業規則がない場合、まずは、本人に「出勤しろ。〇日までに出勤しない場合は解雇する」という通知を出す(内容証明+配達証明)。
(3)従業員の住所地を管轄する簡易裁判所に、従業員が行方不明である旨の疎明資料を添えて、従業員の解雇についての公示送達の申し立てをする。認められたら、官報・新聞へ解雇の意思表示を掲載する。
(4)労働基準監督署に解雇予告手当の除外申請などを行い、証拠を残す。
(5)未払いの賃金、退職金などがあり、口座振り込みができない(手渡しなど)場合、法務局の供託所へ供託する。家族に渡すと、労働基準法の「賃金の直接払いの原則」に抵触してしまうため。なお、賃金の消滅時効は2年、退職金は5年。

しかし、そこまでやるのは、とてもめんどくさいです。
ここまできちんと対処する会社はまれでしょう。たいがいは、家族に残った賃金等を渡して、「後日、本人がその支払いに異議を申し立てた場合には責任をもって解決し、会社に迷惑をかけない」旨の一文を書かせる、というのが実務的な対応になります。
とはいえ、これは法律違反です。「行政窓口が法律違反を手ほどきしていいのか」という、たいへん悩ましい問題に担当者は直面することになります。

そんなときに、現地に行って相談に乗ってあげられる人たちがいたらいいんじゃないか、と思うのです。


昔は民間ではできないことを、行政がやっていました。
しかし、今は、行政だから限界がある、というケースが多いようです。
役所は経費の援助だけをして、実際にやることは民間の立場で自由に力を発揮できるようにするって仕組みが必要なんじゃないかと、思います。

ホームに戻る→