雇用形態別最低賃金制度 |
たまにはすこし、真面目な話を書きます。
高度成長が終わり、バブルが破裂し、国際競争が厳しくなって、日本の雇用形態は大きく変化しました。
いわゆる三種の神器――終身雇用、年功序列、企業別労働組合――という前提の崩壊です。
正確に言うと、そういう前提があると信じられる時代から、信じられない時代へ、マインドが切り替えられました。
ま、難しい話はともかくとして、ここから生じたのが「非正規」従業員です。今では、3分の1を越える就業者が非正規だと言われています。
ここへ来て、行政も、非正規従業員の正規化ということで、いろいろな方策を打ち出し始めました。
大手のアパレル販売店や飲食店が「従業員の正規化」を表明するなど、その成果は次第に出始めつつあるように見えます。
ところで、このムーブメント(=私はこの言葉のもつ胡散臭さが嫌いなので、あえて使いますが・・・)を一気に進める方策があります。
それが、今回提案する「雇用形態別最低賃金」制度です。
しかし、最初にお断りしておかなければなりませんが、この制度はまずもって実現しません。
なぜなら、経営者団体も労働者団体も、こぞって大反対するからです。
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長い間労働行政に携わっている人ならば、最低賃金が「1日単位」と「1時間単位」の2種類あったことを憶えていると思います。
これがなぜ「時間単位」に一本化したかというと、要するに「時間単位で働く人」が増えすぎたからです。すなわち、パートタイマーの普及です。
東京都の「1日あたりの最低賃金」の最後の額は、平成13年10月に決められた「5,597円」でした。
パートと呼ばれる雇用形態は、すでに昭和の時代から普及していました。最初は、臨時雇いといった意味合いでしたが、だんだんとヴァリエーションも増えてきます。
食堂のランチタイムだけ働くパートの勤務時間は3〜4時間ですから、1日あたりの最低賃金をこの人たちに適用すると、かなり高い時間単価となってしまいます。
ということは逆に、1日単位で最低賃金を徹底することが、「子どもが学校に行っている間の短い時間だけ働きたい」という主婦層を、労働市場から閉め出すことになります。
たぶん、そんな議論が行われた結果、1日単位の最低賃金は廃止されたのだと、思います(その場にいたのではないので、実のところはわかりません)。
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さて本題に戻りますが、今回、私が提案するのは、きわめてシンプル。
今度は「雇用形態別」に最低賃金に差を設けよう」ということです。
今、東京都の最低賃金は、869円(注:平成25年10月25日現在)です。
これを二本立てにする。
例えば、正社員は800円、有期雇用社員は1,200円とかにして、大幅な差を設ける。
そうすれば、非正規従業員の正規化は一気に進みますよ。
以上がすべてです。
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話を変えて、企業同士の取引のケースを考えてみましょう。
親企業は下請けにコスト削減を要求します。
その際、「御社との契約は1年間で更新しないことになっている。気の毒だけど単価も下げたい」と言ったら、下請けだって簡単にそれを応諾しないと思います。
下請企業としては、「今後とも長く受注してもらいたい」と思うから、厳しい単価引き下げにも応じるのです。
労働者を企業に置き換えて考えてみますと、「有期契約・更新なし」を前提とするならば、当然、「賃金単価は高めにしてくれ」、と交渉する方が自然ですよね。
それと同じです。
雇用期間が「有期・更新限度有り」なら、「定年まで保障」よりも賃金単価が高くなる、というのが常識的な落ち着きどころとなってしかるべきです。
事実、ちゃんとした派遣労働者の場合、その時間単価は、学卒の新規採用者の賃金単価よりも高いことが少なくありません(※もちろん、派遣企業はマージンを取りますけど)。
じゃ、なぜ、非正規従業員の賃金が上がらないかというと、そもそも、会社側と一介の従業員とでは、力関係が違いすぎるからです。
まだ従業員にもなっていない、「これから雇ってもらいたい」と思っている人の場合は、なおさらです。
だったら、法律でサポートしてあげたい。
サイレントマジョリティは、きっと喜びますよ。
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それなのに、どうして、みんなが非正規従業員の優遇に反対するかというと・・・
まず第一に、企業側の賃金コストを大きく増やすからです。
つまり、企業がなぜ非正規従業員を雇うかというと、それは賃金コストを下げたいからです。また、経営の波に対応するために、雇用の流動性を保っておきたいからです。
企業の存在目的が利益追求である以上、当たり前です。
では、労働者側がなぜ反対するかというと、今、日本の労働運動を支えているのは、その大多数が「正規」従業員であるからです。
正規従業員にとって、非正規従業員が存在することは、自分達の安定雇用が維持されるためには不可欠なのです。しかし、その数が多くなりすぎると、返って自分達の存在が脅かされます。
その微妙なバランスの範囲内で「非正規従業員の正規化」を要望するのです。
私は、そういう本音の部分を、無下に否定しようとは思いません。立場が違えば意見も違います。
ま、人間としては、当然と言えば当然なところなんです。
しかし、格差が格差として残っている以上、「自分は自分の生き方に照らして、自分の意思に基づき“非正規”を選択する」と、胸を張って主張できる時代が来るというのは、ちょっと期待薄だと思います。
これは、ホワイトカラーエグゼンプションとか限定正社員とかにも、一脈通じるところです。
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ということで、今回の提案は実現しないと思います。
しかし、ここにこんな駄文を載せたのには、もうひとつ目的があります。
行政はしきりに、「非正規従業員の正規化」を促していますが、いわゆる“ブラック企業”の場合は、最初から「非正規」従業員を雇う必要はないのです。
そういった企業では、従業員はその過酷な労働条件に耐えきれず、次々と離職していきます。ですから、ブラック経営者は、堂々と正規従業員を雇い、「ウチは全社員が正規ですよ」とうそぶいていればいいのです。
逆に、むしろ労働条件の良い会社の方が、雇用調整のために「非正規従業員」を雇っているのかもしれません。
そこを見落とすと、政策の方向を見誤ることになります。
労働問題は、時計の振り子のように、右に左に振れます。良かれと思った政策が、新たな問題を呼び込むこともあります。(※書きたいこともあるが自重)
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最近では、「会社を辞めたいのだが、辞めさせてくれない」という相談も、ずいぶんあるということです(※ちなみに、強制労働は労働基準法で禁止されています。あってはならないことです)。
また、退職した従業員に対して「損害賠償請求」をするなどという、ひどい会社もあるらしいです。(※請求すること自体は止められませんが、従う必要はありません。すぐに労働基準監督署に相談してください)
その一方で、「採用時には研修社員扱いで安い給料→途中から正社員で固定給→ノルマ未達成の場合は歩合制の契約社員」というように、従業員の身分を順次変更していくという会社があることを、私は知っています。しかも、そのことについては採用時の雇用契約にもはっきりと明記されていて、「会社も従業員も納得ずく」という建て前が成り立っている――とすれば合法です。
本当はこういったことを規制すべきだと思うんですけど・・・ねぇ。(参考:2000年2月25日、東京地検、判決・確定)
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