しろうと考えではありますが・・・

商業・サービス業向けの経営強化策を考えてほしい

役所の、特に本庁と呼ばれるとこにいる職員は、夏が嫌いです。
『予算要求』という、かなり難儀な仕事が待っているからです。
担当者は、「ああ、また夏がきたか・・・」と思うと暗い気分になります。
今の世の中、八方ふさがりなことが多いので、「新しい事業を考えろ」と言われても、なかなかいいアイデアが出てきません。それでも、上司の命により無理を承知で(案)を考えます。
世間が“お盆休み”でレジャーに浮かれている間も、多くの職員は資料作りに夜遅くまで頭を悩まし続けているのです。

無理して考えた(案)ですから、当初は欠点が目立ちます。それを、査定する側は、なんだかんだと難癖を付けます。
担当者本人も、最初は「こんなことやったって・・・」と、自分でも(案)を斜に構えて見ています。しかし、ある意味クリエイティブな仕事であるため、不思議なことに、あれこれ言われながら内容をブラッシュアップさせていくうちに、その(案)に愛着がわいてきます。
それでいて、多くの場合、最後は“めった斬り”にされる。そうなると、自分の人格そのものまで否定されたような気分になります。落ち込みます。
だから、宮仕えにとって“夏”は嫌いな季節なんです。

昔から、新しい事業を考える役目は若手に求められてきました。私も昔は若手でした。
「フレッシュで柔軟な発想が必要なんだよ」と、カビの生えた時代後れの「おためごかし」が、資料作成をお願いされるときの決まり文句でした。
いずれは優秀な後輩が増えてきて、そんな役目はなくなると信じていたのですが、東京都は長年に渡って採用を抑制したため、若手が減りました。それに、現代の若者は「白紙から作る」仕事をするのは苦手なようでもあり、私のようなおっさんでも、長いこと予算要求に携わることになってしまいました。

今年は退職したおかげで、そんな仕事はなくなって、さばさばした“夏”を迎えているのですが、幾ばくかの寂しさを感じる、奇妙な心境でもあります。

さて、前置きが長くなりました。
ボツになった事業(案)でも、忘れられないものがあります。
この(案)がボツになった理由は「話が大きすぎたから」だと思います。言い換えると、「考え方はいいが、どうやって実現させるか見当が付かない」ということです。

2009年の6月末、私は上司に呼ばれ、こんなお願いをされます。
「日本の経済状況が芳しくならないのは、“商業・サービス業の生産性が上がらないから”だと言われている。それを解決するための事業を考えられないか?」

実は、商業・サービス業の生産性を向上するためには、簡単な方法があります。
「人件費コスト」の削減です。
従業員の数を減らし、大車輪で回転させて事業効率を上げる。勤務を交代制にして、昼夜休まず働かせる。正規従業員を非正規従業員に切り替えて、賃金を下げる。賃金制度を変更し、歩合制の部分を増やす。

事実、そのようにして経営効率を上げている企業は少なくありません。
しかし、度が過ぎれば従業員は疲弊し、定着しなくなります。結果、人材育成コストが増えます。

それに、すべての企業で賃金を抑制すれば、モノが売れなくなります。夫婦揃って不規則勤務となれば、子供の数は減り、生産年齢人口の急落に歯止めがかかりません。生産性だけを重視し、安い労働力を求めるなら、生産部門は海外移転となります。

処方箋はあるものの、薬は劇薬だということです。
それは、少なくとも「役所が税金を使って誘導すべき方向」ではない、と考えます。

しかし、頼まれた以上、新しい事業を考えなくてはいけません。
そこで私は、上記「人件費コスト削減」は棚上げしたうえで、「商業・サービス業の経営は何によって左右されるのか」ということを考えました。
わかりやすく言うと、“どうすりゃ儲けが増えるか”ということになります。

素人考えでは、次の3つの方向性があります。

商業・サービス業の
経営改善   
売上総額を増やす
利益率を上げる
ムダを減らす

売上総額を増やすには、もちろん「よく売れる商品・サービスを開発する」のが一番ですが、そんなことは役所が関与する分野ではない(やったら殿様商売になって失敗するのがオチ)ので、口出しすべきではないと思います。責任取れませんし・・・。

しかし、経営改善への助言という面では、何かしら援助することはできそうです。



素人考えでは、売上総額を増やす手立ては2種類あります。

売上総額を増やす 新しい顧客を増やす
既存の顧客にもっと買わせる

ものの本によると、「新しい顧客を増やす」ことの方が、「既存の顧客にもっと買わせる」より、ずっとたいへんらしいのですが、経営者は前者を好むとのことです。


利益率を上げる  客単価のアップ
客の回転率のアップ

次に、「利益率を上げる」方法ですが、よく知られているように、
商業・サービス業の利益=「客単価」×「回転率」
の結果だとすれば、当然、単価と回転率を上げればいいことになります。

とはいえ、このご時世で、客が必要もないものまで余分に買うとは思えませんので、顧客の潜在的ニーズを研究することが必須です。それは簡単ではありません。
私は、「またこのお店で買いたい」と動機付けることが重要だと思います。とすれば、店員の人的な魅力がキーになります。いわゆる“カリスマ”店員の存在などは、その代表例でしょう。

回転率アップは、「同伴出勤」を促す水商売のような手法が典型的ですが、そっちの方面はよくわかりません。
昔の喫茶店だと、やたらと冷房を強くして客が長居できなくするというのも回転率アップの一手段でした。今の喫茶店では、テーブルを拭くタイミングまでマニュアル化されていて、客が居座らないようにしているとのことですが、その詳細はわかりません。
このへんのところも、「見える化」を促すのはいいとしても、行政が積極的に介入すれば「お節介」と言われるところではないでしょうか。

利益率を上げる    客単価のアップ
  客の回転率のアップ
集客を平均化・安定化させる

しかしこれとは少し違って、「集客を平均化・安定化させる」という方法があります。それで、売上が増えるとは限らないのですが、小さな企業はこれが大事になっています。

行きつけの床屋に行ったとき「やっぱり平日より土日の方が混むのか」と聞くと「そうだ」と言います。
さらに付け加えるところでは、「天気がいい日はみんな出かけてしまって、むしろ天気の悪い日の方が混むんですよね」ということでした。
だったら、「天気のいい平日に来てくれるお客さまを優遇する制度」って、考えられないでしょうか。
クリーニング店だと、「雨の日サービス」とか「最短お受取りの割引券」などがあります。顧客の平準化というのは、そういう手立てを工夫することになります。

小さい店でなぜそれが大切かというと、要するに<大勢の従業員を雇えないから>です。
小さな店に何かの理由で顧客が大挙して押し寄せてしまうと、少ない従業員では処理しきれなくなり、他の客は嫌気がさして、そこに行かなくなります。
例えば、有名雑誌やテレビ番組などに飲食店が紹介されると、その直後にはどっとお客が押し寄せて繁盛するのですが、なじみ客はそれに辟易して来なくなります。
そして、一時的な客も居着かないので、店は寂れます。あまりにも忙しいと、従業員の「急な用事で」型のサボタージュも増えてしまいます。

だから「平準化」というのも実はとても重要なのですが、これも簡単には実現できないのですよね。
でも、このへんのところは、行政としても大いに協力していいところだと思います。


3番目のムダ減らしですが、いわゆる「もったいない」という精神の実践です。
省エネ・省資源は誰でも思いつきますが、「泣く泣く捨てる賞味期限切れ商品を減らす」とか「万引きを防止する」とかも含まれます。

ムダを減らす  省エネを進める
廃棄する商品を減らす
盗難・万引き等を防止する

このムダ減らし(ロス・プリベンション)については、行政側もどんどん応援していいところではないでしょうか。


以上の考察から、商業・サービス業の経営向上の枠組みはできあがりました。

商業・サービス業の
経営改善   
 
売上総額を増やす  新しい顧客を増やす こうすればいい・・・
既存の顧客にもっと買わせる こうすればいい・・・ 
利益率を上げる     客単価のアップ こうすればいい・・・
  客の回転率のアップ こうすればいい・・・
集客を平均化・安定化させる こうすればいい・・・
ムダを減らす   省エネを進める こうすればいい・・・
廃棄する商品を減らす こうすればいい・・・
盗難・万引き等を防止する こうすればいい・・・

ここまでは、「我ながらイケテル」と思いました。
しかし、残念ならが「こうすればいい・・・」という対応策が出ないのです。

仮に私が考え出したにしても、中小企業診断士でもない一介の公務員の見解が採用される可能性はゼロです。
というところで立ち止まっているうちに、この流れは立ち切れになりました。
そんなわけで、

商業・サービス業向けの経営強化策を考えてほしい!

  
その後、“商業・サービス業の生産性向上”という問題提起は、東京の中小企業全体の経営力の向上を図るという「経営力向上TOKYOプロジェクト」へと発展していきます。

「話が大きすぎた」からボツになった事業(案)が、もっと大きな話になって行くのです。
でも、私個人としては、もう少し範囲を限定して経営改善のための事業展開をすべきではなかったのかという後悔が消えません。

それなりの専門家の方が、きめ細かい経営改善の手法を作ってくれることを、切に願っているところです。

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