しろうと考えではありますが・・・

社会貢献度評価事業
たまにはお堅い提案です。

都庁在職中、私は「第三次産業に対する振興策を何か考えられないか?」と問われたことがあります。
ちょうど、『日本の経済成長の足取りが重いのは第三次産業の生産性が低いからだ』と、言われていた頃です。

いろいろ考えましたが、なかなかいいアイデアが浮かびません。
第三次産業と言えば、商業・サービス業。その生産性が悪いということは、人件費がかかるということ。
とすれば、「人をどんどん削って、給料を下げれば、生産性が上がる」のは明らかです。
でも、それって、役所が奨励することじゃありませんよね。
あるいは、「サービスを低下させて、少ない人数で事業を行う」という選択肢もありますが、“何でも自動”という世の中も味気ない。

結局、何も出ずじまいでした。


国や自治体、商工会議所などでは、社会的意義のある仕事をやっている企業を支援しています。
支援の仕方もいろいろです。
とはいえ、下世話な話になって恐縮ですが、支援・助成と言っても、結局は「お金」の話に行き着くことが少なくありません。

ものづくり系の事業なら、助成対象の判断は容易です。
何かを作れば「それにどれだけの材料費がかかった」とかになりますし、展示会に出すなら「出展費用はいくら」かは明白です。
あとはきちんとした裏付資料(=領収書類)があれば、OK。

しかし、サービス業だと、これがなかなか難しい。
理由は同じ、人件費の取扱いです。
サービス業の必要経費の大半は人件費です。しかし、人件費は助成対象とならないことが多いです。
企業が経営活動を実施するに当たっては「人件費」とか「一般管理費」とかいう経費が必須なのだけど、「そんなのは、企業側が負担して当たり前」ということが、支援の前提となっています。


自分のことを棚に上げて言わせてもらうと、どうも「お役人さま」は、人件費が必要経費だという感覚が鈍い。たぶん、自分の給料が、意識しなくても、毎月きちんと出るからです。

民間の商店では「お客が減ると、赤字になってどうしよう」というのが当たり前の感覚でしょう。
ですが、お役所だと「お客がたくさん来ると、忙しくなって困る」という受け止め方が一般的です。


東京都庁の真下には「都庁前」という駅があります。しかし、出先の職員が本庁の会議に出るときは、新宿駅から歩きます。そう命じられているからです。歩くと10分弱かかります。
“都営”大江戸線で新宿~都庁前は、約2分、170円です。
使えば都営地下鉄に収入が入ります。民間企業だったら「できるだけ自社製品を買うように」というのが常識でしょうが、都庁は違います。歩くことで都民の貴重な税金170円が無駄にならないようにしているのです。
それはそれで道理です。
ですが、時給3000円の職員だとすると、8分間の人件費は400円になります。
「時間=人件費=費用」という計算は考慮されていません。

ま、そんなのはどっちだっていいんですが、労働相談なんかやっていると、民間企業の経営者が従業員の給料支払いにどんだけ腐心しているか、という現実に直面します。

役人であるならなおさら、人件費に対する感覚を鈍らせるわけにはいかないと思います。
そうでないと、ダラダラした仕事ぶりが定着してしまいますし・・・。


「人件費補助なんて必要ない。そんなの会社が出して当たり前」という、社長さんもいます。しかし、大概は製造業の社長さんです。

やはり、サービス業を支援するのだとすれば、人件費助成は避けられないのではないでしょうか。
しかし、それにはまだ他にも問題があります。

実は人件費を助成してはいけないという法律・規則はありません。実際に助成している制度もあります。
にもかかわらず、人件費助成が敬遠されるのは、「ズルをする会社」がいるからです。

事業Aのために人を雇ったと言って助成金を請求したのに、実際は事業Bに従事させてしまう。その真偽を確認することは困難です。
このため、人件費を助成した場合は、事業日報のようなものを作ってもらいます。なかなかの手間です。しかし、それも偽造されたらわからない。
だから、私たちはいろいろな角度から間違いが起こらないか調べます。
その労力、途方もなくたいへんです。助成金をもらう側も出す側も、いいかげんうんざりになります。

ひょっとするとこれが、人件費助成が行われない最大の原因かもしれません。

いやぁ、前置きがくどくなりました。
ですが、もう一つだけ説明を加えさせてください。

助成金制度の多くは「確定払い」。別の角度から見れば「後払い」です。
もちろん、「前払い」「後精算」の助成制度もありますが、支出を確認した後に、確定した金額を支払う方が、「ズル」を防げます。
「前払い」をすれば、それを持ち逃げしたり、別の使途に使う会社が出ます。
それでは後の祭りです。

しかし、「後払い」となると、支払ってもらうまでの間、企業は必要経費を自己負担しなければなりません。
小さなサービス業だと、とても大きな負担になります。
これに耐えられなくて、あきらめる企業もあると思います。

ところでよく考えてみてください。
助成金を計算するときに、「人件費と一般管理費は除きます」、「あれとこれを購入した費用は算入します」という積算は、あくまで「助成金を出す側の根拠」であって、もらう側の企業とっては「〇〇〇万円かかった総費用のうちの〇〇万円」というものでしかないのです。結局、一山いくらです。

しかも、根拠となった費用はすでに支払い済みなので、今もらった助成金は、今後の事業運営経費に充当されます。
お金には色が着いていないから、その一山いくらを、これから支出する人件費に入れようが、一般管理費に入れようが勝手です。

だったら、もう少し別のやり方があるのではないか、というのが今回の提案です。

社会貢献度評価事業!   
サービス業といっても、企業が行う活動である以上、利潤を得られなければなりません。
反面、公費で助成するには、何らかの「社会貢献」がないと認めてもらえません。

飲食業が美味しいメニューを開発してお客に喜んでもらうというのは、ある意味「社会貢献」かもしれませんが、それでは当たり前すぎて公費で助成する理由にはなりません。
社会性を訴求するなら「特定のアレルギー体質の人向けの料理を開発したい」といった要素が必要になってきます。

このため、提案側の企業は、「無理をして社会性を示そう」とします。
しかし、一定の社会性を持った事業というのは、なかなかビジネスとして成り立たない傾向があります。
別の面から見れば、だから、公費で応援する必要があるとも言えます。

そういった社会貢献要素のある事業を、「新たに」開発するという企業やNPOに対して、支援していこうというのが本事業の趣旨です。

まずは、事業提案していただき、候補を採択します。
経費云々はあくまで参考に留め、「何をどうやって事業化するのかという発想の良さ」を採択のポイントとします。

そして、例えば1年後にその事業がどうなっているかを、今度は厳格に検証し、審査し、評価します。
最初の事業目的から逸脱していないか、ビジネスとして経営が成り立っているか、新たに従業員を何人雇ったか、という点も評価対象にしていいと思います。

その上で、助成金の額を決定します。
そして、その助成金は、使途を問わない。奨励金(金額は少なくなります)のような性格づけにします。
だって、どうせ後払いなら、同じでしょ。

つまり、
「厳しい前審査」→「多数の制約」→「変更困難」→「確定後、後払い」から、
「参加は容易」→「途中で変更も容易」→「厳しい後審査」→「後払い・使途の制約なし」に、
制度そのものを根本から見直すのです。

そうすれば、「ズル」を防ぐための手間も大きく省けますし、社会貢献事業の普及を後押しすることもできますよ。

どっかの自治体で、制度化してみませんか。


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