月夜裏 野々香 小説の部屋

After Midway

 

インド総集編 『反逆のアチュート』

1974〜1981年

 

    

 『ミッドウェー海戦のあと』

 インド編で、反逆のルル君を分けてみました。ルル・ヤマト君のインド総集編です。

 背景

 日本の市民権と混血優遇政策による外交工作が功を奏しつつあった。

 インド・パキスタンの係争地カシミールが、印パ連合の象徴になろうとしていた。

 そこに中国軍のチベット侵攻。

 カシミールを基地に印パ連合を成した両国が反発。

 インドも、パキスタンも、敵を作ることで、印パ連合を強固にしようと思っただけで、チベット独立戦争は、口実。

 チベット独立戦争を支援する印パ連合は、チベットに抵抗戦線を構築させてしまう。

 イスラム教が、反共産主義の主軸になって欲しくないキリスト教国家群が結束。

 傭兵部隊や宗教義勇軍を募って参戦。

 印パ連合軍・宗教国家連合軍 VS 中ソ連合軍。

 チベット攻防戦は、宗教国家連合軍と反宗教国家連合軍の戦争になっていく。

 

 ついには、本物・模造品のトカレフ・AK47が、チベットの国境を越えて、ソビエト、中国、インド、パキスタンに密輸されていく。

 互いの反体制分子、共産ゲリラ、イスラム過激派、貧民層に送り込まれた武器弾薬が、互いの国家基盤を脅かしていく。

 チベット内戦は、チベット独立戦争と化し。西側と東側の新兵器の実験場となっていく。

 チベット独立戦争の死傷者をはるかに超える死傷者が周辺国で作られるという。

 世にも奇妙な内戦が行われる。

 

 そして、この物語は、インド。

 1944年 インド独立時カースト廃止。

 1948年 不可触賎民撤廃が制定。

 カーストは、法的に廃止。

 しかし、どちらも、ヒンドゥー教の“輪廻転生”、“浄・不浄”の概念は、根強く、現存。

 カーストからアチュート(不可触賎民)と蔑まれ、踏み躙られるダリット(壊された民)の反逆の物語。

 主人公は、バラモンの隠子らしい“ルル”と呼ばれる少年。

 準主役は、インドの山奥で、修行して蛇使いになったヤマト・タケシ。

 ちなみに背景など違いますが、キャラの元は、コードギアス + レインボーマン / 2 です。

  

 黙示録からの引用。

 小羊が第二の封印を開いたとき、第二の生き物が「出て来い」と言うのを、わたしは聞いた。

 すると、火のように赤い別の馬が現れた。

 その馬に乗っている者には、地上から平和を奪い取って、殺し合いをさせる力が与えられた。

 また、この者には大きな剣が与えられた。

 

 

 1974年〜

 インド

 クシャトリア(藩王)の邸宅を襲って、逃げた10人もの男たちが、トカレフを持って、木陰に潜む。

 インド兵は、10倍以上の規模で捜索。

 56式突撃銃 6.5mm弾×50

 全長990mm、銃身長600mm、重量4.3kg、装弾数30発、初速760m/s、700発/分。

 日本の突撃銃をライセンス生産したものを構えている。

 AK47を圧倒的に多く生産しているのにインド正規軍で採用されているのは、56式突撃銃という困った国だ。

 そして、チベット独立後、余ったAK47とトカレフを拾ったからと、ソ連に叩き売ったという。

 白々しくも、厚顔無恥な国としても有名で、

 ソ連側も、国内のテロ・ゲリラ勢力に渡されては困ると、泣く泣く買い取ったという。

 しかし、一番困るのは、M113APC装甲兵員輸送車が1台あることだろうか、

 トカレフしか持っていないともなれば、それは、戦車以上に恐ろしい。

 「・・・・ルル・・・どうする?」

 「・・・ヤマト。おれは、カーストをぶっ壊す。撃っていいのは、撃たれてもいい覚悟があるやつだけだ」

 バラモンの落としだねと噂される。ルルは、18歳。

 『ふつう、撃つ覚悟はあっても。撃たれる覚悟は、ないような気がするけど・・・・』

 「・・・・じゃ・・・・計画通りだな」

 「ああ」

 ソ連と中国が退いて。武器弾薬の補給ルートが断たれて、孤立していくダリット解放戦線。

 今あるトカレフは、貴重で、弾丸1発、1発の消耗が、自分の命をもすり減らす。

 『『『『『くそぉ〜 あの、へたれで、根性無しのロシア人と中国人がぁ〜』』』』』 多数のダリット

 いくつかの合図を送ると、銃声が遠くに聞こえる。

 そして動き出すインド軍の中隊。

 中隊の規模として100人は少ないが、ダリットの戦いで、定員割れは、珍しくない。

 補充もされずに残されているのだろう。

 現実問題、インドの国情、カースト制が軍編成を邪魔していた。

 そして、小なりとはいえ、クシャトリア(藩王)を殺されて、戦略的な選択は、限られている。

 訓練されているように動いた。

 マニュアル通り斥候を出して、状況報告を受けながら本隊が移動を開始する。

 「ふ マニュアル通り動きやがって、可もなく不可もなく、膠着した世襲制で一番多いタイプだ」

 本隊が、用心深く街道に入り込んだとき。

 ピアノ線が引っ張られ、数十本の丸太が装甲歩兵車を襲って、身動きを取れなくしてしまう。

 そして、上がる火の手。

 中隊を丸焼けにできるなどと思っていない。

 また、そんなに燃料が、あるわけでもなく、下手すると、臭いだけで、ばれてしまう。

 しかし、周囲の木が燃え始めると、

 縄袋から解き放たれた無数の蛇が、火を恐れるという生存本能を発揮。

 谷側の中隊に向かって、一斉に押し寄せていく。

 蛇であれば、何でも良かった。それが毒蛇でも、毒蛇でなくても。

 浮き足立ったインド兵は、蛇の襲撃に怯えて、恐慌を起こして、ムダ弾を撃つ。

 毒蛇の毒にも強弱がある。致死性の毒もあれば、致死に至らない毒もある。

 一人が蛇に咬まれて、気持ち的に諦めているのか、断末魔を上げる。

 恐慌が、さらに広がって錯乱する兵士が続出。

 兵員装甲車から機関銃が撃ち出され、辺りを掃討。

 しかし、谷底から谷の上に隠れているゲリラを当てるのは、困難。

 谷の上から投げ込まれる包みが、空中で開かれ蛇が装甲車の周りにドタドタと落ちると、銃撃していた兵士も車内に隠れてしまう。

 「あはははは・・・壊滅せよ!!」 ルルが叫ぶ。

 中隊は、数千の蛇に襲撃されて、壊滅状態。

 辺りの火の手が消えると、蛇は、餌を求めて散っていく。

 あとは、数100人のダリットで中隊を包囲して、降伏させる。

 「・・・ようやく、まともな武器弾薬を手に入れた・・・」

 「これから、俺たちの反撃が始まるな。ルル」

 「ああ、君のおかげだ。蛇使いのヤマト」

 「ダリットには、命を助けられた。そして、この能力は、インドでの修行の末。お礼だよ」

 「義理堅いな。あの傭兵崩れとは、違う」

 「カースト側についた傭兵部隊“K”か。韓国人は、事大主義が好きなんだ」

 義理堅く、損する側についた日本人。

 恩も忘れて、あっさり強い側、体制側についた韓国傭兵部隊。

 「・・・あのやろう・・・・」

 貧乏くじを引いたヤマトは、星空を見ながら、ため息混じりに呟く。

 インド空軍や増援部隊が来る前に移動しなければ、ならなかった

  

 そして、バラモンの屋敷。

 あのやろうは、ワインを飲みながら、アチュート殲滅部隊の教育。

 「いいかあ! アチュートは、××××××××××××・・・・・・・・(とても書けない。省略)・・・・××××・・・・・・・・・・ニダ!!」

 おぉぉぉおおおおお!!!

 別名、×ね×ね旅団の気勢が上がる。

  

 

 1974年

 インドのキッシム議会で王制を廃止。インドの「一州化」を決議。

 「・・・我がインドの治安は、悪化している。K大佐。敵対するアチュートを皆殺しにせよ」

 「了解ニダ。藩王」

 王制廃止でも、惰性的に続いている呼び名。

 インド兵によるアチュート殲滅は、国際世論の関係から困難になりつつある。

 最初から人権など存在しないアチュート。

 しかし、国際的な圧力は、年を追うごとに強くなっている。

 鬼門であるソ連と中国との抗争は、痛み分け。ソ連、中国の武器弾薬を止めたあと、落ち着いている。

 内政干渉なのだが、インド国内のアチュート反乱は、それを押し返せなくなるほど強くなっている。

 外国人傭兵は、好都合だった。

 どれほど残虐であっても、インド人でないのだからと、国際的な非難も緩和される。

 階級社会のインドで、もっとも脅威なのは、共産主義思想。

 もちろん、民主化とダリットと妥協など、起こるが、大勢は、カースト制維持。

 「・・・K大佐。人は、差別されるためある。平等こそ悪なのだ。アチュートを奪え、犯せ、殺せ、焼くのだ!!!」

 「はっ!」

 藩王城から出撃する傭兵旅団。機械化旅団ともいえる規模。

 彼らは、孤立していない。全インドのカースト勢力が支援している。

  

 インドの日本人町

 出入り口で身元確認と武器の所持を調べられる。

 ヤマトは、パスポート。

 ルルは、日本の市民権を見せる。

 「・・・この日本人町にカーストの有力者がお忍びで豪遊か・・・優雅なものだ」

 「ルル。この町では、ダリットも、カーストも、町を守るためにしか戦わない。気持ちは?」

 「この町には、俺が理想とする世界があるわけか」

 「安定した収入さえあれば、カーストも、ダリットも、共存できる」

 「日本資本が作った仮の理想。差別がなければ、もっと、共存できるさ」

 「随分と人口が減った。民主化しても、やっていけそうなのに・・・」

 「利権を貪り、階級という淀みで腐った豚どもめ・・・ヤマト。やれるか」

 「ああ、町の中にも毒蛇はいる・・・・見つけられればね」

 「町を出て、すぐに咬ませるようにするんだ。日本人町で問題を起こすのは、まずい」

 「・・・・分かっているよ、ルル」

 「・・・・」

  

1976年〜

  

 

 インド

 カーストとダリットの血で血を洗うような内戦は、続いていた。

 ヤマトが、K大佐の×ね×ね機械化旅団の待つ高原へと向かう。

 攻撃ヘリ(AH)コブラが、頭上をホバーリング。

 ヤマト、絶体絶命といえる。

 「・・・わっはははは・・・・とうとう最後の時を迎えたニダ。ヤマト。梃子摺らせたニダ」 K大佐

 「汚いぞ、K大佐・・・・・・子供たちを人質に取るなんて、返せ」 ヤマト

 普通の子供たちではない。出資者や反乱部隊の子供たち。

 「あははは、どうやら、本物のヤマトらしいニダ。ばかめ、この見晴らしのいい場所では、これまでのような、罠は、通用しないニダ」

 「ふ どうかな。K大佐」 にやり

 「な、なにいぃ」

 「アノクタラサンミャクサンボダイ・・・・・」

 「・・・・・・」

 居心地悪そうに辺りを見渡す。K大佐

 「アノクタラサンミャクサンボダイ・・・・・」

 「・・・蛇を警戒しろニダ!!」

 兵士が火炎放射器で身構える。

 「アノクタラサンミャクサンボダイ・・・・・」

 「・・・・な、何が起こるというのだ・・・・・」

 聞こえるのは風の音だけ。

 シ〜〜ン!!

 「・・・・・・・・・・・・・・・」 ヤマト

 「・・・・・・・・・・・・・・・」 K大佐

 突然、九字を切るヤマト

 「・・・臨(りん)・・・」

 「・・・・・」

 「・・・兵(びょう)・・・」

 「・・・・・」

 「・・・闘(とう)・・・」

 「・・・・・」

 「・・・者(しゃ)・・・」

 「・・・・・」

 「・・・皆(かい)・・・」

 「・・・・・」

 「・・かい・・・・か・・・・・」

 「・・・・・」

 「・・・・なんだっけ?」

 「お・・・おまえ・・・・インドで修行したニダ!!」

 K大佐が、拳銃をヤマトに向ける。

 「K大佐。ヘリが近付いています」

 「なんだと!! そんなもの、撃ち落せニダ!!」

 「・・・・そ、それが・・・・」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 どこからともなく。ヘリがやってくる。

 吊り下げられているのは、藩王の子供(王子)

 「・・・あ・・・・」

 「ふふふ・・・K大佐・・・王子を見捨てたら、クビが飛ぶな」

 「じ、時間稼ぎニダ!!」

 「再就職の相談なら乗ってもいいぞ。K大佐・・・・あ、韓国人は、駄目だった。国交が回復してない」

 「きっ! きっさま〜!!」

 「子供たちを放せよ」

 「くっそぉお〜 日本人め、人質を取るなど、卑怯者ニダ!!」

 「おまえが、先にやったんだろうが!!」

 「うるせぇ!! 俺は良いニダ」

 「・・っで、どうする?」

 「・・・んん・・・貴様が、王子を返すという補償(保証)がどこにあるニダ」

 「・・・・ルル!!」

 ヤマトが合図を送るとヘリから段ボールが落とされ。

 地面に落ちるとバラバラに散らばる。

 「・・・・いい匂いだろう。K大佐。日本製のキムチ缶詰だ」

 「「「「・・・・・ < ^ ・ ^ > ・・・・」」」」 韓国傭兵部隊の目の色が変わる。

 「燃やしてしまおうかな〜」

 「「「「・・・・ < T ・ T > ・・・・」」」」 韓国傭兵部隊

 「きっ! きっさまニダ〜!!」

 「まだ3箱あるぞ。戦友。コブラを大人しく下に降ろせよ」

 「・・・・わ、分かったニダ。缶詰と王子をあの山の上に置くニダ。そうすれば、人質を放すニダ」

 人質を交換すると両勢力は、離れていく。

 韓国傭兵部隊は、キムチ缶詰が気になって追撃できない。 

   

 

  1977年〜

 インドにジャナタ(人民)政府が樹立。

 インドの権力構造が、どう変わろうと、それは、表層面でしかなく。根底のカースト問題はなおざり。

 カースト側は、反旗を翻したダリットを完全に粛清し、従順させるまで、手を緩めず虐殺が続く。

 ダリット側も、踏みにじられるばかりではなかった。抵抗する武器があるのなら、必ず抵抗する。

 そこには、宗教的な寛容性もなかった。

  

 ルルとヤマトの戦いは、適当な場所に罠を仕掛け。

 そこにインド軍を誘い込んで壊滅させるという戦法を取った。

 問題は、インド軍を誘い込む手法で、ネタが尽き始めているということだろうか。

 ルルが、神妙な表情で、本を見つめる。

 孫武? 『孫子』

 クラウゼヴィッツ 『戦争論』

 横山○輝 『三国志』(漫画) 71年〜

 を読みながら、新手の誘い出し作戦を練る。

 そして・・・・・・

 地図を見ながら作戦会議。

 「・・・ルル・・・・だ、大丈夫なのか? これで」

 「こっちの戦力も揃っている。そろそろ、こういう作戦もいいだろう」

 インド人が、日本の漫画を読んで、作戦を考えるというのも妙な気がする。

  

 そして・・・・・・

 ×ね×ね機械旅団のアジト。

 「・・・・ルルとヤマトめ・・・・ダリットは、後回しニダ。あいつら、絶対に捕まえてやるニダ」

 ×ね×ね機械旅団のK大佐も、『孫子』 『戦争論』 『三国志』(漫画) 71年〜を読んで捕獲作戦を練っていた。

 どちらも付け焼刃。

 K大佐は、韓国人らしからず。自分の能力を過信しすぎていないという点で、ルルと同レベルだろうか。

 いや、勝ったら、自分が考えた作戦だと言い張るつもりだろうか。それでも、柔軟な思考といえる。

 どちらにしろ、まだ、机上の空論。

 組織力や変化する情勢の中で、実行に移せる作戦も制約されていく。

    

 

 インド軍の演習。

 インド軍駐屯地に隙が生まれ。

 ルル・ヤマト反乱軍の襲撃がはじめる。

 「・・・・ヤマト・・・どうだ?」

 「留守部隊は、少ないようだ・・・・・50人くらいだな」

 「ばかめ、第15の計 “虎を調(あしら)って、山を離れしむ” に引っ掛かりやがったな」

 「・・・ルル。ずいぶん、漫画を読んでたな」

 「ふっ 偽造の命令書で、演習に行きやがった」

 演習で留守になった駐屯地。

 ルル・ヤマトの反乱軍が、忍び込んでいく。

 基地の中は、毒蛇による撹乱で大騒ぎ。

 反乱軍は、あっという間に駐屯地を制圧していく。

 反乱軍は凱歌を挙げて、簒奪品を持って撤収。

 アジトに引き上げようとするルル・ヤマト反乱軍。

 「・・・・やったな。ヤマト。作戦は、大成功だ」

 「・・・・・」

 「どうした? ヤマト」

 「・・・・敵だ!」

 「ん」

 「どこだ?」

 「あのジュート畑」

 高さ2メートルほどのジュート畑が目の前に広がっていた。

 「本当に?」

 「・・・・虫の音が止んだ」

 「虫の音?」

 「・・・・いる」

 「・・・虫の音?」

 「・・・いいから、攻撃しろ」

 反乱軍が、ジュートに向けて、銃撃を始めると、ジュート畑からも、反撃がはじめる。

 そして、いたるところに伏兵がいるのか、辺り一帯から攻撃されて、反乱軍も苦戦する。

 とはいえ、ジュート畑の主力部隊が先制攻撃されて大混戦。

 岩陰に隠れてAK47を撃つルルとヤマト。

 「ちっ! やばいぞ、ルル。相手の方が多い」

 「・・・・くっそぉ〜 どうして、ばれたんだ。計画にミスはなかったはずだ」

 「・・・・ルル。蛇をあの谷側に誘導する。それで、突破しよう。万が一のことを考えて、地雷を仕掛けてある」

 「ああ・・・しかし、ヤマト。何で、敵がいることがわかったんだ?」

 「? だから、虫の音だって」

 銃撃が岩に当たって、辺りが硝煙に包まれる。

  

 「・・・反乱軍め。どうして、罠が、わかったニダ?」

 銃撃した側の岩の後ろにK大佐がいた。

 「・・・K大佐だな。どうして、こっちの作戦がわかったんだ?」

 「あははは、ばかめ。空城の計の応用ニダ。しかも、自分の部隊ではなく。インド正規軍の駐屯地を使ったニダ」

 「げっ!!」

 「あははは、お前らが、演習地の近くで、密輸組織と会うとデマを流してやったニダ」

 「なんてことを・・・・」

 「そして、お前らには、インド軍が演習に出かけると情報を流したニダ。お前らがノコノコでて来るのは、お見通しニダ」

 「・・・・やばい」

 「わはっははは、死ねニダ。ルル、ヤマト。今日で、お前たちの最後ニダ」

 突然、重砲弾が辺り一帯を包み込んで、爆音が轟く。

 敵味方関係なく、砲撃の的になっていた。

 「なっ! ど、どういうことだニダ!!」

 「第03計 “刀を借りて人を殺すの計” だよ。×ね×ね機械旅団が、反乱を起こそうとしていると、演習に出たインド軍に教えたんだ!!」

    ※ 二虎共食の計 ともいう。

 「なっ!」

 「K大佐が、インド人を馬鹿にしてた。ともな!!」 ヤマト

 「なっ! なんだと!! このガキども!! もう許さ・・・うぁ〜 アイゴ〜 ニダ〜!!」

 辺り一帯は、インド軍の砲撃によって、滅茶苦茶になっていく。

 インド軍は、×ね×ね機械旅団が駐屯地を襲ったと誤解。

 砲撃は、誤解が解けるまで、続き。

 その間、ルル・ヤマト反乱軍は、逃走する。

  

 1978年〜

 

 インド

 車が人をひき殺して去っていく。

 世界共通なのだが、誰も見ていないことを確認すると轢き逃げ、しやすい。

 しかし、当たり前という意味は、国によって違う。

 ひき殺した相手がダリットであれば、人が見ていようと、見ていまいと無罪。

 相手が、上層階層であれば、重罪で、下手すると死刑。

 カーストが強すぎて、まともな法が適用されるのは、同じ階層の人間だけ。

 どちらにしろ、自分より貧しい服を着ているかどうかで、判断しやすい。

 人が有機物から、無機物に変化してしまう瞬間を面白がって、ダリット殺しをする者もいる。

 しかし、大多数は、ダリットを嫌っていても、自分の手で人を殺すのがイヤで傍観者。

 マザーテレサの言う、無関心を決め込んで、生皮で絞め殺す方を選択する。

 追い詰めたとしても、死の原因が自分でないかのように振舞う偽善者。

 人を殺すにも、エネルギーがいるということだろう。

 無機物と化したダリットの死体が横たわる。

 インドに住んでいると死体慣れして不感症になっていく。

 インドが、おかしいのだろうか。

 多数決ならインド人は、日本人より多い。

 「・・・・ルル。この男を使うのか」

 「・・・・ああ・・・・」

 ルルが封筒をダリットの死体に隠す。

 いくつかの工作のうちのひとつ。ただの撹乱だった。

 こういった撹乱は、同時並行で、いくつもやっていて、忘れるほどだ。

 そして、村の中。

 K大佐の巧妙な罠がいくつもあった。

 親を殺して、子供にルルとヤマトが殺したと刷り込んでいく。

 そうすれば、ダリットの子供であっても、ルルやヤマトを憎み・・・・・・

 情報が漏洩しやすくなる。

  

 貧しく入り組んだ小屋の集まりは潜みやすかった。

 「・・・あそこだ!!」 子供

 「「げっ!」」

 「「「まて、ニダ!!」」」

 追いかける×ね×ね機械旅団の装甲車。

 必死に逃げ回るルルとヤマト。

 「こら!! お前らぁ もう許さんニダ! ○○藩王を襲って、俺のせいにしたニダ!!」

 「そっちこそ オランダ企業の倉庫を襲って、俺たちのせいにしたな。ずるいぞ!!」

 「うるさいニダ。お前たちのせいで、出費が増えたニダ。補償するニダ!!」

 「「いやだねぇ〜」」

 「大人しく捕まって、俺の身の潔白を証明するニダ!!」

 「「嘘つき!」」

 「ヤマト! 逃げるとは、卑怯ニダ。日本人なら清々堂々と戦って、玉砕するニダ!!」

 「ば〜か〜!!」

  

  

  

 インド アチュート殲滅本部 

 ×ね×ね機械旅団は、K大佐は・・・

 「・・・・この偽札は、ルルとヤマトの反乱軍が、作ったもので。私のせいにしているだけニダ・・・・私は潔白ニダ!!」

 

 「・・・いや、だから、違うニダ。バラモン(司祭)、クシャトリア(王・貴族)、ビアイシャ(平民)、スードラ(奴隷)を仲たがいさせようとしているニダ。全部、やつらの陰謀ニダ」

  

 「・・・・いや、だから、やつらは、反体制派ニダ。インド社会を根底から・・・・・いや・・・・違うニダ〜」  < T ・ T >

 こうして、インドカースト制を守ろうとする正義のヒーロー。K大佐の一日が過ぎていく。

  

 

 

1979年〜

 キプロスの国連人種問題会議で、睨み合う代表団。

 ヾ(`□´)ノ〃  「・・・くっそぉ〜 このアチュート(不可触賎民)め・・」

 ヽ(`Д´)ノ     「アチュートじゃない! ダリット(壊された民)だ!」

 カシミールは、西側諸国の基地が建設されて羽振りが良い。

 インド・パキスタンとも一定の家賃がもらえて、経済波及効果も大きかった。

 もっとも、協定があって、カシミールの鉱物資源を買っても、収支は、カシミールに還元される。

 ケンカしないためでもあるのだが、インド、パキスタンの本国に回らない。

 おかげで、山岳地帯、僻地であるはずのカシミールの経済力は強くなっていく。

 インド人も、パキスタン人も、職を求めてカシミールへと移り住みやすい。

 カースト制の緩いカシミールは、ダリットに好まれているのか増えている。

 治安は良いのだが、ここで、インド・カースト打倒の温床が作られていた。

  

 偽札は、インドにとって、大きな打撃になる。

 貨幣経済を潰せば、国家経済が破綻する。

 もちろん、紙幣は、国家存亡が掛かっているだけあって、最高の技術や体制で構築されている。

 教育もされていないダリットが、簡単に紙幣を模倣できるものではない。

 しかし、極東の某国が、安く作ってくれるという。

 むかしは、日本も追い詰められて、偽札を作っていた。

 あまり悪く言っても、仕方ないことだろうか。

 そして、一定の水準の技術者を味方にできて、印刷設備があれば、偽物だとわかっても構わなかった。

 濡れ衣の相手は、司祭、藩王、貴族、軍上層部、K大佐などで、困らない。

 カースト制度を崩壊させてしまうほど、疑心暗鬼にさせてしまえばいいだけ。

 インドの上層階層も一枚岩ではない。適当な理由を付けて、ライバルを蹴落として、仲間内で山分けするだろう。

 そして、国家体制そのものが、弱体化していく。

 カースト側の正義は、国家体制の維持であり。

 ダリット側の正義は、カースト制の打倒。

  

  

 偽札作りで死刑は、万国共通。

 そして、ダリットも、人間。

 苦しさも、恩も、喉元過ぎれば忘れる。

 しかし、刻み込まれたカーストへの憎しみは、色褪せこそすれ、簡単には消えない。

 元々、人間としての尊厳もない。命の価値も小さい。

 豊かな生活が数年でも送れたらと、死刑にも怖気づかない。

 弱者だからといって、哀れみをかけられず。

 さらに虐げられ奪われた者たちの反逆に遠慮はない。

 巨大なインドをこの手で崩壊させてやると・・・・・

 「・・・バラモン××様から、△△藩王暗殺の代金の一部です・・・K大佐様・・・・・と・・○○師団長へも、よろしくお伝えください・・・・むふっ♪」 (v^∀゚)φ

 封筒に手紙と偽札を入れて、死んだダリットのポケットに入れるだけ。死体には、困らない。

 そのお金が使われても構わず。

 疑惑が掛かるだけでも、十分で、足止めと相互不信を突いて切り崩していく。

  

 そして・・・・・

 ×ね×ね機械化旅団 本部。

 「・・・・良いか、ルルとヤマトのアジトを見つけてくるニダ! 失敗すれば、人質を殺すニダ!!」 K大佐

 ダリットの両親を人質に取ったり。子供を人質にとったり。極悪非道。

 特に子供たちは、疑われにくいのか、使いやすい。

 少年探索団が作られて、各地に散りばめられて行く。

 

 

 崖の上

 ルルとヤマトが、大豪邸を双眼鏡で覗き込んでいた。

 バラモン系の家は、大きい。

 「・・・でかい家だな・・・・」 ルル

 「次は、どんな悪巧みにするんだ」 ヤマト

 「そうだな・・・やっぱり、軍資金だよな」

 「撹乱用の偽札だからね。やっぱり、本物じゃないと、最近は、通用しなくなってきているし」

 「質が悪いからね。見ればわかる」

 「・・・・・・・」 ポッ!

 「ん?・・・・どうした。ヤマト・・」

 「・・・いいな・・・」 ( ^ ー ^ )

 豪邸のテラス。

 品の良さそうな女性

 「・・・ヤマト・・・・緊張感がないやつだな・・・」 ( ̄△ ̄)

 「あはは・・・」

 「よ〜し、誘拐して、物にしてしまえよ」

 「えぇぇええええ〜 だ、だめだよ。そんなことしたら、嫌われるよ」

 「あ、あのなぁあ〜 ヤマト。俺たちは、とっくに嫌われているんだよ」

 「だ、だけどさぁ〜」

 「おまえなぁ〜 日本の鬼畜系とか、陵辱系のH本を見て勉強しろよ」

 「い、いやだよ」

 「・・・気・・・強そうだぞ・・・」

 「そこが惹かれるな・・・」   ( ^ ー ^ )

 「し、しょうがないやつだな・・・」

 「・・・・・・・・・」

  

 ヤマトは、ルルの作戦で、ストレートな方法を選択した。

 気の強そうな女には、効果があるという統計らしい。

 夜の大豪邸、テロ・ゲリラに備えて、それなりに警備されていた。

 その女性は、自分の部屋で、静かに本を読んでいる。

 不意に気配を感じた女性が、テラスを見つめると、白い背広を着て、花を持った見慣れぬ男が立っていた。

 「・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・」

 「・・・・あ・・・あのうぅ・・・これ・・」 ヤマトが花束を女性に差し出す。

 「・・・・・・・・・」 女性は、無表情のまま、花束を受け取る。

 「・・・・・・・・・」 モジモジ

 「それで・・・」 女性

 「あ・・・あのう・・・・す・・・好きです」 (〃^_^〃)

 インドは、自由恋愛ではなかった。

 階級ありき、バラモン系の娘は、最高レベル。

 とはいえ、男女の仲というのは、面白いもので、切っ掛けしだい。

 運が良ければ、なんとか、なったりもする。

 「ふっ くっくくくく ・・・・・・そういえば、私も、適齢期だったな」

 「あのうぅ・・・お名前は・・・・」

 「わたしは、新しくアチュート対策本部長に就任するラフィー・コーネリアだ。蛇使いのヤマト」

 「!?」

 コーネリアが、隠し持っていた銃をヤマトに向ける。

 「・・・・とはいえ、イギリス留学から戻ったばかり。それに天晴な、花のお礼に今回は、見逃がしてやろう」

 「・・・・・」

 「・・・・おぬしは、嫌いではないが、敵だ」

 「・・・・・」

  

1980年〜

  

 インド

 部屋の中を歩き回るルルの表情は険しい。

 ×ね×ね機械化旅団 K大佐の工作で追い詰められている。

 周りには、数人の仲間たちがいた。

 『裏切りか・・・・怪しいといえば、怪しいが・・・・どうしたものか・・・・』

 “の”の字状態のヤマト

 「ルル・・・心が、自由になるって、寂しいんだね」 ヤマト

 「ヤマト。おまえなぁ 引き摺っていると、コーネリアに捕まって、良いように締め上げられるぞ」

 「・・・ふ そ、それも、良いかも・・・」

 「おまえ・・・・マゾか?」

 「まさか」

 「逆に向こうを捕まえて、好きなようにすれば良いだろう」

 「・・・・ん・・・・よ〜し! やるぞぉ・・・」

 『・・・・なんか、お前のほうが、モジモジしそうだぞ。大丈夫か』

 メス蟷螂に立ち向かっていく。オス蟷螂のような気がしないでもない。

 互いに捕まえ合おうというのだから、一種の相思相愛なのだろう。

 単にどっちが主導権を取り合うため争っている。

 どっちが、主導権を握っても、やることが同じだとしたら・・・・・・・

 カーストとダリットの戦いも、主導権争いに近いのだから、似ているのだろうか。

 『それにしても・・・・』

 「・・・うがぁ〜! なんだ、この偽札は! 首領に言っとけ! このヘタレが! 小学生だって、こんなに綴りを間違えんぞ!」

 「ひぇええ! すみませんニダ、すみませんニダ」

 投げつけられるスーツケース。

 ・・・ぐはぁっ!!!

 「ケンチャナで、偽札、つくるな!!」

 

  

 インド上層階 パーティー会場

 仮面舞踏会というものがある。西洋風の座興なのだが、インドでも行われたりする。

 各国外交官も参席して華やかで、外交の場にもなっていた。

 立場上、出なければならないときもあり。

 コーネリアにとっては、馴染みやすいパーティなのだが、それどころではない。

 コーネリアも、腹心ダールトンも、仮面を付けて壁の花。

 「・・・・コーネリア様。今月のバラモンとクシャトリアの被害者です」

 「・・・・酷いな・・・・5分の1は、あの蛇使いか・・・インド全体で5分の1ともなれば、大変なものだ」

 「現実には、見張りなど、かなりの者が蛇の被害にあっているので、もっと多いかと・・・・」

 「少なくとも、女子供をはずしているところを見ると、我々よりは、良心的というところだろうな」

 「アチュート(不可触賎民)は、人外ですから」

 「ダリット(壊された民)と呼んでやるべきだろう。これだけの被害だ・・・・」

 「・・・そうですな」

 「・・・例の話し、進めた方が良いのかな」

 「ダリットのIT産業へ斡旋ですか。確かに新しい職業ですから、カーストによる職業制約はありませんが、教育がされていません・・・・」

 IT業界も、識字率しだい。

 それなりに教育が受けられるビアイシャ(平民)が多く。せいぜいスードラ(奴隷)だろうか。

 教育を受けられないダリットは、問題外。

 しかし、コボル型であれ、フォートラン型であれ。価格さえ、クリアできれば、可能性があった。

 自国言語プログラムに置き換えられる日本JIS規格コンピューターは、英語が不明な人間にも才能の幅を広げてしまう。

 「・・だが、日本町の日本人は、ダリットも、教育してしまう」

 「・・・むかしは、良かったですな。すべての者がカーストを支持しました。最下層のスードラ(奴隷)でさえ、輪廻が怖くて、カースト制に付いたというのに・・・・」

 「ダリットの反乱のせいだけではない。バラモン、クシャトリアとも、相互不信を起こされて、カースト側同士で戦わされている。やつらの策略は、高度だ」

 「おそらく。ルルという男の策略だと思われています」

 「・・・・・頭が痛いな・・・・」

 仮面をつけた男が、一人、立っていた。

 「・・・一曲、如何ですか? マドモワゼル」

 「・・・・・・・お相手しましょう」

  

 曲が始まる。

 「・・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・」

 「・・・神出鬼没だな。ヤマト」

 「・・・あれ。ばれるようなことは、しなかったのに」

 「威圧感のあるダールトンを意に介さず。私を誘うのだから、相手は限られよう。それに日本人の目は、ここで、珍しいのだよ」

 「・・・・・」

 「・・・まさか私と、踊るために忍び込んできたのではあるまい」 コーネリア

 「もちろん、コーネリア。君と踊るために忍び込んだに決まってるよ」

 「では、この曲が終わったら、お前の人生も、終わり。ということになるな」

 「それは残念。プレゼントを用意してきたのに・・・・・」

 「どんな、プレゼントだ?」

 「王侯貴族は、パーティのたびに隙ができる」

 にやり・・・・

 「・・・ヤマト・・・外国人も、多いのだぞ。わかっているのか」

 「ダンスは良いね。コーネリアが、緊張しているのがすぐに伝わる」

 「・・・外国人を殺せば、お前たちの方が不利になるのだぞ」

 「無事に帰れたら、教えて上げるよ」

 「・・・・・」

 数分後、ダンスが終わると、ヤマトが、去っていく。  ( 。 ・ _ ・ 。 )ノ”

 「・・・・・・・」

 そして、爆発音。

 屋根の給水タンクが破壊され、天井から水が落ちて、パーティー会場が水び出し。

 「・・・あの・・・・くそガキがぁ〜!!」

 びしょ濡れのコーネリア。

 「・・・ダールトン。準備させているヘリを急行させて、あの男を付けさせろ。部隊のヘリには、ナパーム弾を満載させておけ、アジトごと。灰にしてやる」

  

 数十機のヘリがジュート畑の周りを周回していた。

 ヘリ CH47 チヌーク

 価格的に月影VTOLより安く。利便性の良い輸送ヘリ。

 「・・・コーネリア様、赤外線探知機に反応があります。どうやら、ここがアジトのようです」

 ジュート畑に数十人の人影が熱源として、モニターに映し出されていた。

 「全周囲からナパーム弾を落とせ。焼き払え!!」

 ヘリ部隊が次々とナパームを投下。爆炎が、ジュート畑を燃やしていく。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 モニターに映される人影が、恐慌状態で逃げ惑うが、炎に追い詰められていく。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 赤外線モニターが真っ白になってしまうが、誰も生き残れないだろうということは、予測が付いた。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 火が消えていくと、ジュート畑に描かれたインクの文字が浮かび上がる。

 「・・・・・・コーネリア様に対して、なんてことを・・・・・・」 ダールトン

 

 

ラフィー・コーネリア 好きだ。

お前は、俺のものだ  ヤマト

 

 面白がるコーネリア。

 「・・・ふ・・・ヤマト・・・待ってろ。ペットにして飼ってやる」

 ちょっとだけ頬が赤い。

  

 丘の向こう側

 双眼鏡を眺めるルルとヤマト

 文字の周りには、焼けた数十体の人間が転がっていた。

 「・・・・ヤマト。K大佐の呼び出し情報に引っかかった裏切り者の数・・・思ったより多い・・・・」

 「ダリットの結束も、金次第なんだな・・・」

 「それだけ貧しいということだ」

 「・・・でも、本当にナパーム弾を落とすなんて、酷いよ・・・コーネリア・・・」 (T・T)

 「あの残酷さは、性的虐待を受けたことがあるか。処女の証拠だよ。性格からして、多分、処女だ。良かったな、ヤマト」

 「むふっ♪」  ( ^ ー ^ )

 インクで描かれた文字とダリットの死体が焼け跡に残されていた。

  

 

 

1981年〜

 ルル・ヤマトの反乱部隊は、藩王やバラモンを殺しておいて、他の藩王やバラモンの仕業に見せかけていた。

 しかし、それも、次第に通用しなくなっていく。

 それでも、レベルの低い不信感を植え付け。欲望、軋轢、権力闘争を利用して、インド上層部を対立させていた。

 バラモン、クシャトリアが、合い争うことで、さらにインド社会が混迷を深めていく。

 状況は、ダリットも同様だった。人間不信は極度に進む。

 憎しみが憎しみを生み、憎しみの連鎖が、不信、殺戮、混沌で、味付けされ。

 インドを真っ暗な死の世界に滑り込ませていく。

 捕らえられ、並べられた者達。

 拳銃の弾が頭を撃ち抜いていく光景が各地で見られた。

 無造作なのだが、人の心が残っていると、できないことでもある。

 中国西域では、もっと、効率のいい方法があるらしいが、インドに伝わっていない。

 第二次世界大戦よりも、多く死んでいるはずなのだが、総人口は、6億を少し切った程度。

 中国人やインド人が、第二次世界大戦を程度が低い戦争と思っていたとしても、否定しにくい。

 インド社会は、上下に関係なく、職種に関係なく、信頼関係をズタズタにされて、反乱と内戦が拡大していく。

 しかし、適度に資産が再構築されて、それになりに経済成長している。

 この状況で、規律が保たれている権力組織、武力組織は、少ない。

 コーネリアの部隊は、そのカリスマで。

 K大佐の×ね×ね機械化旅団は、外人部隊であること。

 そして、ルル・ヤマトの反乱部隊は、敵を利用した裏切り狩りが効をそうして、少しばかり結束が固まっていた。

 

 

 ダリットに酷い扱いをする中級階層に黒い蛇が描かれたカードが送られる。

 このカードは、死の宣告。

 ダリットに酷い仕打ちをした者に送られ、殺されていく。

 中層階層は、自分を守る防壁がなく。震え上がる。

 毒蛇によって咬まれる事が多く。

 恐怖が、ダリットに対する差別を弱めていく。

 ルルとヤマトの反乱軍を“黒蛇”と総称し始めたのは、末期的な状況になってから。

 

 

 インドで、一つの宗教が起こっていた。

 チベット帰りの男が教祖。

 キリスト教、仏教、ヒンズー教を合わせ、矛盾点を省いて作られたような教理。

 新興宗教は、排斥されやすい。

 しかし、少しばかりの排斥のあと、ヒンズー教と、いくつかの妥協が行われて定着してしまう。

 多神教のヒンズー教世界では珍しくない。融和と寛容さで、ヒンズー教は優れている。

 いまさら一つくらい神様が現れたところで、気にもならないのだろう。

 有力な藩王や貴族が支援しているのだろうか、あっという間に広がっていく。

 「・・・戦いからは、何も生まれません。心の平穏が重要なのです。心に平穏があれば、上下もなく派閥もなく。融和しながら理想的な社会を築いていけるのです・・・・・」

 多くの民衆が、その男の声を聞くために集まり。施しを受けていく。

 「・・・・これ、貰ったの」

 小さな花のアクセントが付いたサリー。

 5歳ほどのダリットの娘が、嬉しそうにルルにお菓子を見せた。

 「・・良かったね」 ルル

 少女は、お菓子を頬張りながら駆けていく。陽炎の様な、はかない喜び。

 彼女の将来は、売春宿・・・・・排泄物・動物死体の処理、皮革業、清掃業・・・・etc・・・

 よほどの幸運に恵まれなければ、強姦されずに一生を送れるダリットの娘はいない。

 不運なら殺される。

 いくつかの区画の向こうでは、ダリットの女子供も、殺されている。

 ダリットにも分け隔てなく “施し” をする新興宗教は、飢えているダリットには、好まれる。

 「・・・ルル。すごく、流行っている宗教だね」

 「・・・・・・・」

 「ルル」

 「・・・・・・・」

 「ルル」

 「あっ・・・いや・・・この宗教団体には、近づかないようにしろ」

 「なに? 罠?」

 「・・・・・たぶん」

    

 

 ヤマトが、机の前・・・カキカキ・・・・・カキカキ・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ラフィー・コーネリア様へ

  君と踊った短い時間。

  君の記憶と、君への思いは、消えず。

  いまも、心を占めています。

  会いたい。コーネリア。

  愛する君に会いたい。

               ヤマト

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 『・・・・むふっ♪ コーネリア〜』

  

  

 ルル・ヤマトのアジト

 バラバラの経路で入手した古い三つの陶器が組み合わさると、

 一つの模様が作られる。

 おぉおおおお!!

 喜びの気配が、周りから伝わる。

 「・・・・こいつを○×藩王の手に届くようにしてみるか。三つの陶器を合わせれば良いだけだ」

 「えっ! ルル。宝探ししないの?」 ヤマト

 「偽物に引っかかって部隊を全滅させたくないよ」

 失望の雰囲気が広がる。

 部隊が大きくなれば、食い扶持も増える。

 当然、あこぎな事もするが、宝探しで資金が入れば、それに越したことはない。

 ルルが訝しげに合わされた陶器を見つめる。

 「・・・・・アショーカ王の秘宝・・・・か・・・K大佐も懲りないな・・・」

 見破ったルルも、クシャナ王朝の財宝を使って、藩王とバラモンを仲違いさせていた。

 やり口は違っても、誘き寄せられて、殲滅されてはかなわない。

 「K大佐なんだ・・・・」

 「それとも、一つを××藩王に渡して、仲違いさせるか・・・・」

 「良くできているのに・・・・・」 ヤマトが陶器の図柄を見つめる。

 「できすぎだよ。こんなに簡単に三つのアイテムが揃うものか。K大佐も、ひねりが足りないな」

 「・・・あのやろう・・・・」

 「売りつけた方が良いな。どうせ、あの男も騙された口だろう」

 「インドって、こういうのばっかりだ。たまには、本物でないの?」

 「偽物の方が、小金が溜まりやすいんだ。本物を探すより、偽物をたくさん作って売った方が金持ちになれるよ」

 「ひどいな・・・」

 「希望を売っているんだ」

 「失望もね」

 「信じている間は、紙幣と同じ。価値があるよ」

 「見せ掛けの価値?」

 「人の欲が作った価値」

  

  

 インドで、4段式宇宙ロケットが打ち上がる。

 轟音を響かせ、白煙の柱が宇宙に向かって伸びていく。

 「・・・・コーネリア様。打ち上げ成功のようです」

 「我がインドも、余裕のあるものだ」

 インドが成長しているという象徴であり。

 これによって、インド国民の結束を固めるという手法といえる。

 「資財と社会資本を減った人口資源に振り分けられたせいでしょう。購買力も増えているようです」

 「内戦は、困るが。少しくらい人口が減ったところで、痛くも痒くもないわ」

 「調整と和解が残っていますが、内戦は、収拾が付きそうです。上流階級同士を戦わせる手法も、ほとんど試されたかと・・・」

 「・・・・あれだけ、殺し合わされれば、いい加減に気付く。バカな上層階層はいない方がいいのだ」

 「確かに・・・・・」

 「もっと減らしてもらっても良いくらいだ・・・・・・例の作戦は?」

 「はい、ダリットを新興宗教に吸収させて、敵の内情を探らせています。一部の地域を除いて、効果があるようです」

 「ルルとヤマトの部隊か?」

 「はい」

 「もっと、信者に “恵み” “施し” を与えてやろう。可能な限り、情報を集めよ。3ヵ月後には、一網打尽で殲滅してやる」

 伝令が、コーネリアに手紙を渡す。

 差出人を見ると。

 呆れ顔で、封を切って中身を読む・・・・

 少しばかり、頬が紅くなっていた。

 「・・・・・・遺書代わりに貰っておこう」

 手紙を捨てずに内ポケットに入れるというのは、脈があり、なのだろうか。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 インド。

 全国的な虐殺が起こっていた。

 ダリットの味方とされていた新興宗教が、実は、カースト側の謀略。

 引っかかったダリットの反逆者は、次から次へと吊るし上げられていく。

 公開処刑場には、民衆が集まり。インド軍が厳重な警戒に付いていた。

 この地域でルル・ヤマトの反乱部隊は、捕らえられておらず。

 いつ攻撃されてもおかしくない状態と言えた。

 しかし、ノコノコ出て行けば、捕まりに行くようなもので、まさにお手上げの状態。

 

 月影VTOL

 コーネリアが、地上の様子を見ていた。

 「・・・・・コーネリア様。彼らは来ますかね」

 「軍の配備は?」

 「予定通りです。ルルとヤマトが動けば、血祭りのはず」

 「・・・・・ルルは、公開処刑をすれば、天罰が下ると、インド中に宣伝している。つまり、天罰が起こらなければ、ルルの威信は、低下、求心力を失う」

 「今回のダリット指導者層の処刑で、ダリット反乱は、中枢を失います。残るのは、ルルとヤマトの反乱部隊。もはや、彼らに勝機は、ありません」

 「・・・・・・・・・・・」

 「どうか、されましたか? コーネリア様」

 「・・・・・不吉な予感がする・・・・圧倒的に優勢なはずなのだが・・・・何かを見落としているような気がする」

 「・・・・・ダリット軍に救援は来ませんよ。外国勢力も抑えています」

 「・・・いや、純軍事的な・・・・ダールトン。少し、周辺部を警戒した方が良いな」

 「・・・はっ! 確かに」

  

  

 そして、処刑場を見渡せる遠くの山陰

 数人の男たちが、双眼鏡で処刑場の周りを見渡していた。

 ルルの双眼鏡が、自分に微笑んだ少女の死体をとらえる・・・・・

 「・・・・忠告したのに・・・バカが!!」 ルルが罵る。

 ルルの新興宗教に近づくなという忠告は、他のグループには、徹底されず。

 ダリット反乱軍の指導層は、芋づる式に捕まえられていく。

 与える者に引き寄せられた者たち。

 彼らを責めるには、酷といえる。

 ダリットは、貧しく惨め過ぎた。

 新興宗教が、善意からか、悪意からかわからないが、利用されたのは事実。

 鉄の結束を誇るルル・ヤマトの部隊のみが、最後のダリット反乱軍だった。

 「・・・・ルル」

 「・・・・ヤマト・・・・計画通り。混乱に乗じて、本陣をたたく」

 ルルの振り上げられた腕が、下ろされた。

 それを合図に公開処刑場全域で連鎖的な爆発が続く。

 ダリット反逆者の大量逮捕と公開処刑場は、予測が付きやすかった。

 観衆が見やすく、大量の処刑者を出せる場所は限られている。

 ルルは、予測していた処刑場4ヵ所に爆薬を仕込んで、そのうち、3つを的中させる。

 処刑場は、観客も巻き込んで、大混乱。

  

  

 

 爆発の衝撃が辺りを響かせていた。

 観衆は大恐慌を起こし、津波となって逃げ惑う。

 爆発のタイミングは、バラバラで予測が付かず。動きが取れない。

 「・・・・おのれ! ルル、ヤマト。やりやがったニダ!!」 吼えるK大佐。

 「・・・・・大佐・・・あ、あれは・・・・」

 もうもうと土煙が立ち上り、間断のない地響きが大地を振動させる。

 「!? ・・・うっ!」

  

  

 ルルとヤマトのいう本陣は、処刑場ではなかった。

 ニューデリー。人口30万。

 周到に準備された20万頭の牛が、ニューデリーを暴走。

 ルル・ヤマトの反乱軍によって、ニューデリーが占領される。

 インド全土にいるといわれる牛は、5000万頭。

 ほんの一部でしかない。

 しかし、それでも十分、ニューデリーの幹線道路と機能が遮断されてしまう。

 それまで、安穏とダリット殲滅を見守っていたインド上層階級が、中枢が、ダリット軍によって制圧されていく。

 怯えきったバラモン、クシャトリアは、装甲車や車で、牛をひき殺して脱走する。

 牛によって埋められたニューデリーに戦場はなかった。

 上空を旋回する月影VTOLも、ヘリ部隊も、着陸する場すらない。

  

 ルルの命令で、ニューデリー周辺のダリットが一斉に蜂起。

 蜂起といっても、殺し合いではない。

 突きつけられる黒蛇のカード。

 農場主を脅迫するか、農場主を吊るし上げて、牛をニューデリーに向けて追い立てていく。

 食料がなくなれば散っていく牛だが、十分な時間稼ぎになった。

 そして、地上からニューデリーに向かう機械化旅団も牛に阻まれて、身動きが取れなくなる。

  

 バラモンを乗せた装甲車が牛をひき殺しながら逃げていく映像。

 内外のマスコミによって撮られていた。

 インド国内だけでなく、全世界に配信、放映されてしまう。

 インド国会議事堂。

 「・・・・5000年の長きに渡って、全インド人の精神と肉体を支配し、抑圧してきた悪しきカースト法を、この瞬間、今ここで、消滅する」

 「全インド人民は、一人一人が、神の前に自由と平等であることを、そして、全インド人がカースト法から解放されたことを、ここに宣言する!」

 ルルが、全世界のマスコミを前にインド・カースト制消滅を宣言。

  

  

 そして、ルルが権勢と保身を得るために既存勢力と妥協する 『覇王』 でないことを証明する。

  

  

 そう、権勢と保身を求めず。既存勢力と妥協せず。破壊してしまう 『魔王』 だということを・・・・

  

  

 「・・・・これより、バラモン・クシャトリア狩りを行う! 男は、全て殺せ!!!」

  

  

 全世界が、5000年に1人の確率で現れた魔王ルルを恐れ。あるいは、賞賛した。

  

 

 

 この年。

 権力を求め権勢と妥協した覇王の徒レーガンが、アメリカ合衆国を失墜させ。

 抑圧された世界を鉄の意志で破壊した魔王の徒ルルが、インドの輪廻転生・カーストを断ち切った。

 覇王の失墜は、世界経済を恐慌に落としいれ。

 魔王の顕現は、世界の権力者を震わせる。

 

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 掲示板で、ルル・ヤマトを分けて一つに、という話しがあったのですが、別枠の総集編という形にします。

 一年単位で、あまり大きくもできず、省いている部分もたくさんあるので、

 ルルの反逆の動機とか。

 ルルとK大佐との騙し合いとか。

 ヤマトとコーネリアのデートとか。

 ルル・ヤマトの反乱軍が、どうやって大きくなっていったのかなど。

 気が向いたら、埋めていきます。って、いつやるの?

 

 史実(戦記)

 1947年(1944年) インド独立時カースト廃止。

 1949年(1948年) 不可触賎民撤廃が制定。

 カーストは、法的に廃止。

 しかし、どちらも、ヒンドゥー教の“輪廻転生”、“浄・不浄”の概念は、根強く、現存。

 (1981年) ダリット反乱軍が、首都を制圧。

        ・

        ・

        ・

 

 インド経済そのものは、良いようです。

 とりあえず、カースト上層階層は、牛ひき殺して逃げ惑ったことで権威が、地に落ちて、収拾付かず。

 名目上だけでも、カースト廃止でしょうか。

 習慣というのは、なかなか抜けないので、どうかなとも、思いますが、一応、民主化です。

 ダリットを見ただけで、目が汚れるという段階よりは、マシになるかもです。たぶん。

 ルルとヤマトは、象徴的なので、ダリットの反乱による圧力に効しきれなくなって、民主化という感じでしょうか。

 国内の内戦で、第二次世界大戦の死者を越えてしまうインドと中国をまじめに書くと残虐物語になってしまいます (笑)

 インド民主化の最大の貢献は、ソ連と中国。トカレフとAK47。あと、牛さん? ということで・・・・・

 ルルは、その後、数回の暗殺事件を生き延びて、インド首相。

 名目上のカースト廃止を実質的なカースト廃止にするため、余生と精力を捧げたそうです。

 どうやったかというと、信頼関係を崩された社会は脆く。各個撃破で略奪。

 上層階級(バラモン、クシャトリア)の資産のほとんどを差し押さえて国外に放逐。

 バラモン、クシャトリア不在のカースト制は、ありえません。

 中間層(ビアイシャ、スードラ)に分配してしまったようです。

 教育の行き届いていないダリットへの分配は、少なめでした。

 さすが、ルル、魔王系?

 因みにヤマトとコーネリアは、結婚しましたとさ。

 インド通商大臣ヤマト・タケシとして、妻コーネリアと日本に凱旋。

 日本から散々、煙たがられ。

 親族から排斥されていたヤマト・タケシは、日本のドメ派官僚。親族からペコペコされたそうです。

 

  

 

 

 

 

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よろしくです。

  

 
インド総集編 『反逆のアチュート』