月夜裏 野々香 小説の部屋

現代ファンタジー短編小説

『ヒエラルキー・キャロル』

 

 夜の公道、

 BMWは乗り心地が良く、普通の自動車は、弁償を恐れ、車間を開いていく、

 無知じゃなければ幅寄せなんかしてこない、

 「もしもし、君ぃ困るよ。そんな甘いことやってたら組織権益が守れんだろう」

 “しかし、相手の弁護士も反骨精神が強くて”

 「飲ませろ。金を掴ませろ。女を抱かせろ」

 「集団訴訟なんてのはな、相手の弁護団を強請ったもんが勝ちなんだよ」

 「徹底的に相手陣営を切り崩して仲違いさせろ、潰してしまえ」

 公道を走ってた高級自動車が止まる。

 「どうした?」

 「工事ですね」

 「またか。時間がないというのに」

 「工事の季節ですからね」

 「ふっ 予算を全部使いたがる」

 男は窓を開け、

 「おい、そこの!」

 「はい」

 「いつ終わるの?」

 「そうですね。あと、7時間くらいでしょうか」

 「俺の時間はあと、30分しかないんだ」

 「矢印に沿って、遠回りした方がいいと思いますよ」

 「やれやれ」

 「ほら、工事現場のみんなで分けてくれ」

 紙幣が手渡され、

 「車を先導してくれないか」

 「は、はい」

 「緊急車両が通ります! 急病人です!」

 

 

 保守、革新、国会議員、官僚、財界人、地方議員、芸能人の7人が集まっていた。

 “ちゃんちゃんちゃらんちゃん〜♪”

 「中国の増強とアメリカの圧力。北朝鮮の核ミサイルなど日本を取り巻く国際情勢の悪化」

 「日本国内においては、不況、失業、格差社会」

 「そして、東日本大震災と放射能の拡散など内憂の拡大が広がっています」

 「今日のテーマは “いまの日本は・・・” です」

 「最近の若者は愛国心の欠片もないのが問題なのです」 保守

 「愛国心と言われるが、そもそも愛国心を叫ぶのはどういう人間なのです」 革新

 「保守層ですよ」

 「本当に街宣車に乗って騒いでる人たちは、本当に日本人なのですか?」

 「に、日本人ですよ」

 「本当は日本を滅ぼしたがってる似非日本人が愛国心を訴えているのでは?」

 「そ、それは、ごく一部に過ぎない」

 「ほとんどは、日本を愛する日本人です」

 「保守層っていうと長子相続の特権によって作られた相続層では?」

 「まさか、家族愛と郷土愛を根底にしてる勢力ですよ」

 「まるで封建社会だ。膠着して停滞するしかない社会ですな」

 「それで、国籍法を改正して、父親が認知すれば外国人に日本国籍をって?」

 「DNA検査もなしに?」

 「人権と道徳的な理念ですよ」

 「なんの繋がりもない外患誘致で、日本亡国でも目指してるのですか?」

 「淀んだ水は腐るだけだ」

 「清水に泥を投げ込んでるように思える」

 「まるで革新派に家族愛と郷土愛がないと言ってるように聞こえますが」

 「個人主義と自由主義と権利ばかり、家族愛や郷土愛はどこあると?」

 「現状の格差社会で無能な保守層と、困窮の革新層の溝は埋まらないのでは?」

 「なぜ、保守層が無能と言われる」

 「選挙で負けたでしょう。あれは、革新が勝ったのではない」

 「利権構造と癒着した族議員」

 「権力の世襲化を目指した二世議員、三世議員」

 「天下りとコネによる政官財が膠着したカースト社会に国民が嫌気を指したんですよ」

 「保守が勝手に負けた。自滅なんですよ」

 「革新だって、ろくなことができないではなですか」

 「霞が関の特権屑官僚どもの利権を破壊しない限り日本再生は不可能ですな」

 「一貫した行政機関は、国家運営で必要なんですよ」 官僚

 「保守が行政改革できなかったので、革新に政権が渡ったのですよ」

 「今こそ、平等と公平な社会の実現を目指すべきです」

 「社会を平等公平にしたからと言って、国や国民が幸福になると限らないでしょうが」 保守

 「国民がもっとやる気を出さなくては」

 「個人主義の国家ならそういう言いようもあるでしょうが」

 「権威主義の強い国では国民のせいにできないでしょう」 芸能人

 「権威主義だからって個人の芽を必ずしも摘むわけではない」

 「あなたの意に沿わぬ部下にもそういうのですかな」

 「組織はまとまってなくてはな」

 「そうやって、組織ごと腐っていくわけですな」

 「いま日本に必要なのは、保守でも革新でもなく、維新ですよ」 地方議員

 「統一感のない国家など諸外国の餌になるだけだ」

 「封建的なまでに癒着した侍階級に当たる醜悪な層の権威を崩さなければ日本再建など覚束ない」

 「なんのことを言ってるのかわかりませんな」

 「カーストで膠着した社会で、搾取率が高すぎるといってるのですよ」

 「権益から外れた大衆は、職もなく貧困に喘ぐ奴隷にされてるじゃないですか」

 「公共サービスは必要なのです。当時の侍階級とは公共福祉の次元が違うでしょう」

 「それはどうですかね」

 「何かするたびに通行税を取るかのような行政で官僚の天下り先になってるのでは何もできませんよ」

 「もっと経済重視で積極的な政策が必要では」

 「誰得ですか? 貧富の格差が広がるだけでしょう」

 「広げてるのは革新ですよ。賃上げで格差社会が広がってるんです」

 「産業利権と癒着した族議員を何とかしてほしいものですな」

 「官僚の天下りもですな」

 「なぜ、天下りをやめさせられないのです?」 芸能人

 「大臣に官僚をクビにできる権限がありましたっけ?」

 「そんな権限・・・国民は全力で抵抗しますよ」 官僚

 「国民というのは、あなたの周囲にいる仲間内では?」

 「なにを馬鹿な・・・」

 「この国難にあって、公僕が保身ばかりでは困りますな」

 「政治家は地位と権力のためなら魂どころか、国益や民益だって売る人間ですから」

 「官僚だって権威主義じゃないですか」

 「財界のように拝金主義でないだけましです」

 「どこが!」 財界人

 “ちゃんちゃんちゃらんちゃん〜♪”

 「時間となりましたので、今日はここまでです」

 

 

 08月15日

 打ち上げのサロンバスに関係者たちが乗っていた。

 「「「「乾杯〜!!!!」」」」

 「いや、今日は良かったですな」

 「このくらい争えば危機感で支援金が増えると思いますよ」

 「そうそう、そうですとも」

 「これからもよろしくお願いしますよ」

 「お互いに」

 「「「「あはははは」」」」

 !?

 きゅー!きゅー!

 ガシャン!!!

 

 “本日、未明”

 “ガソリンを満載したタンクローリー車が各界の代表者を乗せたサロンバスに衝突し”

 “火災が発生しました・・・”

 

 11111111111111111111111111111111111111111111111111

 

 とある町

 7人の男たちが歩道にたたずんでいた。

 「貴様! 何やってる」

 軍人風の男が睨んでいた。

 「「「「・・・・」」」」

 「歯ぁ 食い縛れ!」

 「えっ」

 ばきっ! ぼこっ! ばきっ! ぼこっ!

 「い、いったい、何を・・・」

 「なにするんですか?」

 「なにをぼんやりしてるか、さっさと作業せんか!」

 「作業?」

 「なんでこんな服を着てるんだ」

 「寝惚けるな!」

 「まったく、寸暇を惜しんでお国のために働こうと思わんのか。嘆かわしい」

 ビルの壁に 『挙国一致』 『五族協和』 『王道楽土』 の垂れ幕が垂れ下がっていた。

 「こ、ここはどこだ!」

 「確かバスに乗っていたはずだ」

 「み、みんな国民服のようなの着てるし・・・」

 「町の様子も、車も、なんか、変じゃないのか」

 きゅらきゅらきゅらきゅら

 90式戦車が四つ角を曲がって現れる。

 「戦車がこんな街中に」

 「に、日本語を使ってるから日本だよな」

 「貴様! 何を言ってる」

 「「「「・・・・」」」」

 「もう一度、歯ぁ 食い縛れ」

 「えっ」

 ばきっ! ぼこっ! ばきっ! ぼこっ!

 「ま、また。何を・・・」

 「なにするんですか?」

 「馬鹿者! なにをぼんやりしてるか、さっさと作業せんか!」

 「作業?」

 「は、はい」

 一人が傍にあったシャベルを持つと土を一輪車に載せる、

 残り者も近くの土木道具で仕事を始めた。

 『ふっ 日本人だな・・・俺たち』

 『なんか、暴力と権威に弱いんだよな』

 『だけど、俺たちは、どうしたんだ?』

 『わからんが、どこかの世界に飛ばされたんじゃないのか』

 『『『『そんな・・・』』』』

 「やぁ おじさんたち、びっくりしたかい?」

 シルクハットをかぶった少年が塀に腰掛け、大人たちを見下ろしていた。

 「お、お前は、誰だ」

 「ぼくは、阿頼耶・識(あらや・しき)。案内人だよ。右翼のおじさん」

 「ど、どういうつもりだ」

 「この世界はね。右翼のおじさんの理想だよ」

 「ば、馬鹿な。俺が、こんな社会を望んでなんかいるものか」

 「ふっ 最悪だな。右翼のおじさん」 革新

 「全体主義は右でも左でも権威と画一化を強要するからね」

 「「・・・・」」

 軍人風の男が駆け寄ってくる。

 「第235予備小隊。右橋 義男 (うきょう よしお)」

 『いったい誰の名前だ』

 『お前のことじゃないのか。お前に渡そうとしてるの赤紙だろう』

 「返事をせんか! 徴兵は勅命だぞ」

 「は、はい!」

 「佐藤 共矢 (さたけ きょうや)」

 「はい!」

 「祭 政義 (まつり まさよし)」

 「はい!」

 「星菜 功 (ほしな いさお)」

 「はい!」

 「白金 豊実 (しろがね とよみ)」

 「はい!」

 「文弥 公紀 (ふみや こうき)」

 「はい!」

 「荒邦 安武 (あらくに やすたけ)」

 「はい!」

 「お前たち、7人の第4師団第7連隊第12歩兵大隊への入隊が決まった」

 「ただちに、送迎のバスに乗って出頭せよ」

 「「「「・・・・」」」」 茫然

 

 送迎バスは囚人バスのように窓枠が金網によって囲われていた。

 運転手と憲兵以外に、乗ってるのは7人と、もう一人・・・

 「おじさんたち、よかったね。前線行きだよ」

 少年だけは誰の目にも見えていないようだった。

 「おい、小僧。俺たちをどうするつもりだ」

 「僕は、阿頼耶・識(あらや・しき)だよ。おじさん」

 「冗談じゃない、元の世界に帰してくれ」

 「あれ〜 覚えてないの〜 タンクローリーに衝突されて・・・火事になって・・・・」

 「そ、そんな・・・そんな馬鹿な・・・」

 「まぁ 頑張って生き残りなよ」

 「普通、こういう場合、将校とかに転生するんじゃないのか?」

 「普通?」

 「ほら、架空戦記とか」

 「なんのことか・・・ああ・・・そういう・・・」

 「将校なんて、一握りしかいないんだから、当たる確率は低いと思うよ」

 「降ろしてくれ、俺は軍事知識は高いんだ。役に立つんだ」

 「おい、そこの馬鹿! 黙ってろ。反逆罪で銃殺されたいのか!」

 「そ、そんな・・・馬鹿な・・・」

 

 

 兵舎

 「おい、鏡を見たか? 俺の顔が別人になってる」

 「俺もだ」

 「ということは、7人だけ、むかしの容姿に見える」

 「じゃ この世界の住人から見たら俺たちは、違う人間になってるのか」

 「若くなってるのはいいけど」

 「新聞によると。この世界の同姓同名の俺は、海軍少尉らしい」

 「会いに行かないのか?」

 「会いに行けたら行くだろうけどさ、共通点はほとんどなさそうだな」

 「共通点がないと駄目なのか」

 「つまりだ。俺がお前だって証明できない」

 「「「「・・・・」」」」

 「出征の前に親と面会できるらしいけど」

 「ついでに逃亡してぇ」

 「脱走防止で兵舎内に歓談室が完備されてるし」

 「隣組制度が復活しているから不審者がいたら即通報だ」

 「つか、親なんて知らないぞ」

 「だよな」

 「なに話していいんだか」

 「適当に親に合わせとけ」

 「「「「・・・・」」」」 ため息

 

 

 大陸の一角、

 砲声と爆音が地平線の彼方まで響いていく、

 広い原野に防衛線は、1つしかなく、星菜。文弥の2人は戦死し、

 右橋、佐藤、祭、白金、荒邦の5人は塹壕に籠っていた。

 無人輸送機が野戦食のレーションと弾薬を補給すると帰っていく、

 「あっ あんな離れたところに・・・」

 「し、白金。行くぞ」

 「ああ」

 祭と白金が塹壕から飛び出すと、補給物資の入った箱を抱えて戻ってくる

 ばーん!

 「白金〜!」

 胸から鮮血が飛び出し、

 スローモーションのように白金は倒れた。

 どさっ!

 「白金!」

 祭は、補給物資を持って塹壕に飛び込むと頭を抱え震える。

 「白金は?」

 「駄目だ。動いてない、死んでる」

 「俺たちは捨石のようだな」

 「なんでこんな目に合うんだ」

 「このままじゃ 本当に死んでしまう」

 「もう、3人死んでるからな。俺たちだって」

 「訓練で2人。実戦で1人が死ぬんだから、徴兵なんて頭数だけだ」

 「なんで、こんなわけのわからない世界で死ななければならないんだ」

 「君の大好きな、お国のためだろう。右橋君」

 「佐藤。この世界の名前で呼ぶな!」

 「いやだ。こんな世界は嫌だ。こんな世界で死にたくない」 祭が涙ぐむ

 「人間は誰でも死ぬんだよ。遅かれ早かれ・・・」

 不意に現れたシルクハットの少年が話しかけた。

 「小僧・・・」

 「た、頼む、元の世界に戻してくれ」

 「無理だよ」

 「そろそろ、最後かな・・・」

 「君たちの犠牲は開戦の口実になるんだ」

 「なぜ?」

 「愛国心だよ。君は国が戦争に勝てばいいんだろう・・・」

 「馬鹿野郎! 俺が死んだら何にもならんだろうが!」

 !?

 赤い閃光が前線を照らし、炎が大地を焼き、キノコ雲が立ち上っていく

 

 

 2222222222222222222222222222222222222222222

 どこかの町

 右橋、佐藤、祭、星菜、

 白金、文弥、荒邦の7人は同時に座り込んだ。

 「「「「・・・・」」」」

 「なんだ? 生きてる?」

 !?

 「星菜。文弥。白金・・・」

 「お前たち、死んだんじゃないのか?」

 「お前たちも死んだのか?」

 「死ぬほど痛かった・・・撃たれて死んだと思ったけど」

 「お前たち、いつ死んだんだ。俺はすぐここに来たような気がするが」

 「死んで何か月たったかなんてわかるのかよ」

 「わ、わからんけど・・・」

 「ここはどこだ」

 町のそこかしこに銅像がつくられ、

 日の丸の真ん中にカマとハンマーの模様が描かれていた。

 「共産主義かよ」

 「最悪ぅ〜」

 「素晴らしい」

 「ああ、素晴らしいね。俺たちの仕事は道路工事らしいぜ」

 「また道路工事かよ」

 「誰が考えたんだよ」

 「憑依する相手くらいランダムに変えろよ。創作力のないやつだ」

 「悪かったね。創作力がなくてさ」

 前回同様、シルクハットの少年が塀に座っていた。

 「頼む、元の世界に戻してくれ」

 「事故起こした世界に?」

 「「「「・・・・」」」」

 “団結です。市民の皆さん。共産党人民政府のため団結しましょう”

 宣伝車が走っていた。

 「この陳腐な共産党イメージもどうにかして欲しいよ」

 「へぇ 佐藤。お前の共産主義は、もっとましだっていうのか」 右橋

 「この世界の名前で呼ぶな。俺は社会主義だ! 共産主義じゃない!」

 「嘘は多数派を装って100回以上叫ばないと効果がない」

 「しかも騙せるのは馬鹿だけ」

 「本当は多数派装う必要ないし1回で効果あるからな」

 「・・・・」

 「できればもっとましな仕事をしたいもんだ」

 「そうそう」

 「こんな下層からじゃ這い上がれねぇ」

 

 

 集合住宅 食堂

 「今日の配給はこれだけか」

 「餓死しろってか」

 「私財が認められないと競争しなくなる」

 「当然、余計に働くのは損だから努力しなくなるし、人より怠ける」

 「結果、生産された総量を党幹部が搾取し、残りを頭割りするとこうなるわけだ」

 「そういや、盗難事件が増えてるな」

 「俺は、歯ブラシを取られた」

 「そんなもの盗むのかよ」

 「「「「・・・・」」」」 ため息

 「どの世界でも同じだよ。上は美味しい目を見るし」

 「俺たちは、死ぬまで囚人のように働かされるんだ」

 「「「「・・・・」」」」

 

 

 その夜

 どん! どん! どん!

 「祭 政義! いるか」

 「は、はい」

 「国家反逆罪の疑いで連行する」

 「そ、そんな。どうして」

 「来い」

 「そんな。みんな助けてくれ」

 「「「「・・・・・」」」」

 「申し開きは、人民裁判でするんだな」

 「銃殺が強制収容所に減刑されるかもしれんしな」

 「俺は何もしてない、共産党に逆らうなんてしてない、嫌だ!!!」

 「助けてくれ、みんな、仲間だろう!」

 「「「「・・・・」」」」 ふるふる

 祭は秘密警察に連れて行かれる。

 「な、なんだよ」

 「言論の自由もないのか」

 「共産主義国家だからね」

 「「「「・・・・」」」」 ため息

 

 

 処刑場

 「「「「・・・・・」」」」 ため息

 「どうした。右橋。帰るぞ」

 「佐藤か・・・見ろよ。次に引き出される男」

 男は手錠で丸太に固定され、目隠しされようとしていた。

 「・・・右橋。お前に似てるぞ」

 「俺に似てるか。俺は自分の顔を忘れそうだったよ」

 「鏡見ても別人の顔だからな」

 「だが、むかしの名前だからすぐわかった」

 「右翼のお前が、この世界じゃ共産党幹部か・・・わからんもんだな」

 「ふっ 泣いて懇願してるし、我ながらみっとも無いな」

 「成り済まして悪さできたんじゃないのか」

 「この世界の住人が見る俺たちの姿は、鏡で見た姿だ。無理だろうよ」

 「あ、そうだった。俺たちと見え方が違うんだ」

 「しかし、公開処刑なんて・・・」

 「佐藤。共産主義で権力闘争に負けたら人民の敵で・・・」

 ばぁーん! ばぁーん! ばぁーん! ばぁーん!

 「「・・・・」」

 

 

 

 病院のベット

 頬はこけ、髪は白髪ばかり。

 栄養失調気味で、病気を併発しても満足な薬もない、

 「おじいちゃん。大丈夫?」

 「ああ、わしは長くない、自分の心配をしなさい」

 「ちゃんと食べてるのか」

 「昨日、卵御飯の配給があったよ」

 「そうか、そうか、よかったな」

 「僕の友達が外国亡命しようとして殺されちゃったんだ」

 「そうか。かわいそうなことをしたな」

 「だけど、友達なんて人には言うもんじゃないぞ」

 「うん、わかってるよ。おじいちゃん」

 「そうか。わしはもうじき逝く、仲間の中では最後だ」

 「お前はこの世界でしっかり生きるんだぞ」

 「うん」

 シルクハットをかぶった少年がベットの足元でほくそえんでいた。

 すぅーーーーー

 

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 どこかの町で7人は同時に座り込んだ。

 「「「「って、またここかい!!!」」」」

 「権威の次は、平等。次は・・・」

 華やかなイルミネーションが街を飾っていた。

 「・・・資本主義っぽいな」

 「じゃ 実力と能力があれば伸し上がれるかも」

 「それはどうかな」

 「競争社会は、弱者を踏み躙るからね」

 「お金は、手の届かない雲の上を回遊している」

 「降りてもすぐに吸い上げられる仕組みになってる」

 「そうだろう。白金さん」

 「・・・・」

 「よぉ 荒邦。どうした。元気なさそうだな」

 「長生きすると、いろいろしょぼくれんだよ」

 「あはははは、共産圏で、どのくらい生きたんだよ」

 「おじいちゃんだったな」

 「そりゃ生き地獄だな」

 「弱肉強食の資本主義か、自殺しなければ長い人生になりそうだな」

 「「「「・・・・」」」」

  

 

 公園

 ホームレスたちは、役人に追い出されていく、

 「くそっ! どこで寝ろってうんだ」

 「なんか、みじめだな」

 「資本主義は格差社会だからな」

 「お金持ちは小指一つで数十億を動かす」

 「俺たちは、死ぬまで住所不定のその日暮らしか」

 「お前、江戸っ子は宵越しの金を持たねぇっとか言ってなかったか」

 「冗談じゃない。そんなの野垂れ死するだけだ」

 「残飯漁りに行こう」

 「おい、白金・・・」

 「どうせ顔が違うし、もう、恥も外聞もないよ」

 「白金。お前に期待してるんだぞ」

 「資本主義社会で庶民は擦れてるからな。隙がないんだよ」

 「「「「・・・・」」」」

 「星菜。お前。元歌手だったよな」

 「引退して何年てったると思ってるんだ」

 「だいたい、元の声帯と違うし」

 

 

 

 資本主義社会では、金の9割が富裕層から回ってくるため、

 寡頭化が進むと、個人商店は対抗できず個人商店が潰れ、

 カルテルが作られると物価が上がり貧富の格差が広がり、

 一般庶民は生活が苦しくなっていく、

 拝金主義が強まるほど利権構造は強まり、

 不正と腐敗が雪だるま式に増え、

 権力層は安価な支持基盤のため外国人を雇用し、

 犯罪と弱者淘汰が増加し、社会正義が喪失し、

 人々から倫理観と愛国心が失われていく、

 こういうときウケる寄生産業があった。

 一つのグループが、企業の誹謗中傷を繰り返し、

 もう一つのグループが企業を助ける仲介をする。

 これは著名人や有力者個人でもいい、

 飴と鞭の自作自演なのだが、用心棒代わりで収入が入る。

 これを繰り返せば、ある程度金になり、パイプができたら仕事にもなる。

 結構、非道なので主義者や外国人が雇用されることが多く、

 ヤクザな仕事だが、表向き別の名称で呼ばれている。

 やり過ぎると大手に睨まれ、縄張りを荒らしたと潰されるか組み入れられる。

 「・・・という仕事はどうか?」

 「「「「・・・・」」」」

 「なんだよ」

 「もう少し、真っ当で誇れるような仕事はないのか?」

 「あんな、お前ら・・・」 ため息

 

 

 資本主義が強まるにつれ貧富の格差が強まる。

 政治力も官僚の杓子定規も経済至上主義の波に押し流され、

 国民は、政官財に絶望し、解放軍の来襲を待ち焦がれていた。

 敵国が攻めてきたとしても国民は銃を手に取ることはなく、

 富裕層特権層が同じ目に合うこと喜びさえするだろう。 

 社会は、それほどまでに荒んでいた。

 

 祭ラーメン屋

 割のいい阿漕な仕事ではない、

 結局、仲間たちの賛同は得られず堅気仕事。

 しかし、苦労は多いが引け目の少ない生き方も悪くなかった。

 「毎日、毎日・・・と・・・」

 「なになに・・・中国が強襲揚陸艦12隻目を建造か・・・」

 「国民の大多数が貧困層で、富裕層と権力層を憎悪してるからな」

 「自衛隊も士気が低下してるし」

 「あと・・・3隻くらい建造すれば日本を占領できそうだな」

 「日本はもう駄目か・・・」

 「ん?・・これ、俺か・・・」

 新聞を見るとむかしの顔の男がサッカーの監督になっていた。

 「そうか・・・この世界の俺は、サッカーの監督か・・・」

 がら〜〜

 「へい、らっしゃい!」

 「おうおう、この店立ち退いて貰おうか」

 「えっ」

 「立ち退かなかったらどうなるか、わかるよな」

 お客たちが逃げ出していく、

 「そ、そんな。ようやく借金して、ここまで軌道に乗ったんです」

 「この地区に開発がかかったんだよ」

 「出て行ってもらうしかないな」

 「これが支度金だ」

 「そ、そんな。これじゃ借金だって返せない」

 「知ったことじゃねぇんだよ」

 「さっさと出て行かないと、暴れちゃうぜ」

 「・・・・」

 「この地区から出て行けよ」

 「ううぅぅわぁあああああああああ〜」

 「おっ この野郎、刃物なんて出しやがって、ただで済むと思うなよ」

 「うるせぇ この店はな、やっとの思いで、やっとの思いで立てたんだ」

 「潰されてたまるか!」

 ぼこっ! ばきっ! ぼこっ! ばきっ! 

 店長は袋叩きにされ、

 横でシルクハットの少年がラーメンを食べながら微笑んでいた。

 

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 どこかの町で7人は同時に座り込んだ。

 「「「「またかよ・・・」」」」 ため息

 「今度は、どういう世界だろうね」

 銃声の音が響いた。

 「・・・あまり良さそうな世界じゃなさそうだな」 

 「カジノじゃないのか。あの店」

 「なんか、ヤクザな世界だな」

 「官僚が弱いから無法者の統制がきかなくなるんだ」 文弥

 「官僚が善人とは限らないだろう」

 「ふん!」

 「ていうかさ。上がりって、ないのかよ。俺たち」

 「あのクソガキに聞いてみろよ」

 シルクハットの少年は、いつもの場所で、ほくそえんでいた。

 「おい、クソガキ、いつになったら上がれんだよ」

 「死んで楽になりたいんだ」

 「当たり前だ!」

 「輪廻転生は世の理だろう」

 「じゃ いまおれたちは輪廻転生してるのかよ」

 「んなわけあるか! 時代が変わってないだろうが」

 「あはははは、冗談」

 「冗談で済むかクソガキ!」

 「僕には阿頼耶・識って名前があるんだ」

 「小僧は、なんでこんなことやってるんだ」

 「縁だよ」

 「縁ってなんだよ」

 「阿頼耶・識の縁さ」

 「わかるか!」

 「因は人の願望だけど」

 「人って誰だよ」

 「さぁてねぇ」

 「お前になんの力があるんだ」

 「親はどうした」

 「今回は質問が多いな。おじさんたち」

 「もう、飽きてんだよ」

 「それは、全体の願望じゃないけど生活環境で現れる個体の心境ではあるね」

 「てめぇ とぼけてると・・・」

 「ふっ・・・」 すぅ〜

 「って また消えちまったよ・・・」

 工事現場の監督がやってくる。

 「おい、お前たち」

 「は、はい、仕事してますから」

 「い、いや、そうじゃなくてな・・・」

 「「「「「・・・・」」」」」

 「ここだけの話しなんだが・・・」

 きょろきょろ

 「お前たち、ハクをつけたくないか?」

 「ハク?」

 「そのぉ・・・・なんだ・・・」

 「この前、バーで爆破事件があっただろう」

 「それで、兵隊集めたがってるやつらから口きいてくれと頼まれてな」

 「お、おれは、関係ないんだけどな」

 「まぁ 気が向いたらでいいんだが・・・」

 「お、おれ、やります」

 「おい」

 「お、文弥。やってくれるか」

 『お前、官僚だったくせに』

 「・・・やる」

 『だけど、ヤクザなんて』

 「こんな仕事やってたって、埒が明かねぇだろう」

 「「「・・・・」」」 こくん

 

   

 

 夜の繁華街で ばぁーん! ばぁーん! 銃撃戦が繰り広げられていた。

 「星菜。急げ!」

 星菜は、茫然とビルの壁掛けテレビを見ていた。

 「急げ」

 「ああ、俺があそこにいた」

 「ん・・・ふっ お前、ここでも芸能人か」

 「漫才師か・・・歌は駄目だったんだな」

 ばぁーん!

 ぐふっ!

 「くそっ!」

 ばぁーん!

 刺客が倒れた。

 「星菜。しっかりしろ!」

 「右橋、佐藤、文弥。俺はもう駄目だ」

 「腹に当たっただけだ。病院に行けば何とかなる」

 「ふっ この辺の病院は、連中の縄張りだろう」

 「し、しっかりしろ! 星菜!」

 「し、死ぬ前に言い残すことがある」

 「なんだ」

 「阿頼耶識を辞書で調べろ。あいつは・・・」

 がくっ!

 「星菜!!!」

 !?

 ばぁーん! ばぁーん! ばぁーん! ばぁーん!

 

 

 

 工事現場

 土方を続けた祭、白金、荒邦の3人は、日本酒を飲み、

 七輪でイカとかまぼこを焼いていた。

 しがない人生で唯一楽しめる時間でもあった。

 「毎日毎日、きつい仕事ばかりで腐るよな」

 「あの4人は羽振り良くなっているんだろうな」

 「この前、星菜に逢った時、車に乗って横に女乗せてたぞ」

 「いいよな」

 「人騙して、人から奪って、人を殺して生きる生活がいいのかね」

 「昔やってたけどな」

 「一度、加害者になると証拠を隠滅するまでやめられなくなる」

 「そうそう。気が狂ったようになって相手を追い詰めてね」

 「おっと、いけね。木炭の火が弱くなってる」

 「もうすぐ焼けるから、その辺の新聞を千切って少しずつくべとけよ」

 「真っ当に愚痴りながら生きるのとどっちがいいかだね」

 「自分でした選択だろう」

 「荒邦・・・・」 

 「・・・・・」

 「荒邦、新聞は・・・」

 「ああ、あいつら4人とも抗争で死んだらしい」

 「なんだと、半年でか」

 「ほれ、読めよ」

 「「「「・・・・」」」」

 「よ、4人とも撃ち殺されてるじゃないか」

 「1人くらい生き残れよ。手抜きしやがって・・・・」

 「下っ端は弾除け代わりにされるからな」

 「そういうの知ってるやつはヤクザにいかないよ」

 「生き残れば幹部になれる可能性もあるが、確率の低い賭けだ」

 「宝くじで当たるより確率高そうだが」

 「宝くじよりパチンコで勝つ方が確率は高いだろう」

 「イカサマパチンコで勝つより競馬で勝つ方が確率高いね」

 「馬鹿じゃなければ普通に商売して成功する方が賭け事より確率高いと思うが」

 「嘘ついたり騙し取ったり、搾取したりは変わらんがな」

 「元手があれば商売やってもいいね」

 「しかし、生きていくだけで精一杯でそんな金ないだろう」

 「一番のノーリスクは、搾取されても地道に働くことだろう」

 「「「・・・・」」」 ため息

 「死んだら、どうせ、また会えそうにな気がするな。あいつらに・・・」

 「さっさと死んで楽になりたい気もするがね」

 「死んで、楽になれたか?」

 「いや」

 「生きても地獄。死んでも地獄か」

 「それが問題だな」

 「「「「・・・・」」」」

 「なぁ いつも08月15日から始まってる。時間的な進捗がないということはだ」

 「俺たちは、平行次元世界を異動してるけど同じ時代に飛ばされてるということなのかな」

 「平行次元世界か・・・確かに歴史の違う日本だからな」

 「というより、俺の理想の日本で、住むと違う」

 「そりゃ どんな世界でも上にいたら理想で、下は地獄になるだろうよ」

 「「「・・・・」」」 ため息

 

 

 鉄橋の建設現場

 祭、白金、荒邦の3人はいつものように働いていた。

 どかーん!!!

 爆風に巻き込まれて体が吹き飛んでいく、

 『何が起きた・・・し、死ぬのか』

 「死にそうだね」

 シルクハットの少年が爆風の中、かっぱえびせんを食べていた。

 『いったいどうしたんだ』

 「テロだよ」

 『テロ?』

 「別のシンジケートにとって、この工事が邪魔になったらしい」

 『それで、なんで俺が・・・』

 「自由と無法は近いからね。庶民にとって自由な社会も悪くないだろう」

 『・・・・』 がくっ!

 「自由万歳」

 

 

 55555555555555555555555555555555555555555555555555

 

 どこかの町で7人は同時に座り込んだ。

 「「「「またか・・・」」」」 ため息

 「今度は、普通っぽくないか」

 「だといいけどな・・・」

 『関東州教科書検定の独立』 『連邦厚生年金の引き受け断固拒否』

 『州軍の創設』

 「荒邦。お前の好きそうな世界だな」

 「だけど、外国人が多くないか」

 「そういえばそうだな」

 「分権で外患を利用するのは常套手段だからね」

 「中央主権でも入れてたじゃないか」

 「人権の範囲だよ。しかし、ここまで加速させるとはな・・・」

 「ほかの州では、排斥してるかもしれないだろう」

 「そりゃそうだ」

 「しかし、我が侭な大多数の国民より、政府よりの少数外国人が負担が少ない」

 「俺たちだって利用してたじゃないか」

 「ったくぅ 頭いてぇ」

 「それより、どうする」

 「なにを?」

 「生活だよ」

 「俺はこのまま道路工事を続けるけど」

 「マジかよ」

 「俺は、この繰り返し現象を考えてみたい」

 「お国ために頑張るんじゃないのか」

 「そんな気分じゃない」

 「あははは・・・」

 「お前だって、革命のために頑張るんじゃなかったのか」

 「自分のことで精一杯でな」

 「俺はこの世界の自分に合ってみたいと思う」

 「あってどうするんだよ」

 「何かフラグが立つかもしれないだろう」

 「「「「・・・・」」」」

 「マンガや小説じゃあるまいし」

 「やってみたっていいじゃないか」

 「まぁな」

 監督官が集団でやってくる

 「なにやってるニダ! しっかり働くニダ!」

 どかっ! ばきっ! どかっ! ばきっ!

 どかっ! ばきっ! どかっ! ばきっ!

 どかっ! ばきっ! どかっ! ばきっ!

 ぺっ! ぺっ!

 「お前たち白丁は、死ぬまで働くニダ!!!」

 監督官たちが去っていく、

 ボロボロの7人

 「半島人か・・・」

 「だから、あいつらは国内に入れるなって言ったんだよ」

 「上にいるときは、利用できたから便利だったんだよ」

 「庶民にとっては最悪だな」

 

 

 どこかのバー

 「よぉ おれを付け回してるのは、お前か」

 自分の顔は忘れかけている。

 しかし、確かに鏡と違う自分の顔がそこにあった。

 「仲間にしてくれないか」

 「仲間」

 「おまえ、連邦警察なんだろう」

 「な、何のことだ」

 「当局に言うつもりはないよ」

 「俺も連邦派だからな」

 「ふ〜」

 「・・・・」

 「わかった。名前は?」

 「文弥 公紀」

 「俺は、便宜上、唐津と呼んでくれ」

 「俺はお前を、公弥と呼ぶ」

 「だが、お前を信用したわけじゃないから、仲間に合わせられない」

 「構わないよ」

 「危険で割の合わない仕事になるぜ」

 「分権主義には飽きてるからな」

 「だいたい、縦割り意識の強い日本で分権したらこういう社会になると予想できるだろうに」

 「ふっ 当時は、いいと思われたんだろう」

 「西南州、東北州、北海州は、比較的、外国人が少ないそうじゃないか」

 「ああ、その辺は、外国人の排斥が進んでるな」

 「そっちは住みやすいのか」

 「さぁ 日本人同士でも少し違うと排斥する傾向があるし」

 「汚い仕事を嫌がるし甘えもあるから押さえが利かなくてな、発展はしてないな」

 「なんだかな・・・」

 「まぁ 適当な中庸で収まればいいのにそれができないところが不幸なんだろうな」

 「そうか・・・」

 「じゃ さっそく仕事を頼んでいいか」

 「ああ・・」

 

 

 図書館

 男は10冊ほど重ねられた本の前でパソコンを打っていた。

 そこにもう一人の男がやってくる。

 「よぉ 星菜。上手くいってるか」

 「ああ、荒邦か。今の状況を説明できる確証はないが、推論はできる」

 「ほぉ どんな推論だ」

 「精神分析学で説明できない深層心理が確認されている」

 「深層心理?」

 「まぁ 例えば、夢判断で蛇、剣、銃が何に当たるかだな」

 「・・・・」

 「なにか、わかるよな」

 「ああ、わかるよ。わかる」

 「まぁ 人類共有だ。それを利用して心理療法が確立されてる」

 「診療詐欺じゃないだろうな」

 「心理療法の効果は確認されてるよ」

 「それで・・・」

 「カール・グスタフ・ユングは、こう言ってる」

 「個人が経験してない先天的な構造領域が人間の無意識の深層に存在する」

 「これを集合的無意識と呼び。存在を提唱している」

 「あるいは普遍的無意識とも言うらしい」

 「そして、阿頼耶・識だが、仏教用語で人間の意識の根底らしい」

 「ほぉ 誰の?」

 「阿頼耶・識が言ってただろう」

 「阿頼耶識の縁。人の因。全体の願望とか、個体の心境とか」

 「阿頼耶識と集合的無意識は同じものだと思っていいだろう」

 「・・・・」

 「この現象を、そこから推測するとだ」

 「人類か、日本民族が共有する潜在意識の発現だと思う」

 「つまり・・・その・・・よくわからんが」

 「現代社会が様々な問題を抱えてるのは確かだ」

 「解決する手段は模索されているが利害が絡みすぎて埒が明かない」

 「それで、平行次元世界間の阿頼耶識が人員をクロスさせて送り込む合意がなされた」

 「合意って、誰の?」

 「だから、阿頼耶識の」

 「阿頼耶識って、あの小僧か」

 「阿頼耶識の一部か、それを現したものかもな」

 「本体は人が共有する集合的無意識だろう」

 「それって、こんなことができる力があるのか」

 「さぁ わからんが、整合性を追求するとそうなるな」

 「この話しは、セカイ系ってやつなの」

 「俺は専門書を読んでるんだ。そんな低俗用語。知るか!」

 ごほん!

 じーーーー!

 「「・・・・」」

 「じゃ この世界の元の住人は、俺たち7人の世界に行ってることになるのか?」

 「かもしれない」

 「しかし、それなら同じ工事現場の人間ばかりに憑依するのは変じゃないか」

 「もっとランダムになってもいいだろう」

 「まぁ その世界の住人にいちいち馴染むのは大変だがな」

 「しかし、もっといい地位になれると助かるが」

 「あの道路工事が最大公約数的な平均の地位とか」

 「かもしれない」

 「だが、俺たちは違う」

 「んん・・・そうだな・・・確かに変だ」

 「もう少し考える必要があるな」

 「まぁ 党利党略と利益誘導で政策がおかしくなるのは普通だがね」

 「俺は、これが夢ならいいと思ってるんだが」

 「それは言えるが・・・起きてるよな。俺たち」

 「まぁな」

 「「・・・・」」 ため息

 

 

 公園

 「おい、文弥が連邦派。佐藤が州派に分かれて争ってるらしい」

 「はぁ? 荒邦が大人しくしてんのに、あいつら何やってんだよ」

 「なんで俺を引き合いに出すんだよ」

 「道州制の念願達成で満足してるんだろう。よかったな荒邦」

 「おいおい、おれは道州派だけど。平和主義者でもあるんだよ」

 「「「「あはははは・・・」」」」

 「笑うな」

 「まぁ 目的達成で気が抜けて落胆すると客観的になるからな」

 「ふん」

 「しかし、人生長いよな」

 「だな・・・」

 「死ぬと。また、別の世界に行くんだろうか」

 「何度、人生を生きて得した気分ではあるな」

 「他人の人生でか。俺は他人の体で日常生活を送ることが気持ち悪いんだがな」

 「それは言える」

 「しかし、物は考えようだろう。俺たちの時間は長い」

 「死ぬ時は最悪だけどな」

 「ふっ まぁ 死ぬのは一回で十分だ」

 「それより、その日暮らしの俺たちはどうする」

 「だよなぁ ホームレスからスタートじゃどうしようもない」

 「東北州がホームレス救済法案を出し雇用住宅を建ててるそうだけど」

 「なんで?」

 「あそこ人口が少ないから」

 「なるほど、それで他州から人材を引き抜こうというわけね」

 「他州も人材を取られたら困るからあの手この手で弱者救済を検討してるらしい」

 「関東州は」

 「人材は多いから・・・」

 「まぁ 悪いこともあれば良いこともあるわけか」

 「俺は他州に行くつもりだけど」

 「そうなの?」

 「だって、ここにいても半島人に虐げられるだけだし」

 「それは言えるな」

 「関東州を出たら、何かが変わるかもしれないし」

 「それはあるかもな」

 

 

 日本は統一感が薄らいでいたがそれでも州間の行き来は多く、

 アメリカの州ほどでないにしても強い自治を持ち特色をだしていた。

 北海州 札幌

 農場で孫たちが遊んでいた。

 苦労に苦労を重ねて築いた農場は上手くいっている。

 老人二人は、炭火で焼いたトウモロコシを頬張っていた。

 「佐藤」

 「なんだ白金?」

 「もう、残ってるのは俺とお前。そして、関東州の佐藤だけらしいな」

 「3人か・・・死ぬと、また始まるのか」

 「ふっ なんか、疲れたな」

 「結局、阿頼耶識の現象を推測できても、どうしていいのかわからなかったな」

 「だが、俺たちは北海州にいるし」

 「祭も市長の自分と会ったそうだ」

 「それで何かが変わるのかね」

 「死ぬ前に外国に行く手もあるぞ」

 「そうだな」 

 「しかし、外国で死んでも子供に迷惑を掛けてしまいそうだな」

 「それくらい・・・」

 「お前が行くのか」

 「いや、やめておこう。いろんな荷を負い過ぎた」

 「そうだな・・・こういうのは若いうちじゃないと・・・」

 

 

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 どこかの町で7人は同時に座り込んだ。

 「「「「またか・・・」」」」 ため息

 「誰かこの現象を止める方法を思いついたか?」

 「「「「・・・・・・」」」」

 「ところでこの世界は?」

 「なんか、寂れてないか」

 「そういえば、雰囲気が暗いな」

 「あの銅像は?」

 「12年大統領だって」

 「「「「あはははは・・・・」」」」

 「独裁政治かよ」

 「一人以外、みんな平等なのはいいような気もする」

 「まさか、支配のため人口の一割は特権を与えて取り巻きにする必要がある」

 「そうだよな。祭」

 「俺は国民から選ばれた政治家の主導が必要だと思ってるだけだ」

 「独裁が好きなわけじゃないぞ」

 「見事な政治主導だな。銅像まで建てて」

 「俺じゃないだろうが!」

 「おい! そこ! さっさと働け!」

 「「「「はい」」」」

 

 公園

 「なんか古臭い車が走ってるな」

 「全体主義は権威と権力が至上だからね」

 「軍国主義であれ、共産主義であれ、独裁であれ、民間活力を削ぐし」

 「支配と保身で年功序列になりやすいし競争を好まない」

 「だから新規や開発を握り潰してしまうのさ」

 「そして、誰も新しいことを興そうとしなくなる」

 「しかし、そんなに偉大なのか、あの独裁者」

 「新聞を読んだけど功績は大きいよ」

 「当人はその功績を100倍に感じてそうだけどな」

 「その代償が独裁じゃ割に合わんよ」

 「しかし、独裁と言っても任期は12年じゃないか」

 「12年はいいよな。短過ぎず、長過ぎず。いろんな政策ができる」

 「そうなのか」

 「さぁ・・・」

 「少なくとも原発問題で苦しんではいないぞ」

 「外国人もほとんどいないし、良い国だ」

 「そりゃ 権力構造が利権構造より強いからさ、間違ったと思ったら強権発動で一発だな」

 「なぁ」

 「ん?」

 「俺、反乱軍と接触したぞ」

 「荒邦。マジか」

 「どうする?」

 「どうするって・・・」

 「独裁者に従って平々凡々と生きるか。反旗を翻して、生きるか」

 「怖ぇえぇ〜」

 「荒邦。その行為に正義があるのかよ」

 「放置することが悪なら戦うべきだ」

 「なに、正義のためなの?」

 「いや、なにか、変わればいいかなって」

 「そっちかよ」

 「対立や変化の結果が全体にプラスになるとは限らないぜ」

 「俺らは国民を食い物にしたこともある。なにをいまさら」

 「独裁者の悪口をいうテレビを見たことがあるか?」

 「悪口を書いた活字を見たことがあるか」

 「みんな怖がって何も言えなくなってる」

 「こんな社会が良い分けないだろう」

 「ほとんどは取り巻きの保身だよ。上に媚びてやってるのさ」

 「独裁者への忠誠が特権の保障ってわけね」

 「代償で聖域の中心から腐っていくんだろうな」

 「そして、排斥された者の憎しみは聖域の中心に向かうわけか」

 「しかし反乱と言ってもな・・・」

 「鎮圧されそうだな」

 「むしろ、権力に媚びながら軍の実権を握ってクーデターがいいと思うが」

 「こういう社会で軍に関わるのはやめとけ、取り巻きにイジメ殺される」

 「イジメなら自衛隊だって」

 「縦社会の厚みが増すほどイジメは酷くなるんだよ」

 「そうか・・・」

 「じゃ 反乱軍か・・・」

 「「「「・・・・」」」」 ため息

 「俺は国外に出てみようと思う」

 「はぁ?」

 「なんで?」

 「ちゃんと死ねるかもしれないだろう」

 「白金。繰り返しに飽きたか?」

 「俺も金を貯めたら国外に出るよ」

 「星菜・・・」

 「そうか・・・二人とも英語ができたっけ」

 「日常会話くらいだけどな」

 「独裁国家から抜け出すのは大変じゃないのか」

 「いや、海外旅行は普通にできるさ。グリーンカードも申請すればとれる」

 「なるほど・・・お前らはどうする?」

 「12年か・・・2期やったら反乱だな」

 「いや、それは憲法で禁止されてるらしい」

 「・・・・俺は、我慢してみるわ」

 「俺は・・・俺も我慢かな」

 「俺は反乱軍に入ろうかな」

 「右橋・・・」

 白金、星菜は、国外脱出を練り。

 荒邦、右橋は、職場から逃亡して反乱軍に参戦。

 佐藤、祭、文弥の3人はそのまま建設作業を続けた。

 

 

 図書館

 3人の男たちが密談していた。

 中心になっていたのは星菜から研究を引き継いだ文弥だった。

 「憑依はドイツ語のBesessenheitを英語の(spirit)possessionを語源にしている」

 「日本では憑き物と呼ばれていた」

 「憑依は、霊が取り憑くこといい、人格が全く変わってしまう」

 「多重人格とは明らかに異なる性質を持っている」

 「憑依現象が日本で認知化されはじめたのが1941年・・・」

 「文弥。どうよ」

 「んん・・・・目端の利く、星菜がいれば助かるんだがわからんな」

 「俺たちだって研究くらいできるさ」

 「平等主義者の佐藤に、権謀術数の祭に、杓子定規の俺だもんな」

 「想像力が期待できん」

 「不満かよ」

 「まぁ ぼちぼちだな」

 「ところで、ほかの4人の消息は?」

 「わからんねぇ」

 「心配か?」

 「まぁ 心配と言えば心配だが独裁は最悪だな。碌な資料がない」

 「国民に余計な知恵をつけさせないのが利口な統治だからね」

 「国は傲慢と抑圧で競争力を失って衰えるがな」

 「日本人は好きだからね。馴れ合い、事勿れ、見ざる言わざる聞かざる」

 「しかし、現象を理解しても俺たちにどういう選択があるんだ」

 「ないかもしれないが、あるかもしれない」

 「それに、有利な生き方ができるかもしれない」

 「お前の理論だと、集合的無意識である阿頼耶識の意思を変えることができればと」

 「あれは、表層的に現れた影のようなものじゃないのか」

 「そういえば、無理とか言ってたな」

 「しかし、本体に反映されるかもしれない」

 「なるほど・・・」

 「だけど、生き死にの場でラーメンやかっぱえびせんを食ってるやつだぞ」

 「あいつをどうにかするのは無理だろう」

 「だよな」

 「そうそう」

 !?

 シルクハットの少年が腕を組んで末席に座っていた。

 「「「「・・・・」」」」

 「阿頼耶・識。お前の目的はなんだ?」

 「目的と言っても軋轢の結果だからね」

 「ふっ まるで政治家のようなことを・・・」

 「適材適所だろう」

 「そんな言葉遊びを・・・」

 「じゃな・・・」

 すぅ〜

 「行っちまったか・・・・」

 「しかし、面白いことを言ったぞ」

 「ん?」

 「軋轢の結果だ」

 「それが面白いのか」

 「阿頼耶識は一体じゃない」

 「そりゃ 集合的無意識というくらいだからね」

 「つまり、集合的無意識が変わればいいんだ」

 「何が、どう変わればいいんだ?」

 「そりゃ 日本人の総意的な願望・・・」

 

 

 東京で爆破テロが続く、

 独裁に反発する者は潜在的に存在する。

 反乱軍のアジト

 「右橋、荒邦。ご苦労さん。十分休んでくれ」

 目の前にビール缶が置かれる。

 「右橋。危なく捕まるところだったな」

 「連中、時々 手を抜くんだ」

 「なんで?」

 「自分たちが独裁者の反発する民衆の板挟みだからさ」

 「敵が弱いと自分たちが縮小されてしまうだろう」

 「独裁者の取り巻きは地位と利権を守るため聖域を作って、強い敵を欲する」

 「庶民の憎しみを利用して自分を独裁者に売り込む」

 「独裁者を守る名目で危険で綱渡り的な特権を得ようとバランスをとろうとする」

 「つまり、権謀術数で殺し合うより。巨大な敵を作って、自分の聖域も大きくするのさ」

 「自衛隊もそうだけど、警察と公安もよくやってたっけ」

 「人権って便利な緩衝剤があるからね」

 「やれやれ、中枢から見逃されるとわね」

 「それだけ俺たちの勢力は小さいということだろう」

 「しかし、そのバランスが狂うと転覆させられる」

 「ロシアの共産革命みたいに?」

 「そういうこと」

  

 

 アメリカ合衆国 サンフランシスコ

 「いよいよ。アメリカで生活か」

 「しかし、白金。相変わらず、金儲けが上手いな」

 「ふっ 独裁だったから商才っ気で初心だし」

 「あの男はむかしの世界でもカモだったからな」

 「馬鹿な連中は簡単なねずみ講に引っかかる」

 「捕まる前に逃げ出せばいいだけだ」

 「まぁ 星菜のパフォーマンスも大きかったがな」

 「とりあえず。小金を貯めたからアメリカで生きていくか」

 「アメリカで死んでも同じ場所で生き返ったら日本民族だけじゃなく」

 「全人類的な集合的無意識の総意ということになるな」

 「なんで日本なのか、というのはないの?」

 「日本民族は、歴史観、文化性、単一性、言語で世界最大だと思うな」

 「中国より?」

 「あそこは個人主義でね」

 「人口は多くても、一体とは程遠くて無意識下でバラバラなのさ」

 「なるほど・・・集合的無意識の総意が働きやすいということか」

 

 

 東京

 暴動と鎮圧が繰り返されていた。

 独裁者は、大統領任期を10年に下げる決定を下し、

 暴動は鎮静化していく、

 荒邦は右橋の墓前で手を合わせていた。

 後ろに佐藤、祭、文弥が現れる。

 「荒邦。大統領任期10年で手を打ったのか」

 「ああ、あのまま戦えば、こっちが全滅していたからな。落としどころだよ」

 「そうか。これからどうするんだ」

 「日本に居づらくなったしな。白金と星菜を頼って、アメリカに行くよ」

 「お前、英語大丈夫だっけ」

 「少しは喋れるさ。元々アメリカに協力者がいたからな」

 「なにやってんだよ。元地方議員が」

 「ふっ 俺の県は、余所の県に税金を持って行かれてたからな」

 「自治権拡大は県民の総意だよ」

 「この国はどうするって?」

 「お前たちに頼むわ」

 「俺の伝手で中企業の部長ポストを3つ準備させた」

 「いいのか」

 「まぁ アメリカも日本の12年任期は面白くなかったらしいからな」

 「適当なところで手打ちにしたよ」

 「そうか」

 「まぁ 頑張って出世してくれや」

 

 777777777777777777777777777777777777777777777777777

 

 どこかの町で7人は同時に座り込んだ。

 「「「「またか・・・」」」」 ため息

 「今度は、どんな世界だ」

 「官僚の世界じゃないのか」

 「「「「つまらん」」」」

 「ハモるなよ!」

 キョロキョロキョロ

 「むかしいた日本とどう違うんだ」

 「むかしの日本も官僚国家だったからな」

 「おいおい」

 工事監督がやってくる。

 「白金!」

 「は、はい」

 「おめでとう。白金。喜べ。抽選で、地方議員が当たったぞ」

 「抽選・・・」

 「「「「・・・・」」」」

 官僚社会は、政治力を弱めるため、

 議員の2割を支持基盤のない抽選で選出していた。

 当然、企業献金も抽選議員を狙って利益誘導を行うが支持基盤とパイプがなく、

 一期のみの任期では、悪同士の永続的な相互保証が得られない、

 政財間の絆を弱めたことで、官僚政治はより強固なものとなっていった。

 

 

 喫茶店

 「いやぁ 白金のおかげで、良い目見られたよ」

 「その代り、あれこれ助けるんだぞ」

 「わかってるよ。次の世界に行ったら借りを返す」

 「今返せ」

 「あはははは・・・・」

 「次は、支持基盤を作って次は選挙で勝つんだからな」

 「特に祭と荒邦はベテランなんだから助けろよ」

 「と言ってもね。支持基盤なしで2割が新規議員じゃな」

 「なに? 問題なのか?」

 「んん・・・不透明過ぎて、政治献金が集まりにくいよな」

 「ああ、馴れ合いで利益誘導のきかない議員くらいやりにくいものはない」

 「むかしの日本より政治家の力は弱いぞ」

 「じゃ政治家は飾か」

 「というより、まともなこと言うやつが多いと角立ちまくりだよ」

 「まぁ うまみも減るな」

 「しかし、この肥大化した官僚組織を支えようとすると、国民は苦労するぞ」

 「まるで、型に嵌まった、ところてんだな」

 「連中の使ってるのは小遣い帳だからな」

 「利鞘や収益をあげることなど全く考えていない」

 「このままだと、官僚を支えるために全国民が官僚の奴隷になってしまうな」

 「官僚が自分で組織を壊さない限り、国民は下僕のように官僚に貢がされるわけだ」

 「そうだろう。文弥?」

 「ああ、そうだよ」

 「文弥。このままだと、国が破綻するぜ」

 「どうしろっていうんだ」

 「政治主導に変えろよ」

 「「「「はぁ?」」」」

 「馬鹿。分権だよ。分権」

 「おまえ・・・」

 「資本主義で活力を」

 「おいおい、金で苦労したのを忘れたのか」

 「ここは、軍拡で」

 「あほ、踏み躙られただろうが!」

 「だから人権を強化して個人主義をもっとだな・・・」

 「それなら平等な社会が一番だろう」

 「強制労働に送られたんじゃなかったかな・・・」

 「「「「「「「・・・・・・・」」」」」」」

 「「「「「「「ふっ あははははは・・・・」」」」」」

 「しかし、次の世界があるのかな」

 「えっ」

 「すでに7つの世界を回った」

 「そして、俺たちも7人だ」

 「じゃ この世界で打ち止めか」

 「そうだなぁ・・・」

 7人は周りを見渡すが阿頼耶識は現れない、

 気紛れな小僧に思えた。

 というより集合的無意識は、人の願望の本体と言えるもので、

 目的に至る明確な手段を持ち合わせていないように思えた。

 「まぁ 阿頼耶識の目的が何かわからんが、この世界じゃゆっくりできそうだな」

 「「「「ああ・・・」」」」

 

 

 図書館

 「星菜。調子はどうだ?」

 「文弥か・・・になるのは、なぜ、08月15日を出発で繰り返すのか。だな」

 「08月15日に意味があるのか?」

 「日本人の阿頼耶識と終戦は、関連があると思う」

 「12月08日でもよかったんじゃないか」

 「戦後日本人のメンタルは12月08日より08月15日が強いと思うよ」

 「なんで、俺たちなのかも興味あるね」

 「それは、俺たちが日本人の馬鹿さ加減を代表してるからじゃないのか」

 「あははは・・・」

 「笑えないよ。視聴率もあったし、阿頼耶・識が注目したのかもしれない」

 「しかし、この現象は、安易に時代の流れに乗った天罰って感じかな」

 「さぁな。阿頼耶識が集合的無意識なら、何か変化を望んでいるのかもしれないな」

 「「・・・・」」

 

 官僚は肥大化し、肥大化した組織を守るためさらに肥大化していく、

 社会経済は公共事業が中心になり・・・

 どこかの料亭

 「使い込んだ国債も庶民に振り分けられますし」

 「既に我々の層が日本資産の9割を占めてますれば」

 「大衆は我々に生かされ、逆らえますまい」

 「それに情報源も我々が握ってますし、情報操作すればいかようにも・・・」

 「うむ」

 「それでは、もう一基」

 「公益法人屋、そちも悪よの」

 「いえいえ、保安局長殿ほどでは」

 消費市場は外国産に奪われ、国内企業は衰退していく、

 年功序列と権威主義が強まり、

 庶民は官僚の顔色を伺い、

 産業は採算効率性の薄い入札に明け暮れ、

 談合によって新規参入と新陳代謝機能が失われ、

 社会資本は吸い上げられ、庶民は押し潰されていた。

 国際競争力を失って貿易赤字は大きくなって、外貨は失い、円相場は急落していた。

 日本経済は、もうすぐ破綻する。

 官僚の誰もが気付いていたが、地位と安寧を守るために先延ばしにしてきた。

 社会の活力は喪失し、国民は職がなく飢え、

 肥大化した官僚の上位3分の1は、印鑑を押す以外の仕事はしておらず寄生虫化しており、

 下位3分の2もモラルと公益性を失って害虫のように有害な存在と化し、

 膠着化し複雑化した行政によって機能不全に陥っていた。

 そして、国債で賄われてきた栄華も失われ、

 肥大化した官僚機構を支えるだけの財源もなく、官僚社会を食い止める術もなかった。

 

 6つの墓が並んでいた。

 7人は機会を逃すことなく、地位と名誉と財産を会得し、

 協力しながら派閥を強めた。

 といっても日本をどうにかできる派閥にまでは至らない。

 7人とも家族を作り、人並み以上の生活を送り、それぞれに逝ってしまう。

 これまでの世界でもっとも苦労が少なく比較的長生きのように思えた。

 最後に残った自分も長くない、

 「みんな。原発存続が決まったよ」

 「日本社会全体が利権で生活してる」

 「政府、議会、官僚、財界とも負の遺産を止める力がない」

 「国民が生きていけないというのに自浄能力すら失ったようだ・・・」

 不意に背中に痛みを感じた。

 「天誅〜〜!」

 聞き覚えのある声だった。

 振り向くと、ところどころに黒い腫瘍を作ったこの世界の自分のように見えた。

 「ち、違う・・・いや・・・もういい・・・」

 

 

 

 888888888888888888888888888888888888888888888888

 

 医師と看護婦が慌ただしく動いていた。

 「熱傷は概ね。1度から2度。軽傷です」

 「脈拍。心拍とも正常値」

 「二酸化酸素中毒もないようだ」

 「酸素呼吸器は外してもいいな」

 「救出と消化が速くて助かったよ」

 

 

 目を開けると知らない天井だった。

 「ここはどこだ?」

 「大丈夫ですか? 木島さん」

 「木島・・・ん、それは俺の名前か」

 「どうやら、軽い、記憶障害のようだ」

 「君。鏡を・・・」

 「はい」

 鏡に映る自分の容姿は酷く懐かしく、

 他人のように思えた。

 「木島さん。自分の事。思い出せますか?」

 「・・・ほかの6人は?」

 「全員無事ですよ」

 「そうか・・・」

 窓辺にシルクハットの少年が立っていた。

 医師と看護婦は少年に気付いていない。

 「夢じゃなかったのか」

 “まぁね”

 「・・・・」

 “さようなら。おじさん”

 すぅ〜

 「・・・先生。弁護士に連絡したいんだが」

 「ああ、弁護士は、確か、外で待ってますよ」

 「会えるかな」

 「君。面会謝絶の札を取っていいよ」

 「はい」

 そう、気持ちの中の何かが変わったかもしれない、

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 終戦記念作品の元ネタはクリスマスキャロルです (笑

 オマージュですね。

 今回も漢字の名前で創作力の1割を消耗してる (笑

 

 登場人物

 右橋 義男 (うきょう よしお) ← (保守 : 木島 隆 : きじま たかし)

    右翼、中央集権、全体主義、軍拡大好き、

 佐藤 共矢 (さたけ きょうや) ← (革新 : 辰並 啓太 : たつなみ けいた)

    左翼、社会主義、人権擁護

 祭 政義 (まつり まさよし) ← (政治家 : 勝木 雷蔵 : かつき らいぞう)

    政治主導の社会を目指す、

 星菜 功 (ほしな いさお) ← (個人主義 : 新城 智明 : しんじょう ともあき)

    元歌手&役者の芸能人、個人主義。実力主義。阿頼耶・識の秘密を探ろうとする。

 白金 豊実 (しろがね とよみ) ← (財界人 : 伊東 秀人 : いとう ひでと)

    IT新興企業の成り上がり社長。あの人ですよ。あの人 (笑

 文弥 公紀 (ふみや こうき) ← (官僚 : 新井 元太 : あらい げんた)

    某省高級官僚。杓子定規の堅物、官僚主義者

 荒邦 安武 (あらくに やすたけ) ← (分権主義者 : 鳥羽一樹 : とば いつき)

    地方議員。分権主義者

 

 

 彼ら7人はスクルージのように改心したでしょうか (笑

 記念作品はやめようって思ってるのに・・・

 

                         

 

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現代ファンタジー短編小説 『ヒエラルキーキャロル』