月夜裏 野々香 小説の部屋

    

 SF・金星物語 『金星のアフィリエイター』

 

 西暦2301年、

 地球は、オゾン層の減少、公害と自然環境の破壊などで生活圏が脅かされていた。

 各国とも核兵器、化学兵器、細菌兵器の応酬による実害を恐れ、

 侵略より国内弱者を間引きすることで延命し、

 生存圏確保のため、強固な防護家屋を建設し、

 有力な人間から安全な地下へと向かい、

 生存圏の可能性を海洋開発、地下開発、宇宙開発に賭けようとしていた。

 無力な者、無能な者を救済するだけの余力を失っていたのである。

 もっとも、御多聞にもれず、既得権を持つ者が有能とは限らないのであるが、

 昔からその傾向が強く、

 危機に際しても有力者は生活を変えられず、

 弱者は転落の道を辿り、生活苦へと押しやられて格差が広がる。

 彼ら強者の言い分を聞けば、

 「自分で稼いだ自分の金をなぜ他人のために使う。ふざけんな!!!」 憤々

 であり、

 貧乏人の弱者に言わせれば

 「俺たちを扱き使って、吸い上げたお金じゃないか!!!」 涙々

 である。

 これは、実社会で良くある事であり、

 支配者は、多くの場合、法によって守られている、法律使いであり。

 被支配者は、たいていの場合、法によって生かさず殺さずにされる。

 なので支配者・被支配者の立場が逆転しそうになると、

 テーブルごと引っ繰り返される。

 政治であれば解散総選挙で御破算にさせ、

 経済であれば、老害化して、追い詰められた企業が立場の逆転を恐れ、

 市場ごと潰してしまうのである。

 そして、不利な状態のまま、格差が続くのである。

 

 

 無論、開発できる国力を有することが先決であり、

 多くの後進国は、生き地獄とも言える様相を見せ、自滅するか、

 生存のため核ミサイル、化学兵器、細菌兵器による脅迫を試み、

 列強軍の反撃にあって滅ぼされていく。

 自然破壊の多くは、介入する先進国と、

 介入された後進国によって引き起こされたものだとしたら、

 理不尽なことこの上ない。

 

 23世紀は、22世紀以前とまったく違う様相を見せ、

 病死、事故死、不自然死、自然死の比重は、大きく変動していた。

 さらに各国とも地下資源を使い果たしつつあり、

 列強組合(国際連合)は、第三世界の自滅、消滅を略取分配で延命を図り、

 アメリカ、ロシア、EU、中国、インド、ブラジルは、紆余曲折を経つつも列強であり、

 日本は、メタンハイドレード産業を起こし、辛うじて列強に追随している。

 ジリ貧の地球圏内から生き残りを目指した列強は宇宙へと雄飛し、

 月、火星、アステロイドベルトへと地歩を固めていた。

 そういう時代。

 

 列強の宇宙探査と植民は、現状を打破するための賭けであり、

 絶望的な後進国の恐喝衝動と無謀さは、あまり変わらず。

 強いか弱いかの差でしかない。

 しかし、金星探査が進むと、

 地表からの上昇気流と、宇宙に近い大気層からの下降気流が複雑な潮流を作り、

 金星の大気圏に舞う希少資源が注目されはじめた。

 金星資源でもっとも有望で貴重な資源は、神経接続物質だった。

 発見者の名前カーライト・アフィリから取り、ほとんどの場合、アフィリと呼ばれた。

 アフィリは、人間の神経と無機物の結合物質であり、

 人間の感覚と支配の延長だった。

 そして、無機物のエネルギーを生体機能の維持に流用できることを知る、

 人間の消費するエネルギーは、2200Kcalもあれば十分であり、

 電力で生体機能を動かす事が可能になった。

 食料の品質と生産で、のたうち回っていた列強各国と首脳部は、目の色を変える。

 大気層に浮遊する高密度元素が次世代産業を支える資源となると知ると、

 あまり意識されていなかった金星にフローティングシティが建造される。

 調整次第では、宇宙船や宇宙服の素材として有効だった。

 そして、この神経接続物質アフィリ、

 神経接続資質があるだけあって、原始的な個性のような性質を見せた。

 採取は、電磁テーブルの吸着ポイントにタッチさせることでなされ、

 電磁テーブルのプログラム模様によって採取の成否が決まる。

 それは、さながら旧時代のホームページサイトのアフィリエイト(affiliate)と似ていた。

 そのため、神経接続物質アフィリの採取作業をアフィリエイト。

 採取作業機、作業員をアフィリエイター(affiliator)と呼ぶ。

 

 

 人類は、金星において新たなフロンティア金星大気圏を発見し、

 膨大な熱エネルギーを得た事に気付いた。

 

 金星は、高温高気圧の世界だけではなく、

 高高度においては、マイナス気圧にもなった。

 そして、大気組成。

 二酸化炭素(CO2) 〜96.5パーセント、窒素(N) 〜3.5パーセント、

 二酸化硫黄(SO2) 0.015パーセント、水蒸気 0.002パーセント、

 一酸化炭素(CO) 0.0017パーセント、アルゴン 0.007パーセント、

 ヘリウム 0.0012パーセント、ネオン .0007パーセント

 さらに希少な硫化カルボニル、塩化水素、フッ化水素、

 そして、アフィリ。

 

 学生の頃、学んだ原子の羅列が突き付けられる。

 絶対的な自然の法であり、

 想像力を誘発する数値でもある。

 人の作った法は、特権があり、聖域があり、ズルができて、誤魔化せても、

 自然の法を知らない者は、生きていけないのである。

 無論、金星のテラフォーミングのため、

 軌道上に日傘の幕やオゾン層が形成され、

 地表と大気圏に水源が開発され、植物相が形成されつつあったものの、

 惑星規模の総量は、簡単に変わらない。

 

 金星大気圏では、排空(二酸化炭素)量の概念が存在する。

1気圧

金星大気 船内 (地球29g/mol)
二酸化炭素(CO2) = 44g/mol (96.5パーセント) 窒素(N2) = 28g/mol (78パーセント)
窒素(N2) = 28g/mol (3.5パーセント) 酸素(O2) = 32g/mol (21パーセント)
  アルゴン(Ar) = 40g/mol (1パーセント)

 金星の大気圏(1気圧)では、質量比43.4g/mol対29g/molで浮きやすく、

 さらにヘリウム(He) = 4g/molが浮力材として使われる。

 船内容積が大きくなるほど、高く浮かびやすく、

 地表に近付くにつれ、気圧の差で浮力が増し、

 釣り合いのとれた高度で浮かぶ。

 高度が下がり、気圧が増すと、

 重く見えない空気の壁と言えるほど抵抗が強まっていく。

 大気は、気温が増すにつれて軽くなって膨張し、上昇気流を起こし、

 気温が低くなるにつれ、下に沈み込んでいく、

 金星の大気圏の気流の速さの秘密であり、

 地球の空気より比重の大きな二酸化炭素が押し寄せるのである。

 何はともあれ、浮遊体に一定の容積があると浮かびやすかった。

 そして、浮遊体は、対地速度で70m/sと、

 4日間で金星を1周するほど速く移動しても、気流と一緒に移動しており、

 対空速度では、100km/hを超えず、

 プロペラ機推進の最大速度も1000km/hを超えない。

 そのため、気流に逆らって、一生懸命に飛んでも、

 地表から見ると気流と一緒にすっ飛んでいる光景が見られた。

 なので、上の層フローティングシティから、下の層のフローティングシティへ、

 ハンググライダーで飛び移るレジャーも少なくなく。

 お金持ちの半透明な球体別荘ハウスが浮いていたりする。

 

 金星開発は、地表の一部にしか届いておらず、

 金星開発の中枢は、フローティングシティだった。

 国家が経営するフローティングシティもあれば、

 多国籍企業がフローティングシティを経営する場合も多かった。

 どれも、これも、巨大飛行船か、巨大キノコのような形で、

 傘の部分には人の居住区画があり、

 足の部分は、温度と気圧差を利用する発電装置だった。

 お金持ちなフローティングシティは、塔が高くそびえ、

 低温・低圧域の落差も利用して、さらに膨大なエネルギーも確保できた。

 そして、各国の権力者層が投資する多国籍企業が宇宙開発の主軸になろうとしていた。

 これは、近代兵器の破壊力によって地域同士の抗争が抑止され、

 権力者層は、弱者を置き去りにし、

 超国家を結ぶ、権力層相互協力による利益配当が大きくなったからと言える。

 多国籍企業は、金融系のユダヤ資本、華僑資本、アラブ資本、マフィア資本など、

 そして、技術製造系のドイツ系、日本系・・・

 

 フローティングシティ “飛鳥”

 巨大な飛行船に似た風船は、窒素・酸素を充満させ、

 二酸化炭素の大気層に浮かんでいた。

 そして、古典的なプロペラの飛行機が飛びまわり、

 さらに古式ゆかしい大気帆船が離発着し、

 集めたアフィリが集積されていく。

 基本的に軽いモノが上に置かれ、重いモノが下に来る構造は、地球と変わらない。

 どちらにしろ、熱→電システムの発電機は、プロペラを回して飛び、

 代金を受け取ってもう一度、出航する。

 官庁船、企業船では、あり得ないほど安全基準が疎かにされ、

 ハイリスク・ハイリターンの世界が作られていた。

 

 

 

 ゼーアドラー型大気帆走船 “舞風” の甲板。

 桐生トモハ(18)は、桐生家の廃嫡娘。

 より具体的にいうと廃妃娘といえた。

 日本の家制度において、廃嫡・廃妃の理由はいくつかある。

 素行不良、父子不和、病弱、為政者の強制。

 そして、親類縁者による下剋上、乗っ取りである。

 もちろん、不出来な娘であったことは否めないものの、

 親類縁者と大して変わらず、

 まぁ 目くそ鼻くそみたいなものだが歳が若く、してやられたという感じだろう。

 ていよく追い出され、

 舞風トモハに残されたのは、借金返済遅れで回ってきたオンボロ。

 全長100m、直径10m。大気圏帆走船 “舞風” だった。

 小型であるほど、船殻内の窒素、酸素は少なくなり、

 外郭チタン装甲は薄くなった。

 なので、酷く薄い装甲板の船で金星の大気圏を飛びまわらなければならない。

 

 地表に近いと気圧が大きく、空気抵抗も大きくなり、

 地表から離れるほど気圧が低く、空気抵抗は、小さくなった。

 気流の抵抗を受けやすい揚力の大きな大気帆船と、

 気流の抵抗を受けにくいプロペラの飛行機は、追い風を利用し、

 同じ対空速度で飛ぶことも珍しくないのである。

 そして、相対速度が同じであれば、双方を固定させ、

 飛行機を駐機させることもできた。

 舞風 甲板

 「よう、零落女。元気か」

 Fi156 シュトルヒ風の郵便連絡機に乗った優男ユーリ・エスメダル(19)が嫌みな事を言う。

 「やかましい、それより、例のモノは?」

 「そっちに渡すよ」

 筒の受け渡し、

 解析システムが作動し、認知したことを報告する。

 「桐生。いけないモノじゃないだろうな」

 「いいモノよ」

 「ったくぅ〜 捕まっても知らないからな」

 「この前、お互い相手が捕まった時、サンドイッチの差し入れをするって約束したじゃない」

 「サンドイッチだけな!」

 「男なら、コーヒーぐらい付けろ!」

 連絡機は、索具を外すと、揚力を利用して浮かび、

 翼を傾けると、流れるように後方に下がって、去っていく、

 浮遊するより、プロペラの推力と揚力で飛ぶ飛行機も全盛だった。

 

 

 船外窓を見れば、透明な空間が広がっている。

 二酸化炭素(CO2) 〜96.5パーセント、

 窒素(N) 〜3.5パーセント、

 二酸化硫黄(SO2) 0.015パーセント

 どれも無色透明な気体であり、

 金星の空に色がつくとしたら金星の赤みがかった黄色い大地と、

 地球より大きく見える太陽の当たり具合、

 海がなく、水蒸気が少ないのか、ボカシも少ないように見えた。

 大気圏帆走船も基本的にフローティングシティと似た構造であり、

 二酸化炭素より軽い窒素と酸素を船内に貯め込み、金星の大気に浮かぶ。

 船内は、植物が育成し、

 気休めなのか、酸性蒸気が酷いにもかかわらず、船外もコケ類が根を張っている。

 

 宇宙衛星から金星の大気圏気象情報が流れ込み・・・

 桐生トモハは、元同級生の弥生サワと、アフィリ採集の毎日、毎日・・・

 「サワ。例のモノが届いたわ」

 「例の・・・生物じゃないのにフェロモンって発想が微妙ね」

 「完全に無機物と言えないところがあるから。まぁ あり得るわね」

 「あとは、新型プログラムか・・・微妙だな」

 「「・・・・」」

 「どう、サワ?」

 「いまのところ大丈夫・・・・」

 「もう、取れたり、取れなかったり、生活費が大変なんだからね・・・」

 「わかってる。一歩出し抜かないと・・・」

 「あっ トモハ。熱電変換機の調子が良くないよ」

 「ええぇ〜 冗談。熱籠もっちゃうじゃない」

 「高高度で漁るしか」

 「うぬうぬうぬ〜」

 「どいつもこいつも生首しめようとするし、ほんと世の中、ムカつくわ」

 「アフィリは、地表に近い方が採取できそうですが」

 「このボロ船がどれくらい耐えられるかしら」

 「気圧の変化が大き過ぎると船体より、人体が爆発しますよ」

 「政府と企業体は贅沢な装備で安全運転。私営は、ボロボロの装備で、命懸けの運転か」

 「良く聞く話しで・・・」

 「資本主義って、どこまで腐ってんのかしら」

 「もう少し頭が良ければ、官庁船だったかもしれませんね」

 「官庁船も、学閥とコネがあるのよ・・・」

 「それより、ハッキングは?」

 「・・・これ以上は、まずいレベル・・・」

 「たのむわよ。それにかかっているんだから」

 「警察に追われるかも、ちょっと間違えましたじゃ済まないし」

 「くっそぉ〜 警察め、弱い者いじめばっかりしやがって」

 「気合い入れなさい」

 ぽち!

 

 !?

 

 炭酸は、友達

 気体は、炭酸ガス

 液体は、炭酸水

 固体は、ドライアイス

 Password |

 

 「ぅ・・・」

 「聞いてない・・・」

 「なによこれ?」

 「最後のパスワードね」

 「なんだろう・・・」

 「友達ということは、3つが関係するモノ・・・・」

 「「・・・・・・・・・・」」

 「「冷蔵庫」」

 *****

 モニターに情報が流れ、新型アフィリエイトプログラムのダウンロードが始まる。

 「電磁テーブルの改良は?」

 「ええ・・・と・・・・ええ・・・と・・・よし♪」

 「出発!」

 

 金星の大気層は100kmに及ぶ。

 高濃度の重たい雲は高度20kmで速度が遅く。

 地球で言うところの雲は高度65kmで速度が速くなる。

 太陽風に押され気体は、昼の側から夜の側に寄せ集められ、

 掠れたような雲に限れば高度95kmにまで及ぶ、

 金星の自転周期は、地球で言うと243.0187日に当たり、

 金星の一日は、やけに長い、

 太陽の当たる昼の側の大気が暖められると軽くなり、

 冷えた夜の側の大気が昼の側へと沈み込んでいく。

 そして、地表近くの熱せられた大気は、上昇気流を起こし、

 高々度の冷やされた大気が下降気流を起こしていく、

 大気の気流は複雑であり、予測するには軌道衛星から、経験から、

 蓄積された多くのデーターが必要だった。

 数十もの巨大な雷が大空を横切り、

 大地と言わず、天空と言わず、瞬時に走り薄れて消えて行く。

 日本宇宙開発省所属、金星大気圏空母 “加賀”

 全長360m×全翼幅160(全幅60m)×全高60mは、空母というより飛行船型であり、

 古式ゆかしいプロペラ推進が採用されており、

 熱→発電変換システムによって発動機が回されていた。

 もちろん、艦載機もプロペラ推進だった。

 宇宙で酸素を燃やすなど重犯罪行為とされ、

 余程の緊急避難でなければ、重い処罰が課せられていた。

 そう、金星は地球ではない。

 宇宙植民者に対する規範は厳しく、

 例え、軍事的な意味合いが強くても、

 宇宙植民者が軍の模倣し、数パーセント余計に酸素を燃やすだけで、

 酸素を燃やして収奪・略奪した分が消え失せ、

 マイナス収支となるのである。

 加賀 艦橋

 「高度50000m。船外気圧1.02。船外温度76度」

 「対地速度秒速112m。対気速度24m」

 「濃硫酸は?」

 「現在、0.002パーセントです」

 「上昇気流層は?」

 「方位12時40000mから14時方向に移動しつつあり、相対距離38000m」

 「面舵10度」

 「面舵10度」

 「1番から8番。アフィリエイターを出撃!」

 「了解。アフィリエイターを出撃させます」

 艦首発射管からアフィリエイターが打ち出され、

 魚雷型から飛行形体へ変形しつつ、乱気流へと向かう。

 無人アフィリエイターは、電磁テーブルであり、危険な乱気流に向かっていく。

 「続けて、全アフィリエイターを出撃させる」

 「今回は、上手くいくでしょうか」

 「どうかな」

 「艦長!」

 「EUの大気圏空母が接近しています」

 「なんだと」

 「9時方向、高度45000、アフィリエイターを出撃させているもよう」

 「艦名は?」

 「・・・イラストリアス型です」

 「ちっ」

 「艦長・・・」

 「戦術機動B22を展開」

 「アフィリエイターをイラストリアスのアフィリエイターの後方に付けさせろ」

 「了解」

 「EUのアフィリエイターも、こちらのアフィリエイターの背後に回ってきます」

 「向こうも、同じ結論に達したわけか」

 日本とEUの艦載機アフィリエイターは、ドックファイトを始める。

 これは、セントエルモの火と似たアフィリの性質と関わっていた。

 上昇気流と下降気流の複雑に絡む乱気流、

 その、さらに乱れに興味を示すという大気伝説。

 つまり風評だった。

 「艦長。A13号機。アフィリ採取を確認」

 歓声が上がる。

 「ほう、幸先がいいじゃないか」

 日本とEUの大気圏空母艦載機同士の激しいドックファイトは、乱気流が収まるまで続き、

 格納庫に精神感応物質アフィリが溜めこまれていく。

 

 艦橋 イラストリアス

 アフィリエイターが艦尾側から着艦し、格納庫へ送られ、

 採取基盤を装備させ、再出撃していく。

 「日本の大気圏空母 加賀 が後退していきます」

 「そうか、こちらも潮時だな。艦載機の機関に合わせて、引き揚げるとしよう」

 「艦長。そのうち、金星の大気圏で戦争になったら・・・」

 「ふっ 大気圏空母機動部隊同士の空戦になるな」

 「怖いですね」

 「まぁ 地球圏そのものが人質だよ」

 「地球じゃ 毎日、数百万人が死んでいる」

 「わざわざ、殺し合うこともなかろう」

 「艦長。私営のアフィリエイターが下降しています」

 「高度25000m。乱気流の中心方向に向かっています」

 「船外24気圧。船外温度は260度・・・」

 「おいおい、大丈夫なのか」

 「我々と違って、一発千金ですからね。勘が当たれば、ぼろいはず」

 「ついて行けんぜ」

 「人体爆発するか、賭けようか?」

 「コンピューターシュミレーションだと・・・」

 「18対82で船体破壊」

 「64対36で人体爆発です」

 「よし、人体爆発に2000」

 「俺も人体爆発の方だな。2000」

 「俺も・・・駄目な方に2000」

 「乗った! 助かる方に2000」

 

 減圧症(げんあつしょう)

 高気圧から低気圧へ移動するとき、

 身体組織と体液に溶けた気体は、気泡を発生し、血管を閉塞する。

 ゆっくりであれば、減圧症は、発症しない。

 しかし、急激な気圧変化に人体は耐えられない。

 潜水症、潜函症。

 あるいは、ケーソン病と呼ばれ、

 関節痛、息切れ・胸の痛み、骨組織の壊死を招く可能性もある。

 そして、金星では、高度0km=92気圧。高度100kmで−112気圧。

 余りの加減圧の格差に人は耐えられずに死ぬ、

 そして、表現上に的確でなくても、

 アフィリエイターは、人体爆発と呼んで恐れた。

 

 

高度(km) 気圧 (地球=1) 気温(°C)
100 -112 0.00002660
90 -104 0.0003736
80 -76 0.004760
70 -43 0.03690
65 -30 0.09765
60 -10 0.2357
55 0.5314 27
50 1.066 75
45 1.979 110
40 3.501 143
35 5.917 180
30 9.851 222
25 14.93 264
20 22.52 306
15 33.04 348
10 47.39 385
5 66.65 424
0 92.10 462

 

 ゼーアドラー型大気帆走船 “舞風”

 上昇気流に逆らうように艦首を下に向け、全速で降下していた。

 減圧計がイエローゾーンから、デットゾーンに向かって、小刻みに揺れ、

 もし、地表からみている者がいたら、

 艦首を下に向けた飛行船が、

 ゆっくり上昇しているように見えるのである。

 「あじぃいいいいいい〜」

 「焼け死ぬ〜」

 「こら、押さえろ! 人体が破裂しちゃうでしょ」 泣々

 「減圧チャンバー最大!」

 「わかってるって! あわぁ あわぁ あわぁ!」

 「死んじゃう。死んじゃう。死んじゃう〜!」

 「もう、帆を畳んで?」

 「でも、アフィリが・・・」

 「もういい、十分よ」

 帆がバタンと閉じられ、上昇が微かに収まる。

 ガタガタ! ガタガタ! ガタガタ!

 ガタガタ! ガタガタ! ガタガタ!

 ガタガタ! ガタガタ! ガタガタ!

 舞風は、全速力で上昇気流に逆らいつつ、

 ばちっ!

 船体表面の電磁テーブルでアフィリを採集していく。

 ばちっ!

 船体の電磁テーブル板が剥がれおちて行く、

 「げっ! お金が〜」

 「そんなこと言ってる場合か!」

 ばきっ!

 ひっ! × 2

 「「持ちこたえろ〜!!!!」」

 私営アフィリエイターは、命懸けだった。

 

 金星大気圏でアフィリを採集していたのは、国だけではなかった。

 一攫千金を夢に見る私営のアフィリエイターたちも増えていた。

 見舞金、慰謝料、年金を考えずに済むためか、

 太陽系多国籍企業体に雇われやすくかった。

 彼らは、命知らずであり、

 砂金採りゴールドラッシュの如く集まってきた。

 彼らの大気圏帆走船は、徐々に数を増し、

 遂には、アフィリ採集の3分の1を占め、

 金星アフィリエイトの主流になろうとしていた。

 

 

 大気圏帆船 舞風 は、フラフラ、よろよろ、

 中華系フローティングシティ “定遠” へと入港し、

 採集したアフィリを売却してしまう。

 アフィリの価格は変動制であり、

 フローティングシティによっても多少差異があるものの、

 20パーセント以内の差額だった。

 舞風トモハと弥生サワが定遠に入港したのは、やましい状態にあったからと言える。

 日本開発省、アフィリ採取技術局のメインコンピュータにハッキングしたのだから当然。

 しばらく、身を隠す必要に迫られていた。

 そう、私営アフィリエイターは、真っ当に働いて、生きていけないのである。

 必然的に警察と敵対しやすくなり、アウトローであり・・・

 

 定遠の停泊場

 ふらふら、よろよろ

 「うぇぇ〜 サワ・・・まだ気持ち悪い〜」

 「トモハ。死ぬかと思ったね」

 「へぇ〜 見て、トモハ」

 「はあ〜」

 「新型帆船よ」

 「おっ! いい〜」

 「素材が日本製か、ドイツ製だと安心なんだけどな」

 「そういうの私営のアフィリエイターに回ってくること少ないから・・・」

 「こっちに乗り換えたいわねぇ」

 「んん・・・警察から逃げる時に便利かも」

 「あははは・・・」

 「でも、今回の利益を足しても足りないわね」

 「修理費すると、舞風も厳しいかも・・・」

 !?

 不意に見覚えのある機体が駐機していることに気付く。

 「よお、桐生。珍しいところであったな」

 「ぅ・・・ユーリ・エスメダル」

 桐生と弥生は、二枚目を鼻に掛ける金髪男を嫌っていた。

 「なぁ 桐生、弥生。大気圏レースのナビやらないか?」

 「何で私とサワが、あんたと、大気圏レースやんないといけないわけ?」

 「・・・・・」

 「ふふふふ・・・賞金が1500万だからだ」

 「「・・・・」」

 その日、初めて息を飲む音を聞いた気がした。

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 170万記念作品です。

 アフィリエイトと書きましたが全然、儲かってません。

 単に金星の大気圏を舞台にした小説を書いてみたかっただけでした。

 金星で、飛行船や飛行機を縦横無尽に・・・

 どういう産業が起こせるか考えて行くうちに、

 どこかで覚えがあるような・・・

 というわけでアフィリエイターとしてしまいました。

 期待して間違って開いた方は、回れ右した方がいいかもです。

 

 2009/07/02 “アフィリエイト” の検索結果 約 73,800,000 件中 1 - 10 件目 (0.06 秒)

 いや、凄まじいです。

 このページをUPした時点の数字です。

 

 さて、金星を舞台にした。

 ゼーアドラー型大気帆走船 舞風 の零落少女の桐生トモハ。弥生サワ。

 Fi156 シュトルヒ風の郵便連絡機のユーリ・エスメダルの物語は続くでしょうか。

 

 

 

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 Venus SF story

SF・金星物語 『金星のアフィリエイター』