Book Review 『本格推理』シリーズ編

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鮎川哲也・編『本格推理6 悪意の天使たち』
1) 光文社 / 文庫版(光文社文庫所収) / 1995年5月20日付初版 / 本体価格641円 / 1999年7月26日読了

 1992年に公募をはじめ、1993年から刊行が始まった『本格推理』シリーズの第6巻。既に色々と定評がついてしまっているので今更の気はするが、取り敢えず各作品の印象を記してみる。

 紫希崎真緒「閉ざされた山荘にて」 定番の山荘もの。メインの仕掛け自体は面白いと思うのだが、見せ方が全体に中途半端。特に中盤で披露される推理には問題がありすぎる。
 吉野桜子「やさしい共犯」 北村スタイルとも云える、日常の謎解き。個人的には一番好感を持った。タイトルにある『共犯』が相談も抜きに成立している辺りに違和感が残るが、多分筆者が描き方に慣れていなかった所為だろう。
 唄川昼仁「雪かきパズル」 
山荘もの再び。比較的こなれた文章だし見せ方も悪くないと思うのだが、動機がどうも承伏できず後味が悪い。台詞の後に直接続く地の文が、普通の改行と異なり一桝開けていないのが妙に気に懸かった。何の意図があったんでしょ。
 中野隆夫「殺しのからくり」 
舞台設定も語り口も妙に時代がかりすぎて新味に乏しい。既に解かれている密室の謎、という着眼は悪くないのに、最終的な解明へのプロセスが唐突で、理屈は間違っていないにしても読者を充分に納得させてくれない。
 依早生加津朗「不思議と出会った夏」
 津島誠二作品を思わせる怪異譚。善人ばかりの登場人物のお陰で読後感は一番いい。ただ、二つあるメイントリックが別個のものとして解決されているのが痛い。その所為でミステリとしては散漫な感を与えている。
 霧条 豊「犬爺さんの事件」 
テレビで語られる恐怖体験を合理的に解決する、というもの。冒頭で繰り広げられる心理学講義や登場人物の配置が浅墓なので、肝心の謎は楽しいのだが作品としては今一つ頷けない。
 紫苑明日香「よりによってこんな時に」
 前半のテイストはミステリっぽくなく、後半に入って怒濤の推理劇に突入する。きちんと張り巡らせた伏線には感心したが、終盤は探偵役がひたすら喋り続けているだけだったので物語としての印象を薄くしてしまった。地の文の巧さをもう少しみせて欲しかった。
 羽月 崇「サンタクロースの密室」
 シンプルな文章にシンプルな謎、シンプルな解決。さらっと読めて読後感もいいし、ミステリとしても秀逸。余りに簡潔すぎてあとあと記憶に留まりにくいことと、トリックが少々解り易すぎるのが難か。
 佐藤篤史「時間収集家」
 山荘もの三度。仕掛けが何処にあるのかあっさり見えてしまう。配置したミスディレクションが浮いてしまっていたり最後に説明される動機も妙に座りが悪い。
 行多未帆子「うちのカミさんの言うことには2」
 トリックだけならこれが一番上出来だと思う。行動があからさますぎて犯人はすぐに割れてしまうが、常套から外れない堅実なプロットは評価していい(要は堅実すぎるのが難な訳だが)。ただ、このタイトルはやはり拙いだろう。肝心のカミさんがキャラとして大人しすぎるのだ。
 鮎坂雨京「午前零時の失踪」
 山荘もの四度。文学少女的に持って回った言い回しは人によって評価が割れるだろう。定番を逆手に取ったトリックは着眼だが、他に生かしようがあった筈。作中のアナグラム擬きや入れ子細工は却って邪魔。更に言うと、構成が綾辻行人の『迷路館の殺人』に似すぎである。
 小波 涼「青い城の密室」
 鮎川氏が誉めるほど文章が達者とは思えなかった(何せ冒頭でイージーミスが幾つかある)。しかし物語としての閉じ具合は屈指の出来ではないか。精神病棟や隠遁者といった、ありがちの外連味を綺麗に処理しているし。ただ、このトリックは絶対ばれると思うが。
 天城 一「早春賦」
 古参だけあって、お話としては綺麗に纏めている。通俗的なエピソードがそれなりに本格物に見えるのだ。だが、現在過去入り乱れた叙述や視点の処理は疑問。専業作家でないからか、読み手に対する配慮が全体に乏しい。読むなら読め、と言われているような錯覚に陥った。

 総評としては、兎に角書き方が皆散漫。それぞれトリックなり展開なりに愛着があるのは解るのだが、焦点が絞れていないから全体に印象が曖昧になってしまう。商品として出すからには「素人だから」という甘えは通用しないだろう。しかし作家志願が自戒の為に読む分には最良のテキスト。15巻で完結という噂も聞くが、やはりこれはこれで続いて欲しい。


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