Book Review 恩田 陸編

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恩田 陸『puzzle』
1) 祥伝社 / 文庫版(祥伝社文庫) / 2000年11月10日付初版 / 本体価格381円 / 2000年11月5日読了

[粗筋]
 長崎県沖にある見放された島、鼎島。夏の終わりにそこで三人の男性の遺体が発見された。彼らの不可解な死の謎を調査するため、関根春と黒田志土の二人の検事が鼎島に乗り込んだ。調査の道々、春は志土の口から死者達に纏わる様々な異常について聞かされる。志土のかつての友人であったという死者Aは小学校の廃墟で餓死し、死者Bは廃ビルの屋上で墜死、死者Cに至っては電気の断たれた屋内で感電死ししていた。そして、それぞれが携えていた脈絡のない記事の切り取り――まるでジグソーパズルのような事象の断片が一枚の絵となるとき、そこに浮かび上がった光景は――

[感想]
 冒頭で提示される記事の脈絡の乏しさから、何の説明もなく無人島探査に移り、次第次第に全体像が見えてくる描写の巧みさ、イメージの喚起力はお見事。IIで行われる推理そのものに無理は少ないのだが、IIIで明かされる真相に関して充分な伏線が張られていない、またその幻想的な雰囲気を差し引いてもIIIでの展開には非合理的な部分が少なくない、などによって、構想は高レベルなのだが提示されたものは散漫になってしまった、という印象。この人の場合、特に本編について言えば、「推理小説」という分類が果たして有効なのか、かなり疑問に感じた。つまり、そこに余計な拘りさえ持たなければ、素直に面白い、と言わされる物語だと思う。
 同時期に刊行された400円文庫の中で四編発表された「無人島競作」にあって、歌野晶午には「本格推理」と冠されていながら、恩田陸の本書には「推理小説」と冠してあった。――或いは編集者諸氏も重々承知の上での処置かも知れない。

(2000/11/5)


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