Book Review 高千穂 遙編

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高千穂 遙「ダーティペアFLASH1 天使の憂鬱」
1) 早川書房 / 四六判ソフト / 初版年月日未確認 / 価格未確認 / 1994年12月31日読了
2) 早川書房 / 文庫版(ハヤカワ文庫JA) / 1999年5月15日付初版 / 本体価格540円 / 1999年9月26日読了

「性格の全く異なる女の子二人が組み、無理無謀に暴れまくる」というエッセンスのみを保存し、「WWWA」などの基本設定を除いて一切が新調された、新たなる「ダーティペア」シリーズの第一作である。親本は1994年12月に刊行され、今年第三巻の刊行に合わせて既刊分二冊が立て続けに文庫化された。
 惑星アガルタの軌道上を巡る特殊施設<イコシエル>は突如として母星に牙を剥いた。ある日を境に交信を断絶し、ビーム発射口を地上に向け、二つの大都市を溶解させた。アガルタ政府の提訴を受けて出動したハマダは、身体機能と引換に、宇宙に脅かす悪意の到来を悟る。
 それから半年後、銀河連合常任理事国会議議長付最高顧問ドクター・ソロモンの推挙により、二人のトラブル・コンサルタントがアガルタに招聘された。ボーイッシュと言うより粗暴であわや少年院入りの処を拾われたケイと、自らの幸福以外は何にも見えない筋金入りのブリッ子(死語)ユリ。彼女らはその潜在能力をソロモンに見出され、まともな訓練も受けないまま即座に『薔薇十字学院』寮に派遣される。その往路、あからさまに反りの合っていない二人に、いきなり魔手が襲いかかる――
 困ったことに深川は前シリーズ未読であり(おいおい)、比較してどの程度異なっているかを語るには適格ではないのだが、それでも本シリーズが極めて魅力的である、とだけなら断言できる。本書は第一作という事もあってか主要登場人物の顔見せと設定及び世界観の陳列に終始し、エピソードとしての厚みには乏しい。だが、或る意味全く噛み合わないキャラ同士のやり取りが絶妙だし、2を読んでから見直すと既に次作に繋げる伏線が幾つも張り巡らされているのが解る。一番の魅力は、そうした些末に拘らずとも肩を凝らさずに読める、という点であろう。大らかに参りましょう。ケイとユリみたいに、な(あいつらの場合は「大雑把」か「無関心」と表現した方が適当そうだが)。

(1999/10/1)


高千穂 遙「ダーティペアFLASH2 天使の微笑」
1) 早川書房 / 四六判ソフト / 初版年月日未確認 / 価格未確認 / 1997年2月7日読了
2) 早川書房 / 文庫版(ハヤカワ文庫JA) / 1999年7月15日付初版 / 本体価格580円 / 1999年9月29日読了

 大ヒットした前シリーズのエッセンスのみを抽出し、殆どの設定を一新して仕切り直した「ダーティペアFLASH」シリーズの第2作。親本は1997年1月に刊行されており、第3巻の刊行に合わせて第1巻と続けて文庫化された。
 惑星アガルタの潰れたテーマパークを改装して創設された「薔薇十字学院」。その奥に身を潜める異界の妖魔。その存在を察知し撃退するために「WWWA」から派遣されたケイとユリだったが、莫大な潜在能力のみ見込まれて一切訓練を受けていない二人に何が出来るわけでもなく、代わりに同級生の円行とファン・スーの二人が日夜雑魚妖魔と戦い続ける日々が続いていた。そんな彼等も皆一様に一応学生であり、修学旅行なる定例行事にもちゃんと参加する。大型外洋宇宙船<ゲヘナ>に乗って、いざ惑星シャングリラへと出航する一同であったが、やはりというか案の定というか、優雅なディナーの席上、二人の船員が異形に変貌した――!
 顔見せ的色合いの強かった前作に較べると、舞台が限定されているため展開に一貫性がある。加えて、本体は骨格と推進機関のみであり、必要に応じたモジュールの接続により様々な形態を取りうる外洋宇宙船という特殊な舞台のお陰で、行程に謀略サスペンスの味わいが付加されていて、完成度は高まっている。また、前作では経験不足もあってどうも円行やファン・スーといった脇を固める能力者に食われていた主役二人だったが、状況の必然性から活躍の場が増しているのも嬉しい。謎めいた登場キャラの追加もあってシリーズとしては混迷の兆しを見せているが、いやいや、だからこそ楽しいのである。
 ただ、作者が面倒くさがったのか「薔薇十字学院」にケイとユリが送り込まれた経緯、アフリマンなどの定義について説明がかなり端折られているので、そうした省略を乗り越える自信や技量のない方は前作「ダーティペアFLASH1 天使の憂鬱」が必読である。少なくともそれなくしてはユリの性格が納得できないんでないかと思うんだが。

(1999/10/1)


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