Book Review 田中芳樹編

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田中芳樹『夏の魔術』
1) 徳間書店 / 新書版(トクマノベルス) /
2) 講談社 / 新書版(講談社ノベルス) / 2000年7月5日付初版 / 本体価格740円 / 2000年11月4日読了

[粗筋]
 大学一年の夏休みも終盤、能戸耕平は稼いだバイト代を懐に旅に出た。その途上、乗っていた電車に「よんどころない事情」とやらで無人駅に降ろされる。待たされた挙句に彼らを拾った蒸気機関車は、だが何処へとも知れぬ闇の底へ突き進んでいた。同情した人々の中に漂う不安と緊張。耕平は無人駅で親しくなった来夢という少女に奇妙な保護者意識を抱き、何やらこの奇怪事に縁のありそうな来夢を庇うようになる。やがて乗客達が降ろされたのは無限の広野。徘徊する巨大な猫に追われて辿り着いたのは、ぽつんと建つ宏壮な洋館だった。

[感想]
 トクマノベルス刊のオリジナルが、実はこの上なくお気に入りだった。私にしては珍しく何度も読み返しており、筋は大体記憶していたのだが、ホラーや幻想文学に多少馴染んできた眼からすると全般に「逃げ」を感じてしまう。徹頭徹尾オーソドックスな道具立てを選んだことを登場人物の述懐を利用して自ら揶揄しているような雰囲気があるのだ。ただ、それがちゃんとクライマックスで主人公にある台詞を発させる伏線として機能してもいて、それを理由に批判するのは些か的外れかも知れない。
 物語としても好きな作品だが、やはり本書の読みどころは次第に責任感と自分の意志を固めていく耕平の控え目な成長ぶりと、動きは少ないのに妙に毅然として愛らしい来夢の描写にあると思う。今にして思えば私にとって初めて触れた「幻想文学」のひとつでもある。そういう意味も含めて、私には否定できない作品。第四作『春の魔術(仮)』が楽しみだー!

(2000/11/4)


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