Book Review 平山夢明編
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平山夢明「東京伝説 -呪われた街の怖い話-」
1) 角川春樹事務所 刊/文庫版(ハルキ文庫所収)/1999年7月18日付初版/本体価格600円/1999年7月16日読了別名義で怪談本などを手掛けてきた著者の、やや視座を異にした「恐怖物語」集。
あとがきによれば全てが実話だそうだ。作家のそういう台詞を鵜呑みにするほど初ではないが、成る程収録されたエピソードの真実味は凄まじい。ちょっとした契機から常識から逸脱してしまった人々の奇行を目の当たりにする恐怖、携帯電話や宅配ピザといった新しい習俗がもたらす災厄など、今まで活字のメディアでは格別に語られなかった種類の恐怖が、簡潔な筆致で効果的に描かれている。尤も、雑誌や一部のムック形式の書籍などではこの手の素材は結構出ているのだが、こういう作家個人の小説形式では珍しく、その意味でも興味深く読めた。文章の組立や、てにをはの扱いに幾つか不備は認められるが、読んでいて気になるほどではない。旧来の恐怖話に飽き足らなかった向きには一読をお薦めしたい。ただし、神経の細い人は止めた方がいいです。この本の所為で強迫神経症に陥る危険もあります……それが堪能したいのなら止めませんけど。
ただ、ちょっと腑に落ちない点が一つ。文中で「転移」という心理カウンセリングの用語があるエピソードのキーワードとして使われているのだが、何だか意味合いが間違ってるような気がする。もしかして「サイコメトリー」と混同してないだろーか……?