cinema / 『13ゴースト』

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13ゴースト
原題:13 GHOSTS / 監督:スティーヴ・ベック / 製作:ギルバート・アドラー、ジョエル・シルバー、ロバート・ゼメキス / 脚本:ニール・マーシャル・スティーヴンス、リチャード・ドヴィディオ / 原案:ロブ・ホワイト / 音楽:ジョン・フリゼル / 撮影:ゲール・タッターソル / 美術:ショーン・ハーフリーヴス / 編集:デレク・G・ブレチン、エドワード・D・ワールシカ / 共同製作:テリー・キャッスル、リチャード・ミリッシュ / VFXスーパーバイザー:ダン・グラス / 特殊メイクアップ効果:ハワード・バーガー、グレゴリー・ニコテロ、ロバート・カーツマン / 特撮コーディネーター:チャーリー・ベラルディネッリ、テリー・ソンダーホフ / 出演:トニー・シャローブ、エンベス・デイヴィッツ、マシュー・リラード、シャノン・エリザベス、アレック・ロバーツ、JR・バワーン、ラー・ディッガ、F・マーレー・エイブラハム / 制作:ダークキャッスル・エンタテインメント / 配給:Sony Pictures Entertainment / 配給協力:メディアボックス
2002年アメリカ作品 / 上映時間:1時間30分 / 字幕:岡田莊平
2002年08月31日日本公開
公式サイト : http://www.13ghosts.jp/
劇場にて初見(2002/09/01)

[粗筋]
 廃車置き場に大挙するトラック、武装した人々。その中心に据えられたのは、キューブと呼ばれる幽霊捕獲のための仕掛けだった。富豪サイラス(F・マーレー・エイブラハム)はその財産にものを言わせ、ある目的を以て各地に存在する霊を収拾していた。その日、最後となるはずの12体目のゴースト“破壊者”を捕えるための罠を仕掛けたサイラスとその部下たちだったが、“破壊者”の逆襲に遇い、辛うじてキューブの中に閉じ込めたものの多数の死傷者を出してしまった。サイラスもまた、落ちてきた廃車の下敷きとなり――
 それから数日。サイラスの甥で、数学教師をしているアーサー・クリティコス(トニー・シャローブ)の許を、弁護士のベン・モス(JR・バワーン)が訪れた。道楽のために財産を蕩尽していたと思われたサイラスだったが、アーサーに対して自らがライフワークとして建築していた家を遺贈するための手続を予めモスに委ねてあったのだ。先頃妻と家財の全てを火事で喪い、十代で遊びざかりの長女キャシー(シャノン・エリザベス)と、死者の記録をテープに集める妙な趣味を持った幼い長男のボビー(アレック・ロバーツ)を抱えて生活に困っていたアーサーは、2・3回しか会ったことのない親族からの唐突な贈り物を訝しがりながらも、喜んでその話を受ける。
 モスは早速、クリティコス家で新たに雇った子守のマギー(ラー・ディッガ)も含めた一家を、車で2時間ほどの郊外にある問題の屋敷に案内した。玄関先にいた、電力会社の係員を名乗る若い男と共に入ると、それはまるで芸術のように美しい屋敷だった――壁や間仕切りの大半は謎めいたラテン語の記されたガラス張り、各所に置かれたコレクションはあまりに豪勢で、しかもドアは全て自動制御。度を超した贅沢ぶりと常識はずれの意匠に違和感と躊躇いを覚えるアーサーだが、モスは執拗に契約書にサインするよう求めてくる。
 そこへ、地下のブレーカーを点検しに行ったはずの係員が駆け込んできて、「早くここから逃げろ」とアーサーに言い放つ。彼は電力会社の人間ではなく、サイラスの悪霊蒐集の仕事を手伝っていた心霊研究家ラフキン(マシュー・リラード)だ、と告白する。ラフキンは、この屋敷の地下にサイラスが捕獲した悪霊たちが集められている、と言い、こんな家から早く出ていくべきだ、とアーサーを説き伏せようとする。
 ――その隙に、モスは地下に降りていた。彼はサイラスのしていたことを承知しており、屋敷のあちこちに転がっているゴーグルさえあれば、彼らの姿が確認できることも知っていた。平然と幽霊たちの格納されたキューブの前を通り、地下室奥に隠されていた大金を頂戴する――が、金の入った鞄を持ち上げたとき、屋敷のある絡繰りが作動した。幽霊たちを封印していたキューブの扉が、次々に開かれたのだ――!

[感想]
 ……意外にも、ヒットでした。
 本編は同じダークキャッスル・エンタテインメント制作による第一作『TATARI』同様、ウィリアム・キャッスル監督によるホラー映画のリメイクとなっている。だから、と言うべきか、小道具はところどころ現代的になっているものの、スタイルは基本に忠実な印象がある。鑑賞に同行した人物は「ホラー版新本格」と評したが、ミステリファン相手にはいちばん的を射た表現だろう。
 細かい部分部分を論うと、結構破綻した内容である。金を使い果たしたはずのサイラスがどうしてあんな大金を隠し持っていたのかとか、どうしてアーサー一家でなければいけなかったのかとか、悪霊の攻撃と可視不可視の関係が解らない(というか考えてないような……)とか、追求すればいくらでも不都合が出てきそうだ。が、そういうところまで納得ずくで作っていそうな、ホラー映画相手にしては我ながら奇妙な表現だと思うが、実に「楽しそう」な作品なのである。
 現代風にアレンジされているとは言え基本は昔を思わせる怪物たち、唐突な休演に唐突などんでん返し、そしてラストでは溜まったうっぷんを晴らすかのような劇的な展開と、茶目っ気までが待ち受けている。一種、幼い頃のおもちゃ箱を開けるような楽しみのあるホラー映画。弱点まで含めて面白かった、と言ってあげたい。
 ……こういう書き方してから何ですが、ちゃんと観れば怖いですよ、基本的なところは。

 余談。本編の主要登場人物は、どーいうわけかコメディタッチの役柄を演じてきた俳優が多い。主演のトニー・シャローブは『MIB』シリーズで毎度のように頭をぶっ飛ばされる異星人質屋の役、マシュー・リラードはアメリカでは大ヒットとなった『スクービー・ドゥー』でスクービーの相棒を、そして娘役のシャノン・エリザベスは『最終絶叫計画』に出演している。更に言えばリラードは『最終絶叫計画』でパロディの対象となった『スクリーム』で注目されるようになった俳優だったり、どこまで意図的なのかは知らないが、配役にまで妙な拘りを感じさせるのだった。

 もひとつ予備知識。制作のダークキャッスル・エンタテインメントは、製作に名前を連ねるギルバート・アドラー、ジョエル・シルバー、ロバート・ゼメキスらが中心となって設立した、ホラー専門の映画制作プロダクションである。社名からして、本編のオリジナルを制作したウィリアム・キャッスル監督に対する敬意のようにも取れる。
 彼らに限らず多くの映像作家・小説家に影響を与えたこの人物、作品自体は職人技と言うべきものが多かったようなのだが、特筆すべきはそのプロモーション手法にあったらしい。映像に合わせて劇場に本物の悪霊(を演じている役者ね、当然だが)を徘徊させたり、観客に保険をかけてショック死に備えさせたり、オリジナルの『13 GOHSTS』では今は懐かしい3Dメガネを観客に支給し、悪霊が見えたり見えなかったりを実体験させるなど、最初期に様々な趣向を凝らしたそうだ。
 本編も、日本での上映期間は短いが(予定では2週間)前夜祭と称したイベントでは、開映前に怪談を聞かせたり、映像のタイミングに合わせて悪霊を劇場内に登場させたりと、キャッスルの試みを再現してみせていたようだ。無論、一般上映ではこんな演出など用意しているはずもないが、そんなところまで踏まえて観ると色々と興味深い。たぶん基本は、お化け屋敷なのである。

(2002/09/01)


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