cinema / 『クローン』

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クローン
原題:Impostor / 原作:フィリップ・K・ディック / 監督:ゲイリー・フレダー / 脚本:キャロライン・ケース、エレン・クルーガー、デイヴィッド・トゥーヒー / 脚色:スコット・ローゼンバーグ / 音楽:マーク・アイシャム / 出演:ゲイリー・シニーズ、マデリーン・ストウ、ヴィンセント・ドノフリオ、トニー・シャルホウブ、メキー・ファイファー / 配給:GAGA-HUMAX
2001年10月27日公開
2002年02月21日DVD日本版発売 [amazon]
2004年03月25日DVD最新版発売 [amazon]
公式サイト : http://www.clone-jp.com/

[粗筋]
 惑星ケンタウリによる侵略攻勢が果てしなく繰り返され、主要な都市は悉く“ドーム”と呼ばれるバリアの内側に囲われ、人々の体内には“シムコード”という識別番号を記録した装置が埋め込まれ、完璧な管理下に民主制も死に絶えた西暦2079年の地球。幼い頃に父をケンタウリによる拷問で失ったスペンサー・オーラム(ゲイリー・シニーズ)は長じて天才的科学者となり、軍施設で爆弾兵器の開発に携わっていた。彼にとって唯一の安らぎは妻・マヤ(マデリーン・ストウ)の存在だけ。戦時という緊張下にあってそれでも安定した暮らしを送っていたスペンサーであったが、ある日友人とともに出勤すると、自分に対してだけセキュリティ・チェックが厳重となっていることを訝しむ。そんな彼の前に現れたのは、ハサウェイ大佐(ヴィンセント・ドノフリオ)――挨拶し様にスペンサーに麻酔銃を撃ち込み、拘束した大佐は、スペンサーに衝撃的な宣告をする。いまここにいるスペンサーは惑星ケンタウリが送り込んだ偽物(Impostor)であり、数時間後に来訪する議長を殺害するために心臓に爆弾を埋め込まれた生体兵器だ、と言うのである。偽物が送り込まれる際にオリジナルのスペンサーは殺害され、その記憶も感情も知識も全て屍体から抽出され移植された偽物には自分が生体兵器である、という意識もない。自分は本物だと訴えるスペンサーを無視し、大佐は彼を心臓を摘出するための機械にかけようとするが、一瞬の隙を突いてスペンサーは逃亡する。スペンサーは妻が働く病院を目指す。マヤに会い、病院に保管されている生体データと自分の肉体とを比較し、自分が本物であることを証明するために――

[感想]
 フィリップ・K・ディックの短篇を原作とした、見事なSF。他に説明も感想もありません。
 ……だけでは拙いか。しかし本当に、それしか言うことがないのね。CGと特撮とを駆使し丁寧に描き込まれた未来世界に、登場人物を絞りそれぞれの感情を簡潔にだが深く表現したストーリー、そして正統派SFらしく設定を活かしたプロットと戦慄の結末。SFで普通に面白いのはこういう奴だよな、と考えるものを忠実に再現したストイックな作り。無機質なモノトーン風の映像にしても、未来都市のイメージを美しく体現しているように感じた。――であるが故に、映画としての色気――役者の役者としての魅力や色恋沙汰、激しいアクションや目を瞠るような特殊効果――は盛り込まれておらず、一般受けはし辛い、という印象を受けた……だから、今週で終わってしまうのかもな。
 原作は短篇なので、予め読んでから、と思っていたのだが果たせなかった。そういう私が冒頭の解説部分で真相を察知できたぐらいで、読める人にはかなり早い時点でオチが理解できるだろう。しかし、それ自体は傷にはなるまい。主役級のカリスマ性や監督の知名度に依存していない、ストレートかつストイックなSF映画を求める向きには、それなりに楽しめるのではないか、とは基本的にSF門外漢の発言かも知れないが。

(2001/11/10・2004/06/18追記)


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