cinema / 『リベラ・メ』

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リベラ・メ [Libera ME]
製作:ヴィクター・ファン / 監督:ヤン・ユノ / 脚本:ヒョン・チョンヨル、ヨ・ジナ / 音楽:イ・ドンジュン / 出演:チェ・ミンス、チャ・スンウォン、ユ・ジテ、キム・キュリ / 配給:松竹、FRAP.
2001年11月17日公開
2002年03月21日DVD日本版発売 [amazon]
2004年03月25日DVD最新版発売 [amazon]
公式サイト : http://www.liberame.jp/

[粗筋]
 1人の男が、刑務所から仮出獄した。自分を虐げた刑吏に、時限発火装置の置き土産を残して――
 それから五ヶ月後。消防士のサンウ(チェ・ミンス)は業火に炙られるアパートの内部で、生存者を捜しながら放火の可能性を疑っていた。幼い少女が1人命を落とし、同僚もまた危険区域に踏み込んでの救出作業で重体に陥る大災害となったが、サンウは制止も顧みずに火元の405号室に突入、重傷者を救助する。しかし、前の相棒・インス(ホ・ジュノ)を現場で失ってから組んでいた後輩のヒョンテ(ユ・ジテ)はその無謀さについていけないものを感じ、また同僚が傷付き死んでいくのを目の当たりにし続けたことで炎に対する恐れを深く抱きつつあった。サンウは彼を思い遣り、コンビを解消する。
 かつてのインスの恋人であり、火災現場の調査員を務めるミンソン(キム・キュリ)は、火災担当刑事の冷たい対応に悩みながらもアパート火災の原因を調査する。405号室の住人は夫婦と娘1人、旦那は火災で重傷を負い病院に収容されており、ミンソンは無事だった妻に聴取を行う。だが、彼女の態度は非協力的と言うよりも何処か投げ遣りであり、火災とは別の不信感を覚える。サンウもまた、火の動きが常識と異なっていることを直感し、再び現場に赴いていた。
 折しもクリスマスが近付き、世間は活気づき始めていた。サンウらの消防署にも新人・ジュンソン(チョン・ジュン)が新たに配属され、集中治療室にいる同僚も快方に向かいつつあり幾分浮かれた気分を味わっていた。そこへ、ガソリンスタンドで小規模な火災が発生したとの一報が入り、現場の性質を考慮して複数の消防車で出動する。火災は複数の箇所で確認されていたがいずれも鎮火しつつあった。調査と消火活動に明け暮れる中で、サンウは集まった野次馬の1人に目を留める。悪い予感に襲われて、サンウはその影を追って群衆を掻き分けた。既に車道を隔てた彼方に移っていたその男――ヒス(チャ・スンウォン)は、不意にまるで祈りを捧げるかのように両腕を拡げると、唇に破裂音を刻ぶ――同時に、ガソリンスタンドのタンクが激しく火を噴いた。

[感想]
『JSA』といいこの作品といい、韓国映画のアベレージは確実に向上しつつある。大丈夫か日本映画。
 火災をテーマにした映画というとまず『バックドラフト』が思い浮かぶが、本編はそれに『羊たちの沈黙』『セブン』に類するサイコ・サスペンスの要素を加味した、と表現できよう。ただし、犯人は初めから明示されており、犯人探しの興味に主眼はおかれていない。寧ろその動機に対する疑問を描き、安月給に重傷を負っても満足な労災が降りることもない過酷な環境で極限の世界と対峙し続けねばならない消防士達の生活と葛藤とを対比させて、熱く濃密な人間ドラマを構成している。類似しているようで、前に挙げたいずれの作品とも異なったテーマを孕んでいるのだ。炎、そして犯人との対決に絡んで描かれる激しい感情は圧倒的で、呼吸することも難しく感じるほどに惹き付けられる。
 テーマが些か荷の勝ちすぎたものになった所為と言おうか、弱点も多い。放火犯・ヒスの行動原理に疑問が多いこと、キャラクターの設定はきっちりしているようなのだが、火災現場という極限が主な舞台となっている為に、消防士の殆どが十把一絡げに語られているように見えてしまい主人公以下数人ほどしか判別がつかないこと、場面移動・人物移動が性急で屡々脈絡を掴み損ねることなどなど。もう一点、こちらは意見が分かれるだろうが、ヒスの最後の行動がやや御都合主義的に見えてしまうことも弱点と捉えられるだろう。だが、そうした弱点を考慮に容れても優れた作品であるという評価は変わらない。
 爆破直前、サンウと道路越しに眼を合わせながら、ヒスが天に祈るような仕草と共に唇を微かに動かすと、同時にスタンドの背後で爆発が起きる。梯子車の残り1人の定員を民間人に譲り、背後に迫る炎を余所にヘルメットを脱ぎ煙草に火を点けようとする消防隊員。そしてクライマックス、全ての惨劇を覆い尽くすかのように聖夜に降りしきる白い粒。何より、作品を見終わったときに、作中では一度も明示されなかったタイトル“Libera ME”――“我を救い賜え”という言葉が痛切に胸に響いてくる。いっそこの題名を選んだことこそ本編が作品として成功する最大の要因ではなかっただろうか、と言いたくなる。――私が鑑賞した次の週には多くの劇場から撤退してしまう本編だが、正直勿体ないぞ。

(2001/11/24・2004/06/18追記)


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