/ 『Yamakasi』
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Yamakasi
プロデュース:リュック・ベッソン / 原案:シャルル・ベリエール、リュック・ベッソン / 監督:アリエル・ゼトゥン / 脚本:リュック・ベッソン、フィリップ・リヨン、ジュリアン・セリ / 音楽:ジョーイスター&DJスパンクfor B.O.S.S. / 出演:ヤマカシ(チョウ・ベル・ディン、ウィリアムス・ベル、マリク・ディウフ、ヤン・ノウトゥラ、ギレイン・ヌグバ・ボイエケ、シャルル・ベリエール、ロラン・ピエモンテージ)、マエル・カモウン、アメル・ディアメル / 配給:K2、日本ビクター
2001年9月22日公開
2002年03月22日DVD日本版発売 [amazon]
2004年05月28日DVD最新版発売 [amazon]
公式サイト : http://www.besson-jp.com/yamakasi/[粗筋]
早朝、25階建てビルディングの壁を黙々とよじ登る七人の若者と、彼らを羨望の眼差しで見つめる子供達。間もなくビルディングの住人からの通報で警察が大挙するが、屋上に追い詰めたと思ったときには、彼らはとうに朝靄の向こうに消えたあとだった。
問題の七人の若者はYAMAKASIの名で知られる、ストリート出身の超人的演技集団だった。都会の中で自ら危険に赴くが如き彼らのパフォーマンスは子供達を中心に支持を集める一方で、常識派の大人達や警察には煙たがられており、確たる犯罪行為には至っていないながらも警察では取り締まりの強化を打ち出していた。ヴァンサン(マエル・カモウン)は刑事ながらYAMAKASIの理解者であったが、連中のリーダー的存在であるブル(シャルル・ベリエール)を通して暫く活動を自粛するように勧めるが、ブルは聞く耳を持たない。子供が真似をして怪我でもしたら事だ、という忠告は、だが不幸にも現実のものとなってしまった。心臓に欠陥を抱え激しい運動を禁じられていた少年・ジャメルが、友人達に煽られて木登りをしている最中に転落、24時間以内に心臓移植を必要とする危篤状態に陥ってしまう。ドナー候補こそ確保できたものの、ドナーの所在はカナダ、しかも輸送費を含めて40万フランという大金が必要だった――貧困層に属するジャメルの一家に、おいそれと支払える額ではなかった。パーティーの真っ最中、ジャメルの母・ファティマ(アフィダ・ターリ)がベランダから身投げしようとしているのを窓から目撃したYAMAKASIの一同は機転により彼女こそ救ったものの、ジャメルの姉・アイラ(アメル・ディアメル)に非難され、自分たちの手でジャメルの命を守ることを決意する。
夜中、ジャメルに面会し決意を新たにするとまずYAMAKASI一同は院長に直訴するが、埒があかない。どうしても40万フランの資金を集める必要がある、と感じた彼らは、収穫の全てを手術費用に充てる、という誓いの元に初めて意識的に法を犯すことを決めた。メンバーの一人が機転を利かせ確保したリストに記載されている、病院の理事長達の自宅に忍び込んで金品を強奪するのである。ヴァンサンは合法的に解決する方法を探そうと提案するが、YAMAKASIたちの覚悟は揺るがない。そうして、YAMAKASIたちにとって本当の意味での決死のパフォーマンスが始まる――[感想]
実にシンプルな勧善懲悪もの、というより、古典的なヒーローものを踏襲したストーリーと表現である。
鍵を握るのは、YAMAKASIのメンバーは元より、心臓疾患から危機に瀕する少年とその家族もまた、フランス社会の貧困層に属している点である。ストーリー的には彼らの立場から、傲慢極まる支配者層との対立を描き、支配者層に属する人々に一杯食わせる、という格好になる。そのことを承知できないと、あまりにステレオ的な悪人――雇用者を人とも思わない官僚、金だけで命の価値を決める医師――の描写に居心地の悪さを覚えるはず。いみじくも作中で言及されるとおり、これは『七人の侍』や『荒野の七人』、もっと直裁に喩えれば『鼠小僧』のように、貧者の救済として富裕層から略奪を行う、そういう類の勧善懲悪譚をYAMAKASI達のパフォーマンスによって再現した作品であり、それ以上でもそれ以下でもない。駆け引きに深みがないことは、その意図の前からすれば批判の材料とは基本的にならない。
そのような娯楽作品と捉えれば、非常にシンプルであるが故によく出来ている。盗みに当たって屋敷内部の番犬を、壁を駆け上がり回廊を縦横に飛び回り翻弄する一幕、建物の内部を自由自在に移動し果てには屋根の上から道路の向かいにある窓に飛び込んで窮地を脱する一幕など、ストーリーとは無縁の痛快さがある。それぞれの場面で、話の都合上殆ど覆面をしているため折角築いたキャラクターが埋没してしまうのが惜しく思えるが、まあ些末なことだろう。だが最大の弱点は、YAMAKASIたちの演技の見所が前半に固まっており、後半では彼らのチームワークこそ際立っているもののYAMAKASIたらしめる演技が作品の中で軽んじられていることだ。この点さえ補われていたなら、文句の付けがたい傑作になっていたように思うのだけれど。もう一つ、エンディングにおけるある人物の身の処し方にも不満を覚えたのだけれど、これは人それぞれに感じ方が違うだろうから批判の材料とはしない。
しかし、あれこれ悩まずに、ヒーローが悪党を翻弄する物語が見たい、というのであれば、取り敢えず安心してお薦めできる作品。お話としては何も残さないのがいっそ潔いのだ。
ところでジャメル役の少年の名前は何でしょう。プログラムには明記されてません、あんな大事な役柄なのに。(2001/10/13・2004/06/18追記)