cinema / 『バンディッツ』

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バンディッツ
監督:バリー・レビンソン / 脚本:ハーレイ・ベントン / 音楽:クリストファー・ヤング / 出演:ブルース・ウィリス、ビリー・ボブ・ソーントン、ケイト・ブランシェット、トロイ・ガリティ / 配給:20世紀FOX
2001年アメリカ作品 / 上映時間:2時間8分 / 字幕:古田由紀子
2001年12月29日公開
2002年05月24日DVD日本版発売 [amazon]
2004年04月02日DVD最新版発売 [amazon]
公式サイト : http://www.foxjapan.com/movies/bandits/

[粗筋]
 ――その日、伝説の“お泊まり強盗”コンビがこの世から消えた。そこに至るまで、彼らの身に一体何が起きたのか?――
 中国思想マニアで短気なタフガイ・ジョー(ブルース・ウィリス)と神経過敏で常に自分が重病人ではないかと疑い怯えるインテリ・テリー(ビリー・ボブ・ソーントン)、ふたりが出逢ったのはオレゴン州立刑務所だった。所内のトレーニングジムで意気投合したふたりは、ひょんなきっかけから発作的にジョーが所内に入ったミキサー車を強奪、思わず同乗してしまったテリーもろとも脱獄し、まんまと逃げおおせてしまった。向こう見ずなジョーは行きがけの駄賃に銀行へと立ち寄り金品を強奪、更に走行中の車を奪うと民家の車庫に乗り入れてパトカーの追跡を振り切る。幸か不幸かその家はいま大人不在、一人娘がボーイフレンドを連れ込んでいるだけだったのをいいことに、ふたりは食事とベッドにありつく。ピザを囓りながら、ふたりは今後の行動を相談する。ジョーは昼間の成功に味を占めて、銀行強盗で稼ぎいつかナイトクラブを設立しようと夢を語った。そこでテリーは、とびきり奇抜な銀行強盗の手口を提案する――
 翌朝、衣服を拝借しくだんのボーイフレンドの車を駆って、ふたりはまずジョーの従弟・ハーヴィー(トロイ・ガリティ)に元に向かった。スタントマン志望で機械の扱いに慣れた彼を運転・見張り・部屋や資材の調達役として仲間に引き入れ、早速最初の仕事に着手する。ターゲットに定めた銀行を数日に亘って監視し、金庫の鍵を管理する人物ひとりに目を付ける。綿密な下調べののち、ジョーとテリーは決行前夜、変装して支店長の自宅に乗り込んだ。支店長の家族と張り詰めているんだか緩んでいるんだかよく解らない会食を行い、彼らに充分手順を理解させてそのまま一泊する。早朝、子供ふたり含む家族全員と銀行に向かい、出勤してきた行員もろともひとつの部屋に閉じ込めておいて、その間に金庫を開けさせさっさと逃亡する――人目に付きにくい駐車場で一度落ち合い、三人で収穫を山分けするとほとぼりが冷めるまで二週間単独潜行し、再び合流して犯行を繰り返す。
 発砲もせず脅迫も最小限、奇抜で妙にフレンドリーなその手口はテレビの犯罪ワイドショーで大きく扱われ、知らぬうちにジョーとテリーは全米注目の犯罪者となっていた。そんな矢先、犯行後の単独行動中にガス欠を起こし、ガソリンを取りに行ったあいだに車を警察にチェックされてしまったテリーは、奪うつもりで立ちはだかった車にかるーく跳ね飛ばされてしまう。テリーにとって不運だったのは、その車の持ち主が、仕事に明け暮れる夫に孤独を強いられ、自暴自棄になっていた主婦だったことだ。主婦・ケイト(ケイト・ブランシェット)はテリーの向ける銃にも怖じ気づかず、あろうことかテリーを隠れ家まで送ろうと言い出す。テリーの厭な予感は的中した。隠れ家に着いたケイトは三人の食卓に混じり、ジョーと意気投合してその夜のうちにベッドを共にするのだった――

[感想]
 いやあ愉しい愉しい。本編で主演したうちビリー・ボブ・ソーントンとケイト・ブランシェットは現在(1/14)本編の演技でゴールデングローブ賞にノミネートされているが、部門はミュージカル・コメディ部門の主演男優・女優である。それも宜なるかな、冒頭からクライマックスまで、爆笑とまではいかないが口許が綻んでしまう描写てんこ盛りなのだ。ビリー・ボブ・ソーントン演じるテリーは初登場の段階で何か怒っていると思えば、刑務所の売店からニンニクがなくなるという通達に憤っており、ブルース・ウィリス演じるジョーは盛んに孔子を引用してみせるくせにいきなりミキサー車を強奪して脱獄する無鉄砲ぶり。そこからの「嘘だろおい」とツッコミまくりの顛末は上の粗筋をご参照下さい。あれよあれよという間に殆どファンタジーな犯罪劇に魅せられて、物語の世界にどっぷりと浸かり混んでしまう。
 しかし、犯罪映画往年の傑作と並べて打たれた広告は(珍しく)伊達ではない。手口そのものも見事な発想だが、作品全体の語り口も企みに満ちている。冒頭、いきなり主人公ふたりは包囲され銀行で籠城し、怯える人質たちを前に拳銃片手の口論を始める。次いで、テレビ番組“犯罪ワイド”の司会者ダーレン・ヘッド(ボビー・スレートン)は、犯行前日にジョーとテリーが自宅に押し入り、要求されて急遽撮影したというインタビュー映像を、ある衝撃的な言葉と共に紹介する。何事か、と身構えた観客を無視して、物語は突如過去に遡り、“お泊まり強盗”コンビ出逢いのシーンを再現する。以後、ジョーとテリーのコンビ結成と繰り返す犯行をダイジェスト気味に追い掛けながら、時折冒頭での立て籠もりとインタビュー映像とを交差させながらじわじわとクライマックスに突き進んでいく。一体彼らに何が起きたのか、という興味を煽りながら鏤めた笑いに、観客は最後まで引きずられてしまうはず。
 やっていることは間違いなく犯罪である。それでも犯人たちを応援させられてしまう、という映画は過去にも幾つか登場するが、こうまで憎めず人のいい悪党たちというのは滅多に見ない。ラストの意外な人間関係にも、「そういうのもありだよな」と頷かされてしまう。絵空事じみた展開なのに――敢えて難を呈すれば、ラストはああも思惑通りに展開しないだろう、という気はした、が――それが妙にリアルに感じられて、爽快な後味を残す。成る程、非常に良く組み上げられた犯罪映画だが、この幸福感は間違いなく良質のコメディードラマのものだ。残虐なシーンも露悪的な場面も殆どない、家族揃って見に行ってもいーんじゃないですか、と言いたくなる秀作……んが、実はけっこうアダルトなギャグも細々と鏤められていたりするので、本当に子供を連れて行くのは避けましょう。膣炎とか言うな。

 最後に役者陣について触れておこう。『ダイ・ハード』シリーズの「不死身のヒーロー」路線で知られたブルース・ウィリスも、『シックス・センス』以降演技派としての側面を見せ始め、本編ではその巧さが特に明確になったように思う。マッチョとしてのイメージを残しつつ、何処か繊細で子供っぽい表情を見せる悪党を演じる彼を、アクション映画のヒーローと単純に見ることは出来まい。
 対してビリー・ボブ・ソーントンはここ数年急激に頭角を現した人物だが実はキャリアは長く、作中幾度も見せる神経質な笑みが段々藍らしく感じられるのはお見事。ちなみに、『ギフト』では脚本家、『すべての美しい馬』では監督を務めるなど役柄にも勝るインテリだったりする。
 しかし誰よりも迫力を感じさせたのはケイト・ブランシェット。私は昨年、『ギフト』と『耳に残るは君の歌声』のふたつでその演技を目の当たりにしているが、本編も含めてどれひとつイメージが一致しない。『ギフト』では夫に先立たれ、自らの超能力を糧にひとりの子を養う女性を、『耳に残るは〜』では玉の輿を願いながらも友情に篤いダンサーを、そして本編では裕福な家庭にありながら多忙な夫に孤独を強いられ死すら考えていた、“お泊まり強盗”のファム・ファタールを見事に演じ分けている(ただ、全員どっかしら不幸だという点では一致しているのだが)。しかも、どーも顔の雰囲気すら違って見えるのだ。化粧の力も多分にあるだろうが、今後も注目株の女優ではなかろーか。そして今挙げた三作の中でも、本編での彼女のキュートさは絶品。

(2002/01/14・2004/06/19追記)


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