cinema / 『バレット・モンク』

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バレット・モンク
原題:“Bulletproof Monk” / 原作:ザ・フライペイパー・プレス・コミックブック / 監督:ポール・ハンター / 脚本:イーサン・リーフ、サイラス・ヴォリス / 製作:ジョン・ウー、テレンス・チャン、チャールズ・ローヴェン、ダグラス・シーガル / 撮影監督:ステファン・チャプスキー / プロダクション・デザイン:デボラー・エヴァンス / 編集:ロバート・K・ランバート、A.C.E. / 視覚効果スーパーバイザー:ジョン・サリヴァン / メイクアップ効果:グレッグ・キャノン、キース・ヴァンダーラーン / 音楽スーパーヴァイザー:アニタ・カマラータ / 音楽:エリック・セラ / エグゼクティヴ・プロデューサー:ケリー・スミス=ウェイト、マイケル・ヤノーヴァー、ゴッサム・チョプラ、キャロライン・マコーレー / スタント・スーパーヴァイザー:ガイ・ノリス / ファイト・コレオグラファー:スティーヴン・トゥン / 出演:チョウ・ユンファ、ショーン・ウィリアム・スコット、ジェイミー・キング、カレル・ローデン、ヴィクトリア・スマーフィット、マーカス・ジーン・ビレー、マコ、ロジャー・ユアン / 配給:東芝エンタテインメント
2003年アメリカ作品 / 上映時間:1時間43分 / 日本語字幕:菊地浩司
2004年01月17日日本公開
公式サイト : http://dangun-bozu.jp/
ニュー東宝シネマにて初見(2004/01/17)

[粗筋]
 チベット奥地のとある僧院で、今まさにひとつの“秘儀”が執り行われていた。未の年が五度巡るたびにその“秘儀”は新たな僧に受け継がれ、ふたたび五度の未年が巡るまで守り抜かれることになる。だがそのとき、僧院をストラッカー(カレル・ローデン)率いる軍勢が襲撃した。徒手空拳で対峙する僧たちを蹂躙すると、秘儀を受け継いだばかりの僧(チョウ・ユンファ)に巻物を寄越すよう迫るが、銃弾を受けた僧は谷に落ちた次の瞬間、その姿を消していた。
 六十年後、問題の僧の姿はニューヨークにあった。依然黒い影につけ狙われる僧は巧みに包囲網をかいくぐり地下鉄に逃走する。
 同じ頃、混雑する駅でカー(ショーン・ウィリアム・スコット)は仕事に精を出していた。だが、刑事の懐から財布を抜き取ろうとしたのが運の尽き、周辺にいた警官達に追い回される羽目に陥る。僧とカー、ふたりがホームに辿り着いたとき、事件が起きた。女の子がホーム下に転落し、線路に足先を挟んで身動きが取れなくなってしまった。列車が迫るなか、線路に飛び降りたのは僧とカーのふたりだけだった。
 危機一髪、女の子を救い出したどさくさに、僧ともども線路沿いにその場を逃れたカーだったが、やむを得ずあの場に収穫を置き去りにしなければならずふて腐れる。どういうわけか彼の行動をすべて見抜いていて、諭すような口をきく僧に苛立ち、別れ際にその鞄から要りもしないものを抜き取ってやった。
 そんなカーを待ち伏せていたのは、その一帯を仕切る悪党ファンタスティック(マーカス・ジーン・ピレー)たち一団。断りもなしに地元でスリを働いたカーに思い知らせようとした彼を、カーはさっき盗んだばかりの代物で懐柔しようとするも、ガラクタにしか見えないそれをファンタスティックは一顧もくれず放り投げる。物陰でそれ――巻物を回収した僧が様子を窺うさきで、カーは意外な戦闘能力を見せ、多人数相手に健闘する。ちょっとした失敗であっさりと窮地に陥るが、最初に拳を交えた若い女・ジェイド(ジェイミー・キング)が何を思ったか「これ以上構う必要はない」とファンタスティックを止め、カーはどうにか難を免れる。
 やれやれと思っていたら、別れたはずの僧にふたたび出くわしてカーは驚く。カーのバイト先であり、主人のミスター・コジマ(マコ)の厚意で住まわせてもらっている中国映画専門の映画館ゴールデン・パレスにまでついてきた僧は、そのままカーのベッドを占領してしまった。
 カーの災難は夜が明けてもまだ続いた。仕事は僧に邪魔され、戦いのどさくさにジェイドの首から奪っていたネックレスを、落とし物を装って返し彼女とお近づきになるはずが、僧の指摘通り既に見抜かれていて、胡散臭げな眼差しで見られる。挙げ句の果てに、きのう僧を襲撃した男達が、ふたたび姿を現した。迷惑をかけた、と走り去る僧を、何故かカーは追いかけて、一緒に逃走する。図々しいが妙に憎めず、不思議な魅力を放つこの僧に、いつの間にか親近感を覚えていたのだ。
 そうしてカーは、“秘儀”を巡る攻防に否応なく巻き込まれていく……

[感想]
 温いなあ。
 主人公は不死身、その力の秘密を巡る攻防に、次の後継者選びという要素が絡んでくる。アメリカ映画では珍しいチベット僧という要素を持ち込んでいるが、ベースはファンタジー、というより伝奇をモチーフにしたアクション映画だ。
 物足りないのは、そういう魅力的な要素を取り入れているのに、町中で襲い襲われしているだけだということ。ファンタジーあるいは伝奇ときたら、ふつうはもっと冒険を期待したくなるのに、あるのはあくまで不死の秘法を巡る攻防だけ。それも、複雑な方法で隠しているわけではないし、守るというわりには隠している僧たちが非力で冒頭いきなり殲滅されるわ、現代に話が移った矢先にあっさりと巻物をすられているし、そのあとも対応が雑で、本当に秘法を守りたいのか疑わしく思えてくる。
 僧の戦いに巻き込まれる青年が、映画館でかけているカンフー映画を参考にして武術を学んでいるあたりからして、アクションが主体であることは察せられる。そのわりにはアクションひとつひとつの粒が不出来で、いまいちカタルシスに欠くのも不満。せっかく不死身の肉体を備えているのだから、もっと果敢な戦い方と圧倒的な力を見せて欲しいところだ。大量に銃器を持っているはずの人々が敢えて肉体だけで戦うのも妙に説得力がない。
 説得力を乏しくさせている一因は、キャラクターや設定の練り込みが足りないことにもある。チョウ・ユンファ演じる僧とショーン・ウィリアム・スコット演じるカーはそれぞれ独特の雰囲気があり、やけに余裕のあるコミカルな会話が楽しいのだけれど、それ以外のキャラクターが大雑把なのだ。特殊な背景から屈折した暮らしを送っているジェイドは、描写が少なすぎてその深みがまったく窺えないし、反対に敵役は背景がシンプルすぎて魅力がない。秘法を巡るファンタジー的な設定はただストーリーの進行に合わせて作っただけという感が強く、特に終盤の成り行きは(ラストのある出来事を除いて)御都合主義なだけにしか思えない。物語の基本は御都合主義だ、と言っても、物語の軸とするべきものがこれでは、苦笑しか出てこないというものだ。
 ただ、場面場面のつなぎ方はMTV出身監督らしく実に滑らかでスピーディ、アクションや物語そのものにさほど引き込む要素はないのに、あまり飽きさせない点は評価できる。ただ並べただけでは雑駁で牽引力に欠くシナリオを、観ているあいだ(ツッコミたくなる場面も含めて)ひととおり楽しませてしまう手腕は、エンターテイナーとしての確かな才能と言えるだろう。
 インパクトに欠くが、きちんと訓練されたアクションとそのヴィジュアルはあまり癖がなく、スマートに仕上がっていることも好印象に繋がっている。カット割りが下手な監督だと、前後の脈絡が掴みにくく誰がどういう立場で戦っているのか把握しづらいことがあるが、本編では視覚的に混乱させられることもなく、イメージが明確に組み立てられるので、スムーズにアクションの魅力に浸れるのは巧い――だからこそ、余計にこれといったクライマックスのないアクション構成が勿体ないのだけれど。
 スタッフのほとんどがチョウ・ユンファに敬意を表し、彼に憧れて集ったのだろうことは想像がつくし、ユンファも上達した英語と安定した包容力のある演技でそれに応えている。要するに、あとは主軸となったスタッフの経験不足と妙な遠慮が問題なのだと思う。いい要素はたくさんあるのだから、もっと燃えさせてくれないと駄目です。
 とまあ、かなり腐したが、そうした拙さにちょっと寛容になることが出来れば、楽しみ方は色々とある作品。肩の力を抜いて御覧ください。

 本編の前売り鑑賞券には当初、チョウ・ユンファの非常に精巧なフィギュアがつく予定だったらしい。が、本人が絶賛するくらいに似すぎていたせいで、配布までに承諾を取れる見込みが立たなくなり、結果お蔵入りになったという話があった。もしかしたら公開館のどこかに展示してあったりしないかなあ、とほのかに期待していたのだが……探すの忘れてました。ひとまず、目につくところには置いていなかったことは確かなんだけど。見つけたら写真撮っておこうと思ったのに。
 先着プレゼントのサイン入り生写真で我慢しておくか、うん。

(2004/01/17)


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