cinema / 『猫の恩返し / ギブリーズ episode 2』

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猫の恩返し
企画:宮崎 駿 / 原作:柊 あおい / 監督:森田宏幸 / 脚本:吉田玲子 /美術:田中直哉 / 音楽:野見祐二 / 主題歌:つじ あやの / 声の出演:池脇千鶴、袴田吉彦、渡辺 哲、斎藤洋介、丹波哲郎、岡江久美子、佐藤仁美、山田孝之、前田亜季、佐戸井けん太、濱田マリ、本名陽子 / 制作:スタジオジブリ / 配給:東宝 / DVD:ブエナビスタホームエンターテイメント
2002年日本作品 / 上映時間:1時間15分
2002年07月20日日本公開(『ギブリーズ episode 2』と併映)
2003年07月05日DVD発売 [amazon]
劇場にて初見(2002/07/27)

[粗筋]
 ハル(池脇千鶴)は何事につけ流されやすい女の子。目覚ましを止めて眠り込んで学校に遅刻して好きな男の子に笑われて、屋上でぼーっとしていたらボールを頭にぶつけられて。その日、友達のひろみ(佐藤仁美)との帰り道で、リボンをかけた箱をくわえて道路を渡ろうとしていた猫がトラックに轢かれそうになるのを見かけて、ハルは咄嗟にひろみからラクロスのクロスを借りてすんでの所で助け出す。胸を撫で下ろして顔を上げると――その猫は二本足で立ち、深々とお辞儀をしながら「危ないところを助けていただき、有り難うございます」と、人の言葉で礼を言った――
 同じ日の夜、妙な気配を感じたハルが窓から眼下を覗くと、道をやって来たのは二足歩行の猫たちの大名行列だった。恐る恐る家を出てみると、行列はハルの家の前で止まる。ふんぞり返りながらハルに礼を言うのは、猫の国を治める猫王(丹波哲郎)。猫王の秘書ナトリ(佐戸井けん太)は、昼間ハルが助けたのが猫王の息子ルーン王子(山田孝之)であり、国を挙げてハルに恩返しをする、と説き目録を手渡した。呆然とするハルを後目に、行列は粛々と立ち去っていった。
 翌朝目が醒めたときは大袈裟な夢だと思ったけれど、ひろみからは家の前が新品のクロスで埋め尽くされていると電話があり、ハルの自宅周りの地面という地面に猫じゃらしが密集して、躰にはマタタビの匂いがまつわって猫を呼び寄せて、学校の下駄箱には鼠がつまっている。どうやら彼らは本気らしかったが、恩返しはいちいち猫向けでえらい迷惑だった。このうえひろみの代わりについた掃除当番でゴミ捨てに向かっている途中で、好きな男の子が彼女と歩いているところを目撃して、自分は転んでゴミをぶちまけて――散々だった。ちょうどご機嫌伺いにやってきた猫王の第二秘書ナトル(濱田マリ)に愚痴をこぼすと、ナトルは猫の国に招待すると言い出し、困惑するハルにあれよあれよと言う間にルーン王子と結婚するという約束をさせて去ってしまう。蒼白となるハルの耳に、何処からともなく声が聴こえてきた――「猫の事務所を訪ねて、助けを求めて」
 その言葉に縋るように十字街を訪れ、真っ白なデブ猫(渡辺 哲)のあとを追って路地の奥へ奥へと進むと、唐突に出たのは全てが猫サイズのミニチュアの街。不思議な街に夕日が射し込むと、建物のひとつの窓際に飾られていた、タキシード姿の猫の像が動き出した――動き出した像・バロン(袴田吉彦)にことのあらましを説明して助けを求めるハルだったが、油断した隙に猫王の使節に見つかり連れ出されてしまった。

[感想]
 良くも悪くもあらゆる意味で肩から力の抜けたファンタジーでした。技術的にも物語的にも異様に力の入った『千と千尋の神隠し』と比較すると、尺の短さも含めてその異様な軽さに拍子抜けするが、その気楽な世界観には不思議な安心感があって、こちらも変に意識しなければ素直に楽しめるはず。
 他ならぬ『千と千尋の神隠し』や、『果てしない物語』などと同様の、現実から不意に異世界に連れ去られるファンタジーだが、現実との境目が不明瞭かつ唐突で変化があまり感じられず、冒険ものとしても行動や展開に蓋然性が乏しく終盤のカタルシスに欠ける嫌いがある。――が、そういう欠点を「まあ、いいんじゃない?」と思わせるような優しさと柔らかさが最大の魅力かも知れない。
 新人監督を起用した点でも、宮崎作品の持つ規模とメッセージ性から距離を置いた、という意味でも、ジブリにとってはターニングポイントとなる可能性を感じさせる作品。

 とりあえず、池脇千鶴は良かった<おい

ギブリーズ episode 2
監督・脚本:百瀬義行 / キャラクター原案:すずきとしお / 特別キャラクター原案:いしいひさいち / 美術監督:吉田 昇 / 音楽:渡野辺マント / 声の出演:西村雅彦、鈴木京香、古田新太、斎藤 暁、篠原ともえ、今田耕司、小林 薫 / 制作:スタジオギブリ / 配給:東宝 / DVD:ブエナビスタホームエンターテイメント
2002年日本作品 / 上映時間25分
2002年07月20日日本公開(『猫の恩返し』と併映)
2003年07月05日DVD発売 [amazon]
劇場にて初見(2002/07/27)

[粗筋]
 日本の何処かにあるアニメ制作会社スタジオギブリ。そこで働く野中くん(西村雅彦)、ゆかりさん(鈴木京香)、奥ちゃん(古田新太)らの面々のなんでもない、しかしちょっと滑稽な日常。

[感想]
『となりの山田くん』で完成された、CGを駆使した水彩画タッチの実験的アニメーション。だがこちらも『猫の恩返し』同様に説教臭さが抜けたため、スタイルが純化されて心地よい作品世界となっている。
 水彩画タッチの2Dに見せかけて技術的には3DCGを利用していたり、現実の人間の目をカメラにしたような背景の動きを演出したりと、表現としてはたいそう実験的な手法を用いているのに、物語自体は本当になんでもない、確たる曲折も脈絡もない出来事ぱかりであるのがやけにシュールである。オチや説明を省いたサザエさんのような雰囲気で、見ているとなかなか嵌りそうな要素に満ちているのだけど、幕が下りた瞬間に「はて、これって劇場で観るようなもんだったか」と首を傾げてしまった。『猫の恩返し』とセットでなかったら多分強いて見に来ることはなかったでしょう。心地よい作品ではあるし、繰り替えし観たり続きを期待したくなる仕上がりなのも事実なのだけど。
 それにつけても鈴木京香って巧いわ。

(2002/07/27・2003/07/04追記)


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