cinema / 『チルファクター』

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チルファクター
監督:ヒュー・ジョンソン / 脚本:ドリュー・ジトリン、マイク・チェダ / 音楽:ハンス・ジマー、ジョン・パウエル / 出演:スキート・ウーリッチ、キューバ・グッディング Jr.、ピーター・ファース、デイヴィッド・ペイマー、ハドソン・レイク / 提供:Pony Canyon  / 配給:ムービーテレビジョン
2001年10月27日日本公開
2002年04月24日DVD日本版発売 [amazon]

[粗筋]
 全ての発端は10年前、1987年8月。化学実験のためにとある孤島に駐留していた米軍兵士18名が、島の植物もろとも焼き払われた。ロング博士(デイヴィッド・ペイマー)が、実験のために持ち出した気化爆弾“エルヴィス”の影響を過小評価していたために起きた惨劇であった。ロング博士には特別の懲罰は下されなかったものの、島に駐留していた部隊の責任者であり、幸運にも――或いは不運にも、爆発当時研究室シェルターの内部にいたために難を逃れたブリナー少佐(ピーター・ファース)には降格・俸給の剥奪に加え、機密保持をも含めた10年間の投獄という厳しすぎる罰が下された。狭い独房での暮らしが、国を愛し部下の命を第一とした誠実な軍人を、いつしか変えてしまった。
 そして、1997年、モンタナ。ロング博士は現地のジェローム陸軍研究所に勤め、“エルヴィス”の制御実験を進めながらフライフィッシングを趣味とする穏やかな暮らしを送っていた。だが、そこへ出所したブリナー少佐が姿を現す。ロング博士を、彼の行き付けであるコンビニに訪問したその夜、ブリナー元少佐は服役中に契約を取り付けていた仲間と共に研究所を襲撃する。狙いは、10年前に元少佐の部下を奪い、彼の心に憎悪の炎を点した元凶である“エルヴィス”。それを競売にかけ、多額の報酬を得ることがブリナーと仲間たちの目的であった。警備員が殺害されロング博士もまた銃撃されるが、博士は一瞬の隙を突いて“エルヴィス”を保管庫から取り出し、研究所を脱出する。博士はコンビニに転がり込み、そこで働く若い友人・メイスン(スキート・ウーリッチ)の元にどうにか辿り着くと、救急車を呼ぼうとする青年を引き留め、“エルヴィス”をマグルーダー軍事基地まで運ぶよう懇願する。“エルヴィス”は華氏50度(摂氏10度)の環境下に置くと、気化と同時に大爆発を引き起こす。つまり、常に何らかの方法で冷却していない限りいつ何処で爆発するか解らない。そこで白羽の矢が立てられたのが、運良く――当人にとっては運悪く――アイスの納品にコンビニを訪れたアルロ(キューバ・グッディング Jr.)であった。ブリナー元少佐らの追撃をすんでの所で躱し、二人はオンボロの冷凍車を駆り、一路マグルーダーを目指す。しかし、戦闘のプロフェッショナルであるブリナー元少佐達が、あっさりと見逃してくれる筈もない。――“エルヴィス”を巡る死闘がここに始まった。

[感想]
 一言で表現するなら、一直線のサスペンス・アクション。提示されたガジェットがのちのちどのように機能するのか、慣れた向きには殆ど一目で解ってしまう。冒頭でこの人が主人公にこういうことを言ったから後半できっとこういう手段に出るだろうとか、この人間関係は多分終盤でこう利用するんだろうとか、これだけ明確ならラストはあーいう状況でああするだろうねとか、予め想像したことが全てその通りに着地する。では退屈なのか、というとそんなことは全くないのが本編の出色な点。想像は出来ても危険に満ち溢れたアクション場面が最後まで緊張感を保ち、飽きさせずに引っ張ってくれる。明らかに巻き込まれた主人公二人と、過去の因縁から自覚的な悪と化した敵役、主人公に絡む登場人物の扱いに舞台条件の応用、基本に忠実ながらそれぞれの制約を一番活きる方法で利用しており、オーソドックスだからこそ面白いと言える出来になっている。何よりも、アクション面で評価されるべきは、主人公二人に一番有効な武器を与えなかったことだ。
 しかし、本編を佳作たらしめているのは、役者陣の説得力ある演技による部分が大きい。ブリナー少佐=ピーター・ファースの入所前・出所後の際立った変貌ぶり、ロング博士=デイヴィッド・ペイマーの10年間の罪の重さを感じさせる深い語り口、そして巻き込まれたメイスン=スキート・ウーリッチとアルロ=キューバ・グッディング Jr.の威勢良くも非常に繊細な表情などなど、フロントに立った人々の演技がオーソドックスな筋書きに説得力を与えている。この一点で、ありがちなアクションものよりひとつ秀でたクオリティとなったことは間違いない。リドリー・スコット監督の下で撮影監督を務めていたという本編の監督はこれがデビューだとのことだが、今回は役者に恵まれた、という印象。
 因みに、本編に登場する爆薬“エルヴィス”は、その名前の由来について作中では特に説明がない。恐らく深い意味はなく、ただ主人公達にこの台詞を言わせたいが為の命名だったのだろう。
「“エルヴィス”は死んだ。CDを買え」
 個人的には、この洒落っ気も評価しておきたい。大ヒットするタイプの作品ではないと思うが、非常に安定感のある娯楽作品として敢えてお薦めしておきたい。

(2001/10/27・2004/06/18追記)


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