/ 『ぼくの神さま』
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『light as a feather』トップページに戻るぼくの神さま
原題:“EDGES OF THE LORD” / 監督・脚本:ユレク・ボガエヴィッチ / 製作:ダニー・ディムボート、トレヴァー・ショート、ボアズ・デヴィッドソン / 美術:メイリン・チェン / 音楽:ジャン・A・P・カズマレック / 出演:ハーレイ・ジョエル・オスメント、ウィレム・デフォー、リアム・ヘス、リチャード・バーネル、オラフ・ルバスゼンコ / 配給:GAGA Communications
2000年アメリカ作品 / 上映時間:1時間38分 / 字幕:栗原とみ子
2002年03月02日公開
2002年09月21日DVD日本版発売 [amazon]
公式サイト : http://www.gaga.ne.jp/boku/
劇場にて初見(2002/03/16)[粗筋]
1939年、ポーランドは世界で初めて、ナチスに制圧された国家となった。既にナチスによるユダヤ人迫害はドイツ各地で惨劇を繰り返し、ヨーロッパ最大のユダヤ人居住地という側面もあるポーランドもまたその悪夢から免れる術はなかった。
まだ11歳のユダヤ人の少年ロメック(ハーレイ・ジョエル・オスメント)はある日、グニチオ(オラフ・ルバスゼンコ)のジャガイモ袋に詰め込まれて、住み慣れた都会から田舎に運ばれた。間近に迫ったユダヤ人狩りの猛威からなるべく息子を遠離けるために、父親がグニチオと現地の神父(ウィレム・デフォー)に金を掴ませ、グニチオの親戚という触れ込みで匿わせたのだ。これが永劫の別れとなることを薄々知りながら、ロメックは粛清の嵐吹き荒れる街を脱出する。
着いたのは、干し草の匂いが充満するような小さな村だった。品のいい顔立ちに小綺麗な装い、聖書に基づく祈りを普通にこなすロメックに、グニチオの長男・ヴラデック(リチャード・バーネル)はあからさまな敵意を示す。反対に、どこか奇矯な行動の目立つ次男のトロ(リアム・ヘス)は早いうちからロメックに好意を見せ、早速家族の秘密を見せる。それは、地下室で飼っている豚。ナチスは民衆に豚や羊を飼育することを認めていない。「ユダヤ人を匿うのと同じくらい危険なことだ」というグニチオの子供ふたりの言葉に、ロメックは暗澹とする。
初めての日曜日、ロメックは生まれて初めてカトリックのミサに参加した。神父は、次の聖体拝領式で洗礼を受ける、ロメックを含んだ五人の子供達を残し、下準備として彼らにひとつの遊びを提案する。くじにそれぞれ使徒の名を記し、引いた使徒の役柄を演じるというものだった。予期せぬトラブルから神父の監視を離れてその遊びを始めることになると、トロは使徒だけではなくイエス様も入れよう、と言い出し、自分がその役を演じることに執着した。
夜毎沢山の人を乗せて村を走り抜け、何処かへと走り去る汽車。そこから日に数人、飛び降りてはまた姿を消していく――長閑な村にも例外なく、戦火はその暗い陰を落としていた……[感想]
第二次世界大戦の齎した最大の悲劇のひとつ、ホロコーストに取材した映画である。ドイツ国内やフランスなど、大国を舞台に描かれることの多かったテーマで、フィクションではポーランドに目を付けた作品は珍しいのではなかろうか。
それだけに、予備知識が乏しいのが辛い。ナチスによるユダヤ人迫害は有名だとしても、最初に支配下に置かれたポーランドの状況というのがいまいち量りきれないのだ。特に終盤の展開など、現実の迫害の有様を知っていないとどこまで説得力があるのか判断できず、いっそあまりにも御都合主義的な転がり方をしていないか、という感覚を抱いた。
ただ、そういう不満はあっても、子供達の心理状態や神父をはじめとする大人達の感情的葛藤は明確で、ストーリーのシンプルさもあり伝わりやすい。強引に感動を誘うような筋書きではないが、感受性の強い人には多分響くだろう。時々わざわざスローモーションにするのはちょっと首を傾げたが、演出も概ね奇を衒うことなく、流れを壊さない。
特に秀逸なのは題名だろう。邦題は迷った挙句に無難なところに落ち着いた印象だが、原題は非常に深い。聖体拝領式では、新たに洗礼を受ける子供達に、丸く刳り貫いたパンを聖別したうえで口にさせる。キリストの血肉に擬したもので、それを口にすることにより神と一体となる、というカトリックの儀式であるが、丸く刳り貫くからには、切り落とされた端っこがあとに残る。神父がパンを作る現場に立ち会ったロメックは、その残された端っこと自分達ユダヤ人、そして戦禍に巻き込まれ不運にも命を落とした人々を重ね合わせる。神に祝福されない端っこ=“Edges of the Lord”として。
あまりにも普通に「いい」映画ゆえ、あまり褒め言葉も批判も思いつきません。
主演級の役者はハーレイ・ウィレムのふたりだけ、この両者の才気溢れる演技は今更言うまでもないが、それぞれに出番が少ないながら他の登場人物もきっちりと立っており、見所は多い。それだけに、プログラムでは上記五人以外は紹介も記述もない、という扱いが非常に不愉快である。せめて、鍵となる子役全員の名前と経歴ぐらいはちゃんと記録しといて欲しかった……。(2002/03/17・2004/06/21追記)