/ 『記憶のはばたき』
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『light as a feather』トップページに戻る記憶のはばたき
原題:Till Human Voices Wake Us / 監督・脚本:マイケル・ペトローニ / 製作:シャーナ・レヴァイン、ディーン・マーフィ、ナイジェル・オデル、デビッド・レッドマン / 撮影監督:ロジャー・ランサー,ACS / プロダクション・デザイナー:ラルフ・モーザー / 衣裳デザイナー:ジャンニ・キャメロン / 編集:ビル・マーフィ / サウンド・デザイン:マイケル・スレイター、スコット・フィンドレイ / 音楽:デイル・コーネリアス / 出演:ガイ・ピアース、ヘレナ・ボナム・カーター、フランク・ギャラチャー、リンドレイ・ジョイナー、ブルック・ハーマン、ピーター・カーティン / 配給:GAGA Communications
2001年オーストラリア作品 / 上映時間:1時間41分 / 字幕:栗原とみ子
2002年09月14日日本公開
公式サイト : http://www.gaga.ne.jp/kioku-habataki/
劇場にて初見(2002/10/02)[粗筋]
私立の寄宿学校に通うサム・フランクス(リンドレイ・ジョイナー)は夏休みを利用して、生まれ育った田舎町ジェノアに帰省した。ジェノアで彼を待っていたのは、無口で交流も乏しいただひとりの肉親である父(ピーター・カーティン)、そして兄妹のような幼馴染みのシルヴィア(ブルック・ハーマン)。湖の船着場で久し振りの再会を歓んだあとは、まるで惜しむように時間を共有する。
シルヴィは湖の近くの森で見つけた、ペットらしい鳥の墓をサムに見せる。古びた家に住む変わったおばさんは相変わらず変わっていた。帰り道の連想ゲームでサムの“グリーン”という言葉にシルヴィが返した“スリーヴス”の意味がサムには解らなかった。シルヴィの両親は今もサムを息子のように想ってくれていて、父のモーリス(フランク・ギャラチャー)は酔うとご機嫌で歌い始めた――すっかり日の暮れた帰り道、別れを惜しんでぐるぐると回り続けた街灯に、集まる蛾が綺麗だった。
モーリスがサムに頼んだバイトは、牛の出産の手伝い。生命の神秘などと言う以前にその迫力と血に塗れた子牛の姿に吐き気を押し殺しているサムに、モーリスは「感情を殺すな」と諭す。
ある夜、ダンスパーティーが開かれた。シルヴィも着飾っていたけれど、足に補助器具をつけた彼女は居場所がない。気遣うように彼女の隣に腰を下ろすサムを、シルヴィは別のところに行こうと誘う。
いつもの湖に着くと、サムは服を脱いで水に浸かり、シルヴィの補助器具を外した。彼女を抱えて水の中に下ろし、「一緒に踊ろう」――足の自由が利かなくても、そうすれば踊ることが出来るから。踊りながら2人は初めての口付けを交わす。2人の関係が新しい段階に進む最初の夜、となるはずだった――
サムは気づかなかった。突然シルヴィの足は変調を来し、為す術なく水中に沈む。幼馴染みの姿が消えたことに驚き、必死に探し回っても、何処にも見つからなかった。
大人達の必死の捜索にも引っかからず、恐らく水中の洞窟に引き込まれたのだろう、という結論に達した彼らは、遺体のないままシルヴィの死を弔った。モーリスはサムを一言も責めようとしなかった。「成長期に骨が軋むように、魂も悲鳴を挙げる」――サムは逃げるように寄宿学校に戻っていった……
それから20年が過ぎた。父と同様に医術を志しながら、今のサム(ガイ・ピアース)は畑違いの精神分析医として、メルボルンを拠点に自分の地位を築きつつあった。そんな彼の元に、父の訃報が齎される。特に感慨もなく、メルボルンで葬儀を開催するつもりでいたサムだったが、弁護士から聞かされた遺言に従い、やむなくジェノアに帰郷することにした――あれ以来、避け続けてきた故郷へ。
人が消え朽ちかけた家で数日を過ごし、葬儀は滞りなく終わった。モーリス夫妻もとうに鬼籍に入っている。その夜サムは、父の車を出して何処かへ向かおうとしていた。だが折からの嵐で道の一部が水没しており、引き返さざるを得なくなった。途中、潜り抜けた鉄橋の上に佇むひとりの女をサムは気に留める。バックミラーでその姿をもう一度確認しようとした次の瞬間、電車が鉄橋を通過し――女は増水した川に落ちていた。
家に連れて行き介抱したサムは、彼女が帰省のために乗った電車で、たまたま名乗りあった女性――ルビー(ヘレナ・ボナム・カーター)だと気づく。だが、まる1日近く眠り続け、目醒めた彼女は完全な記憶喪失に陥っていた。[感想]
漫然と見ていては意味不明の話、しかし解釈しはじめると非常に興味深い物語。
一言で言えば、実にそれらしい文芸的作品である。T・S・エリオットの詩“アルフレッド・プルーフロックの恋歌”を基本のモチーフとし(原題もこの詩の一節から取られている)、昆虫、湖、船、といったパーツが幾度も象徴的に用いられ、幻想的な世界を描き出している。重要な舞台である湖は(事故の背景のひとつとは言え)停滞しているせいか薄汚れているし、森も家屋も町並みもありふれた雰囲気で決して美しくはないのに、それを非常に印象的なものに見せている演出は秀逸。
ただ、物語としてはある種のパターンであり、特に新味はない。心理学を導入しながら要素の扱いを堅実に、周到に行っているために完成度は高くなっているが、格別新しい何かを提唱するものではない。
端正な仕上がりであり、提示されたシチュエーションを紐解いていく楽しみがあるが、それ故にあまり一般受けしにくい作品だと思う。伏線を縒り合わせながらじっくりと鑑賞しましょう。
感想が述べにくいので粗筋に凝ってみました。ちょっと嘘。(2002/10/02)