cinema / 『少女たちの遺言』

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少女たちの遺言
原題:Memento Mori / 監督・脚本:キム・テヨン、ミン・ギュドン / 音楽:チョ・ソンウ / 出演:パク・イェジン、イ・ヨンジン、キム・ミンソン、コン・ヒョジン、キム・ミニ、ベク・チョンハク / 提供:オンリー・ハーツ、ACクリエイト、日本トラステック / 配給:オンリー・ハーツ
1999年韓国作品 / 上映時間:1時間37分 / 字幕:根本理恵
2001年12月15日日本公開
2002年04月22日DVD日本版発売

[粗筋]
 日記帳に鮮やかな飾りを添える少女の手、足を括って水没する少女ふたり、グラウンドを一心不乱に走る少女。
 ――遅刻して、植え込みを潜って登校したミナ(キム・ミンソン)は、洗い場の上に一冊の日記帳を見つけて、好奇心から鞄にしまい込む。それは、同じ学年で陸上部に所属するシウン(イ・ヨンジン)とコーラス部でピアノ演奏を担当するヒョシン(パク・イェジン)による交換日記だった。
 ふたりには以前から同性愛の噂があった。クラブで期待をかけられているシウンに対し、ヒョシンは類い希な美貌と大人びた言動、他人をどこか見下すような雰囲気から厭われクラスでいじめに遭っており、シウンだけが一種拠り処のような面があった。ミナは過多に飾られた日記帳の端々に、ヒョシンがシウンに寄せる情愛の深さを嗅ぎ取り、他人の心の中を覗き見るような自分の行いに密かな興奮を覚える。
 たまたま保健室に横になっていたとき、衝立を挟んだ向こうでシウンとヒョシンが話し合っているのを耳にして、ミナはふたりの関係がぎこちなくなっていることに気付く。折しもその日は身体測定が行われていた。友人のジウォン(コン・ヒョジン)やヨナン(キム・ミニ)が一喜一憂するなかで、ミナは日記の文面を追うごとにはっきりしてくるシウンとヒョシンのすれ違いが気になってならない。――そんな矢先、廊下で悲鳴が聞こえた。女生徒たちが見下ろし、堪らずに階段を駆け下りたその先――校庭に、屋上から転落して頭を割ったヒョシンが転がっていた。

[感想]
 非常にアンバランスな作品――という表現が、きちんと褒め言葉に聞こえればいいのだが。
 本編はタイトルクレジットにも示されるとおり、『女校怪談』に続く第二弾として企画されている。実際、ホラーとしての表現はツボをきっちり押さえている。煉瓦を多く用いた、迷路のような独特の作りをした女子高を舞台にし、その独特の立地をカメラワークに活かしているのだ。中庭を挟んで平行する廊下を同じ方向に向かう女の子を交互に撮影してみせたり、閉鎖された屋上に続く階段の暗がりを見下ろすアングルで捉えたり、という具合に。全体に手垢の付いた技法が殆どだが、解った上で応用を利かせているからきちんと効果を上げている。
 しかし、作品をホラーたらしめているのも同時にそれだけに留まらない作品にしているのも、登場する少女たちを等身大で描き、そのアンバランスさをきっちり魅力として画面に刻みつけていることだろう。物語の核となるヒョシン役のパク・イェジンは年頃に似合わぬ大人びた容姿の持ち主で、作中同級生たちの前では孤高を気取り見下すような態度を取ることが殆どだが、反面シウン=イ・ヨンジンを前にしたときの言動はひどく子供じみていて、無邪気で悪気がなく独占欲に溢れている。いっぽうシウンは誰に対してもどこかクールだが同時に体面を気にしているようで、ある事件から耳の調子を悪くしているがそれを強いて隠そうとし、またヒョシンを愛しながら彼女の思いを重荷に感じてもいて、関係のバランスに戸惑っている。主役格でただひとり、平均的な印象のあるミナ=キム・ミンソン(でも役者自身の実年齢は彼女が一番上だったりして)にしても、想像すらしなかった同級生の関係に触れ、そしてその死に直面することで精神のバランスを失い混乱に陥る。
 彼女達の困惑と動揺とがいつしか学校全体を巻き込む事件へと発展していくわけだが、しかしその原因や最終的な意図は明示されない。ただ混乱だけが描かれ唐突に収束し、回想場面を経て物語は幕を降ろす。作中、時系列がやたら錯綜していることもあって、漫然と話を追っているだけの人には特に「なんだかわけわからん」だけで終わってしまう危険もあるし、そーいう感想もちょっと否定しづらい。だが、因果関係をはっきりさせることにばかり執心するものより遙かにホラーとして意欲的だし、何よりごく普通の少女たちの匂い(いや変な意味でなく)を描くことに焦点を絞った作品と考えれば、翻って高く評価できるだろう。時系列の混乱も原因の不明瞭さも、繰り返し鑑賞する場合には楽しみとなる――ただ、取り敢えず再鑑賞の時にも楽しめるかどうか、について保証はしない。

 余談。私は劇場で映画を観る際、初見であれば必ずプログラムを購入するのが習慣となっている。本作では恒例のように主演女優さ人に対するインタビューが行われ、その現場でのスナップも掲載されているのだが――スナップでのきらびやかに装った彼女達よりも、本編の過剰に飾らない表情の方がより魅力的に映ったのは、どう評価するべきか、ね。

(2002/01/03・2004/06/22追記)


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