cinema / 『オーシャンズ11』

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オーシャンズ11
監督:スティーヴン・ソダーバーグ / 脚本:テッド・グリフィン / ハリー・ブラウン&チャールズ・レダラーの脚本に基づく / 原案:ジョージ・クレイトン・ジョンソン、ジャック・ゴールデン・ラッセル / 音楽:デイヴィッド・ホルムズ / 撮影:ピーター・アンドリュース(スティーヴン・ソダーバーグ) / 出演:ジョージ・クルーニー、マット・デイモン、アンディ・ガルシア、ブラッド・ピット、ジュリア・ロバーツ / 配給:Warner Bros.
2001年アメリカ作品 / 上映時間:1時間57分 / 字幕:菊地浩司
2002年2月2日公開
2002年08月09日DVD日本版発売 [amazon]
2003年10月03日DVD最新版発売 [amazon]
公式サイト : http://www.oceans11.jp/
劇場にて初見(2002/01/26)

[粗筋]
 念願の仮釈放処分を受けると、ダニエル・オーシャン(ジョージ・クルーニー)はまずアトランティック・シティーにて「ラモン」の偽名でディーラーとして働く旧友・フランク(バーニー・マック)の許を訪れた。「また何かしでかす気か?」と問われて、オーシャンは不敵な笑みを浮かべる。
 ハリウッド場末の酒場で、若手タレントたち相手にポーカーの指導をしているのはラスティー・ライアン(ブラッド・ピット)。あまりに脳天気で飲み込みの悪い彼らの様にうんざりして一度席を立ち、戻ってみると、そこには親友であるオーシャンの姿があった。オーシャンは、次の計画のためにラスティーの頭脳と天才的な犯罪センスを必要としていた。オーシャンの狙いは、ラスベガス、三つのカジノを束ねる大立者・ベネディクト(アンディ・ガルシア)の金庫。法律のために、そこには最大1億5000万ドルが詰め込まれていた――
 早速ふたりは各地に協力者を求める。まず、ラスベガス一帯を仕切る警備会社のオーナーであり、ベネディクトの計略でカジノを潰されたことのあるルーベンから資金援助を得た。ロサンゼルスでは、フリーでFBIの仕事を手伝うほどの技術を備えた電子技師であり、コンピューターセキュリティ突破の達人・リビングストン(エディー・ジェイミソン)を。セントピーターズパークでは、胃潰瘍で現役を退いた詐欺師にして変装に長けるソール(カール・ライナー)を。サンディエゴではサーカスの一員であり、小柄で柔軟性に富む躰に曲芸を得たイエン(シャオボー・クィン)を。ソルトレイクでは運転と車輌改造、そしてラジオコントロールを得意とするバージル(ケイシー・アフレック)&ターク(スコット・カーン)のモロイ兄弟を。ロサンゼルスでは、爆弾に魅せられ火薬を自在に扱うバシャー(ドン・チードル)を。そして最後に、伝説的なスリ師・ボビーの息子であり、経験浅く短絡的な面はあるが技術そのものは神業に等しいものを備えたルーキー・ライナス(マット・デイモン)を。
 合わせて11人、後にも先にも成し得ないチームが、ミサイル基地並のセキュリティに匿われた金庫を目指す。

[感想]
 主要キャスト及びソダーバーグ監督は、本編公開に先駆けて各所で行われたインタビューに際し、この作品を『アンサンブル映画』と表現している。上に代表的出演者として掲げたあまりに煌びやかな名前に幻惑されがちだが、実際の作品はそれぞれの名前に惑わされず、個々が自分の役割をこなしそれぞれに見せ場を持った、正しく「アンサンブル」と呼ぶに相応しい仕上がりなのだ。
 普通これだけのビッグネームが集うと、その何れかが誰かを食って、結局は一人勝ちという結果に落ち着きがちだが、本編ではタイトル・ロールのオーシャンを演じるジョージ・クルーニーが扇の要となりつつも誰ひとり霞んでいない。……まあ、上の五人がストーリーの軸となっている点はハリウッド全体での立場から致し方ないことではあるが、肝心の犯罪計画実行の段では全員が忽せに出来ない部分を押さえている。『トラフィック』で見せたソダーバーグ監督のバランス感覚の賜物だろう。日本ではジョージ以下五人の知名度が格段に高いが、他のメンバーもアメリカショウビズ界ではそれぞれに名の通った存在らしい。(個人的にはドン・チードルも前述の五人に匹敵する存在だと思ってるんだが)。うち、ただひとりスタッフによって抜擢されたシャオボー・クィンだけが知名度も低く映画そのものにもこれが初出演という異例の立場にあるが、そういう彼にも見せ場や盛り上げ役を与えているのはお見事というほかない。
 無論、シナリオの貢献も大きい。実の処、計画に登場する細かな仕掛けは過去の映画・小説などで幾度も登場したものが大半なのだが、それを惜しげもなく大量に注ぎ込み目的の成就に奉仕させ、最後ではきちんと溜飲を下げてくれるのだから納得の仕事と言えよう。アイディア先行としなかったことは寧ろ、アイドルスターやビッグネーム、それぞれの存在感を際立たせる一助ともなっており、要求によく応えたテキストと評価したい。
 そして音楽。私個人のベスト3に数えている『トラフィック』での最大の不満はこの音楽だったのだが、本編では古今東西のスタイリッシュな楽曲を引用しつつ、オリジナルもジャズの風味を加えた演奏が、そうでなくても贅沢な作品に更なる華を添えている。これがイギリス映画だと、豪華な引用楽曲に作品が浸かってしまうところを、きちんと抑制しているのも上手い。
 ソダーバーグ監督のセンスが細部にまで光る洒脱な逸品。あまりにバランス感覚に優れていたためにみょーに平板な印象を与えてしまうことが最大の欠点とも言えるが、このキャストとスタッフを得て可能なことは全てやり尽くしている以上文句を言う筋合いも必要もない。流石。

 もうひとつ、ところどころ字幕の表現に違和感を覚えたのだが、どこがどーいうふうにおかしかったのか指摘できるほど細かいところを記憶していなかったので省略。かなりの数、意訳があったようには思うのだが。

(2002/01/27・2004/06/19追記)


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