cinema / 『ラットレース』

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ラットレース
監督:ジェリー・ザッカー / 脚本:アンディ・ブレックマン / 音楽:ジョン・パウエル / 出演:ローワン・アトキンソン、ジョン・クリース、ウーピー・ゴールドバーグ、キューバ・グッディング・Jr.、セス・グリーン、ジョン・ロヴィッツ、ブレッキン・メイヤー、エイミー・スマート / 配給:松竹 / 配給協力:アルゼ
2001年アメリカ作品 / 上映時間:1時間52分 / 字幕:松浦美奈
2002年1月19日公開
2002年06月25日DVD日本版発売 [amazon]
公式サイト : http://www.ratrace.jp/
劇場にて初見(2002/02/16)

[粗筋]
 その日、ラスベガスのあちこちで、6枚の奇妙なコインが、幸運(あるいは不運)な人々の手に渡った
 友人の独身最後のパーティに参加し、すぐにも帰還する予定だった真面目な見習い弁護士のニック・シェイファー(ブレッキン・メイヤー)。
 NFLの大事な試合で致命的な審判ミスを犯し、フットボールファンから目の仇にされ潜伏中のオーウェン・テンプルトン(キューバ・グッディング・Jr.)。
 ホテルから賠償金をせしめようとするがどーにもうまくいかない小悪党のドゥエイン(セス・グリーン)とブレイン((ヴィンス・ヴィーラフ)のコーディ兄弟。
 赤ん坊の頃養子に出してしまった娘を捜し続け、漸く辿り着いた母のヴェラ・ベイカー(ウーピー・ゴールドバーグ)に、その実の娘だが感動の再会の際にも仕事の電話が入り怒りに任せて携帯電話を破壊してしまうパワフルな女・メリル・ジェニングス(ラナイ・チャップマン)。
 家族サービスのためにデイヴィッド・カッパーフィールドのショーを見に遠路はるばるラスベガスを訪れたはいいが、スロットマシーンの誘惑に耐えきれなかった肥満一家の主・ランディ・ピア(ジョン・ロヴィッツ)。
 そして、正体不明で挙動不審、怪しげで覚束無い英語を話すイタリア人エンリコ・ポリーニ(ローワン・アトキンソン)
 以上6組の男女がベンジャミン・ホテル最上階のスイートルームに集められると、間もなくひとりのハイテンションな男が現れた。ドナルド・シンクレア(ジョン・クリース)――知る人ぞ知る、賭け道楽の大富豪。愉しそうに笑いっぱなしのシンクレアは、6つの鍵と契約書とを配ると、おもむろに言い放った。
「ここから700マイル、ニューメキシコ州シルバーシティの駅にあるコインロッカーに、200万ドルがしまってある。ルール無用、早い者勝ちだ。――行け
 そんなことを言われてはいそーですかと飛び出していけるわけがない。ただひとりノリノリなエンリコを除き、誰もが最初は困惑するが、みなそれぞれに事情と好奇心とがあって、結局団子状にホテルを飛び出していく。その様子を、シンクレアはじめとする暇な富豪たちがモニター越しに眺めているのは、誰が最初に200万ドルを手にするのかをネタにした賭けに興じているからだった。嘘をつき、騙し合う動物“人間”によるラットレースをネタにして。
 一同はそれぞれの手段で空港に馳せ参じ、ニューメキシコを目指そうとするが、旅費の持ち合わせもないコーディ兄弟は空港の設備を破壊して管制機能を麻痺させ、ほかのメンバーの足止めをする。すったもんだの挙句目的は達し、全便休航となった空港から飛び出し陸路でのレースが続く。
 ただひとり、常識的な考えから参加を拒否したニックは、だが地元へ帰る便を待ってやはり空港の喫茶店にいた。たまたま自分と同じ本を読んでいたパイロットのトレイシー・フォーセット(エイミー・スマート)とお近づきになろうとした矢先、全便休航を知ってもっと話が出来ると喜ぶが、トレイシーはヘリコプターの操縦士であり、管制機能に関わらず出発できる。しかも、目的地はニューメキシコ――この上ない好機に、ニックはにわかに欲を見せた。
 奇想天外、ハチャメチャなトラブル続きの人間ラットレース、果たして200万ドルを手にするのは誰か?

[感想]
 良質のコメディ、とひとくちに言っても、意味合いは人とその時々によって異なるだろう。老若男女どの層にも平等に受け入れられるような一般的なシチュエーションと笑いを演出したものもそうだろうし、大笑いはさせずともウイットを駆使してにやりとさせ続けるものもそうと呼べるはず。同様に、本編の如く理屈も何も抜きに笑わせて、何の後腐れもない爽快な気分を最後に残してくれるものも、シチュエーションの品性に拘わらず良質なコメディと呼んでいいのではなかろうか。
 金持ちの道楽に突如巻き込まれ、望む望まないを無視してレースへの参加を強要され、んなのアリかおい、とツッコミをかましたくなるような多数の偶然とトラブルに見舞われる。それぞれの出来事に伏線も何もなく、兎に角意表を突いて笑わそうとしか考えていない潔さ。正直感想とか批評とか書くのさえ馬鹿馬鹿しくなるほど単純なコメディなのである。
 嫌味を言うことは出来る。いちばん大きいのは、それぞれのキャラが立っているのに尺の問題もあってか、造型が展開にあまり奉仕していないこと。27年振りに出逢った母子、という設定があるが、レースの過程では極めて解りにくい些細な点で影響が窺えるくらいで、積極的に役立ってはいない。ほかの登場人物もそれなりにキャラクターと展開が組み合わさっているものの、物足りなさは否定できなかった。
 しかしこんなのは些細な問題である。些細な問題である、と言えるほどに大がかりで大らかで、いい気分にさせてくれる、その事実だけでも充分だろう。とりあえず、本編がある意味での良質なコメディと呼べることだけは保証する。――但し、その方向性について各自酌んだ上でご鑑賞下さい。けっこう深かったり黒かったりピンク色だったりしますから。

(2002/02/16・2004/06/19追記)


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