cinema / 『自殺サークル』

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自殺サークル
監督・脚本:園 子温 / 音楽: 長谷川智樹 / 出演:石橋 凌、永瀬正敏、さとう珠緒、宝生 舞、ROLLY、萩原 明、麿赤兒 / 製作:オメガ・プロジェクト、ビッグビート、フューズ、フォービーズ / 配給:アースライズ
2002年日本作品 / 上映時間:1時間38分
2002年03月09日公開
2002年07月12日DVD発売 [amazon]
公式サイト : http://www.omega-micott.co.jp/haikyo/
劇場にて初見(2002/03/16)

[粗筋]
 5月26日、新宿駅。突然ひとつのプラットホームに女子高生が大挙した。電車が近付くころ、ホーム白線の向こうに一列に並んだ彼女達は、それぞれ手に手を取り、「いっせーの、せっ」の合図と共に、線路に身を投じた。
 前代未聞の惨劇に困惑する世間、警察当局を余所に、悪夢は別の場所でも展開されていた。深夜の病院、夜勤中の看護婦ふたりが相次いで、何の予兆も見せず唐突にナースステーションから飛び降りた。新宿駅での出来事を事件として捜査するか単なる集団自殺として処理するか悩んでいた黒田刑事(石橋 凌)らが現場に赴く。捜査の最中、黒田らは血染めのボストンバッグを発見する。開けてみて、刑事達は言葉を失った。
 ――同じボストンバッグは、新宿駅でも発見されていた。駆け付けた黒田たちがその場で開けてみると、中身は病院で見つかったのと同じ――人間の皮を一部分だけ剥ぎ、縫い合わせて作ったリボンのようなもの。それが丸く巻かれ、仕舞われていたのだ。調査の結果、剥がれた皮とほぼ似たようなサイズの傷跡が、駅で集団自殺を図った女子高生たちの遺体にも認められた。リボンの材料とされた人間の皮は、明らかに一枚一枚が別人のものであった――つまり、新宿駅での集団自殺と同根の死が、百数十人の大規模で存在していたか、これから発生することを意味する。黒田たちは戦慄を禁じ得なかった――
 留まるところを知らない連鎖自殺。やがて事態は、誰ひとり想像のし得ない方角へと転がっていく……

[感想]
 ……どうも評価の軸に困る作品である。監督自身がいみじくも語るとおり、観る人によってそのイメージは変容する。不条理なホラー映画、不安と蔓延する死への憧憬を描いた青春映画、或いは辿り着くところの見定めが利かないサスペンス――しかし、どれも正しいとは思えない。変に型に収めようとすると、どこかがはみ出しているような余っているような居心地の悪さを感じさせる。
 居心地の悪さの原因の一つに、本当に肝心な部分は一切説明されていない点がある。一旦は着地点を垣間見せておきながら、結局根幹となる部分は腕の中を擦り抜けて雑踏に消えてしまったような感覚。なまじ一瞬結末が明示されるような描き方をしたから、余計にその喪失感が大きく思えるのだ。
 観る人によって捉え方が異なる、恐らくそのこと自体が監督の狙いであり、映画的手法のツボの抑え方においてもそうした表現の選択にしても、非常に理知的で精度は高い。
 ――とはいえ、細かな描写のリアリティには色々と難癖を付けられる。例えば、自殺でも「事件」は「事件」なのだから、お座なりにでもある程度の捜査は行われるはずなのに、描かれる捜査関係者はそれすら無視しようとしている。また、冒頭で描かれる、女子高生の集団自殺の場面――その描写自体の凄まじさは今更付け加えることがない程だが、あれだけの事態であれば、現場に居合わせた人々のPTSDもいずれ問題となる。そうした、外部での対応が全く描かれていないのが、なまじ捜査陣や一部関係者の感情の機微が丁寧に拾われていただけに物足りなくも勿体なくも思える。尤も後者はそれこそ観客がそれぞれ想像力で補い、副次的なエピソードを自ら膨らませることで新しい興奮を味わう、という選択肢にもなり得ているとして評価することも可能だが。あと、作中であまりにも現在的な悪戯を幾つか施しているのも、やり過ぎと映ることが屡々あった(普通有り得ない場面で場内から笑いが零れたりしていたし)。
 どこまで確信犯的に行っているのかは判断しかねるが、徹頭徹尾思わせぶりなガジェットを投じ、その殆どに明確な説明を施さず、それらが全体として致命的な破綻を来していないのが巧みな一本である。但し、説明していないだけに見るものの意識や嗜好を非常に狭めている。
 傑作とは正直口にし辛い、ただ一見の価値はある問題作と表現するのは可能だろう。出来ることなら、どんなに退屈と感じても漫然と眺めることだけは勘弁していただきたい。――その結果、大傑作と感じるも歴史的な駄作と感じるも、こちらでは一切の責任を持ちかねるが。

(2002/03/16・2004/06/21追記)


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