/ 『助太刀屋助六』
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『light as a feather』トップページに戻る助太刀屋助六
監督・脚本:岡本喜八 / 原作:生田大介 / 音楽:山下洋輔 / 出演:真田広之、村田雄浩、鈴木京香、仲代達矢、岸田今日子 / 配給:東宝
2001年作品 / 上映時間:1時間28分
2002年02月16日公開
2002年08月21日DVD発売 [amazon]
劇場にて初見(2002/03/06)[粗筋]
暴風の中子供と石投げ遊びを本気でしているこの男、別に気が触れているわけではない。この男はいつもこうなのだ。名前は助六(真田広之)、上州に生まれた。父親の顔も名前も知らない。母親と死に別れると、十七にして故郷を飛び出し江戸を目指した。道中たまたま仇討ちの現場に行き会い、手伝ったときの爽快感と報酬に病みつきになって、以来「助太刀屋」を名乗り頼まれもしないのに自分から仇討ちの助太刀を買い続けて三十八回、七年も世の中を渡り歩いた恰好だ。流れ流れてふいと足を向けた先が上州、折角だからと助六は母の墓参りを思いついた。
貧相な墓を建て替えることを思いついてふと見遣ると、墓には一輪の花が手向けてある。親類縁者の一人もいない母子ふたり、首を傾げながらも助六は思い出深い村を訪れる。すると村は一同息を詰めて家に引き籠もり、表の様子を窺っていた。そこでにわかに再会したのはかつての悪ガキ仲間で今は番太(交番勤務の巡査みたいなもの)の太郎(村田雄浩)。話をしてみれば、間もなくこの村で仇討ちが行われるという。にわかに活気づく助六だが、太郎はすげなく「助太刀なんかいらねえ」と応えた。討たれるは片倉梅太郎(仲代達矢)、元は八州廻りの役人であったが同僚ふたりを瞬殺した。討つはその同僚ふたりの兄弟・脇屋新九郎(鶴見辰吾)に妻木湧之助(風間トオル)、関八州取締出役榊原織部(岸部一徳)ら役人が見物、ではなかった、検分として後ろ立てとなる。用無しと知った助六だが、軽いノリで仇討ち衆の籠もる酒場を訪れ本懐を祈ってみせた。
ついで、これまたガキの頃からの馴染みである棺桶屋の爺さん(小林桂樹)を訪れてみると、そこには自分を収めるかも知れない棺桶の完成を待つ片倉の姿があった。自らの戒名を携え震える手で位牌に留め、悪党にはほど遠い貫禄を示す男を訝しく思い理由を訊ねる助六だが、片倉はもとより爺さんも幼い頃助六に懐いていたタケノ(山本奈々)も口を噤んでいる。そうこうしているうちに時が来、請われて片倉の手に刀の柄を柴ってやった助六の腹を打ち、気絶させたあとで片倉は棺桶屋を発った。
村の辻で展開される仇討ちの一幕。事件当時江戸に遊学しており事情を知らない妻木の問い掛けに、片倉は「知りたければそこの検分役榊原織部に訊け。榊原の胸の裡に、榊原の腹の内に、いや榊原の袖の下に訊け」動揺した榊原が火縄銃を撃ち、続く仇討ち衆それぞれの一閃で片倉は絶命する。
目醒め屍体を遠くで確かめ、出遅れたことを嘆く助六であったが、棺桶屋に戻り片倉が入るはずの棺桶を覗き込んで、愕然とする。そこには、母の墓に手向けられていたのと同じ花が一輪。そして、店の奥に転がる石を母の墓石にしてくれと請う助六に、爺さんは片倉が購入済みだと告げる。うっかりと口を滑らせて言うには、既にふたり分の戒名も預かっていると――
そして始まる、助太刀屋助六一世一代の大仕事。[感想]
痛快娯楽時代劇。まさにそれだけの話であり、そのうえに高い完成度が備わってこそ絶対的な存在感を得た逸品。
何せゲストが豪華である。竹中直人、天本英世、嶋田久作、そうした面々がまず冒頭、助六の生い立ちを語る一幕で、仇討ちに関わった人々として一瞬映ってはすぐさま消えていく。そして何より真田広之演じる助六が爽快だ。仇討ちという陰惨な状況に拘わりながら影がなく、重い真実を知りながらも対応は非常に軽妙である。フットワークも巧みで街道を屋内を屋根を縦横無尽に跳ね回り、登場人物も観客も攪乱してみせる。
世界と設定とが確立しているから、実質舞台は村の狭い一画だけなのにその狭さを感じさせない。冒頭、助六の過去を描く一幕は兎も角として、ほかの場面ではほんの短い場面しか与えられない登場人物でさえ造型がきちんとしており、あくまで助六の引き立て役とは言え作品に貢献しているのが見事。粗筋では触れられなかったが、助六の幼馴染み・お仙として登場する鈴木京香も太郎も活劇での重要なファクターとなっており、短いながら表現に無駄がない。あまりに無駄がなく定石を丁寧に踏まえているがためにすっかり展開が読めてしまうが、それを傷と言ってしまうのはまさしく野暮だろう。
手頃な尺、明解な人物造型、シンプルながら人間洞察の深さを感じさせる筋。そこに時代劇とは思えない意外なカメラワークと殺陣に依存しないアクション、そして和風の旋律でまるっきりのジャズを体現してみせた山下洋輔の音楽を加え、さっぱりとしながら一筋縄でいかない時代劇を仕上げている。褒め言葉も批判も無用、娯楽映画が欲しいなら御覧あれ。(2002/03/06・2004/06/21追記)