cinema / 『スウィート・ノベンバー』

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スウィート・ノベンバー
ハーマン・ラウシャーの脚本に基づく / 監督:パット・オコナー / 脚本:カート・ボルカー / 音楽:クリストファー・ヤング / 出演:シャーリズ・セロン、キアヌ・リーヴス、ジェイソン・アイザック / 配給:Warner Bros.
2001年10月27日公開
2002年06月07日DVD日本版発売 [amazon]
2003年12月06日DVD最新版発売 [amazon]

[粗筋]
 ネルソン・モス(キアヌ・リーヴス)は広告業界の寵児とも言うべき存在だった。数々の賞にも輝き、一日とて休むことなく仕事に明け暮れる。パートナーであるヴィンス(グレッグ・ジャーマン)にとっては頼もしいばかりの相棒だったが、恋人のアンジェリカ(ローレン・グレアム)にとっては愛し甲斐がなく、上司にとっては今にも弾けそうな爆弾でしかなかった。しかし、ネルソンはそうした思いに気付くことなくただただ仕事に邁進する。
 11月を間近にしたある日、今日試験を受けないと免許取消と言われたネルソンは不承不承試験場に出向く。そこで彼は、両手いっぱいの荷物を抱えた若い女性と出会う。椅子に座ろうとして荷物を取り落とした彼女に、零れたサラミの包みを渡したことで何となく共犯者意識の芽生えたネルソンは、試験の最中解らない問題を彼女に尋ねようとしたが、試験官に見つかり彼女だけが受験資格を奪われてしまう。
 試験を終え会場から出てみると、ネルソンの車に彼女が腰を下ろしていた。ネルソンの所為で一ヶ月車が運転できないのだから、責任を取って車に乗せてくれ――とんでもない言い分に呆れるネルソンだが、彼女はよりによってネルソンの自宅まで嗅ぎ付けて押し掛けてきた。仕方なく助手席に載せ、言われるままに夜のサンフランシスコを走り回らせると、あろうことか彼女はある建物のドアをバールでこじ開け、何かを強奪して飛び出してきた。巻き添えを食ったことに憤るネルソンに彼女が示したのは、実験動物にされかかっていた2匹の子犬だった。
 彼女の横暴は止まらない。彼女のアパートメントの前まで送らせると、今度は寄っていかないか、と誘う。これ以上ペースを乱されるのは厭だ、と拒むネルソンだったが、じゃああしたも八時に迎えに来て、と言われて結局上がる羽目になる。やがて雰囲気に流されるまま唇を重ねたネルソンに、彼女――サラ(シャーリズ・セロン)は、「わたしの11月にならない?」と訊ねるのだった……

[感想]
 プログラムをきちんと読むまで知らなかったのだが、本編は『今宵かぎりの恋』(原題は同じ“Sweet November”である)という映画のリメイクらしい。成る程、と思わせる着想の巧みさと全編を貫く伏線の妙。これ以上ないほど完璧な恋愛映画だが、作り手の視座に揺るぎが無くただ「甘い」ばかりでないのは、現代を舞台に練り直したから、という部分もあるようだ。
 恋愛映画の基本を抑えながらも随所で丁寧にはぐらかし、組み立ては終始理性的で忌憚がない。それだけに、恐らく予告編などを見るまでもなく、幾つかの謎や顛末は早々と予想がついてしまう――尤もこれを欠点と捉えるか否かは個人の考え方次第だろう。解っていても感動させるのが監督、脚本家らスタッフ、そして役者達の技だ、とも言えるのだから。その意味で、本編は望みどおりの成果を出している。シャーリズ・セロンにキアヌ・リーヴスという主演2人のコンビネーションは多分現在のハリウッドでも稀な美男美女カップルで、それだけに一歩間違えば絵空事にしか映らない危険を備えているのだが、些か特異な設定が逆に奏功したか、地に足のついた演技を見せた。優しくも謎めいてこの上なく愛らしいシャーリズの所作と、彼女に影響され仕事一筋で張り裂けそうな人間から自然なリズムで生活する感覚を取り戻していく男を無理なく表現してみせたキアヌ。恋愛映画である以上きちんと確立されていなければバランスを崩す主演2人の造型がきちんと仕上がっているのだから、それだけで既に及第していると言えるだろう。そこに、クライマックス直前の創意を凝らした「贈り物」がある。あざといながらもお見事と讃えるしかない。
 恐らく賛否を分けるのは、ヒロイン=サラの秘密が発覚したあとの展開だろう。それまでも水面下に見え隠れしていた苦悶がここに来てじんわりと浮かび上がり、作品のカラーすら変えている。主人公2人は最終的にある決断を下すが、恋愛映画に別の要素を求める人間にとっては「逃げ」としか映らない結末のはずだ。だが、この多分これ以上ない苦しみを伴ったはずの結論こそ、掲げられた「甘い11月」という題名の真意を改めて歌い上げるものに違いない。これ以外の結論は、主人公2人――何よりヒロインが最初から求めていたものを破壊してしまうから。この選択こそ、最後で作品の世界観を破壊せずに“Sweet November”を彼らと、観客とに刻みつける魔法と言えるだろう。
 綺麗事のように映る。だからこそ貴重で優れた、今年唯一にして最良の「恋愛映画」と評価したい(『冷静と情熱のあいだ』があるが邦画なので別枠と捉える、そもそも私はあっちを観る予定現時点でありません悪しからず)。

 ――と褒めておいて何だが、実は本編にはちょっとした傷がある。サラの友人チャズ・チェリーである。このキャラクターには非常に特異な設定が与えられていて、それが却って作品に説得力と愛嬌とを齎しているのだ――が、彼が主人公・ネルソンについて備えていた知識は、果たしてこの物語にとってどんな意味を持っていたのか。その辺が作中で提示されなかったのが、観客の想像を喚起する細工だとしても引っかかりを覚える。ただ、その傷があるお陰で、こと主人公2人について隙を感じさせないストーリーテリングに、僅かなゆとりを設けることが出来たのかも知れない。私自身、物語のことを別にすれば、この良き友人のキャラクターに一番親しみを覚えたのだ。

(2001/12/8・2004/06/18追記)


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