cinema / 『ソードフィッシュ』

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ソードフィッシュ
製作:ジョエル・シルバー、ジョナサン・D・クレイン / 監督:ドミニク・セナ / 脚本:スキップ・ウッズ / 音楽:クリストファー・ヤング、ポール・オーケンフィールド / 出演:ジョン・トラボルタ、ヒュー・ジャックマン、ハル・ベリー、ドン・チードル / 配給:ワーナー・ブラザース
2001年11月3日公開
2002年04月05日DVD日本版発売 [amazon]
2004年06月18日DVD最新版発売 [amazon]
公式サイト : http://www.swordfish.jp/

[粗筋]
 1980年代初頭、アメリカ麻薬取締局(DEA)が囮捜査のために準備したダミー会社があった。誰もが予想しなかったことに、このダミー会社は計画終了までに4億ドルもの利益を上げ、銀行の深層に眠り続け利息を蓄え続け、現在は95億ドルにまで膨れあがっていた。この事実が、スタンリー(ヒュー・ジャックマン)の運命を狂わせることになる。
 天才的ハッカーであったが数年前に、一般人のeメール交信をFBIが監視していた事実に憤ってFBIのシステムに侵入し、それが理由で投獄、妻はポルノビデオ投資家と再婚し、最愛の娘ホリー(キャムリン・グライムス)とは継父が注ぎ込む膨大な弁護士費用によって逢うことさえ叶わない。コンピューターからも隔離され、テキサスの片田舎で世捨て人のような暮らしをしていたが、ある日突然、赤く扇情的なスーツに身を包んだジンジャー(ハル・ベリー)が現れ、ある人物に逢って欲しいと言う。逢うだけで10万ドルの手付け金を渡す、という条件に絆され、スタンリーは娘と娘の今の家族も居を構えるロスアンジェルスに向かう。
 一方ロスでも奇妙な動きがあった。空港で二通のパスポートを持っていたため一時的に拘束されていた人物が逃走、即座に逮捕されたが、調査の結果彼はスタンリーにも匹敵する天才的ハッカーだった。サイバー犯罪の捜査官であるロバーツ(ドン・チードル)が聴き込みに当たり、彼を呼びだした人物の名を聞き出そうとするが、一瞬の隙を突いて彼は通訳共々射殺されてしまった。来訪の理由に疑問を抱いたロバーツは、空港のビデオから彼の行動を確認させるが、その際にほぼ時を同じくして、もう一人のハッカーであるスタンリーがロス入りしている事実を知る。スタンリーは、かつてロバーツ自身が逮捕し裁判所に送った犯罪者だった――
 ロバーツはロスアンジェルスで、ガブリエル(ジョン・トラボルタ)という人物に引き合わされる。元モサド(イスラエル中央情報局)の凄腕スパイにして人心掌握の術に長ける天才的犯罪者であるガブリエルがスタンリーに求めたのは、最高のハッカーが60分で破るセキュリティを60秒で破壊する技術。追い込まれながらもそれを可能にする才能を見せたスタンリーを認め、ガブリエルは計画に誘う。銀行の奥に眠る95億ドルの資金を一瞬で奪うためのワームを、スタンリーに開発するよう命じた――

[感想]
 あの事件がなければ、恐らくもっと爆発的なヒットを遂げていたに違いない。誰かのコメントだが、心底同感する。上は本当に取っかかりまでの粗筋だが、この中にも「おいおい」という単語が登場している。ガブリエルの本当の目的とラストの後日談には更に「おいおいおいおい」と画面上にツッコミを入れたくなるようなシチュエーションが盛り込まれる。あまりに絶好過ぎたタイミングが、作品への素直な評価を阻害してしまった、その最も不幸なケースと言えるだろう。
 しかし、そうした枝葉末節に拘らなければ、アクション映画としては極上の出来映えである。冒頭(と言っても全体からすると後半のエピソードの一部)の『マトリックス』を踏襲発展させた圧巻のVFX(が、まさかこんな頭で使っているとは思わなんだ)、その後の意味深長で時制を縦横に行き来する謎めいたプロット、そして終盤の襲撃シーンにおける、徹底的に観客の意表を突いた演出。最後まで緊張感を保ち観客を飽きさせない、というセオリーを完璧に成し遂げている。最後までその行動理念を量りかねるガブリエル=トラボルタ、ガブリエルの側にいるとも組織の側にいるともスタンリーの見方とも判然としない、所謂ファム・ファタールを体現して魅せたジンジャー=ハル・ベリー、そして状況に翻弄されながらも娘への愛情と誠実さは見失わないスタンリー=ヒュー・ジャックマン、彼ら主要な役者陣の演技も作品を引き立てている。些細な脇役にもサム・シェパード、ヴィニー・ジョーンズ(個人的上半期ベスト1の『snatch』に出演)など魅力のある役者を配し、油断がない。
 兎に角前半からひたすらに観客の死角を進み、ラストにももう一ひねりを加える手の込んだ作品だが、ミステリ愛好家としてはちょっとその仕掛けに疑問を述べたい。その辺りはネタバレを含むので一番下に背景色にて示しました。
 広告ではVFXの迫力ばかり推されている感があるが、それはいわば最初のインパクトに過ぎない。その先の幻惑せんばかりのストーリー展開にこそ注目されるべき傑作。素直にお薦めできます。お見事。

 以下、ネタバレ疑義提示。
 あんな前々から保管していた屍体を利用すれば、間違いなく屍体兆候との不整合から替え玉の疑いを抱かれると思うのだが……損傷著しい屍体なら兎も角、顔の半分以上が原型を留めているぐらいなんだから、あれほど重要な犯罪者の検屍がそこまでお座なりに行われることはあり得まい。まあ、それで通ったんだから問題が生じないよう手は打ってあったのかも知れないけど。

(2001/11/3・2004/06/18追記)


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