cinema / 『TAMALA 2010』

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TAMALA 2010
原作・監督・脚本・音楽プロデューサー・音楽制作・制作総指揮・制作・出演:t.o.l / プロデューサー:塚田誠一、三尾和子、t.o.l / キャラクター原案・デザイン:t.o.l、根本健太郎 / アート・ディレクター:kuno(t.o.l) / 2Dアニメーション:根本健太郎 / 3Dアニメーション・ディレクター:筒本道郎 / 3DCGアニメーション、TATLA CG制作:岡田ケンジ / 声の出演:武田真治、加藤 武、ベアトリス・ダル、佐藤54-71、Christine Die-co、オナン・スペルマーメイド、タロヒ・レオゾウ、梁田清之、伊藤 龍、兵藤まこ、望月久代、ハラシマアツコ / 配給協力:テレビ東京 / 製作・配給:キネティック
2002年日本作品 / 上映時間:1時間32分 / 英語翻訳・監修:Christian Storms / フランス語翻訳:加藤リツ子 / イタリア語翻訳:和田正博、Roberta Pomella
2002年10月19日公開
公式サイト : http://www.tamala2010.com/
劇場にて初見(2002/11/02)

[粗筋]
 2010年のネコ地球はいつ止むとも知れぬ驟雨に閉じ込められていた。その雨のなかから、自家用ロケットに乗って宇宙に飛び出していったのは、愛くるしい顔立ちに絶望の色に染まった瞳を輝かせるパンク猫・タマラ(t.o.l)。人間のおかあさんの制止(というか恫喝)もものともせず、生まれ故郷であるオリオン座エデッサ星を目指してネコ銀河系宇宙を渡る。
 だがその道中、隕石と衝突しタマラのロケットは墜落、タマラは単身Q星に不時着する。ナンパした優ネコ・ミケランジェロ(武田真治)が語るには、この星では通信権を巡って議会が紛糾しており、イヌ地球の連中とネコ地球の連中とがそれぞれのテリトリーを主張し、大きな街ではテロが絶えないらしかった。タマラは平然と、「あたち、怖いものなんてないの」と言い放ち、ミケランジェロを「モワモワちゃん」と呼びつつ付きまとうのだった。
 辿り着いた街には様々な問題が蠢いている。手紙は届かなければ電話も途切れがち、あちこちに蔓延るのは暴力と、GDPの98%を占める巨大企業“Catty & co.”のロゴマーク。権力マニアのケンタウロスというイヌが方々で睨みを利かせ、一方ミケランジェロ自身も家賃と税金の滞納で差し押さえを迫られている。頽廃の支配するそんな世界を、奔放不羈に飛び回るタマラであったが……

[感想]
 ああもう、今回も粗筋書きにくいったら。
 製作における殆どすべての作業に携わっているt.o.lというのは、音楽と映像双方の分野で活躍するアーティスト集団とのこと。hideが立ち上げたレーベルに参加し、その後4年近い月日を費やして本編を製作したようだ。
 そういう出自だからだろうか、筋立てはあまり論理的ではなく、長尺のミュージック・クリップをモノローグ入りで見せられている、といった印象が強い。予想外の展開が続くのだがあまりに予測不可能、というか雑然としているので中盤飽きが来るのは避けられない。「クソばばあ」とか「よく今までぶっ殺されなかったね」とか過激な言動で際立つタマラというキャラクターの魅力と謎めいた雰囲気だけで引っ張っている、と言っても過言ではあるまい。
 その分、音楽は無論、映像には異常なこだわりを感じさせた。モノクロの映像を基調としながら、炎や空、また挿入されるポスターなどはフルカラーで、しかも質感を生むために傍目にも気が遠くなりそうな配慮を施しているのが解る。タマラと彼女を中心とする世界はいっそ幾何学的と言いたくなるシンプルな線で描かれているが、悪夢の予兆を思わせる「一体の女性型ロボットがエスカレーターを昇ってくる」一連の場面では3DCGを用い、異様に描き込まれた未来都市を構築しており、そのコントラストがまた不気味でかつ蠱惑的な印象を齎す。
 ひたすら予測できない展開の果てに辿り着く結末は、だが一種の予定調和で想像の埒から外れないが、割り切れない印象と共に不思議な爽快感も覚えた。
 興味深い作品だが、愉しむためには不条理かつ無意味な筋立てと鏤められただけで回収されないガジェットを「そーいうものなのだ」と約束として受け入れる気質か度量が必要ではなかろーか。

 恒例の余談。
 そんなわけでデザインに異常なこだわりを見せるスタッフだけあって、アートディレクターとしてプログラムにも自ら携わっている。そのため映画のプログラムというよりアートギャラリーの販売用パンフレットという趣を呈しており、眺めているだけでなかなか愉しい仕上がりである。
 ただその分、文章まわりに配慮の乏しさが見受けられる。鑑賞時のサプライズとして残しておいて欲しい要素を平然と書き出してしまうこともそうだが、最たるものは加藤 武氏の紹介文。
「市川崑監督の金田一耕介シリーズ(横溝正史原作)の三枚目警部役(橘警察署長/轟警部)が当たり役としてあらゆる世代に親しんでいるほか、(以下略)」
 さて間違いは幾つあるでしょうか。ちなみに同じ固有名詞のミスが別の項にも認められたあたり、本気で誤解しているか意図的にやっているとしか思われず。

 もひとつ余談。
 なんだか正体不明の名前が並ぶ声優陣だが、うちベアトリス・ダルはフランスの女優で、演技力と同時にスキャンダラスな話題を提供することで知られる人物。何の声を当てているかというと――謎のネコ型ロボット(そこ笑うな)TATLA。ラフを一目見て「これは私だ」と出演を快諾したらしいが……ほんまか? 終盤ちらっとしか喋らないが、あのアンニュイな気配漂うフランス語の語感も手伝って、確かに嵌ってはいたんだけど。

(2002/11/02)


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