cinema / 『ズーランダー』

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ズーランダー
原題:ZOOLANDER / 監督:ベン・スティラー / 製作:スコット・ルーディン、ベン・スティラー、スチュアート・コーンフェルド / 原案:ドレイク・サザー、ベン・スティラー / 脚本:ドレイク・サザー、ベン・スティラー、ジョン・ハンバーグ / 撮影監督:バリー・ピーターソン / プロダクション・デザイナー:ロビン・スタンドファー / 衣裳デザイナー:デイヴィッド・C・ロビンソン / 編集:グレッグ・ヘイデン / 音楽:デイヴィッド・アーノルド / 出演:ベン・スティラー、オーウェン・ウィルソン、ウィル・フェレル、クリスティーン・テイラー、ミラ・ジョヴォヴィッチ、ジェリー・スティラー、ジョン・ヴォイト ほか異常なカメオ出演多数 / パラマウント作品 / 配給:UIP
2001年アメリカ作品 / 上映時間:1時間29分
2002年09月14日日本公開
公式サイト : http://www.uipjapan.com/zoolander/
DVD : Paramount Home Entertainment Japanより2003/01/24発売 [amazonで購入する]
銀座シネパトスにて初見(2002/09/21)

[粗筋]
 マレーシアで新たに選ばれた首相は人権派で知られる人物だった。彼が就任演説で児童労働法の改正を公約すると同時に、ある組織が暗躍を開始する……
 場所は変わってアメリカ。デレク・ズーランダー(ベン・スティラー)は10年間のキャリアを持ち、“Blue Still”などのキメ顔で有名となり、3年連続で年間ベストモデルに選ばれ続けているファッション業界の寵児だった――その日が来るまでは。4年連続の栄冠をかけて望んだセレモニー会場で、ライバルの新人スーパーモデル・ハンセル(オーウェン・ウィルソン)の名前が告げられたのに勘違いして壇上に登り、大恥を掻いた。翌日には彼を気遣い、一緒に憂さ晴らしに出かけてくれたモデル仲間たちを、どーしよーもない事故で一瞬にして失った。
 絶望したズーランダーは故郷に帰り、父ラリー(ジョン・ヴォイト)と共に炭坑掘りをして人生を見つめ直そうとするが、あまりの役立たずぶりとそれまでの身勝手さを罵られて、1日で追い出されてしまう。そんな彼を、デビュー当時から世話になっていたモデル事務所の長であるモーリー・ボールスタイン(ジェリー・スティラー)が呼び戻した。絶頂期にあるズーランダーを一度も使いたがらなかったデザイナーのムガトゥ(ウィル・フェレル)が、突如ズーランダーを新作のモデルとして起用したい、と言い出したのだという。ズーランダーは密かに抱いていた夢の実現――子供達に何かを教えるための施設建造を条件に、申し出を受ける。
 だが、それはある業界の意向を受けて、マレーシアの新首相暗殺を目論むムガトゥの計画の一部だった。倉庫に偽装した洗脳施設にズーランダーを連れ込み、ある条件を満たすと首相暗殺のための暗殺者に変貌するように暗示をかける。
 しばらく前からズーランダーを追っていたタイム誌の記者マチルダ(クリスティーン・テイラー)は、ひょんなことからその計画の一部を知ってしまった。ムガトゥがズーランダーの護衛として宛った女・カティンカ(ミラ・ジョヴォヴィッチ)の妨害に遭いながらも必死に彼を説得しようとするが、彼は聞く耳を持たない――運命の日は、間近になっていた……

[感想]
 この前の週は『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』を鑑賞しました。……続けて観るものじゃありません。『テネンバウムズ』でペン・スティラーとオーウェン・ウィルソンが演じていたのは知性があるが故にお馬鹿というキャラクターだったが、今回は脳味噌猿並で尚かつお馬鹿という著しいレベルアップ(?)ぶりである。
 が、作品そのものはある意味『テネンバウムズ』に匹敵する逸品。あちらが知性に訴えかける静かなコメディなら、こちらは知性と本能に訴えかける強引なスラップスティック、という感じか。あちこちに名作映画へのオマージュ(というかパロディ)を挿入して、マニアの心を擽るあたりまで似ている。
 加えて、広告でさんざ触れられている、セレブの起用の仕方も非常に憎くて楽しい。冒頭、どこかで陰謀が語られている場面の直後、舞台はベストモデル大賞の授賞式会場に映るのだが、ズーランダーの素晴らしさを語る著名人たちがどーやら悉く本物なのである。私が気づいたのはクリスチャン・スレーターにキューバ・グッディングJr.ぐらいだったが、恐らくこの全員一言ずつという場面だけでも両手で数えられるかどうかの有名人が登場しているはずだ。肝心の授賞式でプレゼンターを務めているのはあのレニー・クラヴィッツだし、中盤でズーランダーとライバル・ハンセルがウォーキング対決なる勝負を行う場面で審判として名乗りを上げ、最後にはズーランダーの股の間から顔を出すというとんでもねーことまでやってくれたのは何とデヴィッド・ボウイである。いったい何処にどんだけとんでもねー人間が映っているのか、それを探すだけでも1時間半きっちり楽しませてくれそうな代物。
 コメディとしても、時に裏切り時に期待通りに、と緩急をつけて攻めてくるプロットが巧みで、ラストの無茶苦茶なオチでさえこの世界観なら一切許せてしまう。笑いの方法論を熟知した人々が、短い尺の中に詰め込める限り詰め込んだ贅沢な傑作。チラシの一文にある「そして見終わった時、あなたは知らない内にキメ顔を作っている!!」と書いてあるのはまっっったくもって嘘じゃない。

 余談、というか追記。カメオ出演も大概贅沢だが、役名と台詞のある人々もかなーり変な使い方をしている。ズーランダーの恩人モーリーを演じているジェリー・スティラーは、コメディ中心に活躍しているベテラン役者で名前から想像できるとおりベン・スティラーの実の父親である。ちゃんと物語にスティラー演じるズーランダーの父が登場するのに、そちらにジョン・ヴォイトというこれもショウビズ界の大物を宛っているというのも非常に妙だ。どうやらスティラーは他の家族も登場させているようだが、何処にいるのかは確認できなかった。
 家族といえば、ベンの相手役を務めたクリスティーン・テイラーもベン・スティラー夫人なのだが、こちらは本作での共演がきっかけでそうなったらしい。なんつーか……

 もひとつおまけ。本編は都内単館上映という規模の小ささ故か、プログラムが製作されておらず、チラシと公式サイトの情報のみに頼って本稿を執筆した。幸い、公式サイトの情報がかなり詳しいものだったので(上映中、見覚えがあるのに名前が出てこなかったズーランダーの兄弟役の人物がヴィンス・ヴォーンであることも公式サイトで確認できたぐらいだし)ここまで書けたものの、出来れば作って欲しかった――こーんな楽しい作品なのに勿体ないったら。

(2002/09/14・2003/01/24amazonASINを追記)


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