満月に誘われて
平成13年12月1日
天皇家はもうすぐチビッ子が産まれそうだ。この頃明るい話題が無いので、皇族存在の是非等の面倒臭い話しは置いといて明るく盛り上がってほしいものだ。宮内庁が大忙しになっている中、釣四郎は例の如くロッドを担いでいた。今夜は満月、しかも天気予報では南よりの風が穏やかに吹くらしい。温かな夜が期待出来る。満月と言えば烏賊しか無いだろう。そんな訳でやって来ました三崎港。フラフラと月に誘われたアオリを釣四郎は見事ゲット出来るでしょうか。
三崎港のバス停から歩いていると南の空に虹が見えた。虹と言っても、あの半円形のモノではなく一箇所だけ切り取ったような、そこだけに有る不思議な虹だ。おお、これはいったい何を意味するのだろうか?。今夜の爆釣を示す吉事か、はたまた絶望的釣果を予感させる凶事か?。ここは当然前者に賭けたい釣四郎だった。
前回の出撃で釣四郎は、超低温冷凍庫裏がアオリゲットの確率が最も高い場所であると考えていた。そこで迷わず 超低温冷凍庫裏へ向った釣四郎だったが、そこには巨大な作業船と活魚運搬船がドッカと居座り釣り場が無かった!。呆然と立ちすくむ釣四郎。僅かに二隻の船の間と岸壁先端が釣り可能なスペースとなっているけれども(収容可能人数各1名)、そこには当然の如く竿が出ていた。
仕方が無い。では一番奥の岸壁を覗いて見る。人は少ないけれども墨跡も少ない。白灯突堤も覗いてみるが、こちらの墨跡もお寒い限りだ。考えた末に、とりあえず白灯突堤に釣り座を構える事にした。もしかしたら暗くなって船が動くかも知れないし、そうなったら移動すれば良い話しだ。
タックルをセットしていると突堤先端部が空いたのでこの場所に入る。これまでの経験からすると白灯突堤では、真ん中より少し付け根寄りが良い様に思われるけれども、まあ暫くは此処で頑張りましょう。帰る人も出るだろうから、そうしたら好みの場所へ移動しよう。
本日の潮の感じはどんなもんかいなと、突堤から海を覗くと澄んではいるけれども何だかくらーい。鳥羽一郎か北島三郎の歌が聞こえてきそうな、そんな感じの海である。
16時25分、釣四郎は不安と期待を胸に白灯突堤先端部より新堤方向へファーストキャストを行った。
この場所は潮の影響を受けて、いつもだと釣り難い場所なのだけれども、本日の潮は極ゆっくりとしか流れておらずに釣りやすい。暗くなってから帰る人が増えた。その度に釣四郎は移動して行く。
今夜の白灯突堤での皆さんの釣果は恐ろしく寂しいかぎりだ。先端で釣って居た時にお隣でシマイサキが上がり、他は真ん中付近でワッペンカワハギが上がったのみと言う厳しさだ。当然釣り人は1人、また1人と帰ってしまい、遂には白灯突堤には釣四郎ともう一組と言う事態に陥った。人気の場所とはとても思えない状態になってしまったのだ。
当然アオリのほうもウンともスンとも状態。餌木マンも満月に引かれたのだろうか、入れ替わり立ち代り1人で又はグループでやって来るけれども、暫くシャクッて諦めて何処かへ消えてしまう。
中年夫婦が現れた。オバサンが何処でも釣れていないとこぼして消えて行った。そうして暫くして戻って来たかと思うと、強力な懐中電灯で海中を照らしてウニ採りなんか初めてしまった。「ホラこんなに」と見せてもらうと袋の中にいっぱい入っている。今夜、三崎でエンジョイしているのはこの夫婦だけなのかも知れないと釣四郎は思ってしまった。
ウニ夫婦が漁に精を出している間に話しかけてきたお兄サンは、熱海や福浦の方は良いよと言っていた。1キロ2キロがどうのと、釣四郎にはクラクラするような未知の数字をおっしゃる。おまけにイセエビまで居るそうだ。もちろん意図的に捕るのはいけないけれども、偶然釣れちゃう分には問題無いでしょうとの話しだった。そんな所へ行ってしまったらイカ釣りどころではない。必死で偶然を狙わねば!。
シャクッた時に一瞬ガツッと何かにチップした。回収したオレンジの餌木を見てみるとキズが付いていた。小さいけれども深く傷付き、かじられたように上布が大きく千切られてもいる。イカの仕業だと思いたいけれども、特徴的な丸い傷ではなかったし、もしイカであれば、相当大きなイカに違いないが、此処でそれほどの大物は・・・。何かに引っかかってしまったのであろう。
日曜日に突入した1時30分前に、近くの朝市会場にあるトイレへ行く途中に超低温冷凍庫裏を覗くと、例の二隻の船の間が空いていた。小用を済ませた釣四郎は当然そちらへ移動した。
気分も新たにキャスト開始。気合が入る。乗る気がする。頭上には明るく希望に満ちた満月が輝いている。
ピリリリリリリリリリーーー。大きな電子音と共に活魚運搬船に動きが出てきた。離岸するようだ。おっさんが出てきてモヤイ綱を外し、後進でゆっくりと岸壁から離れて行った。
一気に広くなり、釣四郎はこの岸壁の角近くへ移動した。あちこちからワラワラと釣り人が来そうなものだけれども、餌木マンが一人やって来ただけで、その人も暫くして消えてしまった。
釣四郎の気合とは裏腹に全くアタリが無い。何時の間にか風が強くなって来た。おおむね南よりの風だけれども、北からの時もあり常に変化している。そのうち本当の強風となってしまった。空には、あんなに綺麗に微笑んでいた月が何時の間にか、妖しい事この上無い月へと変貌していた。
夜明けが近づいて来た。少しづつ釣り人がやってき出した。その顔は皆好釣果を期待している。そして釣四郎は今夜のボウズを覚悟していた。「君達、悪い事は言わない。他の釣り場へ移動したほうが良い。今日の三崎は既に死んでいる。」と、言いたい気持ちだったが、そんな事は大きなお世話である。
空が白々として来て朝を迎えた。風はガンガン吹きまくり、ウサギが飛んでいる。港外はシケているようで漁船が湾内で操業を始めた。
ストップフィッシング。全くカスリもしない丸ボウズ。完敗、惨敗、全敗の夜だった。釣四郎の前方に浮かび上がって来た霊峰富士の頭上に満月の名残がうっすらと空に溶け残っていた。
追記
前回同様三崎の海から魚の気配が消えていました。アオリも三崎港から移動してしまったような気がします。あの暗い潮が替われば何とかなるかも知れないけれども、釣四郎には三崎港湾内のシーズンは終わったように思われました。