外道王釣四郎
H14年4月27〜5月6日
ゴールデンウィークがやって来た。黄金週間。誰が言い出したかは知らないけれども、ものゴッツイ呼び方だ。さて、これでも釣四郎はサラリーマンの端くれだから大手をふって連休が取れるわけだ。
で、この休みに何をするかと言えばやっぱり釣りしか無いだろう。昨年はアオリイカのエギングに精を出したけれども、今年は三崎港の、と言うより三浦半島のアオリイカの様子が芳しく無いらしい。良い噂が全然、全く、これっぽっちも聞こえて来ない。いったい如何なっとんのよ。
ならばシーバスとなるのだけれども、こちらもパッとしない。
釣四郎のホームである旧江戸川は桜の季節に稚アユが遡上して来たけれども、一度数が減って「もう終わりかいな」と思っていたら、セカンドランと言うべきだろうか、またまた遡上が始まった。
先の群れは固体が大型で、中にはもう立派なアユの顔をしたヤツも多く混じっていたけれども、今回の群れはチビッコが多い。何が原因でこのような群れによる個体差が生じるのかは知らないけれども、とりあえずはベイトの群れだ。シーバスも追って来て居る事は間違いないだろう。
そんな訳で釣四郎はこの連休中、夜な夜な旧江戸川のスポーツランド対岸に出没しまくった。
ところがだ、これが全くの絶不調!。シーバスはズェーーーッタイ来ている筈なのだが、ルアーを積極的に追わないのかアタリが無い。
それでも釣四郎はせっせと通いつめた。そんな絶望的状況のなか久しぶりにガツンと来た。
ヒットした瞬間ガンガンガンとシーバス特有の首を振る動作がラインを通して伝わって来た。そしてその直後、物凄いパワーでロッドがのされた。
釣四郎は確信した。
「間違い無い、シーバスだ。それも超大物!!。」
以前釣四郎は大物を慎重になりすぎて逃がしてしまうと言った悲しい経験が有るので、ここは慎重だけれども強引に行く事にした。
ロッドを立てて、常に強力かつ強引にテンションを掛け続けた。魚の力が少しでも緩んだと思ったらすかさずリーリングをし、絶対に主導権を渡さないぞ言う姿勢を取った。
時々、暗い水面が盛り上がり沸き返るけれども、コイツはジャンプをしない。「なに大物にはよくある事さ。」思って居たけれども、そのうち段々嫌な妄想が脳ミソの隅っこに靄のように現れ、それがこの超大物とのやりとりの中で膨らみ具体化していった。
釣四郎は、その不吉な予感にも似た妄想を振り払うべくやりとりに集中したけれども、そうすればそうするほど、その妄想は現実味を帯びてきた。
この直線的な引き、このぶっちぎりのパワー。
レ・・・レンギョじゃあないのか!?。
時々暗い水面に姿を現すそいつはのたうち、身をくねらせ、決してあの怒り狂ったようなジャンプをする事は無い。
間違い無い。こっ、こいつはレンギョじゃあああ!!!!。
その事実にガックリとした釣四郎だった。
ラインを引き出されては回収し、回収しては引き出されると言った綱引きにも似たやりとりが暫く続き、ようやく、本当にようやくこの機関車野郎も観念して白い腹を横に向けた。
ルアーは尻尾の付け根付近に2本のフックがガッチリと掛かっている。
フッキング直後の、あのガンガンガンは尻尾を力強く振った時のものだったようだ。
とりあえず水から引き上げねばルアーは外せそうに無かった。タモを入れると網から身体が大きくはみ出す。両手で網の枠を持って「うおりゃっ」と陸揚げに成功した。
ゴロンと転がった巨体は何やら不気味で凄味と言うか、そう言った種類のオーラを発しているように思えた。メジャーを当ててみると何と96センチ。1メートまであと4センチだ。
ルアーを外して、網ごと水に戻してやると、暫く網のなかでじっとして居たが、網からゆっくり出してやると、大きく身をくねらせ、ゆっくりと暗い水底へ消えて行った。堂々としたもんだ。
えらい新記録をつくっちまったぜ。まったく。
苦笑いの釣四郎だったけれども、しかしその二日後またまた93センチのレンギョを掛けてしまうと言う不運に見舞われてしまった。この時はフッキング直後に「ギョエエエエ、またやっちまったい!」と直ぐに正体を見破り、妬けのやんぱち的超強引な取り込みに成功した。いや釣り糸って丈夫だねえ。
90センチオーバーの外道を2本も釣ってしまい外道王の栄誉に王手を掛けてしまった釣四郎だが、連休最後の夜に決定的なヤツをやっちまった。
ルアーの外道は数あれど、コイツを掛けちまったルアーマンはそう居ないだろう。
それはキャストした瞬間の出来事だった。
前夜釣四郎はライントラブルが原因で、久々のバイトが有ったにも関わらずアワセ切れをしてしまうと言う基本的ミスを行なってしまった。その為今夜はラインを巻き替えて来たのだが、フロロを巻いて来たものだから、その硬いラインのキャスト時の感触にいささかの不満を持っていた。それまではファイヤーラインを巻いていたのだけれども、こいつは硬いラインだけれども細くてキャストの感覚が良かった。それに比べると、同じ強度のフロロはぶっとくて、ラインの出がバタバタバタッと言う感じでどうもね。
その不満のキャストを行なっていた時、何やら妙な、バサバサッツと言った感じの、ゴミでも一緒に投げちまったような、そんな感じがした。ルアーも予想した落下点よりも遥か手前に着水した。
「何じゃ!?」
と思い急いで回収すると、ラパラに何かが掛かっていた。
こげ茶色の物体。
「?????」
「コウモリ!?」
そう、それは正にコウモリであった。ルアーを投げると、コウモリが飛んでゆくルアーに反応する事がよく有るけれども、コイツはキャストの一瞬にルアーに反応して飛び付いたか何かで掛かってしまったようだ。
しかも、ルアーを外そうとして身体に触るとガジガジ噛みやがる。いやまいったね。暗闇の同胞を掛けてしまうとは思ってもみなかった。コウモリよ、すまねえ!!!。
このように夢の黄金週間があけてみると、釣四郎のオデコには見事に外道王の烙印が押されていた。この烙印を擦り落とす事が目下最優先事項となってしまった釣四郎だが、この先いったいどうなる事やら。不安だらけの釣四郎だった。
この連休唯一の貴重なシーバス