猫の筏で
平成14年9月8日
この二週間と言うもの無茶苦茶忙しかった。そんな訳で全然釣りに行けずフラストレーションが溜まりっぱなしの状態。何かが釣四郎の中で壊れて行きそうだ。
しかしながら天の助けか釣四郎のガラスのハートが崩壊する前に激務も終了、「ふっへっへっへっ、いやあーっと釣りに行けるぜ!」、と思った土曜日の夜、雨!。しかもガラピシャゴロゴロと雷交じり。TVの速報で大雨洪水注意報。なにーい、もー信じらんない!!。
そんな訳でクラクラしながら迎えた日曜日、遂に天候が回復した。
満を持して釣四郎出撃!。
このところ関東はドピーカン続で東京湾の水は蒸発しまくり、塩分濃度は当然上昇。汽水域を好むシーバスは相当数川へ入り込んでいる筈だ。つまり釣四郎のホームである旧江戸川は狙うべきポイントである筈だった。
だが残念な事に東京に大雨が降った。旧江戸川は増水し濁りまくっている筈だ。
釣四郎はポイントを失ってしまった。
とりあえずダメモトで旧江戸川スポーツランド対岸へ行ってみて、状況を見た上で他を考える事にした。
ポイントへ向かう途中の篠崎水門の上から旧江戸川を見ると予想より水の濁りは遥かに少なかった。もっとデロデロのコーヒー牛乳常態かと思っていたので、「こいつはもしかしたら」と言う考えが釣四郎の頭をかすめる。ちょっと期待しつつスポーツランド対岸に向かう釣四郎だった。
16:30
釣四郎が釣り場に立ち様子を観察しているとハゼ釣りのオッチャンが居た。釣果を尋ねるとハゼ一匹にセイゴ数匹。やっぱり激シブのようだ。セイゴ数匹ってところに微かな期待。もしかしたらデカイのも居るかとスタートフィッシング。
1時間ほど頑張ったけれども全然気配が無い。
どうする?。
この釣り場は引き潮が良い。けれども本日は大潮でしかも大雨で水位が上がっており、尚且つ水門全開状態。恐らく引き潮になればガンガン水が流れて、しかも山のような流下物が有るだろう。
移動!。
釣四郎は海に向かってスクーターを飛ばした。
行き先は迷った挙句に砂町南運河。ちょうど空に明りが微かに残っている時間だった。
しかーし、此処はゴミの山。この釣り場は潮位の高い時間に足元のカケアガリを狙うのがセオリーだけれども、その足元付近がゴミだらけ。元々此処はゴミが多い所だけど、それに加えて荒川からの流下物も大量に流れ込んでいるようだ。濁りもキツイ。旧江戸川以上だ。
キャストの度にルアーにゴミが掛かって来るのでどうしようもない。しかも虫が多い。なんだか知らない虫にチクチク刺される。こりゃアカン!。
再び移動。
新木場の廃工場裏へやって来た。釣四郎が今年初釣行した場所だ。南千石橋の脇でエーデルワイスが流れる場所と言えば判る人も多いハズだ。
ここの水は澄んでいた。クリアーだ。ベイトも確認出来る。期待が高まる釣四郎だ。釣四郎が選んだ場所は運河では無く、貯木場に面した所。隣との敷地の境で筏が浮かべてある所だ。
狙いはこの筏の脇。この筏に着いているヤツを狙うつもりだ。
釣四郎は旧江戸川や南砂町運河を観てこう思った。「このところ天候は安定していたが週末に雨がドカドカ降って状況は急変した。何事も急はいけない。変化はソフトが良いのだ。そんな訳でシーバスはノンビリ回遊なんかしていないのではないか。何かのストラクチャーに寄り添って安心したがっているのではないか。」
どうだい、この考えは良い所をついていそうな気がしないかい?。
筏はけっこう沖まで延びている。手前から攻めるけれどもノーバイト。
次にフルキャストで攻める。廃工場の裏に立っている釣四郎は風を感じないけれども、ちょいと先では風が有るようでルアーが筏の方へ若干流されかなりヒヤヒヤだ。
ボシュッ
ボシュッ
筏の内側の水面が沸く。
おお、あれは間違い無くシーバスのモジリ。一気に期待が燃え上がる。
ラパラCD9レッドヘッドが着水した後沈めずにゆっくり引き始める。いきなり重くなった。ゴミでも掛けてしまったか?。
グッグッ
「魚????」と思いつつとりあえず2,3回アワセを入れてリーリング。
グングンググーーーン。
やっぱり魚だ。
だけれども頭を振る感じも無いし、もしかしてボラかい?。
ロッドを立てて様子を探ると横っ飛びにエラ洗い。
「おお、シーバスじゃん!!。」
と思った瞬間ロッドからテンションが消えた。
「ギエエエエエエーーー、バラシてしまったあ!!。」
ショックである。
気を取り直して再びキャスト開始。
数投後再びグーンと重くなった。迷わずフッキングを2、3回かます釣四郎。今度はロッドを寝かしたままガンガンリールを巻く。大した抵抗も見せずに寄って来た。水面まで高さは2メートル強くらいだろうか。いけそうだったので一気にゴボウ抜き。
出たのは47センチのシーバス、時間は19時35分だった。
まだまだチビッコサイズだけれども久しぶりのシーバスだ。やっぱり嬉しいね。
写真を撮った後、タモに入れて水面まで下ろしてリリース。暗い水底へすっ飛んで行った。
ようやく一安心の釣四郎だ。ここで一腹して余韻に浸りたいところだけれども、どうやら時合いのようなのでキャストを続ける。
スススーーーーッ。
筏の上で何か黒い影が動いてゆく。よおーっく見ると、その影の正体は猫であった。身をかがめ、例のハンティングスタイルで丸太の上を流れるように移動し、ある所でピタリと止まり全く動かなくなる。そおして暫らくして、またスウーーッと動き出す。どうやらこの筏はコイツの狩場であるらしい。
筏に着いている藻を突付いている小魚でも狙っているのだろうか?。逞しいと思った。
随分前に釣四郎は、某有名仏閣の裏山に住み着いていたノラ猫集団にニボシを与えた事がある。明らかに期待顔で寄って来たヤツ等は、そのニボシをクンクンとひと嗅ぎした後プイと顔をそらして何処かへ消えてしまったのである。周りには発砲スチロールの皿にキャットフードが沢山置いてあった。ニボシはキャットフードに完敗であった。ショックだった。飼い猫ならまだしも・・・、ノラなのに・・・。
ところがこの筏のヤツは魚を捕まえて食っちまおうとしている。有名仏閣と言う地の利にアグラをかいて、ゴージャスなお情けをタップリ頂いているヤツ等とは大違いである。そんな逞しいノラの狩場の脇を沖からゆっくりと引いていると手前から3メートル位の所でグンと押さえ込まれた。
バシッツ!。
アワセを入れるとロッドが曲がり魚が乗った!。
ヒットオ!!。
ところが、ランデングコースに、引き潮に流され筏から丸太が一本流れ出て邪魔をしている。まごまごしているとラインがスレてしまうかも知れない。「えーい、仕方が無い!」。
釣四郎はグングンと潜ろうとしているシーバスを「えいやっと」一気にゴボウ抜きにした。まるでカツオの一本釣りのうように。ヒットからランディングまで僅か数秒であった。
50センチジャストのシーバス。時間は19時45分。未だに筏の内側からはボシュッツとシーバスの捕食音が聞こえる。
まだまだ行けそうだ。
シーバスを海に戻して先ほどと同じコースを何度かトレースしていると、今度も手前数メートルの所でコンと来た。ビシッツと合わせたけれども残念ながらフッキングしない。バイトがショートになっている。目立つポイントだけにかなりスレやすくなっているのだろう。
少しポイントを休める為に煙草に火を点けて一腹。それから筏の横のオープンウォーターを攻めて見たけれどもノーバイト。
再び筏の脇を攻める。
ルアーが泳いでいるであろう場所で水が盛り上がった。バイト直前で反転したようだ。くっそー。
正面に見える臨海副都心の夜景を眺めながら21時まで粘ったけれども更なるバイトは遂に訪れなかった。
久しぶりのシーバスフィッシング。久しぶりのシーバスファイト。楽しかった。秋のフィーバスシーズンも目の前に迫っている。この夏は貧果に沈んだ釣四郎だが、この秋はどうだろう。そりゃあガンガンロッドが曲がりまくるのさ。そんなルンルンの予感を胸に帰路に着いた釣四郎だった。