真冬の奇跡

平成15年1月11日・13日

 

今年のお正月はムチャンコ寒かった。

10年ほど昔ブラックバスにハマリまくっていた頃、ウィンターバッシングなどと言う恐ろしい言葉に、ウブだった釣四郎はすんなりハメられてしまい、お正月には印旛沼へロッドとエレキを担いで釣行したものだけれども、よくもまあんな真似が出来たものだ。今となっては信じ難い暴挙である。

しかしながら、それは寒いながらも釣りに出かけようと思えるお天気だったからだろう。

ところが今年のお正月はどうした事か!?。みぞれは降るは雪は舞うはで、思わずペギラ来襲かと思わせる寒さだった(ふっるー!!)。

釣四郎はお正月明けに暫らく仕事で留守をしていたのだけれども、帰って来るとこのページの読者様から1通のメールが届いていた。

それによると、どうやらご近所へ越してこられて旧江戸川でシーバス釣りを始めたけれども、どーにも釣れない。そこで機会があったら一緒に旧江戸川へ行きませんか?、と概ねこんな内容だった。そりゃあ釣れませんわな。だってシーバスは今ごろ海で産卵中だもの。

そんな訳だから春になってシーバスが戻って来たら是非一緒に行きましょう、と返信したのだけれども、次の日、またまたメールを頂き、またもや旧江戸川へ出撃された様子。

このクソ寒いのにまったく大した人である。根性がロッドを担いでいるように思える。そして羨ましいくらいに一途だ。初々しくさえ思えた。

部屋に篭ってウィスキーを舐めつつ寒気に怯えている場合では無くなった。ここは一発釣四郎も燃えたいものである!。そうでなきゃあいけない!!。

ネットで知り合った仲間達は現在メバリングにハマッている様子。夜な夜な春告魚を求めて東京湾を徘徊し、ランカーと呼べるクラスを出しているようだ。

しかし釣四郎はシーバスに拘りたい。

シーバスは現在産卵中で湾奥を留守にしているはずだけれども、よろず物事には例外と言うものが存在する。決まり事どうりに進まないのが世の中だ。そこが面白い処でありややこしい処でもある。

シーバスだって同じ事が言えるだろう。初冬にさっさと産卵を済ませて既に湾奥へ戻って来ているヤツも居るだろう。遠く東京湾の入り口まで産卵しに行かないで、適当にそこいらの近場でとっとと済ませるチャッカリしたヤツだって居るかも知れない。事実、過去の話では1月に新木場や砂町辺りで釣れている。つまりは確率の問題なんだ。そう思うと勇気も湧いて来る。

さて、あんまりアテには出来ないけれど、天気予報によるとこの連休はお正月とは打って変わって春のような陽気になるそうな。

チャーンス!。釣四郎いざ出撃!!。

11日の土曜日、夜が明けた頃釣四郎は新木場へ向かってスクーターを走らせていた。が、荒川を越える途中で不意に気が変わり、橋を過ぎた途端に左折して砂町へと向きを替えた。新砂貯木場がどーにも気になったからだ。この場所は冬場のポイントとしてすこぶる有名なのだけれども、今まで行った事が無かった。何故なら、冬にシーバス釣りなんかしていなかったからに他ならない。

地下鉄東西線の高架の下で道は通行止めとなり、後は歩きとなった。釣り場までは遠いと聞いていたけれど、その話し通りにホントに遠い道のりだ。荒川の土手をテクテクテクテクテクテクテクテク歩く歩く。スクーターで来ているから、防寒の為にモコモコに着込んだ服の内側がむわあーっと暑くなって来た。前のファスナーを開けて、そうしてまたテクテク歩く。

だいぶ健康になった頃ようやく土手の終点付近へ到着した。荒川とは反対側、右手にある木々の間から貯木場の水面が見え隠れしている。

さて何処からもぐり込むのかな。

とりあえず突き当たりのフェンスの処まで行ってみる。

ピンポーン!。フェンス沿いに小道が出来ていた。小さな林を抜けると目の前に広い新砂貯木場が広がった。しかも射程距離内十分すぎる所にパイルがズラリと並んでいる。パイルと言うのは筏を繋ぎ止める為の桟橋のようなモノ。新木場の貯木場に並んでいるアレである。ヨダレじゅるじゅるの場所である。ただ難点は水深。シャローなんだ。浅いのだよ。今は満潮付近の時間だけれども、それでも足元では底が見てえている。本日は小潮だから大潮の満潮前後であれば勝機は大いに有るだろう。夜ならば尚良いと思うのだけれども、しかし此処へ夜来るにはかなりの勇気を要する。一人ではとてもとても来る気にはなれない。すんごく怖いと思う。稲川順二の番組なんか思い出したら、そりゃあもう逃げるように帰る事だろう。

但し、日中であれば静かで素晴らしい釣四郎好みの場所だ。ただ一寸足元には注意が必要だ。この林はどうやら鵜に占拠されているようで、そこいらじゅうフンだらけだからだ。

それと、広さの割には釣りが出来る所が少ない。開けた場所が少なく、その少ない場所から次の場所へ移動するにも一苦労。これもそれも全て林の木々が邪魔をしているからだ。しかもトゲの有る木が多いときたもんだ。もちろんバックスペースなんかは全然無いのでキャスト時は要注意。

釣四郎は此処で1時間ほど釣りをしたけれども、水が全く動いておらず、しかもこの時期ホンマニ湾奥かいなと思うほど水の透明度が高い為、全く釣れる気配が感じられない。時折何かがゴボッとモジるのが気になったけれども、ひとまずてっしゅーう。まあ新たな場所を確認出来た事で満足するとしよう。情報では、ずーっと右の水処理場の方でも釣りが出来るはずだけれども、何処から入れば良いのやら。工事中の場所が見えるけれども、本来ならばあの辺りから入れるハズなのかな?。

行きと同様、荒川の土手をエッチラオッチラ汗をかきながら歩いて、途中土手の芝に座り込んで煙草とコーヒーで休憩を取って、そうしてやっとスクーターまで戻って来た。

本日はこれで終ろうかと思ったけれども、しかしついでだから新木場まで行ってみる事とした。

 

何時もの如く南千石橋脇から入って、廃墟となった工場の一番奥まで行ってみた。昨春に開幕戦を行なった場所だ。

水が澄んでいて底の様子が良く見える。ルアーをリトリーブして来ると手前で良く根掛かりしたけれども、改めてけっこう浅いのだと実感した。それにあちこちに木が沈んでいる事も肉眼で確認出来た。

新砂貯木場同様、釣れる気が全然しない。帰ろうかと思ったけれども、まあせっかくだからと思い、こちらも一時間ほどキャストした。案の定何の音沙汰も無かった。

本日の釣りはここで終了!。

 

日曜日。長潮ゆえに出撃せず。流石にね。

 

13日月曜日。成人の若潮で出撃。

午前中の上潮で有明フェリー埠頭を狙うつもりで臨海副都心へ向かった。がしかし、潜入ルートがどーも判らん。関係者以外立ち入り禁止の看板を無視して堂々とゲートイン出来るものなのか、はたまた裏ルートが有るのか?。埠頭は作業中の場所が多く、遠くから観察した限りでは釣り人は確認出来なかった。辺りをウロウロウロウロしたけれども、やっぱり良く判らない。

で、どうしようかと考え、砂町南運河へ行く事とした。新木場と若洲の間にある運河だ。ここは例年スタートが早い。チャンスが有るかも知れないと思ったからだ。

運河の西側から水辺へ降りると、入れ違いに投げ釣りの人が帰って行く。

「何か釣れましたか?。」と聞くと、「朝マズメにフッコか来たけれども、取り込みの時にバラシてしまった。」との返事に釣四郎はウキウキになった。

「おお、やっぱ居るじゃん!。」

水面を観察すると、潮目のようなものが岸に対してほぼ直角に走っていた。釣四郎はその手前まで歩いて行き、ラインの先にラパラをセットしてキャスト開始だ。

満潮までは2時間ほど。水は極々ゆっくりと荒川方向へ動いている。一昨日同様、ここの水もクリアだ。7月や8月に来ると赤潮で真っ茶っ茶に濁り透明度数センチ状態。ホントに魚が居るんかいなと思われる場所なのだが、ここまでクリアになると、これはこれで釣れる気がしなくなっちゃう。

普通は潮目の移動と供にこちらも移動するのだけれども、この潮目らしきものは殆ど動かない。そんな訳で一箇所に立って扇状に何度も何度もキャストを繰り返した。

グググッ!

不意にそのアタリはやって来た。

おおおおおおお!!

スイープアワセと言うか巻きアワセと言うか、そんなソフトなフッキングを入れるとロッドが曲がった。

やっりー!!。

夏の魚のようなパワーは無いけれど、リールを巻いて来るとクリアな水の中で魚が首を振りながら逃れようと抵抗している様が良く見える。そうして、水面に踊り出てのエラ洗い。おお正しくシーバス!。まさか本当にヒットするとは思って居なかったので無茶苦茶嬉しい!。

サイズ的に言ってゴボウで抜いても良かったけれども、ここは慎重にタモを入れて無事ゲット!。

お腹がペチャンコで痩せていて、精悍な魚体とはとても言えないけれども、だがしかし正真正銘のシーバスだ。素晴らしい!。

嬉しい46センチ

リリースした後、もしかしたら群れで居るかもしれないと思いしつこくキャストしたけれども全く音沙汰は無かった。

コーヒーを飲みながら煙草で一腹、とポケットを探ると何と煙草を忘れて来ちゃった。うっそー、大失敗だ。携帯灰皿には一昨日のシケモクが・・・。比較的長いのを一本引きずり出して、指でチョイチョイと形を整えてから火を付け、大事に乾いたケムを吸い込む。情けねー。だけれども、これはこれで次元大介(ルパン三世に出て来るキャラね)風でシブイじゃんかと思うように勤める。

動きのきわめて悪い潮目に見切りを付けて釣四郎は荒川方向へ移動を開始した。10メートルくらい移動しては扇状にキャストしてまた動く。そしてキャストしてはまた移動する。

運河の真ん中辺りまで来た所で新たな潮目を発見した。しかも荒川方向からこっちへ向かって来ている。これは良い!。

潮目に交差するようにキャストする。だがこの潮目、動きが速い。3投ほどするともう釣四郎の前を過ぎて行った。追いかけるようにキャストするけれども、段々面倒臭くなって来た。もうチョットゆっくりマイペースで行きたい。

適当な所で潮目に別れを告げて再び荒川方向へ移動とキャストを繰り返した。先の潮目の通過と供に水は川のように流れだし、良く見るとロックのウィスキーを明りに透かしたように、濃度の差によって出来るトロリとした、又はモヤモヤとした液体の皺とでも言いたいようなモワモワが透明度を悪くしていた。此処はゴロタ場だ。石の間に残っていた前の海水と、荒川から入って来た淡水が交じり合ってこうなっているのだろうと勝手に解釈して、その不思議を見つめていた。

だけれども、こんな急激な水質の変化に晒された魚はどうなのだろうか。潮目を狙うのはセオリーだけれども、それはあくまで潮目の上流側ではあるまいか?。急速な変化に見舞われる下手側ではイカンのでは無いか。急にそんな事が脳味噌の皺の間をよぎった。

こうなると集中力とか魚が居るぞ釣れるぞと言うポジティブな考えがシオシオと萎えて来てしまう。この運河は水上バスの航路となっているので、その船が通過する度に引き波で足元がさらわれる。落ち着くまで暫らくコーヒーブレイクとなるのだけれども、つい習慣で煙草がほしくなる。で、携帯灰皿のシケモクをみみっちくあさっていたのだけれど、それも遂には品切れとなってしまった。

そろそろ帰ろう。お腹も空いて来ちゃったし、何より奇跡の一匹をゲットしたじゃんか。物事の例外を手にしたじゃんか。奇跡と例外は連続しないからそう呼ばれているのだ。例年よりも数ヶ月も速いシーバス初ゲット。素晴らしい快挙ではないか!。

釣四郎は大満足のホクホクで運河を後にした。

今回のヒットルアー