立体造型用素材類

 ここでは立体造型、つまり主に“スクラッチビルド”に使用される素材について取上げます。主としてフィギュア造型用のものですが、基本は同じです。ポリパテやエポキシパテはメカ用素材としても使えます(昔の海洋堂原型師・・・というか当時の速水仁司氏あたりはファンドでロボ作ったりもしましたが)。はっきり言って私ごときの知識など、その道に精通した人には技術的にも使用法の熟知度でも遠く及びませんし、あちこちツッコミどころ満載ですが、簡単な素材特性の紹介ということでご勘弁を。



石粉粘土(ファンド)
 石粉(滑石の微細粉末で、タルクパウダー等)を主成分にした粘土。「つなぎ」としてパルプ系増粘剤が使われている為、その物性は紙粘土に似ていて、化学変化ではなく水分の蒸発による「乾燥」で硬化する。主商品の「ファンド」は非常にキメが細かく、完全乾燥後はかなりの強度があり、それでいて加工性も良いことから昔からフィギュア等の原型用素材として多くの原型師から愛用されてきた(特にかつての海洋堂原型師は伝統的にファンド愛用者が多く、初期の怪獣全盛時代からボーメ氏の美少女フィギュア期までずっとファンド原型のものが多かった)。かつてはパジコ社のフォルモ、ラドールなどの同系粘土も愛用者がいたが、キメが粗くて脆く、表面仕上げが困難等の理由から、その後は現在に至るまでファンドやその姉妹品といったアークトクレイ社の製品が主流になっている(ちなみにアートクレイ株式会社は現在に至るまでホームページを持っておりません)。

アートクレイ ファンド
 素材特性から一応は紙粘土の分類で扱われているが、実際は石粉を主成分とした石粉粘土。昔からあり、フィギュア造型用の定番素材となっている。扱い方は紙粘土と同じで「水に溶ける」性質。形を作る前によく練る必要があり、こうしてよく練ったものは硬化後にかなりの強度が出る。化学変化ではなく水分の乾燥により硬化するため肉痩せがあり、基本の芯部分を大きく作った場合や厚く盛った場合は、完全乾燥に1週間ほどかかる。ある程度熱に強い為、オーブントースターでの強制乾燥も可能だが、これには独特のコツが必要で、厚盛りしたものを無理に熱乾燥させようとすると内部水分による膨張で大変な事なる(こともある)。キメが細かく硬化後はかなり硬くなる(ポリパテと同程度以上)が、基本的に完全乾燥後でないと切削作業が出来ない為、気の短い人や作業を急ぐ人には向かないようだ。だが400g525円と価格が安いのと、馴れれば自由な形が出せる為、未だに愛用者は多い。他に特性の違う「ニューファンド」や「メルファンド」等の同系商品がある。



ポリエステルパテ(ポリパテ)
 一般にポリパテと呼ばれる。ポリエステル樹脂に石粉や樹脂粉・溶剤を混合して粘性を出したもので、硬化剤の添加により化学変化で固まる。本来は家屋や自動車の補修用素材・または工業用として使われていた物だが、その特性から一部のモデラーがフルスクラッチ・改造用などに使用していて、80年代初頭の「ガンプラブーム時」に雑誌等で紹介されたことから模型店でも扱うようになった。当初出回っていたものは、主に日本ペイントのカー用ポリパテ(ニッペ厚付けパテ 100g・900円)だったが、キメが粗くプラスチックに食い付かない代物で、更に硬くて加工しにくかった。80年代半ばにワークから「モリモリ」が発売され、その後各社から模型用ポリパテが発売されるようになり、改造ベースやスクラッチ用素材として一般に使われるようになった(モリモリと同時期に他社から模型用のものも出ていたかもしれないが詳細不明。ジャパン・レジンクラフト社のポリパテはこれ以前にあったが、確か粘性が低くて盛り付けが出来ないものだったと思う)
 特性は物によって違うが、一般に切削可能時間は20分〜1時間程度で、完全硬化には1日程度かかる。硬化剤の量を多めにしたり、暖めたりすることで硬化を早めることは出来るが、物性が脆くなり、硬化時に有害ガスが通常より多く出たりするので注意が必要。硬化剤はメーカーが違っても多くの場合使えることが多く(使えない場合もある)、硬化剤によって特性が変化する場合もあるので、この辺は経験に応じて色々試してみるとよいだろう(一般にモリモリ用の硬化剤は互換性が高いようだ)。化学変化で硬化するために「ヒケ・肉ヤセがない」と一般には言われているが、実際は化学変化や溶剤の揮発による経時収縮があり、他の素材と合わせて使った場合、素材の継ぎ目からひび割れたりすることもある(改造・フルスクラッチのワンオフ品でも、ポリパテ使用部分は経時変化に弱く表面がひび割れてきたりする為、余裕のある場合は製作したパーツごと複製を取る人もいる)。硬化時間の早さと加工性の良さが長所だが、「大まかな形の盛り付け→削る」の繰り返し作業になる為、削った分の材料が無駄で、ファンドより高価な為、不経済という欠点もある。またポリエステル系素材独特の強い臭気があり、これを嫌う人も多い。硬化時間の早さ=作業時間の早さであり、この素材だけでほぼフィニッシュまで持っていけるため「盛り削り派」の人は昔からポリパテ愛用者が多い。

ワーク パテ革命「モリモリ」  主剤:白 硬化剤:オレンジ 硬化後 黄色
 おそらく初めて「模型用」として登場したポリパテ。発売時期は1980年代半ば頃だったと思われる。適度な粘性で、その名の通り「盛り付けて」使う。硬化時間は20〜40分でそこそこ早め。柔らかめでキメもそこそこ細かいので、加工がしやすいのが長所。1日経つと完全硬化して結構硬くなるので、「荒削り」等の大まかな作業は早めに行っておくと良い。プラへの食い付きはそれなりで、切削作業中にはがれることもあるので、細かい部分への盛り付けは事前に瞬間接着剤を塗布しておくと良い。全般に万能で用途を選ばず、特にフィギュア造型用として使いやすい為、昔から愛用者が多い。また、大抵の模型店・素材を量販店で扱っているので、入手しやすいのもメリットである。
ワーク パテ革命「スベスベ」  主剤:白 硬化剤:透明 硬化後:白
 モリモリの姉妹品とも言える白色ポリパテ。モリモリよりキメが細かく、表面処理後に磨くとすべすべになるのでこの名が付いているが、モリモリより硬めで価格も高いため、「これでなくてはいけない」というとき以外は必要ないかもしれない。硬化後品質は非常に良く、モリモリより強度があるためこっちを愛用している人も多いらしい。
 他に姉妹品として、モリモリの肌色版といえる「肌自慢」、超低粘性版と言えるゲル状の「ドロドロ」がある。「肌自慢」はモリモリより価格が安いが取扱店が少なく、「ドロドロ」は、型に注型して使ったりと特殊用途のため、あまり使われていないようである。開発・販売のワークアソシエイションは、多にも様々な模型用マテリアルを販売している。
ラインナップ・価格等、ワーク製品詳細は、ワークウェブショップから→http://www.work-web.co.jp/
タミヤ ポリエステルパテ  主剤:白 硬化剤:緑 硬化後:薄緑
 その名の通りタミヤが販売するポリパテ。硬化時間(切削可能時間)は1時間とやや遅めだが、品質は良好で、キメが細かく硬化後収縮も少ない。硬化後がかなり硬めなので、フィギュア原形製作などにはあまり向かないようだ(元々プラモデルの改造・ディティールアップ用を想定してか、硬化後硬度はスチロール樹脂と同程度にされているらしい)。メカ用には良いかもしれないが、あまり愛用している人の話を聞かないのはなぜだろう?(恐らくチューブ入りしかない為、大量使用に向かないのと、モリモリに比べて割高になる為だと思われる)。タミヤ製品ゆえ、どこでも容易に入手可能である。
120g980円(税込)
ボークス 造型村ポリパテ  主剤:グレー 硬化剤:赤褐色 硬化後:ベージュ
 ボークスが発売するポリパテ。非常に硬化が早く(20分程度)切削性も良いが、若干粒子が粗い感じがする。他素材への食いつきはあまりよくない。完全硬化前は柔らかめなので、大まかな加工はこの時点で行うと良い。硬化剤の独特の臭いがちょっとイヤかも。メーカーの言によると「硬化後がベージュ色になるので、形がつかみやすい」とのこと。性能としては、特に欠点もないので、「お好みに応じて」といったところだろうか? ボークス各店で売られているが、それ以外ではあまり見かけず入手はしにくいかも。
150g1260円(税込)、500g1890円(税込)。

NO PHOTO フィニッシャーズ ポリパテ(スタンダード)
主剤:グレー 硬化剤:オレンジ 硬化後:緑に近いグレー

 最近、色々なマテリアルを発売しているフィニッシャーズの製品で、他カテゴリのものと同じく性能は非常に優秀。キメが細かく硬化時間が非常に早い(5〜10分くらい)。他の製品と違うところは、その食い付きのよさ。プラ(スチロール)、ウレタン樹脂等、どんな素材にでもよく食い付き、通常のポリパテでありがちな「薄い部分や、他素材との継ぎ目から剥がれて来る」といったことがない。約1日で完全硬化し、その後はかなり硬くなるので、仕上げ前の荒削りは早めに行う必要がある(これはどの製品でもほぼ同じである)。その食い付きのよさから万能用途に使えそうである。価格もそこそこだが、問題は取扱店が少なく入手し辛いこと。200g1260円(税込)
 他にHG細目タイプ(200g1575円)もあり、こちらはキメが細かく若干柔らかめとのこと(まだ使ったことがないので、今度試してみようと思う)


スカルピー
 元々アメリカのクリエイター達が使用していた素材だが、1992年頃から潟_イセルクラフト(現:ダイセルファインケム株式会社)が輸入販売を始め、国内でも入手できるようになった。
 使用感は粘土そのものだが、粘土のようにべとつかず(例外あり)、かつ適度なコシがあるため思った通りの形が作れるという画期的な素材。形が出来た後は、オーブンやオーブントースターで指定温度で一定時間加熱すると硬化する。ただし硬化後の加工性が悪い為(それぞれ特性が異なるが)、焼く直前までにフィニッシュに近い状態まで仕上げる必要がある。その為、「削り派」にはこれを否定する人も多い。ただし使いこなせればこれほど無敵な素材もなく、浅井真紀氏などはほぼ何でもスカルピーで造型をこなしていると言う。また金銭的に余裕がある人は、これで大まかな形を作ったものを一次原型とし、それを型取ってポリパテやレジンに置換し細部仕上げを行うという手法を用いることもある。
 基本的には芯から盛り付けていく方法で形を作るが、硬化後の盛り付けは食い付きが良くないので、再度盛りつける場合は、表面を軽く暖めるか盛り付け面にシンナーを塗ると上手く食いつく。最後(に焼く前)の表面仕上げとしては、表面にタルクパウダー(ベビーパウダーでも可)をまぶしてなでてやると独特の光沢が出て表面の凹凸がわかるようになるので、この状態から平滑になるように表面を慣らすとよい。焼加減によって硬化後強度が変わるが、加熱時間や温度を間違えると簡単に焦げるので注意が必要。焼く際にはアルミホイルでくるんだり、扉を開けたり余熱を利用したりと加減を見ながら行うと上手くいく(実際、耐熱性はファンドより低く、簡単に焦げる)。後述する有害物質の件もあり、出来れば温度調節の出来る専用オーブントースターが欲しい。
 よく「セラミック粘土」と言われるが、実際は塩化ビニール樹脂が主成分である。その為焦がすと有害物質(つまりダイオキシン系の物質)が発生するので注意が必要。また、可塑剤に使われているフタル酸エステルも環境ホルモン疑惑がもたれているものなので、他素材と同じかそれ以上に「有害物質である」という認識が必要。よって、スカルピー加熱用に使うオーブントースターは食用と共用してはならない。
スカルピー詳細は、ダイセルファンイケム公式サイト内「ホビー用品」から→http://www.daicelfinechem.jp/hobby/index.html

スーパースカルピー
 最初に日本に入ってきたスカルピーで、今も定番商品として販売されている。硬化前は完全に粘土状で、油粘土のようにベトつくこともなく自由に形が作れる。色はベージュに近いピンク。硬化後は石鹸か蝋のような質感で非常に脆いが、焼き加減を調節しこげる直前まで焼きを入れると(焦がしてはいけない)、プリモに近い弾性のあるソフトビニールのような質感になり強度が出る(ただし削りにくくなる)。定価は2100円(税込)だが、市場価格は1600〜1800円くらい。価格は高めと言えるが、容量が約450gということを考えると重量比でポリパテと同価格帯であり、性質上「削りによる損失」が少ないことを考えれば、お得と言えるかもしれない。彫塑用素材でもあるので、模型店の他に画材店頭でも入手可能な場合がある。
プリモ
 定価3129円(税込)で、ちょっと高めの価格。色はホワイト・ベージュ・シルバーの3色がある。スーパースカルピーの上位品で、使用感はスーパースカルピーより若干硬め。そのままの状態でではかなり硬くボソボソした感じなので、必要量をナイフ等で切り出してよく練って使うと良い。硬化後はスーパースカルピーより強度が出るが、若干の弾力性があり、削り加工には向かない性質となる。スーパースカルピー同様、焼く前に表面の平滑化含めてギリギリまで仕上げておくのが良い。
グレイスカルピー
 販売元曰く「日本専売」とのことで、アメリカ製ではあるが、本国では一般市販されていないらしい(プロユース用?)。色がグレーである為、モールドや表面状態がわかりやすいが、柔らかすぎてベトつく感じなのが難点。吸湿性の高い紙にしばらく包んで溶剤(可塑剤)を抜くか、他のスカルピーとブレンドすると使いやすくなる。定価2310円(税込)。
 プリモ以前に「スカルピープロマット」という製品もあったが、生産中止になった。硬化後はプリモより硬くなるが、硬化前が柔らかすぎで使いにくかった記憶がある。これはスーパースカルピーとブレンドして使うとちょうど良い具合になった。
※同系素材のラバースカルピー、リキッドスカルピーは造型用素材とは用途が違う為、取上げていません。



エポキシパテ(準備中)
 準備中・・・というか、メインではあまり使ったことないのと資料が揃わないんでそのうちに・・・・(いや、結構種類は使ってるんで特性とかはわかるが)。古くはから小パーツ用や改造用には使ってたが、期待して使ったミリプットが性に合わなかったんで、メインでは使ってません。高いし。



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