執政の手紙



やったぞアラゴルン{王と呼びなさい}

※この字体は私ファラミアの添削文です。

俺はとうとうやった!!
五時間にわたる戦いが、ついに終着を見たのだ!!{そんなにやってたんですか・・・}
もちろん、私の勝利という形でだ!
思えばあの長く辛い指輪消却の旅(私は途中でああなってしまったのだが)で初めて私は自分の小ささと世界の広さを自覚したが、今回の件もまた、現実というものを突きつけられたのだ!!{つまり兄上は、自分はボンボンで世の中をよくわかっていなかった正直スマンと言いたいのですよ王}
ああ!!
このように素晴らしい報はまず貴方に伝えたいと思って、汗ダクのなか文をしたためているのだアラゴルン!
長くも厳しい戦いだったが、ついに私はやったのだ!
もはやビ○ナー{@月九ドラマ}を見る余裕もないほどだったのだマイキング(涙)!


この戦いを大まかに話すとだな、時刻にして、20時きっかりだったと思う。
私は自室で寛いでいた。
東の暗黒が消え去っても完全にではない。もはや冥王は存在しないが、その残党は今も息を潜めている。あの旅を途中放棄し、最も大事な時にこの国にいなかった私が出来ること。それは王の御世において、民を出来るだけ暗い時代の記憶から引き離すことくらいだろう。{・・・・・・・・・・。}
そんなわけで、私は残党狩りから戻り、非常に疲れていた。こんな時に貴方に逢いに行けば血が滾って何をするか分からないので{感動に浸ってたってのに何言ってんですか}、あまりに素っ気無い態度をとってしまってすまない。ここで詫びておく。

話を元に戻して、私は寝台の上で寛いでいた。遠征の疲れがモロに出ていたから仰向けに横たわって睡魔に流されるままにしていた時だ。
{行儀悪いですねぇ}
ふと重い瞼を開け、目だけを冷たい石の床に落とした。すると、何か黒い動くものがあったのだ。
そう。きっといま貴方の頭に浮かんだ通りのものだ。言っておくが、私は無様に叫び声を上げたりはしなかった。{その時刻に幽鬼の声を聞いたと侍女が訴えていたのですがな}
ただあまりのことに焦った私は寝台の反対側から転げ落ちてしまい、そのまましばらく眠ってしまった。{要するに、気絶したんでしょう}

私が目を覚ましたのは、右手に妙な気配を感じたからだった。
なにやらもぞもぞとな、くすぐったいようなむず痒いような・・・・・・これ以上は語るまい。私は寝台の上掛けで素早く手を拭った後{!}、立てかけてあった剣を握ったのだがせっかくギムリの友の特注の剣をあんなものの血で(そもそもアレに血はあるのか)汚すのも忍びなく、私は違うものを手に取り、戦った。
一時間前に間食していた菓子箱の空き箱だった。{そんなもの隠し持ってるからいつまでも以下略}
しかし彼奴め。私が武器を持ち出したことを察知したのかなんと寝台の下に身を隠したのだ!!なんと卑怯なことか!
しかしアラゴルン、王よ!!安心召されよ!
いつかの貴方のブロマイドは違う場所へ保管した次第であるに。{(・・・今度捜索してみよう)}


そして、22時きっかりほどだったように思う。
この頃私は自らの手を下すことを諦め、出仕する前のバルサンに賭けようと考えていた。
気を抜いていたと言ってもいい。

書き物をしていたときだったな{珍しい・・}
紙を取りに隣の和室に行ったのだ。
私は八時の時分に、かの名を言うを憚る大敵が寝室であるその部屋に侵入しないよう、きちんと襖で塞いで密室空間を作っていた。{ゴンドールもずいぶん東夷の文化を受け入れるようになりましたね}テレビ部屋{あるんですか}は汚れても、王との寝所だけは貞淑なままに保とうとしたのだな{意味わからぬまま使ってますね兄上。それと、お二人はいつも和室で行為に及んでるんですか王よ}
そこでふと、かの旅のアラゴルン写真集を整理した箱が目に入った。{兄上。アンタあの時はそんな場合じゃなかったでしょうに}
何となく手に取り、私は布団の上に横になりながらボーッと見返していたのだ。

・・・・・・・10分もたっただろうか?ふと本棚の横の壁に、黒い物が横切った気がした。
非常に嫌な予感がして顔をあげると、やはりそこには彼の大敵の姿!!
・・・そこからはさっき以上にあまり思い出したくない。
取り敢えず、彼奴は想像以上の生命力だった。あれは凄いぞ。サルマンもオークと人間を掛け合わせたりせずにオークとゴキ○リを掛け合わせていたら、もはやサウロンさえも敵わぬ最強の軍団になっていただろうに。{・・・・・・。}
とにかく、彼奴は件の菓子箱で何度叩いても死なぬのだ。
本棚の後ろに隠れた時など、大切な赤表紙本(写本)を汚されてなるものかと学生時代にテニス前衛で鍛えた{へえ。}一撃を喰らわせてもピンピンしている・・・。私は菓子箱ではこれ以上の功績を上げられぬと観念して、父上の下駄を拝借し、武器とした。幸い隣の父上は熟睡中らしく、叩音も気になさらなかったようだ。{・・・・・・。}
文字通り汗まみれになりながら重い本棚をずらし{畳が傷みますよ!}、奥に居座る大敵を布団叩きで誘導して出て来たところを叩きまた隠れられ、また誘導し、という、その後10分以上に渡る攻防戦の末・・・。
遂に仕留めたのだマイキングよ!
しかしそこからがまた辛かった。奴め、生命力は強いくせに肉体は妙なところで弱かったのだ。{節足動物相手にムチャ言わんでください}
羽や足が散乱する様を直視しないよう気をつけながらティッシュで包み、ビニールに入れて階下に始末した!
あぁ、その後きちんと掃除機をかけましたぞ!この音にも父上は気づかれなかったようで、一安心だ。{・・・・・・。}

それにしても私にとって苦々しい初陣となった!
明日、ホイホイや殺虫スプレーを購入しようと資金を検討中だ。
白き都に黒き彼のモノは(一部を除いて)不似合いですからな!わははははははははは!!{どことなく下品です兄上。マイナス三十点}









「・・・しかしコレ、思いっきり秘密も何もない手紙に仕上がっているな」
「そのようにつれないことを言われませぬな王よ。兄は兄なりに頑張ったのです。普段兄が文をしたためることなど無きに等しいのですから」
アラゴルンは執務室の豪奢な机の上で、笑い出したいやら泣き出したいやらで表情を曇らせていました。
ボロミアの弟であり件の手紙の添削者ファラミアは、机越しに王の正面に控え、いつもの穏やかな笑みを湛えてどこか楽しそうです。
アラゴルンはファラミアの視線に当てられながら全く面白くもない大量の書類を処理しておりました。一時間ほどたったころ、書類の間に挟まれていた手紙を発見した王は苦笑しながら呟きました。
「しかしゴキブリくらいで何だボロミアは。そんなもの、旅の途中で遭遇したタコの化け物や地下のオークに比べれば可愛いものだろうに。」
「虫と化け物では嫌悪感の種類がまた異なるのでは?兄上はネズミは大丈夫なのに虫はダメな人種ですから」
「そういうものなのか・・・・」
「そういうもんです。それよりも問題は、何故白の塔にまでそのような汚らわしい生物が居ついてしまったのかということです。」
「・・・・・何故だろう。」
ファラミアのどこか遠い言い回しに、アラゴルンは自分の顔が僅かに引きつったのを感じました。そしてそれを見逃すファラミアではありません。
彼はそれまでと変わらなく見える笑顔を王に向けましたが、向けられた側は彼の意図を察知しました。アラゴルンの戴冠式から早や一年です。そろそろ相手の変化をほぼ確実に察せられるくらいにはなりました。

「陛下。陛下は普段どこでご就寝なさっておりますか」
「どこって・・・。野暮なことを聞くものだな、王妃のもとに決まっているだろう」
「私が不忠の者に聞こえる発言はおよしなさい。先日、屋根の修理を頼んだ技師が屋根の上で薄汚い毛布を発見したとの報告が上がっております。他にもある奥まった一室を開けたらば馬鹿お・・・私の義兄君(でも年下)の署名がされた貴方への貢物の数々が埃とともに放置されていたり、石廊下の隅に泥と馬草で変色してしまっている元は美しかった紺の衣が発見されたり・・・!あげだしたらキリがありません!バレていないと思ったら大間違いですよ!全て王がやったことでしょうに!!」
「ぅ・・・。確かに、そのようなことをしたのは謝る・・・。だが、ゴキブリが出るのは私が直接原因ではないと思うが。いくらなんでも私一人が原因だなどと決め付けるのは・・・」
「いいえ!貴方が入城なさる前にこのようなことはありませんでした!・・・そういえば四十年前に某英雄殿がいらっしゃった時もこのようなことがあったとかなかったとか?」
「それは本当にないぞ!いくらなんでも昔は私も身だしなみを心がけていた!」
言ってしまってから、アラゴルンは自分の愚かしさに気づきました。目の前ではファラミアが目だけは笑わぬあの笑顔でこちらを見ています。彼は邪悪な影を背中に背負いながら、しかしその口元は妙に嬉しそうにニッコリと微笑み、
「ほぉう・・・・。やはり彼の方は貴方なのですね。よっく分かりました。それはそうと僅かでも口答えした罰はきっちり受けてもらいますから覚悟しておいてください」
「ちょ、ファラミア待て・・・」
「黙らっしゃい。今から五十時間、今まで滞納していた書類整理に取り掛かっていただきます。」
「ごじゅうっ!?」
「はい。」
言ってファラミアは入室した時から彼の横に並んでいた荷台の覆いを取り去りました。アラゴルンはてっきり以前頼んでおいたカーテンがそこに載っているものと思っていたのですが、そこにあったのは大量の紙切れでした。ファラミアはニコニコと楽しそうにその紙切れを王の執務机に運んでいます。彼の両腕を床へ向かって一杯に伸ばしても、そのてっぺんは彼の顎にまで届くかというような高さの山が、軽く十束はそこに用意されていました。
あまりの量にアラゴルンは青くなりながらポツリと呟きました。

「・・・私は死ぬんじゃなかろうか。」
「何を不吉な。黙っていても昼ごろに床からあがる兄上が看病してくださるでしょう」
「・・・・・・。」
「それに、民は気丈のようで未だに東を仰ぎ見ることを躊躇います。彼らのためにも一刻も早い再建を、中興王よ。」
「・・・・・・そうだな。しかし、何だかいいように言いくるめられた気分だよ」
「ご自由に受け取ってください」
アラゴルンの苦笑にファラミアの、珍しく黒くない笑顔が返りました。

今日もミナス・ティリスの天気は晴れです。
そして、かつての黒い国にも、アノールの光は差し込んでいました。






管理人の実体験から。
あんな激しい攻防戦は初めてでした。
ボロミアへたれすぎるか?でもネズミは勘弁してやったよ(豆・・)。
あとファラミーは馳夫にも容赦ねぇのな。