前置き(注意書き)。
何が書きたかったのか、今となっちゃサッパリ分からん話。
何年前に書いたのかも覚えていない。
昔の携帯漁ったら送信トレイから出てきたのでパソに送ってちょっと加筆。
手抜きじゃん。
シルマリル、UT、指輪物語の要素がごっちゃになっとるがそれでもいい方はどうぞ。
きっと健全。
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中つ国純情夜話 1 濃い霧が立ち込める、冷たい冬の朝のことでした。 鉄の城ことアイゼンガルドの環形状の城壁は、山から差し込む朝日を跳ね、緑は暗く陰っています。 第三紀を迎えたこの中つ国で、既に稀少となった古の技術。その権威を顕にしたこのアイゼンガルドも、大地の女王により創られた者たちの手によって、ほぼ壊滅に近い打撃を与えられました。 つい先日まで黒い煙を噴出していたこの土地も、未だに川の水に満たされて、白い一行がミナス・ティリスに向かった今でも濃い霧が立ち込めていました。湿った空気が、ヌメノールの技術を用いたこの塔の中まで響いてきます。 しかし太陽がその日の始まりを告げても、城壁の中心にある黒手の塔の主人は、未だ眠りの中にいました。 その塔の、ある部屋では妙に面差しが暗い、服も髪も烏のように真っ黒な、しかし顔は異常に青白い男がせっせと仕事に取り掛かっていました。その頭には三角巾が煌き、新妻がするようなエプロンに眩しささえ感じます。 「今日もサルマン様の健康に差し支えない調理が出来た。感謝しますヴァラールよ・・・」 悪の城で悪に寝返った男が両手を組んで西の神に祈ります。 しかし蛇の舌ことグリマの習慣がこれでした。 感動に打ちひしがれながらフリルのエプロン(ちなみにピンク)を外し、オルサンク・シャーキー様専用キッチンを後にします。このキッチンはウルク=ハイらが己が創造主の為に建築したもので、ヌメノーリアンもビックリなハイテクキッチンとなっていました。 グリマはいつもの様に何百段と続く冷たい螺旋階段を上り、主の寝室へと向かいます。黒曜石で作られた重い扉を小さくノックし(それで彼の主が起きることはないので効力はないのですが、彼なりの主人への敬意なのです)、扉を僅かに押し開いてゆっくりと、なるべく音を立てない様に入室しました。 部屋はあまり広くなく、また調度品も少ししかありません。ただ眠るだけがこの部屋の目的なのでそれで良いのでしょうが、グリマは少し寂しく思いました。 常から彼が感じていたことなのですが、彼の主人はまるでこの塔のように冷たくも高く、見るものを圧倒させながらも、その実、厚い雲に覆われた、青白く光る月のように、不安定なもののようでした。実際、先日の彼の主の狼狽振りといったら、もしそこに主の同族でもある魔法使いがいたら、とても驚いただろうと彼でも思ったものです。 上等な寝台は、部屋の中央に置かれています。『白』を持つ彼はその寝台すらも美しい白です。この塔の原色である黒に、それはとてもよく映えました。 いつもの様に静かに寝台に近づきます。彼の主は白い布団を被り、その美しい髪だけが布団の隙間から海間見えました。僅かな寝息が聞こえて、自分を汚水の中行かせた、恐ろしいエントたちに囲まれながらも、グリマはこれ以上ないほど幸せそうな顔をしました。 (ああああ、今日もお変わりなく美しくいらっしゃる・・) 髪だけで悦った忠義心溢れるグリマでしたが(少し違うかもしれません)、ふと我に還っていつものように優しくその体を揺りました。 「サルマン様。今日も山々が虱始めました。昨夜の星々は大きな土産をなさったようです」 「・・・相変わらず背信的な詩人じゃな」 少し不機嫌な声が布団の下から聞こえ、その美声にまたもや酔い出すグリマでした。 が。 「・・・サルマン様?風邪でもお召しになられましたか?」 心底心配そうな声で訊ねます。 美声には全く変わりはないのですが、声のトーンがいつもより軽い気がしました。サルマンの僅かな機微にも敏感に反応するグリマならではの直感です。 当のサルマンと言えば、まだ眠いのと、特に魔力も入れていない、普段と変わりない自分の声に妙な反応をつけられたことで益々イライラとしながら体を起こしました。 「そんなものは引いとらん!・・・?」 グリマを睨み付けて怒鳴り、首を傾げました。 理由自体は単純なものでした。 自分を見つめているグリマの様子がおかしいのです。 いつもは目を輝かせてこちらを見続けるのですが、今は目を飛び出さんばかりに見開き、顎が外れてんじゃないかと思うほど口を開け、金魚よろしくぱくぱくさせていたのです。 「どうした」 あまりの馬鹿そうな使い魔の表情に、(いつもはそんなことすらしないのですが)声を掛けてもリアクションはありません。目の前の男の意味不明な反応に、サルマンは乱れた髪を掻き上げながら疑問符を浮かべました。 (なんじゃ?こやつ、とうとう・・・・・・) 首を傾げて視線を写します。ふと、この部屋唯一の洒落た巨大鏡が目に入りました。 それと同時に、サルマンは動けなくなったのです。掻き上げた髪がパラリと目に落ちてきましたが、振り払う気配はまったくありません。ただ呆然と、思わず(彼がそんなことをするのは極めて珍しいことではあるのですが)、口を半開きにしたまま鏡を見つめました。 そこには、よく見知った顔がありました。 見知ってはいますが、とても久しぶりに見る顔です。白く美しい髪はより艶とすべりを増し、流れるように寝台に広がっています。見慣れた雪のような髭は消え失せ、同時に数千年の時を、見る目に判りやすく刻んだ皺もありません。 そこにいたのは、かつて浄福の地で創造と技術を学んだ、美しいマイアの姿だったのです。 一瞬にして、遥か昔の、木々が木の実から育ち、朽ち果てて新たな木の実がまた育って、それらがまた繰り返された年月よりも昔のことが、エルフでもない、人間でもない、オークとはまったく違う、かといってこの塔を包囲しているエントでもない彼の頭を巡って、眩暈がしながら頭を抱え、 「な、何じゃこりゃーーーーーーーー!!」 冗談のような悲鳴がナン=クルニアに木霊しました。 どん!! 鈍い音は、サルマンの叫びが終わらぬうちに響きました。 それはオルサンクに振動し、サルマンの、一歩間違えば愉快な悲鳴に(もう遅いかもしれませんが)負けずに、暗い塔までも揺らして、強く強く響きました。 「・・・な、なんじゃ?」 サルマンが震えながら寝室の扉を見やると、丁度その時、重い扉が開かれたのです。塔には多少コマ仕えのオークや人間はいましたが、今はその者達も自らの意思にせよ、大いなる外部の力にせよ、この塔を背にしたのです。 そう、自分たち以外には、この塔の中にはいないはずでした。 その事実に気づいたとき、彼は直感的に身の危険を感じました。 思わずベッドの隅へ逃げましたが、何者かにその長い髪を捕まれ、思い切りシーツに頭をぶつけてしまいました。こうなったら逃げることは楽ではありません(元から楽なことではなかったにしてもです)。 かつての大いなる力の大半は既に失われ、彼の唯一の力といえば、その喉から発せられる声だけだったのですが、有無を言わさず首を掻き切られれば、その唯一の武器を使う機すらなく終わってしまうのです。 「サルマン様ぁっ!」 グリマが悲痛な声を上げて頭を抱えています。 彼は、サルマンが若返ったと思って(事実は少し違います)、その場で腰を抜かしてしまったまま、主の危機だというのに何もできずに叫ぶばかりなのでした。 「な、なん・・・っ!?」 サルマンは強かにぶつけてしまった鼻を押さえて顔を上げました。 そして・・・・・・ 「何じゃ、はこちらの台詞じゃ・・・。また貴様の仕業なのじゃろう、サルマン!!」 怒鳴られた自分。 怒鳴った相手は・・・・・・ 「オローリン・・・・・・」 彼は、痛む鼻も気にせずに、目を見開いてその人を見ました。 その姿を最後に見たのは、二千年も前になりましょうか・・・。 渦の巻いた、植物の蔓のような髪は灰色で、その瞳は、エアレンディルが航行するこの空のように澄んだ蒼でした。その面は、唯一なる者エルが主題を与えた給うた、気が遠くなるほど遥か昔と変わらず、若々しく生気に溢れて輝きを放っていました。かつてアマンの地で暮らした友人の姿がそこに再現されていました。以前と違うのは、おそらく下ろした髪と、白い衣くらいでしょう。 「オローリン・・・」 懐かしさと感動でかつてのクルモ、サルマンは涙ぐんでから両手を広げました。 彼は今や魅力に溢れていました。エルの息子たちの力を超えた、叡智と美がその体には詰まっていたのですから。かつて、アマンの地で暮らしていたころは、その友人も、彼に憧れてその御手すら眩しそうに眺めたものだったのです。 しかし。 「オロ・・・!」 「やかましいわっ!」 このパターンから言って、ようやく叶った感動の再会に(立場を忘れて)涙する場面のはずなのですが、オローリン、・・・ガンダルフから出たのはいつもの怒号と雷でした。 それはそれは、かつての、彼を慕った青年の姿からは想像もできないような怒号でした。 「サルマン様あぁ!」 先程から叫ぶことしか出来ないグリマにギロリと、これならバルログも逃げ出すかもな、という壮絶な睨みを送った後、ガンダルフはサルマンの胸倉を掴んで乱暴に揺さぶりました。 「毎回毎回陰険な邪魔ばかりしおってからに・・・!よりによって、デネソール公が亡くなられて死ぬほど忙しいって時に・・・!もう許さぬ!今すぐこの呪いを解かぬと、ローハン過激派に引き渡すぞ!」 「な、何を言って・・・げげぼぼぼぼ・・・」 力の限り揺さぶられて青くなり始めたサルマンの顔を見て、グリマの元から青い顔も変色しだした時、エキサイトした元・灰色の賢者を押さえる勇者の手がありました。 「落ち着いてくださいガンダルフ!貴方それじゃサルマンを殺しちゃいますよ!」 「エ、エルフの石!」 思わぬ所からの救いの手に、グリマが歓喜の声を上げました。 何もできずに腰を抜かしていた歯がゆさに、彼の顔は涙でグショグショになっていました。 ガンダルフも、アラゴルンの声にようやくハッと我に還り、残念そうにサルマンを放しました。 「むぅ・・・。お主も上がってきたのか、アラソルンの息子よ」 「あれだけ暴力的な声が聞こえれば、誰だって止めに来るでしょう!まったく、貴方はいつも怒ると歯止めが効かなくなるんですから!いくら貴方でも、首謀者を殺してしまっては解決方法を見つけるのは至難の業ですよ」 「好き勝手言ってくれるのう!見た目が変わったからといって、中身まで変わったと思ったら大間違いじゃぞ!」 「えぇえぇえぇ、そんなことを仰るのはガンダルフ、貴方しかいないことはしっかり分かってますから、ご心配なく!」 二人が大人げもなく怒鳴りあっている間、サルマンはうずくまり、苦しそうに咳込んでいましたが、その根性でいきなりガンダルフに抱き着きました。 「おお、オローリン!懐かしい!可愛い!」 サルマンが泣きながら叫べば、 「やかましいわ変態が!抱き着くなジジイ!」 ガンダルフが力いっぱい怒鳴り、 「あの、サルマン。蛇の舌が昏倒してしまいましたが・・・」 アラゴルンが半ばどうでもよさそうながらに床を指差し、 「サ、サルマン様ぁーーー泣」 グリマは泣きながら気絶しておりました。 「ほれ!あの哀れな堕落賢者が泡を吹いとるぞ!ぬしは何とも思わぬのか!」 「思わぬ!」 断言したサルマンに、力尽きるグリマ。 ガンダルフはうっとおしそうにサルマンを引きはがして、グリマとアラゴルンの側へ寄りました。アラゴルンはグリマの傍らに片膝を付いて見ていましたが、あくまでも見ているだけなのでした。 ガンダルフはイっているグリマを見下ろして、深く長い溜息をつきました。 「仕方ない。アラゴルン、癒しの手を。」 「えぇ!?こんな不健全な理由に私の恩寵を使わせるおつもりですか!?」 ガンダルフの言葉に、古のエルフの血を引くアラゴルンは、とても嫌そうに顔を顰め、同時に全身で拒否をするかのように両手を前へ突き出しました。 そんなアラゴルンを横目で見て、ガンダルフは平然と言い放ちました。 「そうじゃあ?そのつもりでお主をここに連れてきたのじゃから。おかげでゴンドールは完全に手薄じゃ」 「イシルドゥアの世継ぎよ。そんな男は放っておくがいいぞ」 サラッととんでもないことを言うガンダルフの後ろから、サルマンも平然と酷なことを口にしました。 数千年も経てば、アイヌアとてだいぶ変わるものなのでしょうか。 アラゴルンが苦い顔でそう思ったとき、 「ひ、ど・・いサルマン様・・・」 血を吐くような声が、床から聞こえました。 アラゴルンが下を向くと、グリマが益々青い顔で血と涙を流しながら体を起こすところでした。その根性に、アラゴルンとガンダルフは感心したように声を上げました(いささか大げさなところがありましたが)。 「忠誠愛の賜物ですな!」 「こんな主で不敏極まりないが、頑張るのぅ」 「わしは嬉しくなどないがの・・ん?」 少し不機嫌に呟いたサルマンが、何かを見つけて下を向き、一瞬固まりました。 その視線の先には、アラゴルンの左手・・・。 「こ、これは・・!?」 「え?」 サルマンはアラゴルンの手を取ると、食い入るようにそれを見つめたのです。 中つ国純情夜話 2 「バ、バラヒアの指輪っ!!」 サルマンの、珍しく本気で驚いている声が部屋に響き渡りました。 「あ、・・・はぁ。一応、わが王家の家宝なので・・・」 アラゴルンは異常なサルマンの剣幕にあまり良い顔をせずに眉を寄せました。そういえば、このマイアは工の神アウレの一族の一人であり、指輪研究の大家だということを思い出します。 物事を極めるためには、多少なりともその人の趣味や好みが混じるものなのでしょう。この元・白の賢者もどうやらそのようなことを代表する人のようで、その目は、以前から手に入れたかった玩具をようやく見つけた子供のそれと同一のものでした。 盗まれてはかなわないと、アラゴルンは左手の指に嵌めた指輪を右手で匿いながら、サルマンから距離をとります。 「何故逃げる、ドゥネダインよ!きちんと見せていただけぬか?」 変にへりくだって近づいてくるサルマンに、アラゴルンは寒気がしました。 いくら今目の前にいるのは見目麗しい青年と言っても、つい最近まで老人の姿をした、激しい戦をしたばかりの相手でした。しかもこれ見よがしに媚びるような声でにじり寄り、多少は家宝の危機を感じ取ったのです。冷や汗を垂らしながらふと横を見ると、いつのまにかグリマが復活して、主人の願を叶えようとアラゴルンににじり寄っていました。 アラゴルンはいくらか青い顔で今や僅かに背の縮んだガンダルフに囁きました。こうなったら頼れるのは、実質この現・白の賢者しかいないのです。 「ちょ、ちょっとガンダルフ。貴方の友達でしょう、なんとか言ってやってくださいよ!」 涙目で仲介を頼むアラゴルンでしたが、ガンダルフはぼんやりとサルマンを見て左右に頭を振りました。 「あれを友と呼ばねばならんのか・・・。」 苦い顔で呟くガンダルフの顔は、先日までの老人の姿からは想像もできないほど若いものでしたが(しかいsやはり面影は多少残っていました)、重い苦労に覆われていました。アラゴルンはガンダルフの言葉に二重の意味がるように感じられ、ほんの一瞬でしたが呆けた顔で見つめてしまいました。 「あなた方が話していると、全く進展しませんねぇ」 確かに呆れているのですが、どこか楽しんでいる風の声が部屋に響き、扉の方を全員で見遣りました。ですが振り返る前から、彼らには誰が部屋に現れたのか見当が付いていました。これほど耳に心地いい口調で話すのは、中つ国では今やエルフ以外にはいませんでしたし、何より、彼らにそのような口を利くのは、指輪で繋がれた旅の仲間の一人の、闇の森のエルフ以外に考えられなかったからです。 あわや死闘の始まりかと思われた、暗い部屋の全員の視線の先には、案の定、長い灰色のマントを脱いでいるエルフと、逆に、尊き森の奥方から贈られた大切なマントを掻き合わせている、ドワーフの姿がありました。 どうやらギムリはこの、まだ霧の立ち込める分、余計に冷えている塔が辛いらしく、僅かに震えて天井を見上げて呟きました。 「この塔は上に行けば行くほど寒いなぁ」 彼が少し辛そうに言うと、何もいわずにレゴラスは優しく自分のマントをギムリに被せてあげました。ギムリはこのエルフの親友を驚いた表情で見上げてから、笑って御礼を言いました。 「やぁ、レゴラス!凍える私に優しさをくれるのは分けていいけれど、アンタが寒さに倒れても、私は何もしてやれないよ!だってその前に私が倒れて、二人で朝には凍っていることになるもの!」 こんなことを言ってはいますが、彼はレゴラスがカラズラスの雪にも屈しない、強靭なエルフだと知っています。レゴラスもそれが分かっているので、満面の笑顔で背を屈めました。 「それはひどいね、ギムリの旦那!私は君を心配して、たった一つしかない、自分のマントを貸してあげたっていうのに!だけど君が私を心配して、二人で凍ることなんてしなくていいのだよ!大丈夫。これくらいじゃ私は倒れたりしないから。寒さの中ではエルフに頼るのが一番なのさ。だって君が凍ったりしたら、私はそれこそ悲しみで召されてしまうよ!」 「ああ分かっているよレゴラス旦那!それじゃ私はアンタの背中で寒さをしのぎ、せいぜい長く生きるとするよ」 「・・・・・・本当に、そうあれかし、と思うよ」 「・・・そうだねぇ」 重く呟いたギムリに、レゴラスは僅かに寂しそうな表情を浮かべましたが、すぐに部屋の住人達に目を向けました。 いつもの、エルフならではの陽気な笑顔を浮かべて右手を高く上げ、朗らかな声で笑います。 「ごきげんよう、病める雑談の殿原方!」 それまで思わずしんみりと見守ってしまったアラゴルンでしたが(おそらく、何かが思い起こされてのことでしょう)、いつものテンションに戻ったレゴラスに、我に返ってジト目を送りました(ちなみにガンダルフはその間ずっと疲労の感を浮かべ、サルマンとグリマはポカーンと状況を見守っていました)。 「・・レゴラス。私は外で待っていてくれと言わなかったかな?」 アラゴルンが低く呟くと、闇の森の緑葉は一層ニコリと笑いました。 両手を僅かに広げて、明らかにドスの利いたアラゴルンにも全く怯まず、一層ニコリと笑ったのです。これが不死であるエルフの余裕というものなのでしょうか。 「ええ、確かにそう聞きました。しかし先程から雷が響いていたので、これは仲間の一大事かと思ったもので。終わってからじゃ、全てが遅いでしょう?」 (終わるって、何がだ!!) マイペース・エルフの物騒な発言に、アラゴルンとガンダルフは心の中で叫びました(あくまでも、心の中でです)。 そんな双方の表情を交互に見ていたギムリは、ため息を一つついて、自分よりも遥かに背の高いアラゴルンとガンダルフに謝りました。相変わらず、この爆発エルフに気苦労の多そうなドワーフです。 「すまないね、アラゴルンにガンダルフ・・・。私も一応は止めてみたんだが。」 疲れたように呟くギムリに、二人は同情するような視線を送りました。 謝られた二人も、別にギムリに謝罪させようなどとは、これっぽっちも思っていないのです。ただレゴラスの方をどうにかしてもらいたかっただけで・・・。 度重なる心労で、いい加減疲れることは終わらせたいという表情をしたガンダルフが、サルマンをじっと睨み付けました。 「・・・そういうわけじゃ。これ以上話をややこしくせんうちに、サルマンや。この忌ま忌ましい呪いを解け!」 ガンダルフに怒鳴られたサルマンは、力の抜けた顔を通常程度には戻してから、(アラゴルンの指輪を狙うのもやめて)彼を見ました。 彼は一瞬、ガンダルフが何といったのか分からない、というような表情をしましたが、すぐ難しい顔に戻り、その流れるような衣の下で腕を組みました。 「ふむ・・・。ぬしら、明らかに思い違いをしておるの」 「あ?」 ガンダルフが、顔を顰めてその性格が疑われるような声を発したので、アラゴルンは驚いて思わず彼から少し離れました。 しかしサルマンの方は慣れているらしく、そのまま平然と話を進めたのです。 「わしを見て解らぬのか?わしも同じ呪いにかけられとるのじゃ」 「えーーーーーーーーーーーっ!!?」 この台詞に絶叫したのはレゴラスでした。 彼は今まで、マイアールの姿に戻った(このような言い方も少しおかしいのですが)ガンダルフばかり見ていたのですが、ここで始めてサルマンにも目をやったのです。サルマンのほうは大声を上げた人物が予想外だったことから、少し押されているような顔をしました。 しかしそのように引き締まっていない表情でも、ヴァリノールに憧れるシルヴァン・エルフの目には、彼は光り輝いて写ったのです(まぁ実際、エルフの目から見ても他の誰の目から見ても、彼の容姿は端麗以外なかったのですが)。 レゴラスは一回大きく両手を打ち、その美しい夜空のような目を輝かせながら叫びました。 「すごい!ガンダルフもそうですが、貴方もマイアールなんですよね!ああ、感動的だー!」 「そうかの〜?」 レゴラスの言葉にまんざらでもなさそうなサルマンでしたが、その口調はその姿には全く似つかわしくないものでした。 ちなみに主人への忠誠心が通常ラインよりも少し外れているグリマは、いつものように白いハンカチを取り出して、ギリギリと歯を噛み締めていました。 「おいおい、スランドゥイルの息子よ!これ以上話をややこしくするものじゃない!またガンダルフの雷が飛ぶよ!」 その昔ガンダルフと旅を共にした父親から、この場にいる当の魔法使いのことをよく聞かされていたギムリが、顔を青くして叫びます(しかしこの場にいる全員はガンダルフの性格などとうの昔に理解してはいました)。 確かに、そのガンダルフは顔を高潮させて、放電する杖をレゴラスとサルマンに向けているところでした。滅多に動揺することのない流石のレゴラスも、ガンダルフの癇癪ぷりは知っているので、驚き慌てて叫びます。 「何ですって!?貴方の呪いじゃないんですか!」 「レゴラス・・・・・・」 わざとらしいレゴラスの動作に、アラゴルンが溜息をつきます。彼はもうこの場にいることだけに疲労感が募っていく気がしました。 ガンダルフも、幾ばくか残る怒りに震えながらもやっと杖を降ろしました。 「まぁ確かに、始めに殴り飛ばしたときの反応でうっすら感づいとったが・・・やはりか」 「・・・・・・・・。」 コイツが一番遊んでいたのかと、本気で怒りを感じたアラゴルンはジト目でガンダルフを見ましたが、あっさりとシカトされてしまいました。こんなとき、自分が不憫でならないと彼は強く思うのです。 サルマンはそんな二人を眺めてから呟きました。 「だいたい、いまのガンダルフの姿にかなり満足だというのに、何故いまさらオローリンの顔を見たがるのか、わしには解せん」 サルマンの、どこからどう見ても正直な言葉にレゴラスが楽しそうに笑いました。 「うわ。聞きました!?いまの何気に大告白ですよ!」 「違う!いまのは言葉のアヤですぞ!騙されてはなりませぬ!つーか調子に乗るなラススペル!」 グリマがやはり泣きながら叫ぶと、ギムリが微妙に困った顔をしました。 「アンタは何を意味の解らないことを言うんだい」 「しかしそうなると・・いったい誰がこのような所業を・・・」 そのようなやりとりが全て無かったかのようなノリで、ガンダルフは呟きました。 「ふたつ思い当たる者がある」 突然サルマンが、それまでにない真剣な表情で呟きました。驚くほど端正な顔に浮かぶ真摯な感情に、それまで賑やかだった(そしてお笑い化していた)室内がシンと静まり返ります。誰もそれまでのように騒ぎ立てようともしませんでした。 「して、サルマン。それは?」 ガンダルフが低い声で先を促すと、サルマンは重く頷いてから口を開きました。 「うむ。一人はぬしもよく知っておる・」 「うわー!サルマンーー!私にいったい何をしたんだー!」 そのとき、オルサンクの、黒曜石でできた頑丈な扉を蹴破って来たのは、 「「・・・アイウェンディル・・・」」 ・・・・・・かつてアイウェンディルと呼ばれていた、茶色の魔法使いラダガストでありました。 「わ〜、こちらの方も、素晴らしい容姿をお持ちで!」 室内の人員が見事にうなだれる中で、レゴラスだけが一人はしゃいでおりました。サルマンの寝室に居る、レゴラス以外のある意味哀れな者たちは、頭を垂れて床に座り込んでいました。空気は重く、とても笑顔など浮かべるられる様な雰囲気ではないのに、レゴラスはただ一人、エルフの陽気な部分しか知らぬかのように(そんなことは有り得ないのですが)笑っていました。 「・・・ぬしの仕業ではなかったのか」 ようやく、ガンダルフが益々疲れたように、隣に座り込んでいるラダガストに話し掛けました。彼らが最後に顔を会わせて今会ったまでの時間は、彼らの長い生の中では本当に瞬き程度の短い時が過ぎた程度でしたが、それまで数千年は老人の姿で居たというのに、いきなり懐かしい姿で再会とは、なんとも対応に困る現象でした。ちなみにラダガストの隣では、レゴラスが和やかに笑っています。 「・・・私にこれほどの力があると思っているのなら、まだまだ捨てたもんじゃないってことだねぇ」 「はっ。やはり鳥使いには過ぎた魔法らしいの」 サルマンがベッドの上で笑うと(ちなみに彼は他の者たちが床に座り込んでいる間、ずっとこのベッドの上で胡坐をかいていました)、ラダガストは涙目でこれを見上げました。 「いつもいつも鳥使いと!ぬしだって蛇使いではないかー!」 一体どこでそのような情報を手に入れたのでしょう(おそらくサルマンのクレバインやワーグからでしょうが)。この台詞に、当のグリマは瞳を輝かせましたがサルマンは派手に逆上しました(その剣幕は、アラゴルンが思わず「ヒッ!」と悲鳴をあげるほどでした)。 「何じゃと!どうせなら悪しき生命の創り手とでも呼べぃ!悔しかったら低コストでウルク=ハイを製造するんじゃな!」 昔は彼にこのように怒鳴られれば小さくなって黙り込んだラダガストでしたが、何せ、色んなことがありましたから。彼は口元に笑みすら浮かべてサルマンに反論しました。 「はっ!そっちこそ大鷲につつかれるばかりで、乗せてもらうはおろか触らせて貰ったこともなかったのでは?悔しかったらグワイヒアでアルダ旅行へお出かけになればよろしいでしょうに!」 「やかましい・・・・・・」 中つ国に来て、極端に癇癪持ちと化したガンダルフは有無を言わさずに二人を燃やしました。 サルマンとラダガストの二人と、主人の危険に驚いたグリマの悲鳴が響きましたが、ガンダルフは綺麗に無視して仲間に向き直りました。 背中を完全に、叫び散らしているサルマンたちに向けて、床に胡坐をかいて座り込みます。彼と行動をしていた仲間たちも、四人で円になるように座りなおしました。 「さて。わしの見解はこうじゃ。こやつらは役に立たぬ。わしはこれでも、マイアールの中で最も賢明と呼ばれとる者じゃ。そのわしの考えじゃが、これはよほど力がない限り使えぬものじゃ。古の、我らが用いる力が残っておる。故に、考え得る犯人は冥王ただひとり・・・」 「憎むべきアングマールの魔王というのは考えられませんか?」 多少、北の王国の一族の私怨もあるアラゴルンが片手を挙げて意見を述べました。が、ガンダルフは静かに頭を振りました。このとき、彼は僅かに悲しげな眼をしましたが、アラゴルンはそれに気づきませんでした。 「きゃつはこのような愉快な術を知らぬだろう。が、かの名を出すのを憚るべき敵は元々アウレの眷属じゃった。これの力を使えば不可能ではないはずじゃ」 言って、ガンダルフは彼がいつも考え事をするときのように、俯きました。 アラゴルンは今や自分よりも遥かに若く見える、それでも比べ物にならないくらい年上の男を見ていました。姿は変わっても、その瞳にうつる数々の苦悩と、それに勝る喜びは何一つ変わってはいませんでした。 「しかしまた、厄介な者に呪いをかけられたものですねぇ」 しばらくして、ギムリが哀しそうに呟きましたが、レゴラスは楽しそうに笑うばかりでした。 「まぁ、ブッ細工にされたのなら悲観すべき状況でしょうが、これならば良いじゃないですか。何か困ることでもありました?」 「まったく、ドコが良いものか!何のために、偉大なるヴァラールがあのような姿で我らをこの地に遣わしたと思っとる?かのアンナタアルの悲劇を再来させたくないからでもあるのじゃ!それに・・・重き枷を外したフロドに会わす顔がない・・・」 言って、半ば泣きそうになりながら呟くガンダルフの背中は、姿は若いにもかかわらず、老人の時のように曲がっていました。それほどまでに俯いて、落ち込んでいる彼の姿に仲間たちも悲しそうに顔をゆがめます。 「まぁ、彼は貴方にとっては孫のようなものですからね」 アラゴルンが同情心もあらわに呟きました。 |
後書き。
デネさん死亡直後なら、こんなんやっとるヒマなぞまずありません。フロド死にます。
瀬田さん目指して頑張った感が出ていて、でもダメダメで泣けてきますよほんま・・・。
アラゴルン⇒キチ○イどものフォロー役。
ガンダルフ⇒とにかくキレる。
断っておくが、私はレゴギムである。
あと蛇白である(死)。
コレは灰←白。
実は茶白でもあったりする(死亡)。
サルマン大好き。
ウチの部屋には『あ・にゅー・ぱわー・いず・らいじんぐ』海外限定ポスター(赤坂で七千円)が五千円パネルに入って飾られている(死)。
以上。
続きを書くことは87%、無い。
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