静岡県修善寺温泉「あさば」


湯   6点
料理 8点(満点
ロケーション 8点(満点
泉質 アルカリ性単純温泉
成分総量 0.37g/kg
特に濃い成分  
湯量  リットル

ウリ 世界に誇る日本の湯宿  西日本の方にはこの上質さは衝撃かも

 大分や熊本の人気の温泉は素敵、素晴らしいという声はよく聞く。確かに、中九州の大分・熊本の温泉地は、旧来の温泉旅館のイメージを壊し、そこにあった欠点を全て払拭している。 団体旅行専用宿を排除し、かけ流しを基本とした小さな浴槽を用意し、個に籠もる客の意識に配慮して個室露天風呂をもうけている。「カニ足、茶碗蒸し、天ぷら」という本倶楽部非お薦めの日本旅館三悪料理も極端に少ない。上等な田舎を意識した凝った内容に外観、始めていった客は誰もがあっと言う演出だ。


 しかし、中九州に通い続けると急速に飽きてくるのも事実。よく見ると、どこも金太郎飴のように同じ。黒く塗った木材に白い壁、焼き杉の内装材、掃いて捨てるほどの地鶏地鶏のオンパレードに創作懐石と銘打った茶道を無視した懐石、内湯を無視し体まで洗わなければいけない凝った露天風呂、売店で売る地元生ジャムや無農薬野菜・味噌。何故こうなるかというと、由布院御三家などをのぞいて、かなり多くの宿に同一の温泉宿コンサルタントがついているからだ。
  都会では、暴走族のごとき当て字漢字の創作懐石店が若い女性に流行っている。陳腐な安い素材を如何に「いい感じ」に見せるかは、全てお籠もり感の内装とメニュー造りによるが、これはほとんどがコンサルタントの知恵の結集。だから、どこも同じような中身になる。
  そんなものに、飽き飽きしたら是非とも伊豆箱根の高級宿をお薦めする。特にお薦めなのが伊豆修善寺の「あさば」。350年の名旅館としての歴史と伝統は、内装一つ従業員の動き一つに現れており、失礼だが中九州のの宿が束になっても足元にも及ばない。そこにあるのは、まさに引き算の美学。凝った演出などどこにもない。あるのは、本物だけが持つ安心感だけだ。

 エントランスは、とても旅館とは思えない重厚な門と唐破風の屋根を持つ玄関。見る物誰をも圧倒し、やがて取り包まれるような安心感を抱かせる。ぴしっと掃き清められた砂利も見事。もちろん、自動ドアというしゃらくさい物はない。従業員が流麗にドアをあけしましてくれる。ロビーにはいるが、内装には無駄な演出は何もない。小さなレシェプションデスクがあるだけ。今では絶対に手に入らない本物の木材が持つ重厚荘厳なロビーの向こうにあっという演出がある。600坪の池の向こうに前田藩より寄進された能舞台「月桂殿」が鷲の翼のように広がっている。


 早速通された部屋「雨月」の前にも、この能舞台は羽を広げていた。見る物を幽玄の世界に引きずり込むとともに、今からこの旅館で始まる風雅な世界にも誘ってくれるような期がする。


  風呂は、男女別の檜の内湯と男女共同の露天風呂(時間帯によって男女別と混浴がある)、貸し切り風呂が一つある。温泉ディズニーランドのごとき最近の旅館と比較すると、ここの風呂はどう見てもミニマム。でも、それで良いのだ。小さな浴槽にたっぷり注がれた源泉は大量に掛け流されていく。凝った演出は何もない。ただ、備え付けのアメニティー・タオル一つ一つが本当に上質かつ清潔である。

 修善寺の泉源は、集中給湯の混合泉。成分総計0.35gのアルカリ性単純温泉で無味無臭。個性は何もない。ただとにかく柔らかい湯である。清潔さと大量のかけ流し、絶妙の湯温・・・・それでいい。これこそ湯の引き算の美学だ。
  当日の夕食のメニューは
 ・竹の子 菜海苔揚げ
  ・季節の盛り合わせ(鯛の南蛮漬け、空豆、鯛の子、金柑煮、煮こごり)
 ・沢煮椀
  ・平目 あおり烏賊造り
 ・鰆塩焼
 ・伊勢海老唐揚
 ・蕪むし
 ・穴子黒米鮨
 ・天城軍鶏たたき鍋
 ・上記の玉丼
 ・ブラマンジェ
 ・3種のアイスクリーム(ジンジャー、グランマニエ、かぼちゃ)

なお、このメニューは、事前に予約客に詳しい調査があり、各人の好みに合わせて変化する。特に、この宿は外国からの賓客も多く、その国の宗教や風習、個人の好みに合わせて、素材から変更する。もてなしの心は、この宿では細部にわたるのだ。



 目を見張るメニューは何もない。ただ、いずれも、素材は超一級、もの凄いという表現がぴったりの味付けであった。熊本直送の竹の子はびっくりするほど新鮮、沢煮椀には、ウドや竹の子などの野菜と全く同じ太さに切った豚の背脂が衝撃的だった。この時点ではもの足らなさの残る塩味だ。平目の熟成も完璧。焼き物・揚げ物の火の通し方も絶妙で、実にジューシー。


蕪蒸しは、まったく魚をつかっておらずキクラゲと銀杏のみ。それで居てこのコクなので、よほどの出汁なのだろう。穴子鮨の穴子は東京湾の物で、江戸前の仕事。クリーミーさは完璧。鮨といいながらほとんど酢は使っていない。

そして、何とも記憶に残りそうなのがたたき鍋と玉丼。恐らくこれを食べるために、また仕事をがんばろう。

ディセールは一転して洋の上質。食後にオーダーして選択することができる。実はこの宿には、デザート専門のシェフが居るという情報は掴んでいた。さも当然の如く流れるように客の要望をくみ取っていく仲居の技術も素晴らしい物があった。御飯の炊き方も素晴らしく、失礼ながら由布院や黒川は遠く彼方にかすんでいく。

 朝起きると、絶品の朝食が待っていた。菜のおひたしはごまクリームとお出汁の割合が絶妙。衝撃的なのはだし巻き。今まで回った宿で最高、いや料理屋を含めて最高だ。金目鯛の西京焼きに絶妙の塩加減の浅漬けにシジミのみそ汁。決して派手な演出はないが、一切の手を抜いていないのが分かる。



 朝食後、能舞台を脇から眺めるサロンに通された。ダニエル・ビュレンヌの作品。日本旅館にして、実にセンスの良いサロン。ジャズのスウィング。飾られている花は全て伊豆の山葵の花。


 旅立つとき、靴は人肌に温められていた。一生、この宿から離れたくない。そんな思いをさせるあさばの一日であった。

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