
島根県塩ヶ平温泉まめなかセンター

共同湯評価 8点
泉質 含二酸化炭素−Na−塩化物・炭酸水素塩泉
成分総量 6.57g/kg
特に多い成分 Naイオン、塩素イオン、炭酸水素イオン
湯量 44.3リットル
ウリ ふるさとに在りて郷愁を包み込みこむ、大変気持ちのいい公民館温泉
突然ですが、あなたには故郷はあるかな? 故郷を、遠くにありて思っているだろうか。話題になった人物を例に出そう。閉塞状態に追い込まれた、あのIT長者にも福岡県に故郷はあった。しかし、マスコミによると何故かその故郷は彼にとって苦痛でしかなかったようだ。過去に、何があったのかは定かではないが、故郷を遠ざける気持があるらしい。
別に、成功者だから故郷を見捨てたんだという狭い了見でものを見るつもりはない。その人がどんな人かには関係なく、故郷は大切だと思う。成功者も失敗者も、愛する故郷を持っていることは、遠くにありて故郷を想っている者は幸せだと思う。
今は亡き竹下首相も故郷を思っていたのだろうか。強面に徹しきれない、どこか故郷を感じさせる人だった。とすれば幸せだったろう。彼の故郷は島根県の雲南市掛合。ここは山間の小集落。造り酒屋の裕福な家庭に育ったとはいえ、野山をかけずり回っただろう。小鮒釣りし故郷の川が東京で政争にまみれる彼を支えていたのではないだろうか。
旧掛合町は、広島県境から山を下りてきたところにある、ほとんど平地らしきもののない山岳の街。平成の大合併で三刀屋町などとともに雲南市になったが、現在も、掛合の様相は変わっていない。元自民党総裁竹下首相の生家は今でも造り酒屋を営んでいる。田中角栄直径だけに、掛合に巨大な公共施設の乱立を予想するが、失礼ながら至って地味で質実剛健な町。角栄の番頭だったにしては竹下さんの意外な側面を見たようだ。
さて、山陽から行くと国道54号線を北上し、赤名峠・頓原を過ぎて掛合の中心部に入る手前、スバル自動車の販売所の隣に塩ケ平温泉掛合まめなかセンターはある。小さな看板と、それこそ小さな温泉マークからここが温泉であることが分かるが、外観は街の公民館そのもの。
入館すると、田舎の実に誠実なおじさんが歓待してくれた。遠くから来たことが分かるやいなや、ここが片山津温泉や熱海温泉と同じ効能があることを懸命に紹介され、塩素のない源泉掛け流しを我が子を慈しむように自慢された。ひとしきり、管理人のおじさんの話を聞き、お湯に向かう。お湯は地下にも見える玄関から一段下の階にあり、ここには何と車いすの昇降施設が備わっている。この施設が色々な補助金で出来たことを暗示させる。
施設の清掃は、脱衣場・廊下を含め至極清潔。実に誠実な運営がなされていることが分かる。玄関にも、浴室入り口にも誇らしげな源泉掛け流しをうたうワープロの印字がある。
さあ、早速湯に入ろう。2m四方の浴槽から溢れる茶濁の湯を見て一発で源泉掛け流しであることが分かった。湯に入るとザバーと溢れる茶濁の湯から一気に炭酸系の香りがする。成分総計が6.57gで泉温18℃のNa−塩化物・炭酸水素塩泉の加熱湯で遊離二酸化炭素が722mg存在する三瓶近辺の典型的な泉質だ。口に含むと、炭酸味が残っている。塩化物泉特有の出汁味もあり、それに金属臭が加わりたいへん存在感がある。陰イオンでは塩素イオンと炭酸水素イオンのバランスが良く、実に肌になめらか。
新しい浴槽も、硫酸カルシウム結晶で見事にコーティングされ、初夏の陽気に溜息がスーと自然にこぼれる。実に気持ちが良い。露天風呂も何もない。でも、こんな気持ちの良い温泉は、多分久方ぶりだろう。勿論、ここからも運転は待っているのだが、元気が湧いてきた。
湯上がりに、同じ階のトレーニングルームをのぞいてきた。実に立派な施設で、立派な機器も並んでいたが、誰もいなかった。きっと、故郷を忘れた「都会を誇る人」からみたら、こんな施設は補助金だらけの「非効率なもの」と弾劾するだろう。しかし、島根はどんなに頑張っても非効率なのだ。過疎という言葉に生まれた地域の苦しみは、「故郷のある人」にしか分からない。原子力施設など迷惑施設は全てそういう過疎地機に持ってきて、「何事も競争の都会に疲れた」と能書きをたれる感性のない人間には、田舎の切なさは分かるまい。
同じ島根県の赤来町母子健康センターが無くなった。おなじく、六日市町みろく温泉も無くなった。公民館形式の温泉が次々と廃止される中でこの温泉は地域にひっそりと立っている。なんと良い公共施設だろうか。掛合に豪華な箱物は少ないが、心と体を癒す施設は備わっている。竹下さんは、故郷を忘れなかったらしい。この湯が大好きになった。
あなたには、夕暮れに夕食を囲む声がする故郷を持っているだろうか。まけてはいけない競争に追い込まれながらも、あなたが何時でも逃げこめる故郷を持っていたらあなたは幸せだ。
