佐賀県武雄温泉殿様湯・元湯

共同湯評価 6点
泉質 アルカリ性単純温泉
成分総量 0.65〜0.85g/kg
特に多い成分 ナトリウムイオン  炭酸水素イオン
湯量 温泉全体360リットル

ウリ 江戸時代後期のデザイナーズ温泉

 九州の温泉というと、由布院や黒川を思い出すだろう。日本離れした雄大な山岳高原に抱かれた温泉地、秘湯イメージ、農村イメージそれでいてどことなくみみっちくない上級ではなく上等を意識させるイメージ戦略。由布院・黒川が先行し、それにつられて周囲の久住・九重・平山・阿蘇が追っかける大激戦区だ。どの旅館も、よく見ればワンパターンだが、歴史が20年にも満たない新興勢力なので、創作料理店的薄っぺらさがつきまとうのは仕方あるまい。50年後に、熟成されてくるのだろう。

  問題は、都市近郊の交通の便の良い平地の温泉地。元々は交通の便の良さを売り物に発展したのだろうが、今やそれが完全なアダ。下手に町なので、非日常性が全く無い。しかも、別府のように、町でもあちこちから湯気が噴くおどろおどろしい迫力があればいいのだが、それもない。原鶴・吉井・船小屋・日田・人吉・嬉野等がそうだろう。武雄温泉は、そういう交通の便の良い平地の町の温泉の代表。

 元々の歴史は相当の古い。朝鮮半島侵略の折、肥前名護屋に集結した兵士に対して、温泉大好き権力者の秀吉は、「普段利用している地元民に迷惑にならない程度に入れ」という朱印状まで発行している。配慮の秀吉らしい逸話ではある。また、オランダ商館のシーボルトがこの湯に浸かったのも有名な話し。

 さて、湯に向かおう。特急の止まる町の駅から徒歩15分。今や、うらぶれたレトロなモルタルの町を歩くと、ぎょっとする和製中華風・長崎の影響大のデザインの楼門に出迎えられる。それが武雄温泉街。因みに、この楼門と新館浴場が県指定重要文化財だそうだ。

 楼門の横には、激しく湯の音がする1号源泉が存在する。楼門をくぐり、目の前に公衆浴場の元湯と蓬莱湯がある。そしてその背後に貸し切り温泉棟、右手奥に露天風呂などがある若干スーパー銭湯要素も含んだ鷺の湯と、何ともまあ凄い一大日帰り温泉群を作る。まあ、全体が武雄温泉株式会社なんだそうだ。これ全体で、スーパー銭湯と見たらよろしいかと思う。

 さて、このなかでも異彩を放っているのが殿様湯。白い大理石と黒い大理石を市松模様に敷き詰めた浴槽と畳敷きの控えの間が存在する旧武雄鍋島藩の藩主用の浴槽が、今では貸し切り風呂として使用できる。

 実は、その贅沢さが受けて今では予約制になっている大人気だ。3時に予約すると、5時唐なら空くとのこと。早速予約したが、することがない。そこで、楼門近くの元湯にはいることにした。因みに、元湯、蓬莱湯、鷺の湯とある公衆浴場は設備の違い(石鹸があるかどうか、露天があるかどうかなど)で300円、400円、600円の違いがある。この辺のシステムは、非常に合理的だ。

 早速、300円を払って明治8年に建立されたという元湯に向かう。浴室の中は檜の壁板と蒸気抜きの吹き抜け天井が実に温泉らしい雰囲気。脱衣場から3段階段を下りると、43℃の広めのぬる湯と、46〜48℃の小さめのあつ湯という名の2つの浴槽がある。あつ湯は掛け流しでぬる湯に送る仕組みだ。

 見ると、誰もあつ湯に入っていない。熱い湯は得意なので、早速あつ湯に入る。鮮質的にもおとなしいので、厳しい熱さというほどでもない。因みに泉質はNa−炭酸水素塩系のアルカリ性単純温泉で、成分総計は源泉により650〜800mg程度。もう少しヌルっとするかなと思ったが、結構ヌルッキシッとする。この熱さは結構疲れがとれていき気持ちがよい。

  泉質チェックでぬる湯にも入ろう。あつ湯よりヌルッとする。炭酸水素塩系のアルカリ性単純温泉は、鮮度が落ちるとヌルが強くなる。因みに、旅館系の循環湯はもっとヌルッとする。しかも、鮮度が落ちるぬる湯の方が析出物で濁りがある。見事に性質が表れているようだ。

  さてさて、もう一度、あつ湯に戻ろう。こんどはアロマチェック。無臭のはず・・・・ん?? 微妙に、微妙ではあるが塩素系を感じる。ドバドバのかけ流しだが、殺菌はしているようだ。湯に飛び込む子どもを含めて意識の低い客も散見される。かなり多くの客が押しかける街中の公衆浴場、しかも3セクの株式会社経営だけに、この程度(夏場の水道水程度の濃度)の殺菌はかけ流しは守っているだけに仕方ない。

 因みに、何でも殺菌駄目論者はこういう湯を蔑む傾向にある。不特定多数の客が来る街中の湯は、家庭の風呂代わり・銭湯代わりなので低料金の毎日長時間営業が義務づけられる。浴槽は毎日清掃するとしても、とても、毎日パイプを清掃する余裕はあるまい。しかも中性の適温湯は、源泉でもレジオネラは存在するケースもある。日々の暮らしを基礎に置けば、何でも殺菌駄目では湯の発展を妨げる。意見としてむなしい。

  さて、いよいよ時間が近付いた。ゆっくり上がって、殿様湯に向かおう。奥の貸し切り湯(家族湯)棟に向かう。受付に行くと、清掃中なので暫く中で待っていてくれるのこと。テレビを見ながら待っていると、この建物の構造が分かった。家族湯棟は6室の新しい家族湯があり、江戸時代からの殿様湯と家老湯は別棟にあるらしい。

 合計8室の家族湯。ここにも、鹿児島から起こった九州得意のオール家族湯システムが生きている。

 10分ほど待つと、外の別棟に案内された。多分明治以降戦前建築の建物内部を進むと、殿様湯と家老湯の扉にぶつかる。京間の6畳と3畳の控えの間には湯茶とバスタオルが用意してある。内部はさして豪華ではなく、戦前の少しだけ上等な木造建築か。陳列棚風でもないガラスの向こうに、大きな焼き物が鎮座している。

  浴槽は、そこからさらに進み、階段を大きく下りた先にある。かつては自然湧出の湯を直接注ぎ込んでいたのだろう。古い温泉は幕湯などこういう半地下が多い。

 目の前に広がる市松模様、いやいや噂に違わぬ何ともエロディックな、そしてセンシティブなデザインだろうか。これが、ローマの浴槽といわれても通用する。これが江戸時代に作られたとしたら、素晴らしいデザイナーが存在したのだろう。長崎の西洋文化が必ず影響していると思われる。その浴槽にお湯がドバドバと賭け流されている。溢れた湯は、川のように流れて排水溝に吸い込まれる。何とも贅沢、この贅沢感こそ殿様湯の真骨頂だろう。

  早速浸かる・・・・・おーーーさっきに元湯と比較して、ヌルッはほとんど消えてキシッが相当目立つ。これは、湯の新鮮さを観察するに好都合。しかも、湯はほとんど透明。対比が面白い。

 滝のようにざーざー流れる音を聞いていたら、湯の中で眠くなった。1時間を有効に、ちょっと眠ろう。お休みなさい。

 ハッと気がついたら、10分寝ていた。天井を向いて、うーーーーーん、と手を伸ばすと天井の模様も実にアート。何とも贅沢な時がカチカチと過ぎていく。江戸時代のデザイナーズ温泉も良いものだ。今のデザイナーズ旅館、100年後入れるのはいくつだろう?

 はねる水音が、室内に響く。この音こそ、精神を落ち着かせるのだろう。名前こそベタだが、贅沢とは何かが少しは分かった。

  さて、贅沢といえば問題がないわけではない。この殿様湯も殺菌してあるのだ。その匂いを微妙に感ずる。公衆浴場の殺菌は妥当だ。しかし、この殿様湯は殺菌する必要があるのか?? 全く不必要のはず。しかも、贅沢ではない。贅沢とはなにか、レトロな町になってしまったが故に本物の凄さを武雄の町の方は勉強すべきだろう。

  夕暮れの町を清々しく歩く。誰もいない、誰も歩いてない商店街、そんな町も結構好きだなって思った。
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